今更ですけど、一応は現実世界とヒロアカ世界の法律は別に考えていただけると幸いです。
全ては、秘書の一言から始まった。
「虎太郎、例の蜂使いの情報は?」
「残念ながら、様々なルートで検索してますが……」
未だ鳴羽田を脅かす〝蜂使い〟に関する有力な情報が得られていない事実に、西丸は溜め息をついていた。
「区長を警戒してるのでは?」
「だろうね……しかも相澤さんとタッグを組んで顔を売ったんだ、迂闊に動けない訳だ」
「……こちらから仕掛けるしかないのか……」
「!!」
立華の呟きに、西丸はハッとなった。
相手が来ないなら、こっちから誘き出せばいい。〝蜂使い〟を引き寄せるようなネタを用意して。
「……虎太郎、今日の会議って何だっけ」
「先月、予算案が採決された区が主催するイベントの件ですが」
「――それだ!」
西丸は立ち上がり、指示を飛ばした。
「虎太郎、すぐにナックルダスターさん達に連絡を!! 僕は相澤さんと帰蝶さんに話を通す!! 〝蜂使い〟を捕らえる方法を思いついた!! 僕の家に来るように伝えて!!」
「!? …了解!!」
立華は慌ててスマートフォンを取り出し、連絡を取り始める。
(僕の政治生命を懸けたデカい博打だ。失敗したらただじゃ済まないが……)
だが、それでもやる価値はある。
そう踏んだのは、紛れもない直感だった。
西丸一家の自宅マンションで、急遽行われた緊急会議。
それも区政の関係者ではなく、西丸個人と付き合いがある面子だけで行われる、まさしく密談であった。
「「〝蜂使い〟を倒す!!?」」
「っ……」
「西丸区長、説明ありますよね?」
コーイチとポップは仰天し、ナックルダスターは息を呑み、相澤は目を細めて西丸を見据えた。
「まず率直に言うと…今度行われる区が主催するイベントを、売人を誘い出す罠にします」
『!!?』
西丸の宣言に、集まった一同は驚愕した。
「……何か作戦があるんだな?」
ナックルダスターの言葉を聞き、西丸は一通りの流れを語り出した。
今から二週間後、鳴羽田イーストゲートパークで地域密着型フリーライブ「鳴羽田フェスティバル」、略して「なるフェス」が開催される。
このライブイベントは、今までは「町内会のカラオケ大会」みたいな
そんな町おこしイベントを、西丸が目の敵にするトリガーの売人を制圧する罠にするというのだ。
「地域の為なら寄付でも募れ……なんて事は言いませんけど、それで奴さんを誘惑できますかね?」
「今までの事件の傾向上、おそらく売人は愉快犯だ。夜中より日中の方が事件数が多いからね。より大勢の群衆をパニックにさせたいと思うはずだ」
相澤の疑問に西丸は答えると、彼は納得したのか「成程……」と顎に手を当てた。
「で、でも……もし誘き出せたとして、夜中にトリガーを入れたハチを飛ばされたら……」
「それが大丈夫なんだよね。そうだろう? 帰蝶さん」
「勿論!」
帰蝶は白衣のポケットから小さなガラス瓶を取り出す。
ガラス瓶の中には、蜜蝋のようなものが球形でいくつか入っていた。
「君達が捕まえたハチを研究して、彼らに反応するフェロモンを作ったの。もっとも、普通のハチも寄ってくる可能性があるけどね」
「つまり、ハチが来たところにこれを撒けば群を集められるという訳です。闇夜に紛れてもこれがあれば無差別テロを防げる」
「そうして敵が地団太踏んでる間に見つけ出し、徹底的に叩くという事か」
「雑ですが、筋書きは大方そんな感じです」
西丸の大胆な作戦に、ナックルダスターはニヤリと笑った。
しかし、問題が一つあるという。
「問題なのは、相手が単独である保証がない事なんだ。共犯者がいると工作活動のリスクが増大するしね」
「そこに関しては、俺がやりますよ。地域の祭りの会場での警備なんて、性に合わないんで…」
「じゃあ、ナックルダスターさんと二人で場外の見回りを。場内に意識が向きやすい犯人の裏をかけるかもしれない」
計画を煮詰めていく一行。
そんな彼らの会話の中、コーイチはこんな提案をした。
「あ、あの~…これって、人が多ければ多い程に犯人が来やすくなるんですよね? マコト先輩にも話を通してもいいですか?」
「ああ、彼女か。……そうだね、僕の方から頼むよ。それと虎太郎、例の品は?」
「すでに発注しました。開催日の三日前までには届くと」
「よし、大丈夫そうだね。あとは彼らだ」
西丸はスマホを取り出すと、ある組織に電話をかけた。
それは、この場にいる全員が想像だにしなかった相手だ。
「もしもし。鳴羽田区長の西丸伸太郎ですが、阿辺川天忠會さんでよろしいですか?」
『ハァ!?』
突然のビッグネームに、誰もが驚いた。
何と、西丸が連絡を入れたのは極道だったのだ!
