幻想トリップ   作:ニコラス―NICORUTH―

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 思ってたのと違うが、とにかくできた。
介錯違いなところや、オリジナルのアイテムに何処か思うところがあったのならば、ご勘弁を。


大虐殺の残り香

「 ・・・ベド。起きて、アルベド!! 」

 

「 ハッ!? 」

 

 意識を取り戻したアルベドの視界に映ったのは、眩い暁と、見慣れた金髪に緑と青の異なる瞳、いわゆるオッドアイのダークエルフの双子だ。ボーイッシュな少女アウラが、彼女の顔を見て、笑顔を浮かべていた。その体の節々には傷の跡がある。

その奥には、彼女の弟、姉と対象的に内向的な感じのする少年も、この淫魔の目覚めに気づいたようだ。

 

「 良かった! 」

 

「 アインズ様!アルベド様が目を覚ましました! 」

 

「 ・・・! 」

 

 マーレに呼ばれ、彼女らの主が駆け寄った。黒い法衣を身に纏い、その手に黄金の錫杖を持ったその風貌を一言いえば、「 死の支配者 」だ。

 

「 大事ないな?アルベド。 」

 

 彼こそは、魔導王アインズ・ウール・ゴウンその人である。自身以外のプレイヤー探索に向かわせていたアルベドや捜索隊が襲われた、というより返り討ちに遭ったときき、急いで駆けつけたのである。

 

「 ア、アァインズ様・・・! 」

 

 アルベドは仰向けに倒れた状態から、即座に傅く体勢に移った。愛しき王に恥をかかせたと即座に詫びる。

 

「 どうか、どうか御身の顔に泥を塗るような醜態・・・お許しください! 」

 

「 良い・・・お前たち三人だけで向かわせた私にこそ非がある。お前たちは悪くない、アルベド。 」

 

「 あぁ、アァインズ様・・・♥ 」

 

「 しかしだ・・・ 」

 

 アインズの手には、金具のついた独特な形状の瓶が握られていた。蓋は既に開けられていて、中には赤い液体がほんの僅かながら残っている。

この形状には、見覚えしかなかった。

YGGDRASILにおける回復アイテムだ。

アルベドの近くに捨てられており、間違いなく彼と同じ世界から転移してきたプレイヤーのものだと確信していた。

 

「 何故奴らは、お前たちを生かしたのか?それが気になるところだ。 」

 

「 それなんですよ。私たちが戦った奴らも、みんな回復してくれて・・・ 」

 

「 綺麗な人だったな。あのお姉さん・・・ 」

 

 

 

 その時、アルベドの脳裏には、突如あの男の顔が浮かぶ。逢瀬の邪魔をし、ゴリラゴリラと罵り、自分たちも知り得ぬ魔法で以て彼女を下し、殺すでもなくこうして生き恥を晒させ、あまつさえアインズ様に気まで使わせた、あの魔法詠唱者。

 

「 ああああああ!!! 」

 

「 どうした、アルベド!? 」

 

 アルベドは激怒した。あのニヒルな感じのあの男に。急に怒りだした彼女に、アインズは戸惑いを見せていた。ポーションを口に含まされた時、僅かながらに意識が残っており、彼の名も、しっかり覚えていた。アルベドは地面を殴りつけ、その箇所はおおよそ人間の力では不可能な程に抉れた。この自身の失態。すべてはあの男の仕業。

やつさえいなければ・・・!

 

「 殺しやる。殺しやるわぁ・・・!

