LCB囚人ドゥルシネーア   作:チェゾネパゴネ

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二話

P社部長、チェーザラの依頼と差し出された手紙に従って、私達は裏路地のとある空き地へとたどり着いた。

開幕から牙狩事務所の熱烈な歓迎を受けたけど、何とかうまく退けて私達も討伐隊の一員として参加することに成功した。

 

「うおおおお!!!管理人殿!見てこのすごいフィクサーたちの集まり!」

 

辺りをさっと見渡せば、すごい数のフィクサーが集まってきている。ドゥルシネーアは興奮を隠しきれていないようだ。

 

「まさかセンク教会とツヴァイ協会が一堂に会して協力する姿が見れるなんて!もうっ、最高だわ...!

映像や冊子、フィギュアでしか見られなかった姿が、この目の前で歩いて話しているのを見られるだなんて!」

 

<ドゥルシネーア、それじゃあここに集まっているほとんどのフィクサーたちは知っているの?>

 

「購読しているフィクサー雑誌に載ってるフィクサーはほぼ全員!残らず覚えているの!うふふ、実際見てみると、映像よりもずっと格があるように感じるわね!」

 

...そうか。ここにいる人たちが全員フィクサーなら。

さっきから刺すような痛い視線を送っている、あの人も知っているよね?

 

<それじゃあ、あそこから私たちをずっと見つめてるあの人たちは誰?>

 

「えへ、もう私達ってそんな人気ものになったの?あの時苦労して新聞に載ったかいあったみたいね!やっぱり一番美しくて可愛い私の写真を載せたのが効いたんでしょう!」

 

自信満々に視線を寄越したドゥルシネーアの表情が、徐々に困惑の色を見せた。

 

「あ、あら?私が知らない事務所があるなんて、姿を見るに東部から来たのはわかるけど...最近登録した事務所なのかしら?」

 

「よかったですね、あの方々が誰か、ちょうど僕が知っているんですよ。」

 

「何と!?!?!私も知らないフィクサーを知っているの?案外私以上のフィクサーマニアだったりするのホンル!?」

 

ドゥルシネーアがそんなはずはないという疑いの目でホンルを見つめた。

 

長い長髪を携え、鮮やかな桃色の瞳。一目でもわかる質の良い長い振袖のチャイナドレス。

背は低く、しかし足取りはしっかりとしているその人は。

 

「紹介しますね。僕の妹、ジア・シーチュンです。」

 

「か、かわいい!!!ホ~↓ン~→ル↑!あなたこんなに可愛い妹がいたなんて!早く紹介してよ!」

 

「ふふっ、ドゥルシネーアさんがシーチュンのことを気に入ったみたいですね。」

 

心なしか、いや、とんでもない視線を後ろにいるジア・シーチュンの同行者たちから向けられている。

睨まれているのもものともせず、すたすたとドゥルシネーアは歩み寄っていった。

 

「ちょっと哥哥!この子押しが強いんだけど!」

 

「あのね!私ドゥルシネーアっていうのよろしくね!」

 

ジア・シーチュンはドゥルシネーアに思いっきり抱き着かれていた。

心底うんざりした顔だが、抵抗する気もなかったようだ。しかし、シーチュンの仲間であろう長髪の男が前に歩いてきて、シーチュンを優しく引きはがした。

 

「...はぁ、よろしく。家を出て、一人で何大それたことの準備をしているのかと思ったら、こんな奴らなの?哥哥が作った勢力が?」

 

「はは。勢力じゃないよ、シーチュン。紹介するね、こっちから順番にグレゴールさん、ロージャさん...」

 

「いい。そうしてる時間もないし。」

 

しかめっ面で、刺々しい言葉。シーチュンは会話をぶった切った。

一目見て一瞥し、面倒くさそうに切り捨てた。これは、もしかしたら嫌われたかもしれない。

 

「ボケボケなのは哥哥だけじゃなくて勢力もみたいね。」

 

少し嘲笑的な含みで、シーチュンは私達のことを上から下まで舐めまわすように観察していた。

ボケボケ、というのはかなり適切な評価のように感じてしまう、今までの経験でスマートに物事を解決したことは殆どなかったし。

 

