LCB囚人ドゥルシネーア 作:チェゾネパゴネ
ついに開かれたラ・マンチャランド。ゴシックな雰囲気と紫色に怪しく光る蛍光灯、荒れた土産物屋が、私たちと囚人を出迎える。もちろん、飢えた血鬼たちも。
ふざけた館内放送と共に鳴り響く飢えた血鬼たちの唸り声を退けながら、第一区域のアトラクション、ファンタジー・ブラットシューティングをこなしていく囚人たち。
どこからか流れるジャズ風の明るい音楽とは裏腹に、血しぶきと剣戟が入り乱れる地獄のような光景が眼前で繰り広げられている。
しかし、鍛えられた囚人たちの戦闘力はなかなかのもので、血袋たちもまた一人、一人片付けられていった。
「皆さん物凄い奮闘ぶりですねぇ、おかげでぇ、これ以上ないほどかんっぺきなラ・マンチャランドが完成しましたわよぉ。こうして血鬼たちと人間たちはお互いに仲良くすごしぃ、毎日お祭りを開きながら暮らせるのですわぁ。
今回の冒険家様は残忍でぇ悪い血鬼たちを合計...んぁぁ、途中で数えるのを忘れちゃった!とにかくものすごくたくさん倒されましたわよぉ。」
「とっても活躍した、勇敢な冒険家様の名前を教えてくださいませぇ。」
「私の名前は...ドゥルシネーア。」
一瞬のうちにナレーションの声がぼやけると、しばし沈黙が続く。
次に聞いた言葉は、今までのおどけた様子の甲走った声色とは違う、とても低い音だった。
「あ...は、ははは。やぁっと帰って来たんですの?」
「...冒険家ドゥルシネーアとそのお友達はファンタジー・ブラッドシューティングで一位を達成しました!おめでとうございますぅ。
報酬はぁ!?どぅくどくドキドキデデデデデ、だだぁ~ん!押すだけでこのラ・マンチャランドで最高にイケてるアトラクションに乗りに行ける道が開くボタンですわぁ~!
勇敢な冒険家だけが乗れるラ・マンチャランドのハイ↑ライトぉ~アトラクション!ホーンテッド・ブラッディ・メアリー!」
<これ、次の区域にいける装置みたい。>
「でもこんなもんを、こんな簡単に押させてくれんのか?ボタンまで手ずから用意して?」
「俺が買った情報によると、区域1に入って生きて出られる確率は25%程度でした。高い確率ではありませんが、かといって低い確率でもないですね。俺たちはその確率を突破して、ボタンを押せるようになったんです!」
調子に乗ったのだろうか、ヒューゴというフィクサーはべらべらと隠していた情報を口から次から次へと吐き出した。
区域1の装置を稼働させる条件や、絶対に出会ってはならない三匹の管理人血鬼がいるだの、そういったものを。
<ボタンを押せば、私たちのこの区域でやるべきことは終わりなの?>
確かに怪しいけど、押す以外に特にできることがあるだろうか?
でも、私達の任務がこんなにスムーズに終わりそうなことってあったっけ?
