目指せ、脱ヒーロー社会!   作:悪魔さん

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今日からヴィジランテやるので、第一話公開前に新作投稿です。
こういう立ち位置の二次創作って、自分が知る限り知らないので、挑戦してみました。


No.1 オリジン

 事の始まりは中国・軽慶(けいけい)市。発光する赤児が生まれたというニュースだった。

 それを皮切りに世界各地で超常現象が発見・報告され、原因も判然としないまま時は流れる。

 いつしか超常は日常に。夢は現実に。世界総人口の約8割が超常能力――〝個性〟を持つに至った超人社会となった。

 

 特異体質である超人社会となった現在、〝個性〟を悪用する犯罪者「(ヴィラン)」を、〝個性〟を発揮して人々を救う「ヒーロー」は人々に讃えられていた。

 しかし、現代では旧人類に相当し、人口の2割にも満たない「無個性」の人々も存在する。無個性というハンディキャップは世間的に厳しく、それ故に周囲と距離を取られて、いじめの対象にされることも決して少なくなく、自身のコンプレックスとする人物は多い。

 

 だが、物事には必ず例外が存在する。

 そんな決定的なコンプレックスを抱えても、大きな力を行使できる職業はあるからだ。

 この物語は、一人の無個性の青年が政治家として新時代を築く為に駆け上がるお話である。

 

 

           *

 

 

 東京都(なる)()()区。

 栄えた市街と廃墟同然の旧市街が入り組む、お世辞にも治安が良いとは言えないこの街は、ある有名人が活動拠点としている。

「はい、皆さんお待たせしました。早速始めましょう」

 時刻は午後7時。高層マンションの一室で、黒いパーカーを着た20代の男性が動画配信の生放送を始める。

 

 彼の名は西(にし)(まる)(しん)()(ろう)

 世界最大手の動画配信サイトにおいて登録者数500万人を超える動画配信者で、「シンタローTV」というチャンネルを運営する日本で最も名の知れたストリーマーの一人である。

 

「えーっと、今日のシンタローTVは生放送なので、色々と語って行こうかなと思います。視聴者の皆さん、何か聞きたい事はありますか?」

 そう語ると、チャットのコメント欄に様々な質問が寄せられる。

 今日のライブ配信は9000人以上が視聴中。相変わらず人気だ。

〈オールマイトの事について少し聞きたいです!〉

〈昨日のドクロ仮面の事件の所見を〉

〈クレームを言ってほしい!〉

「ありがとうございます。オールマイトの事はどうせ他のマスコミが取材してるだろうから、今日はほとんど触れないと思います」

 そう断言すると、コメント欄には「草生える」や「笑」が続出。

 まず触れたのは、昨日起きたある集団の事件だ。

「まずドクロ仮面の件、触れましょうか。あれ「CRC」ですね、まーた古いのが出てきたなぁって思いましたよ。結局取り締まられましたね、全員」

 CRC。

 正式名称は「異形排斥主義集団」と言い、超常社会が混乱から抜け出し、安定してからも姿形の変わった者を受け入れない秘密結社である。主な活動はデモだったが、過激化して暴力事件を起こすようになり勢力は縮小している上、現代では複数の主義に分派しているらしい。

 いわゆる人種差別集団の一種である。

「……あのー、僕これずっと前から思ってたんですけど、「異形型」っていう言葉自体が差別的だと思うんですよ」

〈確かに!〉

〈これはド正論〉

〈異形って、お前は人間じゃないからって言い回しだもんね…〉

 西丸の発言に、チャットは肯定の意見が続出する。

 〝個性〟は自身の意思で能力を発動させる「発動型」、通常の人間の体から自身の意思で肉体を変化させる「変形型」、生まれた時から発現している「異形型」がある。

 その中でも異形型は人間離れしたその容姿から差別の対象となり、田舎の方では未だにその慣習が蔓延っているという話もある。

「僕だったら、異形型じゃなくて「(へい)(ぜい)型」って言葉にするかな。異形型の定義は()()発現だから、その常時という文言と似た意味の平生の方が差別的じゃないと思う」

