TSきつねはサイバーパンクの夢を見るか   作:ハム山公男

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超高額クエストアイテム、売却する派?

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・マジで出ない

・地下でランダムドロップないってマジ?

・マジっぽい。今のところ地上のアマツハラ関連組織クエ報酬でしか見つかってない

・しかも激渋ドロップなんだよなぁ

・ハクスラばっかしてないでNPCと交流しろという運営からのお達し

――――――――――――――――――――――――――――――

・入手できたので性能調べてきた。結論から言うとサイバネの特殊枠一つで光学迷彩と囮生成ができる枠圧縮系。その分一つ一つの効果時間がちょっと短い。ただ生産するとVer-1っていう末尾がつくのでぇ……

・強化できるってマジ!?

・見た目がホログラム製の狐の尾なのでぇ

・九尾まで強化できるやつじゃないですかー!やだー!

・素材激重だからまだ三尾だけど既に効果時間がレジェンダリー光学迷彩と1秒しか変わらないからマジ強いよ

・あとこれモノノフのクエストフラグっぽいから敵対にしろ協力にしろ入手したらなんか起きるよ

・なんかとは?

・マジでなんか。俺は飛鳥BECと共闘してモノノフに試作品横流しにしたやつをシバくクエだったけど他の人だとモノノフに雇われるルートとかもあったらしい。強制ギャングルートよ

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サイバネティックエデン攻略wiki

Tails Of Animaの項目コメント欄より

 

 

「なんかヤバいもん拾ったっぽくない?」

 

 あの後、色々調べてみたところどうやらマジのレアアイテムだったらしい。

 その時価、プレイヤー同士が取引しているマーケットで実に1億IUCである。

 

 ゲーム始めて10分のプレイヤーが1億のアイテム入手できるのイカレてるだろと思わなくもなかったが、実際このゲームはかなり上と下の差が少ないゲームであるらしかった。

 

「トウリュウさん、初期キャラでも急所ナイフでワンパンだったもんなぁ~」

 

 RPGの場合、ゲームによっては本当にレベルが変わるとキャラ性能がグンと変わり、1ダメージも通らない……なんて事もあるが、サイバネティックエデンはむしろその逆。

 それこそシューター系ゲームのように、どれだけプレイヤーを鍛えても急所ワンパン。だからこそレベルよりもサイバネによる肉体改造が大事である、と攻略サイトの初心者攻略に書いてあるのを見つけたのだった。

 

 レベルをあげてステータスを伸ばすのは、基本的にはより強いサイバネと武器を装備するため。ある程度硬くもできるがそれでも死ぬときは死ぬ。そういうゲームであるらしい。

 ここまでの感触として初心者にやたら優しいなと感じていたが、どちらかというと数値よりプレイヤースキル寄りのゲームなわけだ。そのせいでドロップアイテムにおいても開始してすぐの俺みたいなのにも超レアアイテムがサクッと落ちたりするらしい。

 

「分身と光学迷彩……めっちゃ隠密系ビルド用のサイバネだなー」

 

 隠密ビルド、または暗殺者ビルド。いや暗殺者ビルドの場合はスナイパーライフル特化とかいるらしいので、今回は隠密か。要するに近接武器とサイレンサー付きの銃で立ち回る近距離ビルドの俗称らしい。

 軽量火器・近接武器・機動力を強化する『ACT』ステータス依存のサイバネやスキルで固めて、光学迷彩などを使いこっそり近づいて接近戦で暗殺。そういうスタイルである。

 

 ……わりといいのでは?

 今までやってきたゲームが剣と魔法のファンタジー系が多かったので、近接戦は結構慣れているという意味で俺的には今のところかなり好感触だ。

 

「しかもACT10振れちゃうんだよな~」

 

 どのみちプリンターとやらにアテがないのですぐには装備できない(生産施設らしいがメカニック系のプレイヤーかNPCの伝手がいるらしい)が、ビルド的な目標が固まるのは重要である。

 折角の自前入手した超レアアイテムだしな~。いや1億IUCでどこぞのプレイヤーに売って自己強化にあてる方が多分賢いのだが……。

 

 ……ま、最悪リアルマネーでジュース代くらい課金すればステリセできるらしいし? 振っちゃえ! 振った!

 

 というわけで、当初の目的である移動手段の入手に加えてこのテイルズ・オブ・アニマなるサイバネを装備できるようなビルドにする、という大目標が固まった俺、じゃないや、ボクです。折角だから積極的にロールプレイしていこうぜ!