「良い方向に考えれば、これで早く区域1を抜けて他の方々に合流できますね。」
「条件に彼らまで倒して来いという情報はどこにもなかったじゃないですか、ラマンチャランドの盗伐とは関係ないから、多分。だから出くわさないのが一番良いと思います、俺たちはこのボタンさえ押せば...」
しかし、ボタンを押すことに待ったをかけたのはドゥルシネーアだった。
押すのにもあまりにも怪しく、引き留める気持ちもよくわかる気がしたけど、その引き留めた理由は予想とは違う彼女らしいものだった。
「そうはいかないわ、フィクサーさん。今も罪なき訪問客たちは皆ここで苦しんでいるの、ここの管理をしている三匹の血鬼たちを全て倒し、その罪を償わせるのが当然の道理よ。」
「隠れてないで、出てきなさい!極悪非道な血鬼さん!このドゥルシネーアが自ら決着をつけてやるから!」
大きく張り上げた声がアトラクション中に響き渡り、呼応するようにどこからか、かつ、かつとハイヒールと床がぶつかり合う音が鳴り響く。
音を頼りに視線を動かし、舞台裏に注目すれば。現れたのは華やかな赤いドレスと大きな鋏を携えた血鬼だった。
「ぷっ...アは、アハハハハ!面白かったぁ、一週間のうちでいっちばん面白かったわぁ。アンタ、ほんとにドゥルシネーアなのぉ?わたしぃちょっと目が霞んでから久しくてねぇ!」
「ええ、私がドゥルシネーアよ。」
自信を持って、そう言い切った。
義憤、あるいは憤りに満ちた瞳で血鬼を強く睨みつけるドゥルシネーアは、ぎりぎりと日傘を握りしめて、今にも飛び掛かっていってしまいそう。
「...はぁ、どうして一位を取ったの?」
「苦境に立たされた多くの人々を救い、あなたのような悪人に捌きを下すために全て討ち果たしたの!悪しき血鬼を罰する、それが私の騎士としての矜持であり、責務なの!」
「ハ...ハハッ、は。」
その笑いには深い悲しみと静観、あるいは憐憫が含まれているような気がした。
「ど、どうして何度もそんなに笑うの?」
「アンタがあまりに狂っちゃってアタシ涙が出ちゃいそう!面白おかしくて笑いが止まらないのよ!アハハっ!」
何度も何度も高笑いし、泣きながら笑うその姿は、あまりにも恐ろしいのに、どこか物悲しくて。
笑って笑って笑いつくした後に、何度か咳き込んで息を整え、神妙な雰囲気でその血鬼は言った。
「っ、ふっー。アンタは騎士なんかじゃない...姫でしょ。」
わからなかった、この血鬼は何を、ドゥルシネーアの何を知っているんだろう。
"姫"という言葉が私の頭の中で引っかかり続けて消えない。もしかしたら、彼女は過去に、本当に姫だったのかもしれないと、そう思ってしまったから。
フィクサーマニアで浮ついた態度で誤魔化していても、素の気品がにじみ出ている。聡明な知識、美しいその姿、正義であることに強く執着する心。考えれば考えるほど、彼女が本当に姫であったと、そう思えた。
その気付きを得たのは多分私だけじゃなくて、囚人たちも薄々感づいているはずだ。そして、ドゥルシネーア自身も、きっと。
「...それで、どうだった?やっぱりアタシが作った遊具が一番楽しかったでしょぉ?アンタのパレードがサンチョに代わってからぁ、とっても人気が出てくれたのぉ。
本当はあそこにもっと装飾をつけて、服にもレースを足そうと思ったんだけど、時間がなくてねぇ。アタシたちの血袋はアタシがいちいち服を着替えさせてあげないといけないんだけど、複雑な服はみぃんなビッリビリに破られちゃってさ。」
「おぞましいことをよくもまあ口にするものね、私はここに遊びに来たわけじゃないのよ。人々を捕まえるラ・マンチャランドを討伐し!恐ろしい悪党を一掃するために来たのだから!」
「ッそれなのに!!!どうしてアタシが作った服を着てこなかったの!?アンタ、まだ持ってるんでしょ!?私が丹精込めて作ったドレスっ!!」
ドレス。その単語を聞いて、ドゥルシネーアは肩をびくりと震わせた。瞳は曇り、困惑しきった表情。
「アンタ、何そのふざけた格好、品のないバッジをつけまくって...あんたは姫でしょ!?アンタはドレスを着なきゃ!姫なんだから!全然似合ってないですわぁ!」
「でもアタシってば本当に優しいのでぇ、これを機にもっと素敵で!さいっこうのドレスを新調してあげますわよぉ。
ひ、ひひ。今採寸してあげますからねぇ、だから大人しく座って待っててくださいよぉ、お母さまぁ!!!」
完全に気が狂ってしまったのか、それともただハイになっているだけなのだろうか。
高ぶり恍惚とした声で、華やかな仮面を被った血鬼が飛び掛かり囚人たちと激突した。