幻想トリップ   作:ニコラス―NICORUTH―

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 ユリ「 アイツ(シャルティア)、 ワシより強くね?」
ユリ超強化ご注意ください。これも杖とマリッサが悪いのでございます。
ちなみにワシはHUNTER×HUNTERはニワカでグリードアイランドとキメラアント編くらいしか知りませんので悪しからず。


化身観音

 ナザリック第六階層。おおよそ地下墳墓の中とは思えない大自然が広がっている。このジャングルには、高レベルの魔獣たちが生息し、侵入者がいようものならば、獰猛に襲いかかるだろう。

そんなかつてのアマゾン以上に過酷な環境下であるが、意外なことに、人の住まう居住区が存在している。この集落に住まうのは、蜥蜴人やトレント、ドライアドといった外部からの移民である。畑や果樹園が備えられている他、蜥蜴人の主食である魚の養殖の為の生簀もある。

その頭上は常に夜空である。藍色の空模様を彩る、星々の瞬き。環境が汚染され尽くした時代に生まれ、大自然に情景を抱いた至高の四十人、ブループラネット氏の凝らしたものだ。それらは本物の夜空と遜色ないほどに、美しかった。

この空の下、集落とは別に、明らかな人工物が建っている。ローマの円形闘技場のようだ。

その中に、女が二人。

一人は改造メイド服を着込んだメガネのデュラハン。その両腕には、刺々しいガントレットが装備されている。

もう一人は見目麗しい真祖吸血鬼。今は真紅の鎧を纏い、禍々しい槍を手に持った勇ましい身なりに身を包んでいる。

 

「 では、そちらからどうぞ。 」

 

「 その前にユリ。一つ提案があるでありんす。 」

 

「 なんでしょうか。 」

 

「 先の態度は水に流すので、私の前で裸になって土下座するでありんす。 」

 

 シャルティアも意地悪なものだ、とユリは呆れかえる。この場に立った時点で、意思は定まり、そしてこの提案への答えも当然決まっていた。

 

「 お断りします。 」

 

「 そう。じゃあ、死なない程度に痛めつけるで決定ね! 」

 

 シャルティアはその悍ましい気とは不釣り合いな翼をはためかさ、一瞬にしてユリの目と鼻の先ほど前まで詰める。まるで、時間が加速したかのように。ユリのみが、時間に置いていかれたように。

刹那の末に迫る槍の刺突。YGGDRASILでもワールドアイテムを除いては最上位のクラスに位置する神話級の魔槍「 スポイトランス 」の一撃を、両腕でガードする。さらに刺突が二発ほど飛んでくるが、これも難なく防いでいく。薙ぎ払うも、片手で受け止められてしまう。

 

「 ・・・!? 」

 

 シャルティアは目を疑った。以前よりレベルが上がっているというのは、アインズから聞き及んでいたものの、それでも彼女のレベルは100であり、未だにユリよりも高い。だが、たった数発とはいえ、何故自身の攻撃をこうも受け止められる。いや、気の所為だと自分に言い聞かせるシャルティアに、ユリからの反撃が飛んでくる。

 

「〈気爆掌〉!」

 

 モンクの数少ない範囲攻撃。対象に接触して使えば威力を分散させずにダメージを与えられる技だ。

気を纏った一撃が、シャルティアの顔面に直撃し、後方に大きく吹き飛ばすものの、鎧に備えられた翼を使い、即座に体勢を立て直す。

 

「 レディの顔を殴り飛ばすとは、品がないでありんすえ!? 」

 

「 やまいこ様の受け売りです。先ずは殴ってみると。 」

 

 ユリは即座に距離を詰めて、シャルティアに猛烈な一撃を与える。が、その前にひと手間加える事とした。

 

「〈獅子座の諸相 炎の鬣〉!」

 

 両腕に、炎が燃え盛る。その煌めきたるや、すべてを焼き尽くしてしまいそうな、それでいて何処かその様が獅子のようにもみえ、気高さを感じさせた。シャルティアの胴に、三打四打と打撃が加えられ、着実にダメージを与えていく。

九打目が降りかかる時、

 

「〈不浄衝撃盾〉!」

 

 間一髪、日に二度しか使えないスキルを使用して吹っ飛ばし、距離を取る。そんな彼女にユリは両腕の炎を放った。

 