〈それ賛成!〉

〈異形型って表記よりずっといい!〉

〈誰だよ異形型って言い始めたの〉

 西丸の私見に、視聴者は大賛成。コメント欄も「平生型」に書き換える人が増え始める。

 そんな中、こんなコメントも現れ始める。

〈西丸さん、政治家になって訴えれば?〉

〈立候補したら絶対票入れる!〉

〈いきなり都知事とかになったらウケる〉

 茶化すように政治家への転身を望むコメントがされる。

 それに対し、西丸はこう返した。

「政治家かぁ……でもまぁ、可能性としてあるかもしれないくらい言っておこうか?」

 茶を濁す発言にコメント欄は〈リップサービスwww〉〈流石に明言できないか〉〈でも政治に興味はあるから、アリっちゃあアリかも〉など、様々な意見が飛び交う。

「じゃあこの件はここまでにして……次は恒例のヒーロー談義しましょうか」

〈待ってました!!〉

〈ヒーロー談義キターーーーーー!!〉

〈今日のテーマは!?〉

 西丸がチャンネルの人気コーナーを始めると告げた途端、チャットのボルテージが一気に上がる。

 このヒーロー談義こそ、西丸の動画投稿の収益の主軸であり、彼を大人気動画配信者として成り立たせる屋台骨だ。

「今日のお題なんですが……特定の誰かさんじゃなくて、ヒーロー業界全体に対して一言物申そうかなって」

〈えっ、全体?〉

〈それって皆ってわけ?〉

〈不穏な気配……〉

 意味深な発言に、視聴者は訝しむ。

 人気コーナーのヒーロー談義は、何もヒーローの活躍を褒め称えるばかりではない。むしろ割合的にはヒーローを批判することの方が多く、それが西丸の人気コーナーの見どころの一つであった。

 つまり、この生放送の発信者である西丸が特定の誰かに物申そうとしているのではなく、業界全般に不満をぶつけようとしている事に。

「というのもですね、ここ最近なんだけども……僕が度々ボランティアイベントに参加してるの知ってますかね?」

〈知ってるーー!〉

〈ネットニュースに載ってた〉

〈投稿した動画も見た!〉

 視聴者の反応に、西丸は「ありがとう」と言ってから話を続ける。

「ゴミ拾いとか、子ども食堂とか、スポーツ大会のイベントとか、そういうボランティア活動に参加してるんですよ。で、それに参加して気づいたんですけど……ヒーローが参加しない事が増えてきたんですよ」

〈え?〉

〈ヒーローが参加しない?〉

 西丸の一言に、視聴者はざわつく。

「学生時代に学んだ方多いと思いますけど、ヒーローのルーツって超常黎明期に治安維持をボランティアでやってた自警団(ヴィジランテ)です。なのでボランティア活動はヒーローの基本だと思うんですけど……最近のヒーローってボランティアに参加しない方が増えてませんか?」

〈言われてみれば〉

〈確かにヒーローがゴミ拾いしてる所、見たことないかも……〉

 西丸の疑問は視聴者も感じたようで、コメントも同意の意見で溢れ始める。

 ヒーローもとい「プロヒーロー」は、自身の個性を活かし民衆への奉仕活動をする()()()で、希望者が多いため飽和状態にある華々しい職業だ。

 当然、ルーツがルーツであるのでボランティア活動も行う。しかし、西丸の言う通り地域貢献というボランティア活動に参加していないヒーローが散見される。

「ヒーローの本質はボランティア活動……社会貢献をするのが仕事です。それをしないなんて本末転倒ですよ。僕でもやってる事、何でしないんですかね?」

〈確かに!〉

〈ボランティアをしないって、もうそれはヒーローじゃない!〉

 西丸の持論に賛同するコメントが相次ぐ。

 その一方で、ヒーローをフォローする意見も出される。

〈ヒーローは人を救けるのが仕事だけど、職業である以上都合とかあると思う〉

〈全員が全員ボランティア活動やってないってわけでもなさそう〉

〈オールマイトとか普通にボランティアしてるよ?〉

「そうですね、オールマイトとかはちゃんと原理主義というか、ヒーローとして原点回帰してるので流石だなと思ってます」

 西丸はチャットに出てきたヒーローを高く評価する。

 絶大な力と人気を誇るNo.1ヒーロー・オールマイト。彼は存在そのものが抑止力とされ、〝ナチュラルボーンヒーロー〟や〝平和の象徴〟と称されながら超人社会に君臨し続ける生ける伝説だ。

