YGGDRASILがコラボしまくったという設定なので、フロム作品をご存じの方には、馴染みある魔法をだすかもしれません。
アインズとバオーがエントマの部屋に入った間もない頃。
「 ・・・暇ね。 」
ユリ・アルファは退屈だった。アインズから二人がでてくるまで、誰もこの先に通すなといわれ、こうしてドアの前につったっているが、それもすぐに飽き飽きしてきたのだ。勿論、主人であるアインズの命であるので、持ち場を離れるわけにもいかない。普段ならばメイドの一人や二人は通りそうなものだが、客人を警戒してか、誰も寄ってこないのだ。ナザリック地下大墳墓第九階層スウィートホームの廊下にデュラハン一人。如何にアンデッドといえど、退屈を紛らわすなにかが必要なのは明白であった。その為、彼女は少しばかり思案に暮れることとした。
「 エントマ、粗相はないかしらね。 」
先ず案じたのは、この先の部屋にいるであろう、妹のことだ。あの光を受けて、自分たちは大きく変わってしまった。レベルが高まり、それまで備えていなかった魔法やスキルを会得することもあった。エントマはなにかの使命感にでも追われるように、巣を張り始め、デスナイトの倍のレベルはある眷属まで呼び出し始めた。その行動をメイドや守護者、さらには恐怖公まで心配していたのをユリは覚えている。しかし、彼女自身人格はこれといって変わらなかった。話してみたら、いつもの彼女だった時、どれだけ安堵したことか。
「 あれは、なんだったんだろう。 」
次に思い浮かべたのは、啓蒙の杖のみせた光景だった。光に当てられ、気づけば彼女は星の空を歩いていた。そこは酸素などないはずなのだが、ユリはその中でも呼吸することができた。しかし、そこは確かに、宇宙なのだと確信することができた。
そして、その中で多くのことを理解することができたのだ。
いかにアインズが仲間を根掘り葉掘りと探そうと、それに会えることは決してない。ユリは生みの親であるやまいこには一生会えないのだ。
そんな中で残ってくれたモモンガはいつか会えると信じて、アインズ・ウール・ゴウンを名乗ってナザリックに君臨してくれている。
支配者として凡庸ながらも、無理をして。
そんな彼の身を、彼女もエントマも案じているのだ。そしてそれが、望んだ結果ではなくとも、ようやく実を結ぶに至ったのである。さて、そんなことを気づかせてくれたあの世界は一体なんだったのか。自分を呼ぶような、あの声は誰だったのか。
ただの幻覚ではないのは確かである。そうであるのならば、自身の身に起きているこの変化はなんだ。
ユリにとっては分からないことだらけだった。
「 あの子はまた、女と交わってるのかしらね。 」
あの子とは、彼女にとって二人目の妹だ。ナーベラルは表では冒険者として活動しており、今日もその業務でエ・ランテルにいる。今日も今日とで、女を連れ込んでベッドの上で戯れているのだろう。まったく会うたびにイカ臭いのは勘弁してほしいものだ。思えばすべての始まりは、あの子があの杖を持って帰ってきたことだとユリは当時を思い返していた。それでナーベラルが杖を使って、自分と姉妹たちはその影響をもろに受けてしまった。といっても、今この場にいる自分を含めて、あまり人格面に変化はない。強いていえば、それまで沸かなかった感情が沸き始めたことか。
「 はぁ、はぁ・・・また、ですか。 」
性欲である。アンデッドであるはずの自分の、生物が種を残す為の本能が強まってしまったのだ。
カルマ値が150とナザリックの中でも高水準以上のユリは、己の内で発散せざるを得なかったのだが、最近は禁欲の為のトレーニングをこなしたりしてそれを満たしている。その為、この本能の疼きにも、次第に慣れてきていた。が、デュラハンである自分が何故これほどの性欲を抱くようになったかは依然として不明である。
それは、あの杖の開発者にでも聞かねば分からないのだろうか。
そうこう考えていると、聞き慣れた声が聞こえる。彼女の姉妹たちの中でも特に危険で、それでいて特に優秀なメイドだ。改造メイド服に、金髪をロールさせて束を三対。一見美しい人間の女性にみえるが、その実態は、それに擬態した、スライムである。
「 ユリお姉様。 」
「 ソリュシャンですか。今は業務中ですよ。 」
「 エントマの部屋に、モモンガ様と新しい方。杖の事ですね。 」
「 あら、察しが早くて助かるわね。アインズ様に御用でもあるの? 」
