ダフネ・ラウロスが強くても(エリート戦士ぐらい)いいじゃない 作:れいが
なんとか皆を無事に安全な階層まで避難させて、重症を負った人はウチが持ってるメディカルマシーンとアミッドの治療で回復する事はできた。
一安心したのも束の間、アミッドがメディカルマシーンの事を知った途端に譲ってほしいって言ってくるんだからめちゃくちゃ困ったわよ。
言い値で買い取ってくれるとか、ポーションやエリクサーを無償にしてくれるとか、ドロップアイテムの換金を倍にしてくれるとかあの手この手で揺さぶろうとしてくるけど・・・
液体の補充とか操作方法を覚えるのは難しいと思うし、丁重にお断りしておいた。
すごく残念がってるアミッドを見てちょっと心が痛んだからウチは代わりになるものを数粒あげる事にした。
「ラウロスさん、この豆は一体...?」
「仙豆っていう特別な豆で...まぁ、とりあえず食べてみてよ」
「はぁ...」
怪しむ様子でアミッドは仙豆を食べてポリポリと咀嚼する。ウチもちょっと疲れてるけど、食べる程じゃないからやめておいた。
十分に噛んでから飲み込むと驚いた表情で体の奥から気が溢れてくるのにアミッドは驚いてる。
「こ、これは...一瞬にして疲労感が消えただけでなく体力や魔力も回復しています...!それに空腹感も満たされているような...?」
「首の骨が折れてたり歯が欠けたりとか...最悪、腕が落ちたっていう怪我の範囲なら治せるよ。但し、病気は治癒出来ないからその点は注意して」
「いえ、それだけでも十分に凄い効力です。この仙豆はどこで入手されたのですか?是非とも輸入したく思います」
それはちょっと無理があるわね。
だってカリン様の所に行かないと貰えないし...ここは条件を出して納得してもらわないと。
「残念だけど輸入は無理だから、私が貰ってきてアミッドに渡すっていうのはどう?対価は仙豆の数で決めるっていう条件で」
「構いません。では、今回は3粒でしたので...」
直談判の結果...1粒1000万ヴァリスで買い取るって事で合意した。
仙豆の効能からすれば妥当な対価だと思うけど...最初こそアミッドったら、5000万ヴァリスでって言うもんだからビックリしたわよ。
しかも、こっちから値下げを要望したらめちゃくちゃ怒られたし...貴女はこの仙豆の価値観をどのように見ているのですかってさ。
まぁ、何とか仙豆のありがたさを私自身、再認識させてもらって...怪我人はもう大丈夫そうだから、先にアミッドを地上へ送ってあげた。
直接、ディアンケヒト・ファミリアの治療院へは瞬間移動出来なかったから少し離れた場所に到着する。
「ありがとね、アミッド。おかげで助かったよ」
「いえ、こちらこそ。この仙豆を利用すれば、新たなポーションやエリクサーを調合する事が出来ます」
アミッドはウチにお辞儀をしてから治療院へ向かって行った。その背中を見送ってウチも皆の所へ戻る。
後日、地上へ帰還する目途が立ったからウチは皆と一緒にダンジョンを上がっていく事になった。
本来なら、もう少し待機する予定だったけどメディカルマシーンのおかげで重傷者の回復が早くなったのもあって予定を早めたらしいわね。
流石は大規模派閥なだけあって人数分けを1班から5班までしていて、ウチはその真ん中の3班に加わってる。
その3班の班長はアキさんでナルヴィ、ラクタ、シャロン、レミリア、クレア、カルミリア、アンジュさん、ルーニーちゃん、リザさんと...何故か女性のみで構成されてた。
もしウチが男だったら恐縮して会話の中に交われないかもってくらい華やかなのよね。
「ダフネ、あの時芋虫の化け物が動かなくなってたのはどうしてなの?」
「萬國驚天掌って技を使ってたから。体に流れる電気を両手に集めてから放電すると、相手はビリビリ痺れて最後は死に至るらしいわね」
「ら、らしいって、使ってる本人がどうして曖昧なの...?」
「だって、ウチ自身も動けなくなるから...飽くまでも動きを封じ込めるのに使ってるんだよ。それにウチは嬲り殺しなんて趣味じゃないし」
問いかけてきたシャロンとレミリアは納得してくれたように頷いてた。
師匠も相手が観念したら止めてあげてたし。ただ、今回のあの芋虫みたいなモンスターに関しては殺すつもりで放ってたけどね。
でも、あの技って結構疲れるのよね。気を集中させて体中の電気を操るのもそうだけど、それを放出させるにも集中力が必要になってくるし...
