幻想トリップ   作:ニコラス―NICORUTH―

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 今回短めかつ、戦闘シーンなしでございます。どうかご容赦を。


皇帝と二重の影

 巨大アンデッド討伐後、ジルクニフはこの化け物を退治してみせた魔法詠唱者を、自身の城に招いていた。紺衣の魔法詠唱者は、皇帝の御前ということもあり、行儀よく傅いている。

 

「 大義であった、旅のもの。皇帝ジルクニフ・ルーンファーロード・エル=ニクスである。 」

 

「 お初にお目にかかります、陛下。旅の魔法詠唱者、バオー・ヴェルと申します。 」

 

 バオーは頭を垂れた。荒廃した世界を生きた彼であるが、皇族に下々民たる自分がどのように接すればいいのか、ある程度の理解はできていた。小学校でも、歴史の授業はやってたし、好きだったのだ。

 

「 して、如何にしてアレとやり合うことになったのだ? 」

 

「 冒険者組合にて、カッツェ平原のアンデッド討伐、というより頭数を減らしてほしいという要望を受けまして。その帰りにあの骨仔山羊と出くわした所存にございます。 」

 

「 なにゆえ、この地を選んだのだ? 」

 

 ジルクニフは、バオー程の実力者が今の帝国に来たのを訝しんでいた。

というのも、今の帝国には、ほぼ何もないからである。見た目からして魔法学園に通うような年齢に見えない。冒険者組合に所属したいといっても、その旨味も殆どない。魔導王が武王との試合の後に、多くの冒険者を引き抜いてしまい、組合は今や虫の息だからだ。対して魔導国は冒険者への手当てが充実しており、あのアンデッドを倒せる程の実力があるのなら仕事も取りやすい筈。警備のデスナイトに刃を向けさえしなければ、安全な国だ。にも関わらず帝国に足を運んだには、それなりの事情があるに違いないと睨んでいた。

 

「 ・・・ついこの間まで、私は仲間たちと静かに暮らしていました。骨仔山羊に放った魔法も、その時に私編み出したものです。 」

 

「 そのお前の仲間とやらは、みなお前と同じくらい強いのか? 」

 

「 陛下には信じ難い話かもしれませんが、仲間は皆、私と同じくらい、いやそれ以上に強い者たちだっていました。 」

 

 信じ難いというバオーの話しを、ジルクニフは眉唾物などと思えなかった。既に規格外の存在を目の当たりにして、ここ最近それに怯えて過ごしているのだから。

 

「 仲間の数は? 」

 

「 ざっと十数人かそれ以下程ですが、中には魔導王に後れを取らぬものだっています。しかし・・・ 」

 

「 恐れたのだな。奴の軍勢を。 」

 

 バオーは静かに首を縦に振った。

 

「 決定打はやはり、スレイン法国の滅亡です。その後の魔導国は発展目覚ましく、私たちがいつ狙われてもおかしくない状態でした。そうして、私たちは散り散りになることとなったのです。最も親しい友は、日銭の為に魔導国に行きましたが。

同時にそれは、彼が獅子身中の虫になるのと同義でもありました。 」

 

 バオーの脳裏には、数日前に別れた仲間のことが過る。

 

「 私は、それについて行く気にはなれなかったのです。私たちの住んでいた城は、魔導国軍に襲われ、その時私は、宰相と戦いましたから。 」

 

「 なんと・・・! 」

 

 ジルクニフは驚いた。魔導国で宰相が、この目の前のフールーダを超える程の魔法詠唱者と戦ったのである。公の場では淑女然とした彼女も、やはり猛者であったわけだ。しかし、宰相まで動員するとは、魔導王にとって、よほど重要な事柄であったに違いない。

どのような事情があれ彼女に刃を向けたならば、魔導国では過ごしづらいのは確かだ。彼の存在を、魔導王は放ってはおかないだろう。しかし現在、帝国は魔導国の属国。彼を匿った場合のデメリットが大きすぎるのは明白だった。しかし、そんな懸念は彼も見越していたのだろう。

 

「 誤魔化し位は利きます。ご覧ください。 」

 

 そういうと、彼の姿が、変化していく。その黒髪は長く伸び、側頭部から二本の角が、頭蓋に巻き付くかのように生え、背からは黒いカラスのような、翼が生える。

 

「 こ、これは・・・! 」

 

 バオーの姿はすっかり変わっていた。男の姿から、長身の女の姿に。ジルクニフにも、その容姿は見覚えがあった。ナザリックでみた、魔導王の側に控えていた側近であろう淫魔。