「 たまたま通りかかっただけですわ。みんな、モモンガ様と一緒にいる彼を怖がっているので、その方が気にはなっていますが。 」
「 貴方は、彼らをどう思いますか? 」
「 同じ異形種ですし、ヘロヘロ様たち至高の御方々がいなくなってしまわれてから、モモンガ様はお一人で私たちを導いてくださっているのですから、その負担が少しでも軽くなるならば、良ろしいのではないかと。 」
ソリュシャンは身も心も柔軟な女だ。新規メンバーであるバオーたちも割とすんなりと受け入れていた。
「 お姉様は? 」
「 私も、モモンガ様が抱かれている寂しさが和らぐならば、彼らを受け入れましょう。 」
「 他の姉妹たちはどう思うのでしょう。 」
「 ルプスレギナは最近同族の方と好い仲だと聞いています。シズとも聖王国で会ってるらしいですし、エントマも仲良くできるでしょう。オーちゃんはそもそも会う機会も少ないでしょう。とすれば問題は・・・ 」
ユリとソリュシャンの脳裏に浮かぶのは、特に変化の激しかった姉妹だ。
「 一番変わってしまったのは、彼女ですからね。以前魔導国に視察に行きましたが、人間の女、それも複数人と交わっていました。以前の彼女ならば、そんなことはしなかったでしょう。 」
「 ハム助までも襲ったと聞いたわ。 」
「 モモンガ様の騎獣にまでですか。そこまで狂ってしまっているとは。 」
「 あの杖でしょうね。 」
「 そうとしか考えられません。 」
プレアデスたちも、啓蒙の杖について分からないことだらけだ。アレは自分たちに、神秘を見せた。ユリもソリュシャンも、そしてエントマも、差異はあれど、共通して宇宙と自身を呼ぶなにかを感じ取っていた。それが、ナーベラルになにかしら作用したのか、では自分たちは何故彼女ほど人格が変わっていないのか。それとも変化が大きくでるまで個人差、種族差があって、いずれ自分たちもああなってしまうのか。謎が、謎をよんでいた。
「 自分が強くなってきているのはわかるのですが、私は怖いんですの、お姉様。いつか私もあんな淫乱になるのではないかと。私はヘロヘロ様の望んだソリュシャン・イプシロンでいたい。自分の創造主の旗を自ら落とす様な、そんなことはしたくありませんわ。 」
最近の双子の姉妹が、生みの親である筈の弐式炎雷を軽視し始めていることを知って、深刻な顔色を浮かべるソリュシャンを気遣ってか、ユリは啓蒙の杖やナーベラルから話題を逸らす、というより、脱線しかけていた話を戻すこととした。
「 守護者の皆様はどうお考えでしょうか。 」
「 シャルティア様は上機嫌でしたよ。アイツらをこき使えると仰っておりました。デミウルゴス様もコキュートス様も、モモンガ様の命とあれば、呑み込んでくださるでしょう。 」
「 アウラ様とマーレ様はどうでしょうね。 」
「 アウラ様はともかく、マーレ様はよくも悪くもナザリック内にしか興味は御座いません。敵でないならば、それほど悪い感情を抱くことはないと思いますわ。ニグレド様とラナー様は? 」
「 オーちゃんと同じね。そもそも接点を持つとも考えづらいでしょう。 」
「 ともすれば、一番面白くないのは、あの方でしょうね。 」
ソリュシャンのいうあの方、とは言うまでもなく、彼女たちの元締め、守護者統括であろう。
「 アルベド様ならば、しばらくは大丈夫でしょう。あのゴーレム職工の教育の任を、モモンガ様より賜われたのですから。 」
「 本人も、乗り気でしたものね。 」
「 これで、変な気を起こす可能性も薄まったでしょう。といっても、予断を許さぬことを変わりありませんが。 」
「 あの方がお慕いしておられるのは、あくまでモモンガ様。アルベド様はモモンガ様を手に入れる為あらば、手段を問わないでしょう。新しいギルドメンバーを恋敵、とはいいませんが、己の障害と捉えるのは、難しくありません。好きな殿方が絡めば、女とはこうも恐ろしくなりますわね。 」
「 それこそ、こちらにも牙を剥きかねない、ね。でも、考えすぎなんじゃないかしら、私たち。 」
「 そうともいい切れませんわ。現に私たちは、人のみでありながら、男の為に自分たちの国を売り渡した方を知っている。 」
ソリュシャンの頭の中には、黄金の姫と呼ばれた、ある部屋の守護者の顔が浮かんだ。
そういえば、彼女が人間をやめるきっかけは、アルベド様と縁ができたことだと聞いたことがあった。基本的に人間を下に見る筈の彼女が鼻にかけるとは、珍しいこともあるものだと思っていたが、それは自分に似通ったところがあったからならば合点がいく。