 理想のヒーローの体現者ということもあって、西丸は彼の日頃の活躍は度々苦言を呈しつつも「ヒーローの中のヒーロー」として称賛している。

「いずれにしろ、今のヒーローは公益より私益を重んじてる風潮があるように見えるんだ。オールマイトみたいなヒーローは絶滅危惧種だから、そろそろ原点に戻んないととんでもないしっぺ返し喰らうと思う」

〈あー……〉

〈確かにヒーローは公人だもんね〉

  西丸が持論を語り、その考えに同意するコメントが付く。

 さらに彼は、ある体験を語り始める。

「今から何年か前に駅前で街宣活動してる人がいてさ。その時に「ヒーローは見返りを求めてはならない」「自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない」って叫んでたんだよ。その人どうなったか知らないけど、結構的を射てない?」

〈あー、いたね。そういう人〉

〈今思えば、確かに的を射てるかも……〉

 西丸が言及した人物に、心当たりのある視聴者はコメントで反応する。

「……だから、これから先の情勢次第かな。逆境の中でプロヒーロー達はヒーローで在り続けられるか、ちょっと注視していこうと思います」

 そうまとめたところで、一度チャット欄の感想や反応を伺う。

 あからさまに否定的な意見こそ無かったが、視聴者は若手ヒーロー達の活動に不安を感じているのが窺えた。

「この問題についてはフワッと意見だけ求めましたので、結論としてはプロヒーローが社会に誠実な態度を取る事を願おうと思います。じゃあ、今日はちょっと眠いのでこの辺で。また次の配信で会いましょう」

〈乙!〉

〈次も楽しみに待ってます!〉

〈お疲れ様でしたー!!〉

 こうして西丸は、本日のライブ配信を終了させるのであった。

 

 

「……ふぅ」

 2時間にも及ぶライブ配信を終え、一息つくとイスから立ち上がり、ベランダへと出る。

 東京は、深夜でも明るい。西丸はベランダから鳴羽田の街を眺めながら、愛用のパイプを咥えて一服する。

「……まだ〝推し〟の出番じゃないから暇だなぁ。どうせなら同期として転生させてくれよ、神様」

 夜空を仰ぐ西丸は、そうボヤいた。

 

 西丸伸太郎は、この世界では珍しい無個性の人間だが、ただの無個性ではない。

 彼にはもう一つの人生、いわゆる前世がある。前世はごくごく普通のサラリーマンであったが、自宅の前で起きた交通事故に巻き込まれて意識を失い命を落とした。気がつくと自分は4歳児になっており、病院の診察室で無個性だと告げられた瞬間に理解した。

 ――ここが生前愛読していた漫画の世界だと。

 

 現在は26歳。前世の記憶を思い出して早22年。

 前世の自分は「この世界」を愛読していたが、生憎最終回までチェックできてない。社会は無個性の風当たりが厳しい為、ヒーローだけでなく企業への就職をも諦め、動画配信者として生計を立てるという前世とは正反対の生き方を始めた。

 幸いにも動画配信者として成功したので収入の一部を両親に送り、不自由のない生活を送っている。ネット界隈の有名人となり、生きるには困らない程度に稼げてはいるが、今の生活に満足しているかと言われればそうでもない。

