「んふふふふふ」
くるりと一回転。ボクの腰椎に接続された、今も絶えず色を変えるホログラムの狐尾が揺らめく。
右手のドスもくるりと回す。ゲームジャンルを間違えているのではと疑うような、いかにもな小刀が光を反射して煌めいた。
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サイバネティクス:ASUKA N-999 Tails Of Anima v1.0
等級:レジェンダリー
装備必要ステータス:ACT10
装備部位:背部
残り強化可能回数:8
改造パーツスロット:1
飛鳥BEC製光学操作サイバネティクス。
開発本部より流出した試作品。腰椎と接続した幻影の尾は見る者を惑わせ、分身と光学迷彩を可能とする。
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近接武器:モノノフ 誓いのドス・虎
等級:ノーマル
装備必要ステータス:ACT5
カテゴリ:ナイフ
残り強化可能回数:5
改造パーツスロット:0
モノノフが同盟相手に送る小刀。持ち手に虎の模様が刻印されている。
虎のドスは勝利の誓い。その牙と爪で敵の悉くを屠れという意味が込められている。
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RPGをしていて最高の瞬間の一つ。
それは装備を更新した瞬間だとボクは思うのです。
『いつまでも気持ち悪く笑ってるんじゃないよ、タマモモ。そろそろ仕事の時間だ』
「あ、はーい」
あの後、アヤセさんは『面倒を見る』と宣言した通りに一通りのチュートリアルをモノノフでやってくれた。
全然知らなかったのだが、中央以外でもこうして各勢力でチュートリアルを受けられるらしい。しかも各勢力で微妙に内容が違うとのこと。マジで作り込みやばすぎだろこのゲーム。
そういうわけで、隠密ビルドの基礎をモノノフの諜報員に叩きこんでもらったボクは、一人前……まあ半人前くらいのNINNJAである。多分。
そしてそれらの仕上げとして、ボクはモノノフからの依頼を一人で受けていた。
『まったく緊張感のない娘だよ。そんなあんたのために、改めて仕事内容を確認してやろう』
通信の向こうからため息が聞こえてきた後、ボクの目の前に仮想ウィンドウが開き、クエストのターゲットや内容が映し出される。
『敵はメッツ・オルタナ・メカトロニクス。
アマツハラ外のナノマシン製造業者だが、そいつらがウチのシマでなめた真似をしている。新型のインスタンス・ナノマシンの人体実験だ。
お手軽で後遺症もない安心安全なアッパー系って触れ込みだが、そいつが持ち込まれたウチのパーティは血の海と化した。錯乱して仲間に鉛玉をブチ込みやがってね。幹部級が一人瀕死、下っ端は十人死んだ。流石に下手人は殺されても文句は言えないだろう?』
いやはや、いかにもサイバーパンクな治安である。メンツに泥を塗られたヤクザこえ~。
インスタンス・ナノマシンっていうのは要するに化学物質じゃなくナノマシンでできた薬であり、用途も大体同じだ。ギャングの間で話題に上がるのは勿論非合法(ワールドエンド・シティ基準)な方。
まあ、そういうことである。ちなみにギャングプレイ、かつZ指定版限定でプレイヤーも使えるらしい。勿論合法(リアル基準)である。ほんとにぃ?
「今回のボクの任務は、製造工場の責任者を拉致することでいいんでしたっけ?」
『その通り。ターゲットはジェネクス・オールドマン。奴には色々と落とし前をつけなきゃならないんでね。いいかい、あんたは絶対に殺すんじゃないよ。依頼はあくまで拉致なんだからね』
クエスト画面に表示された、いかにもコーポレートっぽい神経質そうな男の顔写真と、車窓の向こうにそびえたっている大型工場を見比べる。アマツハラの東のはずれからほんの数キロ、件のメッツ・オルタナ・メカニクスが所有するナノマシン工場だ。
ここにモノノフで開催された血の海パーティの図を書いたヤツがいるということだが……まあ、やりやすい依頼だ。ろくでもない企業のろくでなしを攫う、なるほどチュートリアルの〆としては無難なシナリオだろう。
「了解、細心の注意を払います」
『よし、頼んだよ。あんたはあたしという地獄からの使者だ、丁重に招待してやりな』
アヤセさんからの通信が切れたタイミングで車から出て、ターゲットがいるという工場を見る。
夜の闇の中、未だに動き続けている工場からは煌々と光が漏れていた。いかにも悪の城、って感じだ。いいね、テンション上がってきた。
「俺たちはここまでだ。成功を祈っているぜ」
「どーも。頑張ってきますよ」
背後からの声に答えて、悪が跋扈する城へと歩みを進める……その途中で、ふと気になって振り向き、車に向かって問いかける。
「君ら、名前なんだっけ?」
「俺はゴルドだ」「俺はシルバ」
「……なるほど、分かりやすいね。送迎ありがとうゴルド、シルバ。終わったら連絡するよ」
金メッキのメタルヘッドと銀メッキのメタルヘッド、改めゴルドとシルバに手を振って別れる。
さあ、ここからは正真正銘の初仕事だ!
☆
「……あの辺かな?」
工場の外壁に向け、左手を向ける。視界にレティクルとエイムアシストが表示されるけれど、それは銃ではない。
ふふふ、今こそモノノフのドクターに入れてもらったサイバネを披露する時!
「そこ!」
ボクのコマンドと同時に、手首からワイヤーが射出。狙いの窓枠に引っかかった。よし、ジャスト!