紺色のぉ、バオー・ヴェルゥゥゥゥゥウ!! 」

 

 鬼の形相の彼女にアインズもアウラも内心冷や汗をかいていたのだった。

 

( うわぁ、めっちゃ怒ってるよ。でも、三人とも無事で良かった。しかし、バオー・ヴェル。それってたぶんアルベドが戦った相手の名前、だよな。

うーん、何処かで聞いた事があるような・・・ )

 

 YGGDRASILをプレイすること12年。そして、この世界で過ごすこと5年以上。

バオー・ヴェルという名前に心当たりはあるものの、アインズが彼が何者であるかを思い出すのは、もう少し先の話しだ。

 

 

 

 

 

 その頃、トブの大森林より北、アゼルリア山脈の麓。既に他のメンバーと別れたバオーとカッツェも、互いに別の道を進み始めようとしていた。

 

「 ここで別れるか。 」

 

「 お前は何処行くつもりだ。 」

 

「 未定だ。魔導国から遠けりゃ何処にでも。近いのは、バハルス帝国か。 」

 

「 オレはエ・ランテル、基魔導国首都付近に行こうと思ってる。働かんことには、おまんま食ってけんからな。バレさえしなきゃどうとでもなってくれるだろうし。 」

 

 現在の魔導国首都は、冒険者組合が未知の探索を目標とし、未開地の開拓に乗りだしているのだという。前衛職であるカッツェが十分に活躍できる場があるといえるだろうが、勿論魔導王を警戒せねばならないことに変わりない。この先苦難が彼を待ち受けているだろうが、無事に再開できる日が来ることを、バオーは信じている。

 

「 そうか。気をつけろよ、友よ。 」

 

「 お前もな、バオー。 」

 

  バオーは懐からなにかをを取り出した。碧色の石のペンダントのようなそれには、梵字のようななにかの文字が刻まれている。

このアイテムの名は、「 雷の召喚石 」。

サーナの職業「 エルダーサモナー 」と同時期にYGGDRASILに実装されたアイテムであり、この風属性のものとは別に他二つの精霊属性の召喚石が存在しており、カッツェも、炎の召喚石を所持している。その効果は、「 lv40台の特殊なモンスターである召喚獣を呼び出し、使役する 」である。この召喚獣たちは元ネタとなったゲームでの名称が忘れ去られてしまっており、その名を石の所持者が知ったり、思い出したりすることで、真の力を発揮するらしいと、実装当時にまことしやかに囁かれたが、その真相は、誰も知り得なかった。PVPでも、殆ど使わることもなかった為、真偽は謎のままだ。

 

早速召喚石を掲げると、雷の召喚獣はその姿を現す。筋骨隆々な逞しい白い立派な鬣をした黒馬。その額には、稲妻の如くギザギザとした一本の角があった。

バオーは、召喚獣に跨る。

 

「 では、また。 」

 

「 あぁ。 」

 

 召喚獣は嘶き、大地を力強く蹴って駆け出し、その場を後にした。

 

「 さて、と。オレも行くとするか。 」

 

 カッツェもそういって、懐から炎の召喚石を取り出す。本来ならば彼も、〈 飛行 〉が使えるものの、トブの大森林近く、それも宰相含めた魔導国の戦力と交戦した後ということもあって飛んでいったらあちらにバレる危険性があるので、こうして地上から移動する他ないわけであり、召喚石を頼ることとした訳である。

炎の召喚獣が姿を現す。橙色の鬣をした、悪魔然とした獣のような出で立ちである。同じくカッツェを背に乗せると、バオーとは反対の方向に走り出した。この召喚獣の名はかなり有名であったものの、やはり今となっては覚えているものは少ない。

 YGGDRASILの制作スタッフは、このモンスターたちの大元、FFと呼ばれるゲームに目をつけ、ゲームに取り入れようとした際に、資料が殆ど残っていなかったのだという。それくらいに廃れきり、忘れ去られた召喚獣たちは、今こうして未知なる地に呼ばれ、大地を駆けている。

 もとはゲームのモンスター故、彼らに自我があるのか否かは定かでないが、バオーやカッツェが彼らを駆るその様は、勇ましく、そして何処か喜びを覚えているようだった。

忘却と微睡みの淵、夢より目覚めた召喚獣たちも、この未知を楽しんでいるのかもしれない。

 