「 ハァアッ! 」

 

 解き放たれた炎は、二つが一つに混ざり合い、獅子の如き様相を見せる。

シャルティアは、その迎撃をもろに受け、炎に包まれる。ユリはそんな彼女を目にしても、けっして気を緩めずに構えている。

吸血鬼の少女は、その身を焼かれ、やがて炎が消えると、煙を流しながらも、目の前の戦闘メイドに鋭い視線を向ける。

 

「 へぇ。創造主のことは大事なのねぇ、あの妹と違って! 」

 

 シャルティアは手を翳し、魔法陣を展開した。ユリは前衛職であるので接近戦よりも遠距離からいたぶったほうが良いと考えたのだ。そして、自分も炎を放とうとも。

 

「〈魔法最強化朱の新星〉!」

 

 炎属性最強クラスの第九位階魔法。紅の炎がユリの身体を焼く。がしかし・・・

 

「 んん・・・! 」

 

「 効き目が薄い。炎耐性のスキルでも持ってるの? 」

 

 ユリはその身を焦がされながらもそこに立っていた。本来アンデッドは炎と神聖属性を弱点とする。アインズやシャルティアも例外ではない。しかしユリは、あまり効いている素振りを見せていないのだ。

朱の新星は効きづらい。ならばもう一つの弱点を突こう。

 

「〈清浄投擲槍〉!」

 

 第十位階の信仰系攻撃魔法。巨大な神聖属性の槍を形成し、対象に投げる。更にMPを消費することで、必中性能を付与できる。

 

「 喰らえッッ! 」

 

 シャルティアは凄みを効かせながら投擲した、聖なる戦神槍が、ユリに迫る。

しかし、彼女は自身の天敵ともいうべき魔法が放たれたというのに、恐ろしく落ち着いている。

 

「〈牡牛座の諸相 アイアスの盾〉!」

 

 ユリの身体が、赤いオーラを放つ。アイアスの盾。かつて古代ギリシャに起きたトロイア戦争、その英雄の得物である。青銅の盾に、七枚の牛革が張られた、強固な盾であり、敵将ヘクトールの投げた槍を革七枚貫かれるくらいで済ませ、ものの見事に防いでみせたという。この魔法防御力を上昇させ、属性ダメージも緩和するスキルでもって、ユリは〈清浄投擲槍〉を凌いでみせた。

 

「 なんだと!? 」

 

「 お返しですよ! 」

 

「〈獅子座の諸相 炎の鬣〉!」

 

 ユリの両腕から、再び炎が放たれ、シャルティアの身を焼き焦がす。

更にユリは、彼女の目前まで迫り、さらなるスキルを発動する。

 

「〈獅子座の諸相 破邪百獣拳〉!」

 

 今度の拳は、神々しく白い輝きを放っていた。破邪とあるように、邪悪なるものを滅するが如く。そして、シャルティアは目にも止まらぬそれをもろに受け、闘技場の石の壁に叩きつけられる。ぶつかった部位が砕け、砂ぼこりが舞い散る。ここまでくれば大分ダメージを負っていたほうが自然であるが、この吸血鬼は違った。

 

「 やはりまだ、倒れませんか。 」

 

 ユリの眼前、塵の中から現れた彼女はまるでそれまでうけた傷がないかのように、ケロッとしていた。

そして、余裕な態度も崩していない。

 

「 これで参ったというわけがないでありんしょう?私は冷酷で残酷で非道で、そいで可憐な化け物でありんす。 」

 

「 ・・・あのスキルを受けきる。それもそれなりにダメージを受けた上で耐えるとは。 」

 

「 階層三つ掛け持ちしてるのは、伊達ではありんせんのよ。ペロロンチーノ様が丹精込めて創られたのでありんすから。 」

 

 真祖吸血鬼は誇らしげにそういってのけた。シャルティア・ブラッドフォールン。ナザリック第一〜三階層守護者。その麗しい外見から想像もつかぬ程の残虐さでもって、現在の主たる魔導王に仇なす者たちを蹂躙する。そんな彼女は近接戦闘に秀でながらも、魔法も器用に使いこなす魔法戦士と呼ばれるタイプのビルドがなされている。実力は並の100レベルプレイヤーを凌駕し、彼女の生みの親であるペロロンチーノが、仲の良かったモモンガに自慢する程であり、ただ一人ナザリックに残った当時のメンバーである彼が、自身の手がけたNPCの次に詳しいといい、不完全ながらも洗脳された際には徹底的な対策とブラフでもってようやく撃破にまで持ち込んだほどだ。