先ほど彼が、話題にだしていた女だ。

 

「 このように、私は一目見た他者の似姿を取ることができます。私共のような者たちを、ドッペルゲンガーと、人は呼ぶのです。これならば、魔導国の目も誤魔化せましょう。ただ一人を除いては。 」

 

 アルベドに化け、彼女の声でバオーは話す。それを見て、ジルクニフも納得できた。

確かに大勢の者は、これでだまくらかせるだろうが、魔導王には、それは通用しない。恐ろしく説得力があった。

だが、ジルクニフはこのバオーの能力を使えると判断した。

 

「 陛下、どうか私を、この国に住まわせていただけないでしょうか。表立って貴方の下僕として仕えるわけにはいきませんが、貴方の友人という形で、力になれるかもしれない。友人としてならば、魔導王にことの次第がバレかけても、隠蔽はいくらでも利きましょう。 」

 

 なるほど考えたものだとジルクニフは感心した。確かにこのものの力ならば、魔導国そのものは難しくとも、辺境諸国を調べさせることは出来るかもしれない。現状各国がどうなっているのか、より詳しく把握しておけば、上手く立ち回れる可能性がある。バオーを利用してやろうと思っていた彼にとっても、悪くない話だ。

しかし、友人か。父や祖父の意思を継ぎ、父を殺した母を殺したジルクニフにとって、ペ・リユロの次に出来た友人がこの変幻自在の多相の男というのも、奇妙な話しだ。だが、あの死の支配者よりは威圧感がなく、接しやすかろう。そ

 

「 ・・・よかろう。お前のこの国での居住を許す。バオー・ヴェルよ。 」

 

「 ありがたき幸せ。 」

 

 バオーは、アルベドの姿からいつもの姿に戻り平伏したのだった。

 

「 それで、一つ良いか? 」

 

「 なんでしょう、陛下? 」

 

「 お前の本当の顔は、その顔でよいのか?もし違うのならば、どうなっている。 」

 

「 あぁ、それでしたら・・・ 」

 

 バオーは今度は顔だけを変化させた。パンドラズ・アクターを見れば分かるように異形種であるドッペルゲンガーは素顔はそのまま人間というわけではない。それとは別に、本来の顔がある。

パンドラの場合は、あの鼻のない埴輪のような顔。

そして、バオー・ヴェルは・・・

 

「 おぉ・・・! 」

 

 顔がなかった。正確にいえば、髪形はそのままに顔面に目や口がついていない、「 黒い のっぺらぼう 」である。

顔一面に、黒い墨をぶっかけ塗ったような、そんな色合いだ。

 

「 これが、私本来の顔です。これでも目は良く視えますし、食事もとれますので、あしからず。 」

 

 ジルクニフは戦慄しつつも、受け入れた。いや、受け入れざるを得なかった。自身には、人知を超えた、心強い味方ができたのだと。

さて、早速この友の力を借りねばならぬようなものが一つあった。

 

「 お前に頼みたい事があるがいいか? 」

 

「 なんなりとどうぞ。 」

 

「 闘技場を立て直したいのだ。 」

 

「 闘技場、にございますか? 」

 

「 そうだ。 」

 

 ジルクニフに曰く、今現在の帝国経済は以前に比べて衰退し始めているらしい。

大虐殺によって、騎士たちの多くが辞めてしまい、武王と魔導王の試合によって、冒険者たちも魔導国に鞘を変え、農夫も主にスケルトンたちによって、暇を持て余している。作物は採れどもレンタル料があるので、そこまで利益は見込めない。

そうして暇な農民たちは剣闘士として闘技場にでる事となるのだが、如何せん武王ことゴ・ギン程の逸材がそこらかしこにいる訳がなく、こちらの収益も芳しくない。

その為、ジルクニフは外部から腕のたつ戦士を誘致したいとバオーを頼ることとしたいのだという。

 

「 お任せください陛下。一流の勇士を集めてご覧にいれます。 」

 

 バオーは不敵な笑みを浮かべた。

 

 その晩、バオーは充てがわれた空き家の部屋にて支度を始めた。明日にも出立し、闘技場の人員を探しにいかねばならないからである。行き先もかなり難儀している。トブの大森林はついこないだ宰相を瀕死に追いやったせいで今は通りづらい。山脈のドラゴンたちも魔導王の管轄。何処かに別の種のドラゴンがいれば見栄えもよくて良いのだろうが、そうは問屋は卸してはくれまい。こうして考え抜いた結果は、アベリオン丘崚、引いてはギルドの仲間であったゴーレムクラフト、アリスティのいるローブル聖王国である。