 

 

 主なき廃城ブリュスタ。

YGGDRASILサービス開始当初より存在したこの城はトブの大森林のような森の中に佇み、それ故殆どのプレイヤーに気付かれることはなかった。幻想トリップの面々が拠点として構え、宝物をこの城に収める事としたことで、そのステルス性能が大いに活きる事となり、更にギルドメンバーの一人、アリスティのゴーレムや、サーナの従えた魔獣による警備、バオーの仕掛けた地雷原もあって、異常があれば直ぐにメンバーの知る所となり、速攻で対処される。

守護者や戦闘メイドのようなNPCがいない分ナザリック地下大墳墓よりもセキュリティ面は遥かに劣るが、なにより立地に恵まれたという、アドバンテージがこの城の最大の強みであった。

それ故大森林の大半を傘下に置いた魔導国がブリュスタの存在を知ったのも、つい最近のことである。

 

「 あ、あぁ・・・ 」

 

 その城の中に、おおよそ人間ではないと一目でわかる男が一人。黄色い軍服に身を包んだ、埴輪のような顔をしている。

 

「 そ、そんな・・・ 」

 

 彼の名はパンドラズ・アクター。ナザリック地下大墳墓の宝物殿の番をしていた二重の影でアインズが自ら手がけた存在だ。元来そのフェチがあるように創られた彼だが長い事宝物殿にいた事でマジックアイテムにより造詣が深くなり、しばらく触っていたければ禁断症状が出るまでに至っていた。

そんな彼でも魔導国が人間種の市民からの信頼を得る為に、重要な役回りを担っているのだから、世の中分からないものである。

さて、そんなパンドラズ・アクターであるが、彼は今、宝物庫に足を運んでいた。しかし・・・

 

「 ンナァァァァァァァアイッッッ!! 」 

 

 彼の望んだ光景はそこになかった。宝物庫の中のものは多くが持ち去られていた。

 

「 そんな、そんなバナナ!?何一つとして残っていない。ポーション一瓶すら見当たらないなんて・・・ 」

 

 パンドラはショックのあまり、残された金貨の山を掻き分け始めた。

 

「 んマジックアイテムゥ!何処に行ってしまったんだぁ!?お前たちとの邂逅を・・・心待ちにしていたというのにィィィィイ!? 」

 

 こんなパンドラの奇行に引き気味になっている少女がもう一人。

 

「 もう少し落ち着いてくんなまんし。曲がりなりにもアインズ様に創られた存在だという自覚を持ってほしいでありんす。 」

 

 赤と紫の育ちの良さそうな衣服を纏った銀髪の少女。そんな出で立ちであるが、その白い肌の下には、悍ましい残虐性を孕んでいる。

シャルティア・ブラッドフォールン。種族トゥルーヴァンパイア。ナザリック地下大墳墓第一から三階層守護者だ。アインズやパンドラに同行する形でこの廃城にやってきたものの、彼女にとってめぼしいものなどなかった。久方ぶりに自分の力を存分に振るえると思っていた彼女であったが、その機会はなかったようだ。

 

「〈伝言〉 」

 

 吸血鬼の少女は、魔法の入った、スクロールを取り出し、使用する。羊皮紙、といっても使われているのは羊の皮ではないが、それは青い炎に焼かれ燃え尽き、魔法が発動する。

 

「 アインズ様。 」

 

『 シャルティアか。内部はどうだ? 』

 

 シャルティアの頭の中に、城の外にいるはずのアインズの声が響く。スクロールで唱えたのは、

〈伝言〉。遠く離れた相手とも通信が取れる魔法だ。

 

「 もぬけの殻でありんす。残ってるのはYGGDRASILコインだけ。これは逃げられたでありんすねぇ。 」

 

『 そうか・・・ 』

 