故に守護者最強は、コキュートスでもマーレでも、まして日頃からアインズを巡って張り合っているアルベドでもない。

この真紅の戦乙女であるわけだ。

 

「 それにしても驚いたでありんすえ、ユリ。知らぬ間にあんなスキルを覚えていたなんて。やられるかとと思ったでありんす。 」

 

「 お褒めにあずかり、光栄です。シャルティア様。であれば、他にもいくつかご覧になりますか? 」

 

「 いや、もう十分でありんす。あれ以上喰らったら流石に私でも面倒でありんす。

だから・・・ 」

 

 紅の瞳を見開いたシャルティアから、白い光が発せられたかと思うと、それが彼女に並ぶように分裂し、人型を象っていく。

 

「 だしてきましたか。それを。 」

 

 業務上、基本的に守護者のスキルや魔法についてはあまりよく知らないないユリであるが、シャルティアのそれは聞き覚えがあった。

 

「 そろそろ終いにいたしんす。 」

 

 シャルティアの隣に、自分そっくりな光体が並ぶ。〈死せる勇者の魂〉。ワルキューレの職業スキルを修めて習得できるスキルだ。

その能力は単純明快。自身の分身を生成するというもの。

分身は魔法やスキルは使えないものの、術者の能力値を忠実に再現する。つまり、ユリはこれより、シャルティアを二人相手にする羽目になるわけである。

にも、関わらず、彼女は、このデュラハンは怖気づくような気配をまるで見せない。

 

「 どうしたでありんす?もしかして怖気づいて、震えが止まらないのでありんすかえ? 」

 

「 失礼、シャルティア様。貴女が私共などよりお強い事など分かりきっているつもりです。しかしながら・・・ 」

 

「 しかしながら? 」

 

「 何故か恐ろしく、私の心の内は落ち着いているのです。貴女が、切り札たるスキルを使用しても尚。 」

 

「 ・・・なんですって? 」

 

 今の彼女は恐ろしく落ち着いている。そう本人の口から聞かされたことに、自身の切り札が大したことはないといわれているように感じ、憤慨したシャルティアが怒るまでもなく、ユリは続けた。

 

「 私に、裸になって土下座しろ、でしたね?

流石に謝罪までは今はできませんが、この身を晒しましょう。お望み通りに。 」

 

 なにを血迷ったか、ユリはいつも着ている改造メイド服を脱いだ。といっても、いちいち一着一着脱ぐのではなく、装備が消える、という形であるが。

その一瞬に、心の中で何故かこう呟いた。

 

( やまいこ様・・・お許し下さい。 )

 

「 な、なっ! 」

 

 シャルティアは驚愕した。清楚で誠実、それでいてプレアデスたちの姉らしい人格者然とした人柄のユリ。小学校の教師であるやまいこが創造し、そんな彼女の性格を継いだような彼女のその身は、この吸血鬼が声をあげるほどの変化が起きていた。

そのガントレットとチョーカーを除いて生まれたままの姿のユリの身体には、タトゥーが刻まれていた。胸には牛の顔を模したようなもの。肩にはライオンの顔を模したようなもの。背中の腰らへんには鷲のそれを模した翼といったように、動物の彫り物が、彼女に刻まれており、その中でも一際目立つものがある。鼠径部の少し上、丹田の辺りの、青い歪んだ星に、目があるようなタトゥー。こればかりは、異彩を放っているようだった。

 

「 ユ、ユリ。それは一体・・・! 」

 

「 ゾディアック・アデプトといいます。この身に星霊の印章を刻み、その力を行使する。といっても、股間のこれは違いますが。セバス様がゲヘナの折に似たようなスキルの使い手に出くわしたそうですが・・・ 」

 

「 そうか。あのスキルは・・・! 」

 

 シャルティアもこれで理解した。ユリが先ほど使用した〈気爆掌〉を除くスキルは、このタトゥーに由来するものだと。だがそれもすぐ終わる。

 

「 しかし血迷ったでありんすか? 」

 