 なぜなら、彼はこの世界の結末を知らないからだ。この世界の主人公である()()()()はヒーローになったのか、あの(ヴィラン)はどうなったのか、巨悪はどうなったのか……まるで見当もつかない。ハッピーエンドだろうが、もしかすればショックな出来事が重なってたり、主人公を除いた主要人物が死亡しているかもしれない。

 これから先に生まれてくる者達の活躍を多少なりとも知っている自分が、それを見て見ぬ振りをして悠々自適な生活を営むというのは、少し気が引けるのである。

「……「僕のヒーローアカデミア」か……」

 この世界の名前を呟いた、その時。

 ピローン♪ という音と共に、パソコンの画面にメールの受信を知らせる通知が出る。西丸はマウスを操作してメール画面を開くと……。

(みん)()(とう)……? こんな時間に?」

 差出人は、現在の日本の政権与党である国民自由党、略して民自党の代議士である(はな)(ばた)(こう)(くう)議員からだった。

 花畑孔腔は国会議員の中でも高い求心力を持ち、嫌われる職業トップ3の常連である政治家の中でも人気の高い人物だ、と西丸は記憶している。

 その代議士が自分に何の用があるのか――疑問に思いながらもメールを確認する。

「えっと…「この度、貴殿の配信を拝見させていただきました」……?」

 メールの冒頭にはそう書かれており、西丸は思わず困惑した。

「これ……もしかして生で見てた?」

 まさかとは思いつつも、このメールの文面は生で見ていたとしか思えない。

 コメント欄にいたのだろうかと思いつつ、西丸はメールの本文を読む。

「先程貴殿の配信を拝見して、私は非常に感銘を受けました。その配信内容に共感したのです。そこで貴殿に折り入ってお願いがございます……」

 西丸は読み進めていくと、その内容は驚くべきものだった。

 

 

          *

 

 

 二日後、西丸は都内にある大きな事務所へ訪れていた。

 普段はパーカー姿だが、今回は事情が事情なのでスーツ姿だ。

「ここが花畑さんの……」

 西丸が事務所へ訪れると、受付の女性が出迎える。

「あの……すみません、どちら様でしょうか?」

 女性スタッフは訝しみながら尋ねる。

 それもそのはず、この事務所の人間でもなければ政治家でもない西丸が突然現れたのだ。警戒しないわけがない。

「えっと……本日、花畑孔腔議員との面会の約束をしている、動画配信者の西丸伸太郎です」

「あっ、失礼しました!」

 西丸がそう答えると、スタッフは慌てたように事務所奥へ走る。

 数分後に出て来たスーツ姿の男性は、西丸の姿を確認すると駆け寄って来た。

「西丸さんでいらっしゃいますでしょうか?」

「ええ。二日前にDMを受け取りまして…」

「では別室にどうぞ」

 スーツ姿のスタッフが西丸をこの事務所の奥にある応接室に案内すると、

そこには既に花畑孔腔議員が腰掛けていた。

「ようこそ、西丸君。私の事務所へ」

「本日はお招き頂きありがとうございます」

 花畑議員の歓迎に、頭を下げる西丸。

 軽く挨拶を交わすと、ソファーに腰掛けた。

 すると花畑議員は、早速本日西丸を呼び出した理由を切り出してきた。

「実は……君にお願いがあってね」

「お願い……ですか?」

「そう。単刀直入に言うが……今度の鳴羽田区長選に出馬して欲しいんだ」

「え?」

 花畑議員の申し出に、西丸は思わず素っ頓狂な声を上げる。

「西丸君の知識とカリスマ性に感銘を受けた。ぜひとも、その力を政治に活かしてみないか」

「……本当に僕なんかでいいんですか?」

 西丸は少し悩んだ末に、念の為に確認する。

 政治家になる為に学歴や資格は必要とされない。選挙権を持っていて、「社会の為」「地域の為」に役に立ちたいという熱く強い気持ちと覚悟があれば立候補ができ、選挙に勝つと政治家になれる。