 アインズの声色は、何処か落胆しているようであった。シャルティアもそんな主人の心持ちが不安になっている。以前、敵に精神支配を受け、彼に刃を向けたという醜態が、未だに彼女の心に決して浅からぬ傷を残しているのだ。記憶にはないが、あの時の教訓故に決してアインズ様の機嫌を損ねるような事があってはならないと心に決めていたシャルティアは、

パンドラズ・アクターが必死に金貨を掻き分け、マジックアイテムを探しているのを見て、自分も何かないものかと宝物庫の中を見回し始めた。

やはり残された宝は持ちきれなかったであろう金貨だけ。これだけのYGGDRASILコインだけでも十分成果はあるが、もう一つくらい欲しいものである。

すると、

 

「 あれは? 」

 

 金色の中に、光沢のない赤黒い何かが混じっている。シャルティアはそれを拾ってみる。

 

『 どうした、シャルティア? 』

 

「 コインの中に、変なものが混じってたでありんす。なにかの、本?でありんしょうか。デミウルゴス辺りが好きそうでありんすえ。 」

 

 その本は、まるで生きてるような、不気味な雰囲気を醸し出していた。

赤く充血した目と、口が斜めについている。

そして、シャルティアが本を開けてみると、

 

「 ヒィエヘヘヘヘヘヘヘ!! 」

 

 と、不気味に笑う声が聴こえ、宝物庫一帯を眩い光が包み込む。

 

「 んな、ん何事!? 」

 

「 分からないでありんす!アインズ様・・・アインズ様!? 」

 

 アインズは応えない。〈 伝言 〉が切れてしまったようだ。やがて光が止むと、シャルティアとパンドラの眼の前には、さっきまでと違った風景が広がっていた。

 

「 邪教のべへリス。ワールドアイテムだ。カッツェ、これはお前に。 」

 

 見知らぬ紺色のローブの男が、大剣を担いだ犬耳の男に気色悪いネックレスを手渡している。

あの耳は、シャルティアにも覚えがあった。

戦闘メイドプレアデスの一人、ルプスレギナだ。

ということは彼女と同じ、ワーウルフなのだろう。

 

「 おう。多分使わんと思うが。 」

 

「 お友だちが欲しくなったときに。たぶんそれもないと思うけどね。世界のるつぼはオレが持っとく。 」

 

「 じゃあ私はこれね。 」

 

 シャルティアの後ろから、竜人の女が、彼女をすり抜けて、歩いてきた。

 

「 これは、もしや・・・! 」

 

 この時、シャルティアは悟った。思わぬ収穫を得たと。今目に見えているこの光景は、昨夜のこの宝物庫での出来事。アルベドやちびすけどもがこの城に来た時の、ここに住んでいた連中の行動そのものが、目の前に映っているのだ。

 

 

 

 カッツェ平野。アゼルリア山脈より東に位置する野良アンデッドの徘徊する地。一応魔導国の領地であるが、彼らにはあまり利益の無い場所だ。燦々と輝く太陽は、そのような誰にも見放されたような地すらも、眩く照らしている。

中々に立派な角のその馬、雷の召喚獣は、その荒れ果てた大地を走る。周囲には、歩く人骨ことスケルトンの群れ。そのどれもが茶色い革と金属の鎧や兜を纏っている。その統一感のある身なりをみたバオーは察した。

――――このスケルトンたちは、大虐殺で死んだ者たちの成れの果てであると。

嘗て、この地は、魔導国とバハルス帝国の連合軍と王国軍の戦いの場、いや戦いにすらならない一方的な殺戮の現場となった。帝国軍はなにもせず、否なにも出来ず、魔導王の「 黒き豊穣への貢 」だけで馬鹿にならない数の人間が死んだ。リエスティーゼ王国は貴族たちと王族派閥との対立や犯罪組織による、腐敗や堕落により、国力は弱っており、当時の兵たちもその多くは農民であったのだという。