《ああ、ゴッドファーザーさんか。ウチに何か用でも?》
「そちらが以前、区役所に来て打診した件についてです。知っての通りでしょうが、今から二週間後にフリーライブを行います。そこで屋台に限定して出店なら、僕の進めている就労支援政策の試験運用として認可しようと思います」
《!! 本当か!?》
「こちらの方でも職員を遣わせますが、様々な条件・制約がありますので、出店内容は確認させていただきます。また、警察やヒーローの方々の監視下である事をお忘れなく」
天忠會の人間に釘を刺しつつも、西丸は続けて交渉した。
「当日発生したトラブルは全て区と警察で対応しますので、仲介はご無用でお願いします。あくまでも屋台の出店のみの認可ですので」
《わかった。組長達に伝えとく》
「詳細は追って虎太郎を通して連絡するので、そのつもりで。それでは」
ピッ、と通話を切ると、西丸は「あとは皆の協力次第だ」と笑う。
こうして〝蜂使い〟を捕らえるべく、西丸による大捕物が始まったのであった。
*
「なるフェス」当日。
〝地域復興〟と〝地元発〟をテーマとしたイベントは、西丸の予想を超える繁盛ぶりであった。
「思った以上の大盛況だ。区議会も文句は言わないだろう……君のマネジメントには感謝するよ」
「地元アーティストをかき集めての祭典! 流石は西丸区長ね、あなたの名前を出した途端に応募が増えたのよ」
「まァ、色んな意味で集まってるけどな…」
西丸は真――肩書きはキャプテン・セレブリティのマネージャー――と固く握手を交わし、それをジト目で相澤が眺める。
鳴羽田の地元推しイベントには、演歌歌手から密室系アイドル、バンドチームまで参加しており、その熱気は留まる事を知らない。会場であるイーストゲートパーク自体も広い敷地ゆえ、移動販売と屋台も軒並み出店されている。初めての大型イベントの収益は億単位に、経済効果はその数倍以上にもなりそうだ。
これをどう今後に活かそうかと考えていると……。
「伸太郎、大変そうだな」
「火伊那!」
現れたのは、西丸の妻であるレディ・ナガン――火伊那だった。
息子の善治郎をベビーカーで連れ、とても楽しそうだ。
「あなたが西丸火伊那さんですか? 私、キャプテン・セレブリティ事務所のチーフマネージャーである塚内真です」
「塚内……? 聞いた事あるな。西丸火伊那だ、旦那が世話になったようだね」
軽く挨拶を交わすと、たこ焼きを食べながら近寄ってきたツギハギの青年も現れた。
「……おう、ボス」
「? あら、どなた?」
「荼毘君じゃないか。仕事は上手くやってるかい?」
「まァ、ボチボチかな」
荼毘との再会に、西丸は表情を綻ばせた。
「それで、そっちの少年が君の言う焦凍君か」
「! 荼毘さんから聞いてるの?」
オッドアイに右が白髪、左が赤髪になっている少年――轟焦凍が驚く。
そんな彼に、西丸は笑いかけた。
「荼毘君とは長い付き合いでね…この公園を造るのに手伝ってもらったんだ」
「荼毘さんがこんな広い公園造ったの!?」
「俺一人なワケねェだろ」
驚く焦凍に、荼毘はジト目でツッコんだ。
すると西丸は何かを思い出してハッとなると、荼毘にこっそり耳打ちした。
「ところで……彼の父親の方は大丈夫なのか?」
「……あァ、
「ハァ…やっぱりか。今頃大騒ぎじゃないか?」
西丸は溜め息をつき、頭を抱えた。
というのも、焦凍の実の父親は
プロヒーローの息子が家出して東京まで来た上、明らかに誘拐犯みたいな見た目の青年が付き添ってるとなれば、外聞が悪いどころではない。下手をすれば色んな所に波及してくる案件となり、西丸の手に負えなくなるかもしれないのだ。
しかし、その心配は無用だと荼毘は悪い笑顔を浮かべた。
「1日・2日の家出なんかしょっちゅうらしいぜ? それに今の轟家は皆忙しいから、すぐバレねェよ」
「全く、家庭を顧みない人間ってのはどうしてこうも歪むんだか…。いや、それどころじゃないんだ。荼毘君、今回は少し――」
「おいおい、ボスの悪巧みに付き合おうと思って来たんだぜ?」
目を細める荼毘に、西丸は「人聞きの悪い事を」と呆れた笑みを浮かべた。
すると、ステージの方から司会進行役を務めるボイスヒーロー〝プレゼント・マイク〟からの「昼の部」終了のアナウンスが流れた。
それは、西丸とトリガーの売人である蜂使いとの〝決戦〟の最終準備を始める最後の合図でもあった。
「区長、お時間です」
「手筈通りに動くよ。……例の品と、帰蝶さんは?」
「既に到着済み。西園寺さんはいつでも散布できるとの事です」
「OK。じゃあ、始めよう」