「そうかい?ドゥルシネーアさんはしっかりした人だよ。シーチュン、僕みたいに友達も増えたみたいだね。新しくできたのかい?」

 

友達というのは、ホンルの非常に楽観的な評価だった。呆れ、または敵意。

色々な感情が入り混じった威圧的な表情で私たちを眺めるジア・シーチュンの同行者たちを見る分には。

 

「ねねっ、シーチュンちゃん、好きなものは?飴ちゃん食べない?」

 

「うげっ、ウェイ!ちょっとこいつを抑えなさい!」

 

そのちみっこい姿が囚人たちの琴線に触れたのだろうか、大型犬と小型犬のごときじゃれあいと流れに飲み込まれて、シーチュンは思いっきり囚人たち(主にロージャとドゥルシネーア)に可愛がられていた。

その光景を、ホンルは微笑ましそうに眺めている姿がとても印象的で。

 

そうして会話に花を咲かせれば、時間はあっという間に過ぎていく。

ジア・シーチュンは質問攻めの嵐にげんなりとした顔だが、まんざらでもないようで決して逃げ出さず丁寧に対応するあたり、彼女の苦労性が透けて見える気がした。

 

「...また会うときは、哥哥が少なくとも前よりは良い姿を見せてくれると思ってた。今回であったのが私で幸いだったと思って。他の哥哥や姐姐たちあったら、あなたたち全員のドタマが既に地面を転げていただろうから。」

 

「うん、ありがとう。」

 

いつの間にか辺りのフィクサーたちは仮設テントの中に一人、また一人と入っていき、ホンルの挨拶に顔をよりいっそうしかめたシーチュンは何かを言おうと口を開いたけど、結局何も言わずに自分の軍勢と一緒にテントに中に去って行ってしまった。

 

<...私たちもそろそろ行こうか。>

 

 

 

 

 

用途不明の機械やら、地図やらが壁に貼り付けられた無機質なパイプ椅子と机が無数に並んでいる物々しい空間で、私たちは何とか会議を聞き終えた。

フィクサーたちもどこか殺気立っていたが、やはりハナ協会の前だからだろうか。囚人たちも大きなトラブルも起こさずに、つつがなく仮設テントでの会議は終わった。

 

ギリギリと拳を握りしめて、ドゥルシネーアが少しカミーユの態度に苛立っている様子はあったけど...

 

「ムカつくけど...無駄な争いを作るのも嫌だわ。私が行方不明者たちも助けて、悪しき血鬼も罰する。それでいいのよ。」

 

やはりそれなりの忍耐を見せてくれて、なんとかトラブルを起こさずに済みそうだった。

そうして、ハナ協会やLCD部門からの説明を受け、あとはラマンチャランドが開かれるまで待つだけとなった。

 

待機するにも暇なので、仮設テントを抜け出し、私達は各々自由に過ごすことにした。そして、その間。私はラ・マンチャランドが出現する前に、ヴェルギリウスに聞きたいことがあった。

そうするためにはまず、ファウストを探さなければならない。

 

<誰かファウストを見た人はいる?>

 

「さっきからいらっしゃらないんですよね。僕がお手伝いしますよ、何かありましたか?」

 

私の言葉を伝えてくれるファウストが見つからないので、ちょうどどこかへは行かず近くにいてくれたホンルを頼ることにした。

 

「30分ほど残っているようですね、ダンテ。」

 

やはり、ヴェルギリウスはタイミングがよかった。

まるで未来でも見えているかのような察しの良さにいつも驚かされる。

気になることは多いが、いざ何を聞くべきかこの人の前に立つといつも途方にくれてしまう。

 

<列車の中で、何が起こったのか。ヴェルギリウスは、ドゥルシネーアについて、どう思っている...いや、どう考えているんだ?>

 

言いようのない不安が募った、ドゥルシネーアが心配だった。

 

この地獄巡りを通して、それなりの苦痛や悲しみ、喜びを私は囚人たちと分かち合ってきた。初めはお互いに殺しあうほどの険悪な関係だったけど、今では家族のような関係性に近いだろう。

黄金の枝を得るため、戦うとき。囚人は自身の過去と直面する。もし彼女が自分の正体を知った時...過去を思い出したとき。その時でも、私達と彼女は仲間でいられるのだろうか?