 しかし、今回の選挙は少し事情が違った。

「知っての通り、鳴羽田区は治安が悪い。それだからか、誰も候補者がいないんだ」

「実質貧乏くじですもんね」

 この鳴羽田という街は、繁華街とスラム同然の旧市街地域が混在する入り組んだ街で、その治安の悪さから区議会は区政に不安を抱えていた。しかし、その区政の危機を打開できるような区長候補が、今まで誰一人として立候補しなかったのである。

 その上、現代社会はヒーローが輝いている為に政治への関心が薄く、政治家になりたい若者が少ない。故に花畑議員は、若者を政治に引き入れる事で今の社会の風通しを変えようと躍起になっており、その手段として西丸を引き入れたのだ。

 西丸は動画配信者として高い知名度を誇っている。その知名度は、動画配信者としてはトップクラスであり、日本中に名前を知られている存在である。そんな西丸であれば、区長候補として申し分ないと判断した花畑は、西丸に区長選への出馬を依頼したのだ。

「今の時代、若者が政治に無関心である事は問題だ。だから、西丸君には是非とも出馬して、若者に希望を与えてほしい」

「希望……ですか」

「そうだ。是非とも鳴羽田区長として、社会に貢献してほしい」

「…………」

 西丸は悩んだ。正直な話、西丸は政治家になるつもりはなかった。動画配信でそれなりに稼いでいるので、政治家になる必要はないと思っていたからだ。

 だが、花畑の熱意は本物だ。本気で西丸に鳴羽田区長になって欲しいと願っている。その気持ちは、西丸にも伝わってきた。ここまでの〝熱〟を帯びた相手の気持ちを無碍にするのも、あまりにも無礼ではないか。

 それに落選しても、西丸にはこれといった損をしない。落選したらしたで動画投稿のネタになる。ならば、一度立候補してみるのも悪くないのではないか。

「……わかりました」

「本当か!?」

 西丸の答えに、花畑は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

「ええ。しかし条件があります」

「条件?」

「僕は無所属で出ます。政党の支援を受けると、どうしても〝しがらみ〟が発生しますから。それに落ちた時のそちらの損失を考えると……」

「…………わかった。君の意思を尊重しよう」

 花畑は渋々といった様子だったが、それで了承した。

 やはり裏がある話だったか――西丸は内心でそう思いつつも、これで決まりだとばかりに口を開く。

「では、よろしくお願いします」

 こうして、西丸は鳴羽田区長選に立候補することとなった。

 

 

           *

 

 

 動画クリエイター・西丸伸太郎の鳴羽田区長選出馬は、SNS上で大きな話題となった。

 実現すれば、史上最年少の区長。無所属の出馬であるが、知名度に関しては現職の区議会議員や区長をはるかに凌ぐ西丸が、鳴羽田区を治める可能性が出てきたのだ。動画投稿サイトのコメント欄やSNS上は、「西丸が区長になったら鳴羽田は変わる」という声で溢れ返る一方で、「有名税で政治家になれるのか」などの否定的な意見も存在していた。

 当然、これに関しては重々承知しており、出馬の意思表明をした後、テレビ局の生放送に呼ばれた西丸はキャスターからの質問に答えた。

《若者を中心に支持を集めている西丸さんですが、一方で政治家としてズブの素人という言い方も失礼かもしれませんが……新人ゆえの不安感を抱く声も多数あります。この点について西丸さんはどうお考えでしょうか?》

《はい、そういった指摘は真摯に受け止めています。覆る事のない事実ですから。ですが言い方を変えれば、既存の政治家の既成概念や価値観に囚われないことだと僕は思ってます》

《ほうほう》

《今の社会、かつての政治家のやり方が通用しなくなってます。ですので僕は、政治家として日本に新しい風を吹かせたい。当然、今まで汗を流してきた区議会の皆さん、区民の皆さんには敬意を表します。なので「対決ではなく解決」を掲げ、この鳴羽田を日本一の街にします》