この彷徨うスケルトンたちも、もとは畑を耕し、平穏に暮らしていたろうに。

この無慈悲な結末に、少しばかり花を添える代わりに彼らに安らぎを与えるべく介錯してやりたくなるバオーだが、はたしてこんな骨どもにそんなことをしてなんになるのだとも思えてしまっていた。

そう思った根拠は、彼らの死因だ。

彼らは農民。故に貴族や王族に逆らえず、止むを得ず戦場に駆り出された。故にそうさせたのは彼らロイヤル共である。そして彼らは止むなくアインズ・ウール・ゴウンの曰く至高なる力に、超位階魔法の前に悉く滅ぼされ尽くした。家族が家で生還を望んでいたものだっていただろう。恋人を待たせて、必ず生きて帰ろうと誓ったものもいただろう。

しかし、そうはならなかった。なぜか。

弱いからだ。人間が。

人間が人間である限り、強さのヒエラルキーの下位に位置するのは、当然。

スレイン法国すら滅んでしまった今となっては、人間は、ただの弱者、虫以下なのだ。

弱者とは、ただ贄となる他ない存在だ。あの骨どもは、魔導王の生贄となったそれだけだ。そんな連中に何故自分が慈悲を掛けねばならない?

もはや物言わぬ、無関係な、虫けら同然の骨どもに。

・・・待て。オレは今何を考えていた。

 

「 あぁ、糞! 」

 

 とにかく今は、目的地である帝国に向かわなくては。そんな彼の心中を察してくれたのか、召喚獣は、脚を急がせ、スピードを速めてくれた。

スケルトンたちを次々に追い抜いていく。

ある意味では、自分は逃げているのかもしれない。

今の、二重の影になった自分自身から。ただひたすら、今の自分から目を背けたいのかもしれない。確かに今、自分は彼らを「 弱いから死んだ 」と心に思ってしまった。それはある意味、人間性の否定である。少なくとも彼らは戦いたくて、死にたくて戦場にでたのではないのだ。もはや自分が何という名前だったのか、バオーは思い出せない。しかし、自身は人間だったことをはっきりと覚えてる。

 

 覚えているからこそ、このスケルトンたちに対して、何かしてやらねばと思うのだろう。気づけば召喚獣は、天に昇って、スケルトンたちを見下ろせる位置にいた。流石に18万とはいかないが、それなりの数である。ざっと500体ほどか。よくみたら、骨の龍までいるではないか。第六位階までの魔法を無力化する、デスナイト程ではないが、面倒な相手だ。しかし、あんなにデカいのに気付かないとは。しかし、二体。

この人数ならば、どうにかなるだろう。

彼は、異形の身ながら、心のなかで天に祈る。

――――願わくば、彼らに安らぎと救いあらんことを。

 

「〈 三重最強化魔法 〉・・・」

 

 生命の象徴たる、太陽を背に、二重の影は手と手を合わせて広げ、雷を腕に迸らせる。スケルトンたちはそれを見上げていた。もはや目など無いのに。自分たちを終わらせてくれるバオーが、天の使いか何かに見えたのか。

この哀れな死者たちがなにを想うのか、この男は知りえない。

 

「 〈 連鎖する龍雷 〉! 」

 

 連鎖する龍雷。第七位階魔法だ。それ故骨の龍にも問題なく通用する。最強化したことで威力は最大まで高められ、〈 三重魔法 〉を併用したことで一度に三発分の威力となる。

青き雷光は、スケルトンの、骨の龍の群れを一体残らず打ち砕いていく。雷の過ぎ去った後には、その場には、もはや動くことのない骨たちが散漫していた。

 

「 やはり骨は、動かないに限るな。・・・安らかに眠れ。 」

 

 バオーは召喚獣を駆り、進路を正して走らせ始めた。

 

 

 一方、バハルス帝国。

 

「 陛下、そんなに悩んでいると、お身体に障りますぜ。 」

 

「 わかっておる! 」

 