魔皇ヤルダバオトの率いた亜人連合軍は、魔導王によって10万もの犠牲をだしたが、中には生き残りがいるやもしれない。

それにアリスティも、手製のオートマタやゴーレムの性能を試したがるだろう。彼女はそんな奴だ。

流石にパワードスーツは持ち込めなさそうだが。

そんなわけで、聖王国方面を目指してみることとなったわけである。それで現在、今ある武器やマジックアイテムを確認しているところだ。

 

「 頼みになるのは、やはりコイツか。 」

 

 バオーは手に握る雷の召喚石を見つめている。YGGDRASIL時代、500円ガチャを回して得たアイテムであるが、まさかこんなところで使うことになるのは思いも寄らなかった。ひょっとしたら、眉唾物の噂程度であった召喚獣の本当の名前も、旅のうちに分かるかもしれない。そうなったらコイツはどうなるか、来るかどうかもわからないが、その時がとても楽しみだ。

こういう未知を探して発見しようとする。懐かしい感覚を覚えている。

 他の持ち物にも目を向ける。自身のメイン武器である万雷神の槌をはじめとした幾つかの武器、ワールドアイテム「 世界のるつぼ 」、ポーションに蘇生アイテム幾つか。どれも廃城から掻き集めてきたものだ。

そして、召喚石を一度置き、音叉のようなアイテムを手にとってみる。

先端に発光体を収めたそれは、YGGDRASILではユニークなアイテムの一つとして数えられていた。

その手のものが好きなものには堪らぬ一品であるらしいのだ。

「 オリオンレンス 」。このアイテムの名前だ。使用すると、3分だけの間、自身の持つ耐性、体質を変化させる。

炎、聖属性の必殺技まであるオマケ付きだ。

魔導国には、アンデッドや悪魔が多い。旅の途中で彼らに出くわし戦うこととなった際には、選択肢の一つとして挙げられるだろう。

 その時、ふと夜風に当たりたくなった。この世界に来てからというもの、よくそんな気を起こすのが多くなったのを実感することがある。

元々、自分は夜が好きだったのだろう。旅に出れば、夜間はモンスターが活発化し、面倒事の連続となるだろうことを見越し、今日は風を浴びに行こう。

こうしてアイテムを一度片付け、バオーは外に出ることとした。

 

 

 夜のバハルス帝国首都。昼間は人がごった返して騒々しいが、この漆黒の闇の帷が降りている今は、恐ろしく静かで、心に落ち着きを齎してくれる。

バオーはそんな夜の闇の中を歩いている。街の建物はどれも暗闇の中に溶け込んでいて、光源といえば青白く照らす月の他に、多少灯りがみえるくらい。

彼個人としてはこういう静かなところが好ましかった。それゆえに、口笛を吹いていた。

サーナが「 陽竜業炎 」を放つ際に歌っていた、あの唄だ。

その昔、おおよそ100年以上もの昔、「 FF 」なるゲームで使用されていたものらしい。

このゲームシリーズはかなりの大作RPGであったらしいが、国家の崩壊や、企業による自治が確立した昨今において、その名は忘れさられてしまっていた。そんな化石にも等しくなった作品を、断片的ながら蘇らせたのは、紛うことなき偉業である。

サーナの言葉を借りれば、「 YGGDRASILの賜物 」か。

今でもこの唄の出典元の作品が如何なるゲームであったのかは定かでないが、

それでもバオーには、この唄を作ったものの気持ちや心、はっきりとは分からないが、そんなものがうっすらと感じ取れるようだった。不思議で切ない、だが聖歌のような神聖さを感じさせる、そんな唄にも聴こえていた。人間から二重の影になってしまったわが身であるが、時が経てば、今のこの感性も、失われてしまうのだろうか。

嘗ての、大作たちのように。

何処まで歩いたか、農場にでたようだ。

日夜問わずに、スケルトンたちが畑を耕している。なんともまぁ、勤勉なものだと感心する反面、夜中に見ると、ゾクッともしてしまう。

やはりそこはアンデッドなのだろう。

しかしながら、昼間にカッツェ平原でみたスケルトンたちに比べれば、悲壮感を感じられない。寧ろ逆にシュールさがあり、ギャップというやつが拭えない。

 