 西丸の堂々とした受け答えに、キャスターは感嘆の声を上げる。

《成程。西丸さんにとって今回の選挙は、鳴羽田を良くする事で社会全体の風通しを良くする事の第一歩だと捉えてるんですね?》

《そうです。鳴羽田の現状は僕も知っている…だからこそ、この選挙は是が非でも勝ち取りたいんです。落選しても街を良くする手段は無きにしも非ずですが、区長っていわば〝小さな大統領〟じゃないですか。街を良くする、社会を良くするという観点ではプロヒーロー以上の価値がある。だから、その為にも区長になって鳴羽田の現状を変えていきたい》

《プロヒーロー以上の価値! これは中々の大口ですね》

《オールマイトなんかずっと大口じゃないですか。歯茎しっかり見えますし》

 西丸の返しに、スタジオがドッと笑いに包まれる。

 キャスターも破顔し、「面白い人なんですね」と西丸を評した。

「……ハァ…」

 西丸の生出演を見ていた花畑は、テレビの画面を静かに見つめ、溜め息を漏らした。

 彼は想像以上の資質を持っていた。堂々とした立ち振る舞い、相手の質問をしっかり捉えて返す冷静な判断力、ユーモアを混ぜた返答……ストリーマーとしてのノウハウを活かしているようだが、これらは生まれながらの才能であると花畑は感じた。

 本当に無個性なのか……? そう思ってしまう程、西丸伸太郎という青年は優秀だった。

「……悔しそうだな、トランペット」

 ふと、トサカのようなオレンジの髪とクチバシのような鉤鼻、広い額が特徴のスーツ姿がコードネームらしきもので花畑を呼んだ。

 ライフサポートメーカー「デトネラット社」の代表取締役社長を勤めている、()()(ばし)(りき)()だ。彼は大企業のトップであるが、実は知られざる顔がある。

 

 ――過激派組織「異能解放軍」最高指導者〝リ・デストロ〟という(ヴィラン)の顔が。

 

「! これはリ・デストロ」

「彼を引き入れられなかったのは痛手だったかな?」

 微笑みながら尋ねるリ・デストロに、トランペットと呼ばれた花畑は「……ええ」と答えた。

 彼もまた、異能解放軍の構成員。声に宿る特殊な電磁波で、彼に心を許す者を高揚させ、肉体・精神をブーストさせる「扇動」という〝個性〟で高い求心力を持つ、〝トランペット〟という名の(ヴィラン)だ。

「無個性……異能を持たぬ旧人類である彼が、ここまでのカリスマ性を持つとは。流石の私も驚きを隠せません。もしかしたら、彼は我々の脅威となるかもしれませんね」

「だが、彼は単に政党の支援を嫌がったからだろう? 解放主義については彼が当選次第、我々の思想を植え付けていこう」

 リ・デストロの言葉に、花畑はニヤリと笑う。

「そうですね。彼のカリスマ性を活かし、現政府の誤った抑圧社会を変えていく。その為にも彼には、是が非でも政治家になってもらわなければ」

「そうとも。彼がこの国の未来を担う、()()()()()()()〝ヒーロー〟となる為に」

 混沌の超常黎明期への回帰を望む、異能解放軍の野望など知る由も無く、西丸は政治家の道へと踏み出した。

 

 まさか西丸伸太郎という男が、後に強大な「脅威」として異能解放軍を含めた(ヴィラン)達に立ちはだかるとは夢にも思わずに。




という訳で、本作の主人公は「無個性の政治家」でした。
本作はスピンオフ作品の『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』のネタも含んでますので、時系列上組み込んでます。

次回は選挙期間のお話。西丸の具体的な政策発表です。
まあ、話の流れ的に当確するんですけどね。(笑)

そして本作のオリジナル設定。
トランペットが元は大きな政党に所属していたという設定を、こちらでは「民自党の議員」という形にしました。民自党はよく架空政党のテンプレで使われるので、採用しました。
また、個々のキャラの時系列とかが不明なのとヒロアカの年表がよくわかんないので、多少ごちゃ混ぜになってると思うのでご了承ください。

これと同時に、作者は本作の中身を重厚なものにする為に法律をちょっと勉強します。
大変ですが頑張ります。
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