 

 そうと決まれば必要なのは先立つもの、つまり金である。

 金を稼ぐ方法をボクはまだあまり知らないわけで、とすると必要なのは予想外のクエストに巻き込まれてぶっ飛ばしてしまったチュートリアルだ。

 

 案内によると、あの初期地点の真ん前にあったクソデカいビルがチュートリアルを受けられる行政施設だったらしい。

 つまり、今のボクが目指すべきはそこ! レンタルしたバイクはお釈迦になったが、幸いそこまで遠くには来ていない。

 そうと決まればそのチュートリアル施設へ向かって一歩踏み出す――

 

「オウ。テメエがウチの荷をパクったっていうナメた奴かい」

「………………」

 

 というところで、唐突にボクの前に一台の黒塗りの車が停まり、スモークガラスの窓の向こうからいかつい声をかけられた。

 

 なんだろうな。このゲーム、ちゃんとプレイヤーにやさしいせかいなのに全くと言っていいほどボクが思ったようにいかないんだが……。

 

「ちっとばかし時間を貰おうか。逃げようとしたら……分かってんだろうな?」

「ミシマ・アヤセの使いかな?」

「分かってんなら話は早え。来い」

 

 後部座席のドアが開き、屈強な男に車内へ引きずり込まれる。絵面だけなら完全に事案なんだよなぁ……。

 車の中で、頭部がメタリックな金色と銀色に改造してある屈強な男2人に挟まれる。ネームタグがNPCである事を一応確認するが、正直状況的にはプレイヤーだろうとNPCだろうと関係ない。

 

「行き先くらいは、教えてくれたりする?」

「アマツハラ。俺達モノノフのアジトの一つだ」

 

 その瞬間、ボクの視界に一つのウィンドウが出現する。

 

『勢力クエスト:テイルズ・オブ・アマツハラ モノノフの使いと誓いを受注しました! これは強制受注クエストとなります』

 

 このゲームマジで横道が多いな! なにが本筋なのか知らないけど!

 

 ☆

 

 アマツハラ。

 ワールドエンド・シティにおけるいわゆる日本人街であり、日系企業とヤクザが鎬を削る区画であるらしい。初期地点である街の中心からは、北東におおよそ20キロメートルほど。

 その場所は、なるほど確かに日本のサイバーパンクらしい街だった。

 流石に木造建築はないが明らかに建築様式が日本であるし、建物が低く、ホロよりもネオン看板が多い。そしてなにより大変入り組んでいた。

 

 そんな迷路のような街の中、ボクを乗せたスモークガラスの黒塗りの高級車はほっそい路地を右へ左へと縦横無尽に走っていった。当然、土地勘のないボクには現在地は全くと言っていいほど分からない。これボク帰れるのか……?

 

「ついたぞ」

「あ、はーい」

 

 スキンヘッドならぬメタルヘッドの黒服2人に挟まれながら車を下りると、目の前には一軒の雑居ビルの入り口が存在した。ネオン看板を見るに、どうやらカジノであるらしい。めちゃくちゃ煩いな……。

 促され、建物の中に入り、明らかに関係者用と思しき扉をくぐって階を上がっていく。カジノの喧噪が遠くなっていくのと同時に、重苦しく冷たい空気に変わっていった。

 うーん、どう言い訳をしてもヤクザの事務所である。ゲームとはいえ普通に怖い。まあ最悪殺されてもリスポーンするだけではあるんだけども。

 

 そうして、いかにもボスがいそうな主張の強い両開きの扉をくぐった先のオフィスには、一人の女性が立っていた。

 

「……報告を聞いた時はまさかと思ったが、こんな素人丸出しにやられたってのかい。あいつらはもう使えないね」

 

 なんかトウリュウさんとすじこさんのクエストフラグを潰してしまった気がするなぁ!? ごめん!

 

 こちらに振り向いたその女性は、一見して40か50代に見えた。

 しかし背筋は伸び、スタイルもそういう改造かっていうくらいに良い。というか身長がこのボクの体より頭二つくらい高くてかなりの威圧感がある。その上、手には火のついた葉巻を持っていた。ハードボイルドだ……。

 その女性は葉巻を灰皿に置くと、ヒールで床を叩きながら歩いてきて右手でボクの頬を撫でた。金色の爪はどうやら本当に金属でできているようで、その鋭利な冷たさに恐怖を煽られる。

 

「別に取って食いやしない。そう怖がるんじゃないよ」

「へ、へい」

「はっ、なんだい案外ビビりだね……まあいいさ。あんたを呼んだのは商談のためだ」

 

 商談? というと……あの設計図の?

 てっきりボクは脅されるか、殺して奪うか、そういう話になるのかと思っていたが、どうやら向こうには交渉の意思があるらしい。

 だけど何故……あ。

 

「プレイヤーのインベントリアイテムは原則としてトレード、売買以外で移動できない……」

「あんた、ハンターだろう? あんた達は殺したところで死体が情報体に分解されて再生産されちまうからね。まああんたの心が折れるまでシバき続けるって手もあるが、あたし達もそこまで暇じゃない」

 

 どうやら世界設定的にはそういう事になっているらしい。

 え、ボクたちプレイヤーってそんなスワンプマンみたいな設定なのか。その後にさらっと言われた拷問宣言も合わせて普通に怖い。ホラーゲームかよ。

 しかし幸いな事に、彼女はもっと簡潔な解決法を提示してきた。

 

「そういうわけで商談といこうじゃないか。それなりの金額を用意する準備がある。……断れば、分かってるだろうね?」

「ちなみにおいくらくらいで……?」

 

 提示された金額は、実に1000万IUC。ゲーム開始から30分かそこらで手に入る金額としては破格の金額だ。

 

 ……破格なんだけどなぁー! プレイヤーマーケットで売るとその10倍の値段がつくんだよなー!!