 現皇帝、ジルクニフ・ルーンファーロード・エル=ニクスは頭を抱えていた。帝国が魔導国の軍門に下り、かなりの年月が経つ。がしかし依然、彼は魔導王を恐れていた。

事の始まりは、ワーカー集団に依頼をだして、彼の本拠たるナザリック地下大墳墓に手を出したのが始まりだった。それをきっかけに魔導王と知り合い、その脅威を世に知らしめ、連合を組むべく同盟を結びリエスティーゼ王国との戦争に臨むが・・・

 

「 黒き豊穣の貢・・・イアシュブ・ニグラス!! 」

 

「 絶望の、始まりだ! 」

 

「 喝采せよ。我が至高なる力に、喝采せよ!! 」

 

 その力は、ジルクニフの想定を大きく超えていた。王国兵士はあっという間に全滅。英雄ガゼフ・ストロノーフも魔導王に一太刀も浴びせる事なく死亡。あんな化け物に、辺境の国と手を組んだだけで、どうにかなるわけがない。しかも、お抱えの魔法詠唱者、フールーダも自身を裏切り、魔導国側についていると来たのだからたまったもんじゃない。その為同じくアインズを危険視したスレイン法国と手を結ぼうとしたが、

 

「 ジルクニフ・ルーンファーロード・エル=ニクス殿。 」

 

 急に決まった闘技場の試合で、彼は最強の剣闘士武王を打ち倒し、自身の前に、挨拶に現れた。その白い骸骨の中に光る赤い瞳は、ジルクニフの目論見を見通しているかのようであった。

 

「 久しぶりだな。 」

 

 これにより、彼は法国の後ろ盾を得ることができなくなり、止むなく帝国を、魔導国の属国とせざるを得なかった。

そして、そのスレイン法国も、つい最近、滅ぼされたのだ。

魔導王アインズ・ウール・ゴウンとその配下の者たちによって。

今でもジルクニフは、アインズを恐れている。その強大な力が、自分たちに向けられる日を、震えながら待っているようでもある。

魔導王の力に戦慄しながらも、なんとか気丈に振る舞う皇帝の身を、四騎士、いや一人抜けて三騎士の二人、バジウッド・ペシュメル、ならびにニンブル・アーク・デイル・アノックは案じていた。

 

「 陛下、この頃あんな調子ですね。 」

 

「 無理もないぜ。オレだって魔導王が怖い。オレが陛下だったらどこへなりとでも逃げちまいそうだ。」

 

「 それでも、ああやって玉座に座り、民衆を導いてくださっている。本当に、お強いお方だ。 」

 

「 やめよアノック。私は強くなどない。アレをみてしまっては・・・ 」

 

 やはりジルクニフには、忘れがたかった。カッツェ平野を蹂躙する、魔導王の魔法。バタバタと倒れる敵兵。その死より生まれた異形、「 黒子山羊 」たち。それらが兵士たちをアリのように踏み潰していく。その光景に耐えられず、我が先に逃げ出す自軍兵士たち。

鮮血帝と呼ばれたジルクニフにも、どうしょうもないものがこの世にあるのだと、思い知らされた瞬間だった。更に彼に追い打ちを掛けるが如く、ある事実を、友人となったクアゴアの長、ペ・リユロから聞かされることとなる。

 

「 オス4000、メス4000、子供2000になるように殺し合いなんし。 」

 

 ある日、魔導国の使者を名乗る翼の生えた赤い鎧の少女が、彼にそういって降伏するように要求した。当然、リユロはこれに納得できず、少女に手勢を率いて襲いかかった。しかし、相手が悪すぎた。

少女の振るう槍は無情にもクアゴアたちを切り裂いゆく。その凄惨な光景に、リユロはこう漏らしたそうだ。

 

「 なんなんだ。なんなんだよ、魔導国って。 」

 

「 どうして、どうして教えてくれなかったんだ! 」

 