如何に表の顔が美しくとも、その下は悍ましさが極まっている。そして如何なる手を打ってでもものにしたい男の存在。なるほどあの二人は恐ろしく似ているではないか。ラナーと自分たちとの共謀で、リ・エスティーゼ王国が滅んだように、今度はアルベドが策謀によって、このナザリックを、アインズ・ウール・ゴウン魔導国を傾ける可能性があることに、彼女たちは気づいていた。
表向きは平然としているものの、彼女たちはアルベドを警戒していた。おそらく彼女を性的な目でしか見ないであろうナーベラルを除いては。
「 ではそうはなってならないと心しておきましょう。内紛でナザリックが滅ぶなど、モモンガ様が望むはずはありませ・・・ん? 」
その時、自身に、向けられた視線を感じ取る。
「 お姉様? 」
それまで普通に話していた姉が顔色を変えた事に、ソリュシャンは不安を覚える。キ・マスターのスキルを習得しているユリがこうしてなにかを察知してこうなる時は、よからぬ相手が近づいてきているときである。
「 このクッソ汚い眼光、間違いありませんね。 」
「 またですか。今月に入って何度目でしょうか。 」
「 いちいち覚えていませんが、いい加減にガツンといわなければ、きりがないわね。
モモンガ様には申し訳がないけれど、致し方ないわ。ソリュシャン、私に代わって、このドアの警護に周りなさい。それで3分たって私が戻らなければ、モモンガ様にご報告なさい。 」
「 かしこまりました、お姉様。 」
ユリは持ち場をソリュシャンに任せ、視線の刺さる方向に歩いていく。これまでにも、彼女はこの視線の主からセクハラめいた仕打ちを受けていた。それを悪いとは思わないが、最近は度が過ぎて仕事に差し支え始めている。あの方には勘弁願いたいものだ。ソリュシャンからそれなりに離れた距離で止まる。彼女は物陰にでも隠れているのだろうか。
「 いい加減になさってもらえませんか、シャルティア様。 」
ユリがそういうと、彼女は廊下の角から、堂々と歩いて姿をみせた。
「 仕方がないでありんしょう、ユリ。ペロロンチーノ様がネクロフィリアとして私を想像したのでありんすから。 」
「 だからといって、しょっちゅう破廉恥な目で見られるのは困ります。 」
「 困る? 」
「 そうです。 」
「 ふーん・・・なあに、私に構われるのが迷惑だっていいてぇの。 」
シャルティアは不機嫌になったのか、少しばかり凄みを効かせた声色になる。その妖しく深紅に光る瞳が、ユリを捉えた。
「 そうです。 」
「 そぉ。私って迷惑なんだ。 」
「 そうまではいってません。 」
「 だったらなんだよ!性癖なんてどうしようもねぇんだからさ、ちょっとくらいお前を尾行したっていいじゃねぇか! 」
そのシャルティアの脅すような口調と覇気に、後ろにいるソリュシャンは、怯え始めていた。
しかし、ユリは冷静に答えた。
「 ちょっとの頻度が多いからこう申しているではありませんか。それと逆ギレはやめてください。はしたない。 」
「 逆ギレ!? 」
「 そうです。自分の非を責められているのに、それを棚に上げて怒号をあげる。逆上でなければなんだというのです。 」
ユリの言うことは紛うことなく正論である。が、このヤツメウナギの化け物がそんなもので納得がいく筈がない。
「 表にでろ。理解せてやっから。 」
「 表とはどこです? 」
「 第六階層だよ!〈転移門〉! 」
不機嫌なシャルティアは闇の門を出現され、その中に入っていった。
「 はぁ・・・やれやれ。 」
面倒なことになったと思いながらも、ユリはその中に入っていった。一人残されたソリュシャンは、言いつけどおり、5分待つこととした。
「 あれは、考えを改めた方がいいかしらね。 」
彼女はモモンガの妃はシャルティアがいいと支持していたが、あの有り様をみては後継ぎが脳筋の馬鹿にでもなったら将来が怖いと感じた。かといって、アルベドではより不穏因子が強い。
彼女が子を産む頃に、自分たちが生きてるかさえ分からない。なにしろ彼女に殺されかねないからだ。
その為、ソリュシャンが考えうる中で、最善なのはやはり・・・
「 アウラ様かしらね。 」
最近モモンガを意識しはじめた、第六階層のダークエルフだった。
次回、おそらくユリvsシャルティア。多分、別の書きそうだけども。