西丸の掛け声と共に、コーイチ達は顔を引き締めて一斉に動き出したのだった。
イベントの「夜の部」が始まった。
若者中心となった事でさらなる熱狂となり、会場の熱気が最高潮に達していた。ステージからは様々なジャンルのバンドの演奏が続き、多くの観客が沸き立っている。
それを近くのビルの屋上から、西丸はたった一人で眺め、パイプタバコを咥えていた。
「フゥ……」
紫煙を吐き出しながら、西丸は振り返る。
彼の視線の先には、オレンジブラウンに染めたショートボブカットと左目の眼帯が特徴的な一人の少女が立っていた。
「ようやく会えたね。君が
「いくら何でも人が好過ぎない? 西丸区長さん♪」
いつになく鋭い眼差しで、犯人を見据える西丸。
トリガーをバラ撒く売人――蜂須賀九印は、まるで王手と言わんばかりに余裕を崩さない。
「アンタのせいでサンプルも取りづらくなったし、この街を
「それが社会正義の為なら実行あるのみさ。政治家はヒーローと違って、誰かに嫌われる覚悟が求められる職業だからね」
「このイベントも、あたしをわざわざ誘き出す為に開いたんでしょ? 権力の濫用は良くないよ、オジサン☆」
「元々開く予定のイベントに少し手を加えただけさ。的外れな批判は控えた方がいいよ」
西丸はパイプタバコの火皿の灰を携帯灰皿に捨て、一度仕舞ってから冷静な面持ちで告げた。
「君の行為は悪質極まりない。この鳴羽田を荒らす以上、法の裁きを受けてもらう。……もう逃げられないぞ」
「それはどうかなぁ? おじさんが思ってる以上に、あたしは抜かりないんだよねぇ♪」
そう言うと蜂須賀は、大量のハチを放った。
ハチ一匹一匹にはトリガーが搭載されており、それらは西丸の周囲を旋回していた。
「……区長の僕の前でイベントに集まった区民全員を人質にするとは、アルバイトにしては随分と
「アハハ、そんな褒められちゃ照れるなぁ♪」
愉快に笑う蜂須賀だが、内心では違和感を感じていた。
これ程のハチの大群、それもイベント会場を襲撃する気満々であるにもかかわらず、彼は一切動じてなかったのだ。どれだけ有能な人間でも、これだけの量のハチを使えば無理やり言う事を聞かせられるはずなのに、肝心の西丸の態度があまりにも不自然なのだ。
まるでこの状況を打破する自信がある、と言うように。
「……ハッ! たった一人で何ができるのさ。やれるものならやってみなよ!!」
痺れを切らした蜂須賀は、ハチの大群をイベント会場に突撃させた。
しかし、西丸は可笑しそうに笑い始めた。
「!? 何が可笑しい!?」
「君は一体この街で何を見てきたんだ?」
――
西丸がそう告げた時だった。
「!? ちょっと、どこへ行くんだよ!?」
蜂須賀は思わぬ事態に声を荒らげた。
何と、自分が放ったハチの大群はあらぬ方向へと飛び去っていったのだ。目標であるイベント会場を襲うどころか、まるで別の獲物を見つけたみたいにどこかへと向かったのである。
「オジサン、無個性だよね!? 一体どういう事なのさ!? 何をしたんだよ!?」
蜂須賀の狼狽えぶりに、西丸はニヤリと笑いながら種明かしをした。
「実は、僕の元同級生のある科学者が作ったフェロモン剤を散布したのさ。君がトリガーを入れて飛ばしていたハチを捕まえ、その構造を徹底的に研究してね。ちょうど今、向かっていったハチは一匹残らず駆除されてるはずだ」
「なっ…!」
「そして愉快犯の君の事だ。もし僕が一人っきりの状況だったら、保険として僕を人質に取る算段だと踏んで、君を油断させる為に敢えてここにいたという訳さ」
西丸は指をパチンッと鳴らすと、屋上の入り口から一斉に蜂防護服を着用した警官達が雪崩れ込み、逃げ場を封じた。
「あ、あり得ない……こんなの……!!」
「僕は確かに〝個性〟を持ってないし、ヒーローにもなれないだろう。だけど…この街の人々とその未来を守る責務が僕にはある。それは君も例外じゃない」
西丸は追い込まれた蜂須賀に、手を差し伸べた。
「ゲームセットだ。……さぁ、一緒に警察へ行こう。まだ君は間に合う」
西丸と一緒に蜂須賀を追い詰めた警官達は、ヴィジランテでお馴染みの田沼警部の伝手です。
原作では一話限りの出番だった阿辺川天忠會、またまた登場。使い勝手がいいのかな?(笑)
そしてまさかのサプライズ、ヒロアカ本編からショート君がついに登場。某スレの設定を引用して描写してます。ちなみにショート君は西丸を「荼毘さんの友人」と見なしてる様子。
次回は西丸VS.蜂須賀の後編。追い詰められた蜂須賀が、とうとう……!
乞うご期待!