 これにより、リユロは止むなく要求を呑み、同じく傘下に下る事となる。後で分かった事だが、その少女の正体とは、ジルクニフが以前、ナザリックに赴いた際にいた、銀髪の少女であったのだという。一見強そうに見えなかった為、バジウッドは魔導王の寵姫だと思っていたようだが、やはり彼女も、強者であったのだ。

ジルクニフやペ・リユロは知る由もないが、彼女、シャルティア・ブラッドフォールンはナザリックの守護者の中でも随一の兵であり、対策を練りまくらなければ、アインズですら、負けかねない相手である。それが使者としてきたのは、リユロにとって、最大の不幸であったと言えるだろう。

リユロの絶望に染まった表情を思い出したジルクニフは、改めて思い知らされる。

 

―――――最早、あの男には勝てないのだと。

 

 更に更に、そんな絶望の淵に沈む皇帝陛下に、災いが降りかかる。

 

「 陛下! 」

 

 甲冑を着た騎士の一人が、ジルクニフの下へ大慌てで駆けてきて、傅く。この急ぎよう、何かがあったらしいことは、彼にも、そして三騎士たちにも察する事ができた。

 

「 どうした、申してみよ! 」

 

「 カッツェ平野より、山の如き巨大なアンデッドが出現!帝国に向かってきているとのことです!その姿は、あの、黒仔山羊のようだと! 」

 

「 なんだと!? 」

 

 ジルクニフには、それが魔導王、というより、彼によって葬られた王国の兵たちの怨念であるように思えた。

 

 

 

 カッツェ平野バハルス帝国近郊。この世のものとは思えぬような異形が、帝国目掛けて接近していた。

 

「 なんだ、アレは!? 」

 

 既にそのアンデッドの詳細を確認すべく出撃していた斥候部隊は、呆気に取られている。

おびただしい量の、骨。人骨が塔のように積み重なり、その身体には、大きな口が発現していた。

 

「 同じだ。あの時と。 」

 

 嘗ての大虐殺を知る者たちには、あの悪夢が甦るかのようであった。その巨大アンデッドのその姿は、あの黒き豊穣の貢の黒仔山羊を彷彿とさせた。

メェェェエとヤギのような鳴き声まで再現されている。兵士たちは、震えが止まらなかった。

 

「 な、何故あんなものが急に!これまであんなアンデッドはでなかったろう!! 」

 

「 まさか、魔導王陛下が、我々を用済みと・・・ 」

 

「 いや、魔導王はこんなことはしない。 」

 

「 ・・・! 」

 

 兵士の一人の一言を否定したのは、紺色のローブの男だ。

 

「 魔導王はわざわざ帝国を滅ぼすのにあんなものを作らない。それこそデスナイトや魂喰らいで事足りるからな。よほどのことがない限りは、スレイン法国のようにはならん。 」

 

「 あ、貴方は一体・・・ 」

 

「 旅のものだ。別に覚える必要はない。

・・・さて。アイツをこのままにしてたら、帝国はめちゃくちゃ、それこそ魔導国が来ちまう。その前に、片付けるか。 」

 

 男、もといバオーは戦う為の下準備として、補助魔法を唱え始めた。大前提とするのは、「 相手はおそらく、というかほぼ確実に魔法を使わない 」こと。アンデッドの中で、魔法を使用するのは、リッチや、ヴァンパイア、それこそ死の支配者くらいなものであるからだ。

その為、魔法耐性系の補助魔法は除外したラインナップとなる。

 

〈光輝緑の体〉

 

〈上位全能力強化〉

 

〈不屈〉

 

〈上位硬化〉

 

〈飛行〉

 

〈鎧強化〉

 

〈生命の精髄〉

 

 かの魔導王ほど多くは覚えていない為、付与できる強化は限られるが、バオーはこれだけあれば十分だと確信する。

更に異次元の穴に手を突っ込み、手持ちのアイテムの中から、有効な武器を取り出す。

 