 なんかいい落としどころが在ればいいんだけども……お?

 

「確認したいんですけど……えっと、アヤセさんですよね。あなたが欲しいのはこの『設計図』という認識で合っていますか?」

「そうだが、何か不都合でもあるか?」

「いえ、むしろ好都合だなって――このチップ、条件次第ではタダで『返却』しても構わないです」

 

 ボクの言葉にアヤセさんが眉間にしわを寄せる。いや、表情の作りが細かいなマジで。セリフすらなく、ほぼ完璧にボクに意思を伝えてくる。

 すなわち『何故』。

 

「……条件ってのを聞こうか」

「こちらとしても、設計図を持て余してるんです。なにせこっちには『プリンター』のアテがないもので」

 

 ここまでプレイしてきて、一つ分かった事がある。

 この世界は『ゲーム』だ。プレイヤーとNPCでは、明らかにプレイヤーが有利になるようにシステムが組まれている。当たり前の話だが、その加減を間違えてクソゲーになり下がったフルダイブゲームは相当数存在する。

 だけどこのゲームにおいては、究極的にはサーバー中のNPC全てを虐殺したところでプレイヤーはゲームプレイ不可能になるような事はないだろう。まあ、あらゆる勢力や他のプレイヤーとトラブる事になって相当面倒な事にはなるだろうが。

 

 ではそんな世界においてNPCの役割とはなんなのか?

 決まっている。プレイヤーが没入する『物語』における、都合のいい『キャスト』だ。

 

「設計図を求めるのなら、そちらにはこれを元に製造を行える設備があるんじゃないですか? なら話は簡単です。ボクが欲しいのはこのサイバネ本体であって、設計図じゃない」

「……なるほど。ウチの設備を使わせろ、という事かい」

「ついでに改造するためのドクターも手配してくれません? すぐ使いたいので」

 

 へへへ、と三下みたいな笑い方をするボクに対し、アヤセさんはため息をついた。えっ、なんかマズっただろうか。個人的にはいい感じの取引ができそうなロジックだと思ったんだけど。

 

「はぁ。あんた、自分が本来ならもっとこちらから譲歩を引き出せる立場な事が分かってないようだね」

「え、いや……別にこれ以上はいらないですし」

「この街に来たばかりのハンターどもはそういう事を言う。全く、どいつもこいつもお行儀のいい事だ。貰えるものは貰っておけばいいものを」

「……んんー、それはまあ、そうなんですけど」

 

 確かに、この世界に生きているならそうかもしれない。実際、効率プレイのためにそういう選択肢を選ぶ人だっているだろう。

 だけど、ボクは――

 

「自分でやるならAny%より、100%が好きなんですよ。別にRTAしないですけど」

「はぁ?」

「最短距離を走るのは趣味じゃない、って話です」

 

 多少面倒でもクエストフラグは全部踏みたい。

 だって、せっかく面白いゲームをやってるんだから、その世界の全部を楽しみたいじゃん?

 

「なので、別に多額の金とかはいらないです。欲しいのはこの装備と……それを大手を振って使う許可。もっと言うと、あなたとの『縁』って感じで、どうです?」

「あんた、モノノフに入りたいのかい?」

「うーん、今のところその予定はないですけど、『顧客』にはなってくれると嬉しいですかね?」

「ふうん、フリーランサーとして面倒見て欲しいってか。飛鳥BECのハイエンドサイバネが使える傭兵……悪くないね、こちらとしても使い勝手のいい駒が増えるわけだ」

 

 しばらく思案するアヤセさん。なんというか、会話の間の取り方が完全に人間だ。これがNPCだっていうんだから本当に凄い。

 アヤセさんがその金属の爪で机を叩くと、メタルヘッドの黒服がどこからともなく武器ケースを持ってくる。

 アヤセさんの指紋で武器ケースの認証が行われ、開く。

 そこには、一本の小刀、いわゆるドスが入っていた。

 

「いいだろう。あんたにその気があるのなら、このアマツハラでの生き方を教えてやる。メンツと仁義、あんたがそれを大切にする限り、あたしらモノノフは力になってやるよ」

 

『チュートリアルクエスト:フリーランサー・アマツハラ(1)を受注しますか?』

 

 っしゃあ! パーフェクトコミュニケーション!!

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