彼女はこれを見せるために、防具を外した。その身はほぼすべての守りを失ったに等しかった。

このまま〈死せる勇者の魂〉と二人がかりでユリを叩けば、それで片がつく。不浄衝撃盾も、時間逆行もまだ残っている。自身の勝利は揺るぎない。あの美しいデュラハンが己に屈する様を見るのが楽しみだ。さあて、そうして彼女が考えるのは、その後だ。屈服させたユリの、あのそそるように彫り物のされた美しい身体。どのように堪能しようか。あのまさに牛のように大きなおっぱいをいっぱいいっぱい揉みしだこうか。そこら中を舐め回そうか。己に逆らったのだ。より恥辱を与えてやらねばなるまい。ペロロンチーノにより、死体愛好家のサディストという、見た目に反したような悍ましい設定で生を受けたシャルティアは、アインズの次くらいにユリに目をつけていたのである。が、それゆえ彼女は完全に油断していた。それはシャルティアから見てユリの敗色が濃厚に見えたことと、守護者の悪癖である、格下を舐めてかかる癖から来る、慢心であった。

―――!?

 なにかの殺気を察知し、その場から離れるシャルティア。刹那、巨大ななにかが入れ替わるように振り下ろされ、〈死せる勇者の魂〉を床に叩きつける。

 

「 な、なにが・・・ 」

 

 訳が分からぬ吸血鬼の目に映ったのは、拳を握る金色の巨大な腕。それが〈死せる勇者の魂〉をねじ伏せたのである。まだ消えてはいないようだが、かなり耐久値を削られてしまった。

そして、その腕を辿る形で、シャルティアはそれを目の当たりにすることとなる。

 

「 あ、あれは・・・! 」

 

 一糸纏わず掌を合わせるユリの後ろに、なにかが現れている。モンスターかなにかだと思いかけたが、それらとはまるで違うことを肌で感じる。神々しい金色の、神とよべそうだがそれとも似つかぬなにか。まだ、こんな手を残していたというのか。

別の言葉で表現できそうなそれは、手と手を合わせている。このオツムの弱い吸血鬼にも、これは不味いと肌で感じることができた。そしてなにより目を疑ったのは・・・

 

「 やまいこ様・・・! 」

 

 至高の四十人に、よく似ていたことだ。

ユリの生みの親、やまいこ。そんな彼女が合掌してそこに無数の腕が生えて金色になった、そんな出で立ちをしていた。古く東方の地にて信仰された、千の手と目で衆生を救うとされる、慈悲深き神仏を思わせる。

ユリがこれを身につける事となるきっかけは、啓蒙の杖の光を当てられて、少したった後のことだ。

自身の身に起きた変化から、己の身が汚されたのやもしれないと感じた彼女は、その後ろめたさゆえに、やまいこに合わせる顔がないと感じていた。もうこの身は元に戻りようがない。それはこの時すでにアインズがナーベラルで実証済みであった。そんな中で、アンデッドである筈の彼女は山の麓にいる夢、にしてはえらく現実的で立体的な現象に見舞われるようになる。その中で、彼女はこう考えた。

―――合わせる顔がないのなら、せめて自分を創造してくれたやまいこ様に、感謝の意を捧げよう。

そうして考えた末に導き出したのは、まず殴るという彼女の考え方に基づいた表現方法だった。

この夢の中、彼女の視界の先にそびえる山。それをやまいこに見立て、合掌。一礼の後に突き。これの繰り返し。

そうして、彼女は日に一万回、感謝の正拳突きを至高の御方へ捧げることとなる。

最初は体感10時間くらいであったが、それも慣れとともに6時間程で達するようになっていった。

こうしていつしかユリ・アルファは、この「 神仏 」を顕現させるスキルを身に着けていた。

違う時代の者たちならば、似たような話を知っていて、ユリのこのエピソードを聞いた日には「 血湧く血湧く 」と昂ることだろう。

 

「〈化身観音〉。 」

 

 アヴァターラ・カンノン。モンクやキ・マスターの上位クラス、「 オーラ・モンク 」の専用スキルだ。

自身の気によって、化身たる「 観音 」を形成する。回数制限はなく、持続時間も長い。モンク系職業最高クラスのスキルであるが、YGGDRASILに於いてはあまり使われなかった、マイナースキルだった。