 

「ああ、通訳が必要だったんですね。うーん?列車の中で何が起こったか、今のドゥルシネーアさんについてどう考えているかを尋ねていますね。」

 

ヴェルギリウスの沈黙が、ひときわ長く感じられた。

頭の中で言葉を選んでいるのだろうか、視線が微かに赤く光った気がする。

 

「3番目の囚人は夢を見ているようなものです、しかし、あなたの懸念通り。三番目の囚人も、そろそろ正気に戻るでしょう。人はいつまでも寝ていられるものではありませんので。」

 

「あれっ、ドゥルシネーアさんは僕たちの中で一番しっかりしている方ではありませんでしたっけ?」

 

唐突なホンルの発言に、一瞬誰かと間違えたのかと思ったけど、すぐに納得してしまった。

ドゥルシネーアは、恐ろしいほど面倒見がよかったし、責任感があって、一度決めたことは投げ出さない人だったから。

普段はぽやぽやしててアホっぽいけど...それでも芯があると思う。

 

<...私はドゥルシネーアのことをどう支えてあげればいいの?>

 

「ドゥルシネーアさんをどう助けてあげればいいのかを聞いていますね。」

 

「心配はいりません、ダンテ。今まで散々経験してきたことではありませんか。

もし彼女が自身の持つ夢を諦めたくなったとしても、あなたはその夢を忘れず、引っ張ってやる。それだけでよいのです。」

 

ヴェルギリウスにしては珍しい、優しく諭すような口調。ある種の確信と、私の行いに対する信頼を持ち合わせているようだった。

今まで通りにやればいいのだろうか。だけど、自分を納得させるほどの自分への自信はなかった。

 

「いざ、ラマンチャランドの中で思うようにならず、不安になる状態になってしまったのであれば。

この言葉を思い出してください。この先、どんな状況が訪れても。ドゥルシネーアは約束を覚えているはずです。」

 

訳のわからないことを言った。約束、その言葉が私の不安をどう軽くしてくれるかはわからない。しかしヴェルギリウスは身のない話はしないだろう。

今の私に考えられるのはそのくらいで、でも不確かだった道筋の霧が少し晴れたような気がした。

 

「あの列車でドゥルシネーアさんに何が起こったかは知りませんけど、きっと大丈夫だと思いますよ。」

 

<...そうだね。ありがとうホンル。>

 

暫く話し込んでいると、ラ・マンチャランドの開園が迫ってきた。囚人たちも集まり、あと数分待つだけとなる。

ドゥルシネーアに視線を向ければ、彼女は目を輝かせて、楽しそうに鼻歌を歌っていた。さっきまで不機嫌そうにしてたのに、すっかり元気になった姿をみて少し安心する。

 

「ハナ協会もこの目で見れたし、あのセンクのカミーユ殿とも会えたし!

実際会ってみたらちょっと嫌な奴かもしれないけど、放送では誰よりも義侠心に溢れた勇敢なフィクサーだったから!ラマンチャランドに入ったらすっごい活躍を見せてくれるはず!」

 

「管理人殿、私はね、ようやくフィクサーらしい依頼をしに行く気分なの。悪人を処断し、苦しむ人々を救い出す。それが私の一生の夢だったから!

もちろんヴェルギリウスは黄金の枝を手に入れることが最も重要な目標っていうに違いないけど、でも絶対私はラ・マンチャランドを討伐してやるんだから!

そして、その中で閉じ込められている訪問客たちも全て救い出すの!」

 

そういうドゥルシネーアをぼんやりと眺める。

うん、この調子がいつものドゥルシネーアだ。暗くなったバスを明るく引き戻してくれるのは、彼女以外にはいない。

 

彼女の瞳の中に、きらめく星々が見えたような気がして、その瞳がこの先もずっと輝き続けることを願った。

 

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