だからあんまり連発は出来ないし、何より一対多数には不向きだから。
「ルーニーちゃん、大丈夫?」
「う、うん。ありがとう...」
「ちょっと休憩しましょうか。2人体制で交代しながら周囲を見張るわよ」
アキさんの提案を聞き、地面から岩が隆起してる陰にウチらは腰を下ろして休憩に入る。
肩が軽くなって背伸びをしてるルーニーちゃんを見かねてウチは肩こりにならないようマッサージしてあげた。
ルーニーちゃんは気持ちよさそうな声を零して耳をピコピコさせてて可愛いと思った。小さい頃から同じ体格の師匠に何時間も肩もみをしてたから慣れてるのよね。
「どう?少しは軽くなった?」
「うん、ありがとうダフネさん」
「どういたしまして。...アキさん、ちょっと小腹空いたから軽食でも食べない?」
「そうね...まだ四班が来るまで時間もあるから、今の内に食べちゃいましょうか」
ウチの提案にアキさんが賛同してくれたから、バックパックを開けて三班の皆の分に用意されたサンドイッチを取り出した。
本来は無かったウチの分まで用意してくれて嬉しかった。
まぁ、でも...これだと足りないから非常食が入ってるホイポイカプセルを取り出す。
それに興味を持ったレミリアが何なのかを聞いてきたから、ボタンを押して目の前に置いた。
すると、ボフンっと煙の中から実体化した中型の冷蔵庫が現れた。一番上に電子レンジが付いてるタイプよ。
「な、何これ!?どこから出てきたの!?」
突然の事に驚いてるレミリアの叫び声を聞いて、皆が一斉に何事かとこっちを向いてた。
さっきまで何も置かれていなかったはずの冷蔵庫が目の前にあって同じようは反応をしてる。
「このホイポイカプセルってアイテムに収納してたのよ。これ自体の説明は難しいから...聞かないでおく事にしてね」
「えぇ...ま、まぁ、それなら仕方ないか。でも、私の知ってる冷蔵庫とかなり違うような...?」
「魔石製品じゃないからね。この電動バッテリーからエネルギーを供給して中の物を冷やしてる仕組みなの。ちなみに、一番上のここの部分は食べ物を温められるから皆のサンドイッチも温めてあげるよ?」
「温めるって...火で炙るとかそういう感じ?」
「まぁ、百聞は一見に如かずって事で...先にウチの非常食を温めてみるわね」
冷蔵庫を開けてひんやりとした冷気を感じつつ、作り置きしたグラタンとミネストローネを取り出す。
ドアを開けて仕舞うとボタンを軽く押す。電子レンジの中がオレンジ色に発光して温め始めた。
その間にウチはもう1つカプセルを取り出して放り投げる。そっちには色んなアウトドア用品が入ってるカプセルをケースに収納してて、その中の3個を同時投げると脚が低い折り畳みテーブル、レジャーシート、食器セットが出てきた。
流石に地べたで食べるなんてマナーがなってないからね。カプセルケースを仕舞ってレジャーシートを敷いてからテーブルを広げて食器を並べる。
皆、もう驚く気も失せてるみたいでウチがランチの準備を静かに見てるだけだった。
並べ終わったと同時にチーンっと電子レンジが鳴って、火傷しないように備わってる耐熱グローブを両手に嵌めてグラタンを取り出す。
慎重にテーブルに置いて、ミネストローネもその隣に置いた。
出来立てみたいにグラタンは良い焼き加減でほんのり焦げてる表面がグツグツして、 ミネストローネも湯気が立ってて食欲をそそられるわね。
それに皆もやっと反応して感嘆の声を漏らしてた。ウチはちょっとだけ自慢気にしながらグラタンを人数分に切り分けて、ミネストローネもカップに注いだ。
「温める他にもオーブンでこんがり出来るけど...どうする?」
「当然、お願いするしかないでしょ?こんなに美味しそうな料理が食べられるなんて、もう最高ね」
「ホントホント!今度からダフネが遠征に来てくれるなら、楽しみになってきそうかも」
ちょっと興奮気味にシャロンがそう言うと他の皆も異論はないみたいで嬉しそうだった。
これはウチも張り切らないとね。そう思いつつ、オーブンに切り替えてウチと皆の分のサンドイッチが入る様に並べる。
Lサイズのピザも作れるぐらいの大きさだから余裕で入ったわね。
3分目安で焼き上がったサンドイッチはこんがり焼けてて美味しそうね。
そうして皆にサンドイッチを渡していって軽食を食べ始める。
「美味しい...とっても美味しいわ。ダフネ」
「それならよかった。ミネストローネはまだちょっと熱いから気をつけて」
「あっぢ!?」
「...って言ったのに。ちょっと待って、水あげるから
焼き上がるのを待ってる間にグラタンはアキさんが食べて火傷しない程度には冷めてたから、舌鼓を打って感想を述べてくれてた。
ただ、ナルヴィが十分に冷ましてなかったミネストローネで舌をヒリヒリさせてるから冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを差し出す。
お礼を言いつつ蓋を開けて、水を口に含みながら頬っぺたを膨らませて舌を冷やしてるのに...ちょっとだけ吹いちゃった。
アキさん達もそう感じたみたいで微笑んでるし、当の本人は恥ずかしがってたから尚更微笑ましい気持ちになっちゃうわね。
その後は美味しく食事を終えて、十分に体を休ませて出発する5分前には冷蔵庫やテーブルをカプセルに収納してから再度地上を目指し始めた。
...んだけど、背後からドドドドってけたたましい地響きが聞こえきて皆は足を止める。
ウチは背後から無数の気が迫って来るのに気付いて皆に注意を促した。
しばらくして通路の奥から牛の頭をした人型のモンスターの群れが向かって来るのが見えた。
「ミ、ミノタウロス!?」
「嘘でしょ!?どうしてあんな大群で向かって来てるの!?」
「落ち着いて!狼狽えてる暇なんてないんだから!前衛は直接叩いて後衛は討ち漏らした個体を倒すわよ!」
どうやら異常事態っぽけど冷静にアキさんは指示を出して、ウチは後衛に回る事に。
ミノタウロスの大群に向かっていくアキさんを始めアンジュさんは槍、リザさんはランス、剣闘士のシャロンはミノタウロスの顔面に拳をめり込ませた。
後衛はほとんどバックアップを担当してる子達だから、3組で遊撃する陣形を整えてる。
すると、隙を見て1体が抜け出してきて皆が身構えた。ウチは特に構えず腕組をしてミノタウロスを見据えた。
そいつはウチを見つけるや否や角を突き出して突進してこようとしてる。背後から皆の危ないって声が聞こえるけど...