「 アンデッドは打撃に弱い。コイツは効いてくれる筈だ。 」

 

 取っ手の小さい槌。これはYGGDRASILで愛用していた、神話級武器。その名も「 万雷神の槌 」。

北欧神話の雷神、ソーの得物から着想を得た武器であり、魔法を行使する際の媒介、つまり杖の代わりとしても扱え、雷属性魔法を強化してくれる。思えば、何故これを宰相アルベドとの戦いで出さなかったのだろうと甚だ疑問に思うが、今はそんなことどうだっていい。

 

「 さて、いくか。 」

 

〈上位転移〉

 

〈転移〉の上位魔法。テレポートを確実に成功させる。バオーは巨大アンデッドの上空に瞬時に移動し、早速攻撃を加えた。

 

〈 万雷の撃滅 〉

 

 第九位階攻撃魔法。雷属性魔法の中でも、開発途中のアレを除けば、最高クラスの威力を誇る。

太く青白い雷光は、巨大な骨の身体を貫いて見せた。〈生命の精髄〉を使った事で相手の体力値が分かるようになっているバオーだが、さっきの一撃で既にアンデッドが瀕死になっているのを見て、拍子抜けしてしまう。

 

「 なぁんだ、思ったよりも弱いじゃないか。 」

 

 これでは補助魔法を使った意味がまるでない。MPの無駄遣い、とんだ見かけ倒しだ。

とはいえ、せっかくの機会なのだ。

後腐れなくこのアンデッドを供養する為にも、アルベドにも放ったあの魔法を試そう。これは未だに威力にムラがあり、かつ両腕を使わねばならず、現段階では二重三重魔法を使えない、更にチャージにも時間がかかると問題点だらけであるが、今はとにかくデータが欲しいのもあって、使うことにした。

万雷神の槌を天にトスし、自由になった両腕に魔力を充填させる。

アンデッドはそれを見て、悍ましい嘶き声をあげる。雷の龍が自身を守る中、バオーは先のスケルトンたちと同様大虐殺の被害者たちであろう屍の塊を哀れみの感情を向ける。

( 今、楽にしてやる・・・! )

 

 人想いに葬ってやること。それが何よりの慈悲であろう。

そして、放たれる現状彼だけの第十位階魔法。

 

〈 雷霊龍神 〉

 

 雷の龍は、バオーの両腕が振り下ろされ、前に万雷神の槌が来たタイミングで放たれる。これにより、万雷神の槌の恩恵を受け、最強化魔法を使用していないにも関わらず、それよりも一段階下くらいにまで強化される。

紺色の龍はアンデッドを飲み込み、包みこんでその骨一つ残さず焦がし尽くすと、そのまま消えていった。

 

 

「 あ、あぁ・・・ 」

 

 騎士たちと共に現地に到着したジルクニフは圧倒されていた。あの巨躯を容易く粉砕した凄まじい程の威力に。あれほどの魔法は一体誰が。少なくともフールーダではない。彼は唯一、人間種で第六位階まで至っているが、あそこまでの規模のものは使えない。寧ろ本人はあれを見て歓喜する側だ。

ジルクニフは前に先にでていた斥候部隊の者たちが自分と同じく開いた口がふさがらなくなっているのを見て、問い詰めた。

 

「 か、彼です。あの魔法詠唱者。 」

 

 斥候部隊の一人が、紺色の衣の男に指さす。

なるほど。確かに余人とは違う雰囲気だ。

しかし、あれほど巨大なスケルトンを一瞬で倒すとは。魔導王の使いかと思ったが、おそらく違う。そして、それに比肩し得る存在だとジルクニフは感じ取る。

 

「 使える・・・アレは使えるぞ! 」

 

 彼の目に、希望が戻ったようであった。




 次回、ジルクニフ、多相の化け物と友達になる。の段。
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