その観音の形状には個人差があり、術者にとってのそれに比較的近しい人物に似る傾向がある。ユリにとってのそれは、間違いなくやまいこなのだ。

 

「 〈救世の拳〉! 」

 

 観音の腕の一つが握られ、シャルティアに降りかかる。〈死せる勇者の魂〉の耐久値を大幅に削る程の一撃。受けるわけにはいかない。

 

「 〈上位転移〉!」

 

 転移魔法によって、後ろに周り、奇襲を狙う。拳は〈死せる勇者の魂〉に命中し、消滅せしめる。そして本物はそのまま刺し掛かろうと槍を構えて接近する。しかし・・・

 

「 愚かな。 」

 

 その手は読んでいたとばかりにユリは後ろを振り向いて祈る。

仏は基本的にユリのバックに固定されるので、彼女が向きを変えれば、仏の向きも変わる。

その為シャルティアは結局、拳を受けることになる。再び地面に叩きつけられた彼女はその身体になにかに焼かれるような痛みを覚えながらも即座に立ち上がり、次なる手を打つこととした。

 

「〈 自己時間加速 〉!」

 

 彼女の強みの一つ。自分以外の時間の流れを遅くする魔法である。ユリの様子をみるに、時間魔法対策はしていないようだ。この中ならば、仏の一撃は躱せる。目前にまだ迫ったシャルティアは魔法を解除する。この状態では彼女は攻撃出来ないため、必然的に時間の流れを戻すこととなるのである。しかし・・・

 

「 がぁぁあッ!! 」

 

 まるでそう来ると気づいていたのか、その瞬間に、仏の両腕によって、側面からプレスされるように押しつぶされる。それから解放されると金色の巨腕の手刀に、地面に叩きつけられる。

〈時間逆行〉によって体力を回復したシャルティアは呆気に取られていた。

 

「 よ、読まれている!? 」

 

「 先ほどの、一番最初のそれを見れば察しがつきますよ。そういう魔法もあるのですね。 」

 

 きっとモモンガ様ならば、対策もなさっているだろう。そう思うユリは尚もシャルティアから目を離さずに、後方にバックして距離を取る。

その豊満な胸がプルンと揺れるものの、そんなことを気にしている場合ではない。一瞬でも気を抜けば、押し切られ、やられかねない。だがしかし、依然彼女の心は酷く落ち着いていた。

そして、そんなリラックスした心持ちでアンデッドは手を合わせ、祈る。

 

「 があぁぁぁぁあ!! 」

 

「 やけっぱちですか。それは悪手でしょう? 」

 

 シャルティアはがむしゃらに突っ込んでいくも、仏の巨腕に殴り飛ばされ、また向かっては叩きつけられ、また向かっては殴られを繰り返す。先の〈救世の拳〉程ではないが、着実にダメージは蓄積していっている。回避しようにも、日に一万もの突きと感謝により、その鋭さをましたユリの速度が反映された仏の連撃はそのタイミングすらも凌駕する。ひたすら殴打の嵐に晒される、真紅の戦乙女。

 

 この戦いを、冷静に分析するものが三人。

こっそりと闘技場の席で座っていた。3分経っても戻ってこないので、ソリュシャンから報告を受けたアインズと、それに付き添うバオー。そして、闘技場が騒がしいと感じ、様子を見に来たアウラだった。

 

「 不味いな。 」

 

「 ええ。 」

 

 モモンガのつぶやきに、バオーは頷く。アウラはいまいちわからないといった様子だ。

 

「 どういうことですか? 」

 

「 あのスキルは、本来そこまで威力の高い技ではないんだ。 」

 

「 手数と持続性が高く評価されていましたがね。火力自体はないわけじゃないが、〈不動明王撃〉なんかと比べれば大したものじゃない。だが・・・ 」

 

「 あの仏の攻撃は、神聖属性の付与された、打撃属性攻撃。アンデッドであるシャルティアには、余りにも通りがよく効いてしまう。 」

 

「 でも、シャルティアですよ。ゴリ押しとかでどうにかするんじゃないですか? 」

 

「 そうか、そうも考えられるが、アウラ。お前が今のユリを相手取るならどう闘う? 」

 

「 私はビーストテイマーですから、フェンやクアドラシル、イーちゃんたちに前で戦って貰って、後ろから弓矢撃ってます。 」

 