ウチは足を持ち上げて目の前まで迫ってきたミノタウロスの脳天に踵落としを叩き込む。頭部が地面に埋まってピクピクとミノタウロスは痙攣して、その内動かなくなった。
一瞬の出来事にアキさん達は呆然としてしまって、そのせいでまたミノタウロスが数体向かって来る。
相手にならないんじゃこれ以上は面倒だし...もうちゃっちゃっと倒そうかしら。
ウチは掌を上に向けて右手を構え、その手首を左手で掴む。気を集中させると稲妻が迸り、球体状となって繰気弾が掌から出てきた。
「繰気弾っ!とりゃああっ!」
揃えた2本の指の動き合わせて繰気弾は赤い閃光の尾を引きながら飛翔する。
まず最初の1体に直撃してそのまま通過するとウチは繰気弾の軌道修正をして、天井に当たる前に大きくカーブさせた。
戻って来る軌道上にいた2体目の後頭部にぶつかり、3体目はウチが指を振り下ろすのに合わせて落下してきた繰気弾の餌食となる。
地面を抉る程の勢いで繰気弾は地中をモグラのように突き進んで行く。最後の4体目がウチ目掛けて突進してくるタイミングを見計らい、ウチは指を突き上げる。
地中から飛び出してきた繰気弾がミノタウロスの顎を捉えて勢いのまま高く打ち上げた。
顎が砕けたミノタウロスは脳を揺さぶられた衝撃で気を失い、ズシンっと背中から倒れる。
ウチは繰気弾を呼び戻すように目の前に滞空させて、アキさん達の状況を伺う、
どうやらまだ倒しきれそうにないから、もう一度繰気弾で攻撃しようとしたけど...背後から猛スピードでアイズ達の気が近付いて来るのに気付いて止めた。
アキさん達でも倒すのがやっとだったのに、アイズ達は瞬く間にミノタウロスは全滅させた。
「アキィーーー!大丈夫だった!?ごめんねっ!ベートが怖がらせたから逃げ出したの」
「おいざけんなバカゾネス!テメェがボコスカやったからだろうがっ!」
「落ち着けお前達!どちらにせよ私達の失態だ。すまんかった」
「い、いえいえ!そんな、顔を上げてくださいリヴェリア様!」
話の内容からして大体の事は察した。後から地上を目指してた四班のティオナ達がミノタウロスと戦ってたけど、逃げ出したからウチらに襲い掛かってきたってところか。
ティオナとベートはあーだこーだお互いのせいにしてるけど、リヴェリア副団長は自分達のせいでこうなってしまったのを謝ってて大人だなぁと思った。
ウチはもう大丈夫だと思って繰気弾を消そうとして...アイズがマジマジと見てるのに気付く。
「ダフネ...それも気、なの?」
「あぁ、まぁうん。ガチガチに固めて相手にぶつける繰気弾って技だよ」
「それでミノタウロスを倒したんだ...」
そう答えてるとリヴェリア副団長も近付いてきて...アイズと同じように繰気弾を興味深そうに観察しながらお礼を言ってくれた。
「ダフネ、また助けられてしまったな。おかげで上層へ上がるのを未然に防ぐ事ができた」
「と言ってもウチは討ち損じたのを倒しただけで、ほとんどはアキさん達のおかげですから」
「そうか...いずれ、私個人からお礼をさせてもらおう。ありがとう」
「どういたしまして」
魔石製品に冷蔵庫とかオーブンがあるのか不明ですが、多分あるはず。