「 はぁ・・・逞しいでありんすねぇ、このスケルトンたち。やっぱり骨は動いてるに限るでありんす。 」

 

 その声のした後ろを振り向くと、彼女はいた。赤と紫のドレスに身を包んだ、銀髪の絶世の美少女。月下美人という言葉が体を為したような、日傘を持つ彼女からは、人ならざる気配がプンプンとする。

 

「 久方ぶりでありんす、紺色のバオー・ヴェル。アルベドがよろしくいってたでありんすえ。 」

 

 彼女とは、ちょっとした顔見知りである。YGGDRASILで、ナザリック地下大墳墓に挑戦した時にあった、第一から三階層の守護者だ。

 

「 ・・・いつみても、美しいな。

シャルティア・ブラッドフォールン。

君の作り手はさぞ素晴らしい男なのだろう。 」

 

「 お褒めに与り、光栄でありんす。 」

 

「 それで、ご要件はオレの首かな? 」

 

 バオーは咄嗟に万雷神の槌を取り出して身構えた。魔導国は、身内への情が厚い分、他者に対して恐るべき残虐性を発揮すると知っていたからだ。殺しこそしなかったものの、宰相であるアルベドに重傷を負わせたという大義名分がある以上は、魔導王も自身の存在を看過できないだろう。自身を始末しに来るのは、自然な流れだ。しかし、返ってきたのは、予想外の返事だ。

 

「 土足で入り込んだのは、こちら側。それ故今回は不問に処す。アインズ様からのお達しでありんす。 」

 

 嘗て、大虐殺で十数万もの兵を殺戮し、リ・エスティーゼ王国を滅ぼし、エルフ王国の国王を滅ぼし、スレイン法国すらも瓦礫の山と化した。恐るべき魔導王が、己を許すだと?

バオーはその判断の裏に、何かがありそうだと思わざるを得なかった。

 

「 意外だな。あの魔導王が、身内、それも重役を害したものを許すとは。 」

 

「 アインズ様は慈悲深き御方。決して鞭だけ振るうアンデッドにありんせん。その代わりといってなんでありんすが・・・ 」

 

「 なんだ? 」

 

「 色々と、こちらの要望を聞いてもらうでありんすえ。勿論、アインズ様は先の金髪とのやり取りもお見通しでありんす。 」

 

「 ・・・ 」

 

 なるほど。ことの一部始終を見られていたというわけか。これを蹴れば、自分のみならず、ジルクニフにも危害が及ぶ。そればかりは防がなければならない。バオーに選択の余地はなかった。

 

「 いいだろう。そちらに従う。 」

 

「 理解が早くて助かるでありんす。それでは・・・〈転移門〉 」

 

 異次元から闇の門が現れる。〈転移門〉は、一度に複数人を転移させられる最上位の転移魔法だ。

 

「 付いてくんなまし。 」

 

「 あぁ。 」

 

 こうなっては破れかぶれだ。行った先で魔導王と戦うことになったとしても、堂々と向かっていく他ない。

バオーは胸を張って、門の中を潜った。

 

「 そんなに身構える必要はありんせんえ? 」

 

「 なに? 」

 

「 アインズ様はお前を殺すつもりはないという意味でありんす。 」

 

 シャルティアの言葉の意味を、バオーはいまいち理解出来なかった。曰くナザリック地下大墳墓に於いては死はそれ以上の苦痛を与えられない慈悲であるらしいが、つまりはそれ以上の苦痛を与えられることとなるのか、それとも――――

いずれにせよ、魔導王に会ってみないことにはわかるまい。

やがて闇の中を抜け、オフィスを構えた部屋にでた。

 

「 ここは? 」

 

「 魔導国だ、バオー。 」

 

「 ・・・! 」

 

 その声を聞いてハッとした。この間、別れたはずの友が、そこにいたのだ。

 

「 カッツェ!? 」

 

「 ようこそ、魔導国へ。 」

 

 前方を見ると、そこに彼はいた。

白い骸に黒い法衣を纏う、並々ならぬ気配のアンデッド。その目の中に赤く眼光光り、バオーとカッツェを見据えている。骨仔山羊など比にもならない力を誇ると誇示するようなその覇気を、バオーは感じ取っていた。

アインズ・ウール・ゴウン。

この夜の闇は、彼に良く似合っていた。

 

 




 不幸にも妻(自称)を傷つけた二重の影に対して、魔導王陛下ことモモンガ(二十代後半〜三十独身、小卒)が言い渡した示談の条件とは・・・
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