「 そう。耐久値の芳しくないものや、後衛職はそう戦うのが理想だ。私だってそうする。だが、シャルティアは距離をとって戦えるが、私ほどMPは多くないし、アウラほど多くのモンスターを使役できない。それにあの分では、魔法を使う隙すら与えられない。必然的に前に出ざるを得なくなるんだ。 」

 

「 なるほど! 」

 

 モモンガの見解は、相性であった。本人の言う通り、神聖属性を苦手とするアンデッドであることも然ることながら、シャルティアは確かに総合最強と呼ばれるくらいに強力な力を持ったNPCであるが、ステータスでみれば、他の守護者のように一つの数値に特化しているわけではない。強いていえば、攻撃力がコキュートスの次くらいに高いくらいだ。要は凄く強い器用貧乏だ。

これがスピード特化のセバスであったならば、〈化身観音〉の攻撃速度の対応できたかもしれないし、アルベドであったならば、その圧倒的な防御力で以て凌ぎきれるだろう。

同じアンデッドであるが、後衛職であり、シャルティア以上に魔法に長けるモモンガならば、スキルで強化された〈第十位階アンデッド召喚〉や〈アンデッド創造〉でレベルの高いアンデッドや、確実に一撃は耐えてくれるデスナイトをけしかけつつ、距離をとって観音のレンジから遠ざかり、そこから攻撃魔法を撃ち込む、という戦法を取るだろう。

しかしシャルティアはモモンガと違い、前衛職よりの魔法戦士。それ故に仏の攻撃範囲から逃れられず、躱しきれず凌ぎきれない。

それ故に、今のユリは名実ともに、彼女の天敵と読んで差し支えなかった。

 

「 確かにそれは、アイツにとって脅威です。しかしそれ以上に・・・ 」

 

 バオーが注視したもの。それはこの対面の相性ではなく、〈化身観音〉を発動させ、反撃も許さぬ、ユリであった。このスキルは術者依存の技であり、ステータスによって、その攻撃力等が決まる。だが彼女の仏は、攻撃速度が速いのだ。それこそ、今シャルティアが対応しきれず、一方的にやられているように。

 

「 バランスタイプが相手とはいえ、あのスピード、余りに異常。ユリ・アルファ。お前は一体どんな鍛錬を積んだ? 」

 

「 それよりも、アインズ様。このままじゃシャルティアが死んじゃう! 」

 

 モモンガより指示が出るまで手は出さぬようにいわれているが、アウラの指摘通り、シャルティアは追い詰められている。その口からは血を吐き、鎧もボロボロでところどころにヒビが入り、立っているのがやっとの状態。本人も、たかだかセクハラでこうなるとは夢にも思わなかったろう。カルマ値が高いユリのことだから殺す気はないだろうが、これ以上放置すれば、またYGGDRASILコインを湯水のごとく費やす羽目になるだろう。

 

「 そうだな。そろそろ止めに入るか。 」

 

「 ようやっとですか。 」

 

「 今のユリがどれだけ戦えるか、それとシャルティアのセクハラに関する折檻も兼ねて静観していたが、もういいだろう。〈上位転移〉! 」

 

 モモンガの姿が消え、二人の間に割って入るように転移する。ユリは驚きながらも、観音を引っ込めた。

 

「 アインズ様。いつからいらしたのですか? 」

 

「 お前が観音を呼び出した辺りからだよ、ユリ。もういいだろう。シャルティアもこれに懲りただろうしな。 」

 

 アインズが現れた瞬間、ユリの静かながらも鬼気迫る気配は薄れ、瀕死のシャルティアも安堵の表情を浮かべている。これをみたバオーは、彼女たちの主君への忠誠心の高さを感じ取る。

 

「 皆に愛されてるんだな、モモンガさん。 」

 

「 あったりまえでしょ。寛大なるアインズ様なんだよ。そしていつか私は・・・ 」

 

「 応援してるよ、キミのこと。 」

 

「 え、えぇ!?そ、そう? 」

 

 アウラは誇らしげに、だが何処か照れくさそうにしていた。

バオーもまた、そんな彼女のモモンガに抱く想いを察して、その人柄も相まってアルベドよりはマシだろうと思った。

 




 次回、ようやっとナーベをだすか、特別編かもしれない。ご期待ください。
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