ワイヤーショット。三次元機動力を重視したビルドでは標準装備と言っていいメジャーなサイバネらしい。『設計図』返却の対価として貰ったサイバネの一つであり、種類もグレードも色々と選べたのだけど、モノノフとズブズブらしい例の飛鳥BEC製がやたらと性能バランスがよかったためそれにした。
どうやらこの飛鳥BEC製装備、アマツハラ系NPCの好感度が一定以上ないと買えないらしい。その分性能もちょっと盛り気味ってわけだ。この手の専用装備はそれぞれの勢力にあるらしく、作り込みに目眩がする。
ワイヤーの巻き取りに合わせてするすると壁を登り、いとも簡単に窓へ。電子ロックはモノノフに渡された開錠用ウィルスプログラムで意味をなさない。
足音一つ立てることなく、建物内の廊下へ降り立つ――侵入成功。
「~~~~~~~!!」
ワイヤーアクション気持ちよすぎるだろ!
流石にこれでバレたらアホすぎるので、努めて声を噛み殺し周囲を見回す。暗い室内に人の気配はない。だが――
こちらも『設計図』の対価で貰ったサイバネ、アイウェアの暗視機能をオン。案の定いるわいるわ。
「警備ドローン……」
ふわふわと浮かぶ原理不明のドローン。いやマジでなにで浮かんでるんだろう。反重力?
見えるだけでも左右の廊下で各2体ずつ巡回している様子が見えた。
さて、どうするか。
『いいか、あの手の自動機械は物理的にブッ壊しちまうのが一番だ』
『えっそれバレません?』
『それがそうでもない。今時の監視システムは自動化されすぎててな、滅多なことじゃ人間には通知が飛ばねえように出来てるのさ。全部自動機械が対応するだけで、生身の人間はメインシステムに残ったログからしか判断できねえ。
つまり仕事終わりにメインシステムからログを削除しちまえば、どんだけ自動機械とドンパチしようと証拠は残らねえわけだ』
『ほえー、なるほどですね』
『まあ自動機械の群れを切り抜けるだけの実力がなきゃ、ハチの巣にされて翌朝床にへばりついた血溜まりとして発見されるハメになるがな』
『えっ』
以上、チュートリアルを担当した厳つい剃り込みが入った教官の談である。その後、『ハンターのお前さんは血溜まりにすらならねえから安心しろよ』と言われたが全然安心できなかった。死んでも大丈夫というのと死ぬのが怖くないというのは同義ではないよ、マジで。
まあ要するに、これがこの手の侵入系クエストの進行方法なわけだ。敵の自動機械に発見されることは致命的なミスではなく、仕事終わりにメインシステムのログを消す作業を忘れるな、と。
とはいえ、こちらのビルドは半人前の隠密ビルド。チュートリアルの〆なのだから、そんなに難易度が高いわけではないだろうが、正直言って正面戦闘力は低いわけで……。
身を隠せそうな遮蔽を確認すると、右は少なく左は多かった。シンプルにクエストの順路は左なのだろう。とすれば普通に考えて、左に行くのが正道だ。まあたまにひっかけで右だったりするゲームもあるけど、そんなに性格悪くないと思うんだよねこのゲーム。まだ初日で何を語ってるんだって話だけど、ハハ。
なので、ボクは『右』に行くことにした。
「……さあ頼むぜ、1億越えのレジェンダリー装備さんよ」
一番右手前のドローンがこちらにやってくるのを見つめながら呟き、光学迷彩を起動。その瞬間、ボクの姿が掻き消える。
タイムリミットは現状5秒。時間切れの前に、ワイヤーショットでドローンをひっかけ手元へ手繰り寄せる。
そして、その特徴的なカメラアイに向けてドスを突き刺した。
「ビ、ガガガ――」
「……刃こぼれなしと。こういうところはゲームだなぁ」
まあ、その方がプレイヤーとしてはありがたいのだが。とても快適なサイバネティックエデンはこんなところでもストレスがない。助かる。
そのままするすると遮蔽を渡り、右通路を覗き見る。すると案の定、行き止まりの廊下には戦闘用らしき人型ロボが鎮座しており、その奥にはいかにも漁れそうなコンテナが置かれていた。
ロボに視線を集中すると、ネームタグが表示される。そこには中ボスの証であるらしい、オレンジの強敵マークが表示されていた。
「はいアタリ~、やっぱMAPは100%埋めるに限るよねぇ」
左右の分かれ道に警備用ドローンのような明らかに『仲間を呼ぶ』タイプのエネミーが配置されていた場合、十中八九順路ではない方の道には強敵が潜んでいる。何故なら順路で『仲間を呼ぶ』をされた場合、背後から強敵で不意打ちできるから。
そしてその強敵にあえて自分から挑みに行く腕自慢のプレイヤーのために外れの道に報酬を配置してあるのは、いいゲームだ。
もう一体徘徊していたドローンが一番近くまで来たところで、先ほどと同じ要領でワイヤーショットをひっかけ撃破する。これで残すはあの強敵らしきロボだけだ。
正直言って、勝てるかは分からない。でも、チュートリアルで配置されてる強敵っていうのはゲーマーならワクワクするものだからね……?
「なにするものぞ、人型ロボ。やってやろーじゃん……!」
目の端で光学迷彩のクールタイムを確認しつつ、ボクは漏れそうになる笑いを噛み殺しながらドスを握りしめた。
わ~~~~い、中ボスの時間だ~~~~~~~~~!!!!
今更ですが書き溜めなんてもんはありません。