朝チュン、しちゃった 作:℃゛
……重い。
起きた瞬間から重さを感じた。
女性に向かって重いと言うのは失礼かもしれない。
しかし、これを重みと言わずなんと言うべきか、これは彼女が俺の真上に乗っかっているのが悪いと思う。
猫だって人の上に乗ったら重いと言われるのだ、たとえ相手が鮫であっても然るべき対応であろう。
彼女を俺の上からどかそうと、その肩に手を添えて力を込める。
「…………ん、んん。」
うめき声を上げた彼女はエレン、高校の同級生で親友だ。
彼女が目を覚ましたのだろうかと期待するが、そのような期待はすぐに打ち砕かれた。
「……まだ…………寝る」
彼女は俺の上から横へと移動したが、彼女の太い尻尾が腰に巻き付いてきた。
尻尾による圧迫は先ほどの上からの圧力よりもよっぽど強い。
「……ギブ、ギブギブギブ……!!」
決死のタップの末、彼女の目がようやく半分ほど開いた。
「エレン、エレン起きて!腰が砕ける…っ!」
「……別に良いでしょ、使わないし」
「使う、使うって!目を覚ましてよ〜く考えて!万事使うから!」
「や〜だ」
彼女は身勝手に俺の腕を掴んで、腰に尻尾を巻きつけたまま再び眠ろうとする。
どうしたものかと考えたその時、初めて気がついたことがある。
そもそも……
「どうやってここに入った?」
「……窓開いてたし」
「開いてたら入って良いと思ってるの……?」
「だめ…?」
上目遣いでこちらを見てくるエレン。
このわざとらしい上目遣いの前に彼女の要求を呑んだ回数は数知れない。
しかし、今回ばかりは譲ってはならない、俺の腰骨の危機なのだから。
心を鬼にして彼女の毛布を剥がし、力を込めて遠くへ投げる。
今朝は気温が低い為、私服のまま人の布団に潜り込んだ彼女は
「……さむい」
そう言って、目を開いた。
「なんでこんなことすんの……?良いじゃん、寝よ?毛布持ってきてよ」
「……っ、ダメ。そろそろ起きて。あと、なんで人の家まで上がり込んできたのか理由を話して。そしてそろそろ尻尾をなんとかして頼むから」
こちらの弱点を完全に把握しているエレンは、もう一度就寝する機会を得るべく上目遣いをして、悲しそうな声で──上手い具合に彼女らしさを失わない範囲で──俺に哀願する。
しかし、彼女のそれを認めてしまうとどうなるか俺はよく理解している。
数ヶ月前、俺は彼女のそれを断れずに休日が一日溶けたのだから。
エレンをなんとか起こしてベッドの上に座らせた。
座った状態でも寝ることはできるだろうが、俺が話そうとしているのに寝るなんてこと、俺の知っているエレンは八割行わない、あとは二割を引き当てないように祈れば良いのだ。
「それで、エレンはどうしてここに?」
「窓開いてたから」
「そうじゃなくて、いつもなら友達とティーミルク飲みに行ってる時間じゃないの?」
「今日は三人とも忙しいっぽい」
「じゃあ、家で寝てればよかったんじゃないの?」
「………………寂しい」
エレンの言葉に思わず固まった。
彼女の表情はいつものような演技じみたものではない。
しかし、エレンがそんな言葉を口にしたのは初めてで、今のセリフが本音なのかと考えると少し疑わしいような気もする。
「ほら、言ったよ。これで良いでしょ、寝よ」
「えっと、寂しいなら寝るとかじゃなくて、一緒になんかしたほうがいいんじゃないの……?俺も別にやることないし、なんかあるなら付き合うけど」
「じゃ、一緒にティーミルク飲も」
そう言った瞬間、ベッドの上に座っていた俺とエレンの間から着信音が響く。鳴ったのはベッドに落ちていたエレンのスマホで、差出人はエレンが先ほど忙しいと言った友達三人だ。
『エレン!告白成功した〜?』
『彼氏さんの家に上手く入れた?』
あと一件メールが来ていたが、それを見るよりも前にエレンがスマホに毛布をかけて隠した。
その場には顔を赤くしたエレンと、なんと声をかければ良いかわからない俺が残されていた。
「…………引いた?」
「なにが?」
「いや、その……アンタのこと───、昨日本当は告るつもりで……」
「そうだったのか」
「そう。なのにアンタ、いつもより早く寝てるし」
二人の間に沈黙が横たわる。
「で、答えは?」
「え?」
「したじゃん、告白」
「告白ってか、告白の告白……?」
「そういうのいいから」
エレンは彼女にしては珍しい真剣な眼差しでこちらを見つめている。
「……こちらこそ、よろしく」
「…………はぁぁ〜……──」
俺のを聞いたエレンは。しばらくの沈黙の後にため息を吐きながらこちらに倒れ込んだ。
「……安心したら眠くなってきた」
「結局それ?」
「いいじゃん?二人で寝よ?か、カップル……だし?」
彼女の言葉に、頷いて再び横になる。
今週の休日は、二日とも寝て過ごすことになりそうだ。