目指せ、脱ヒーロー社会!   作:悪魔さん

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満を持して彼が登場。
個性社会でも情報は強力な武器です。


No.22 〝ウォーターゲート〟

 西丸が蜂使い以上の大捕物を仕掛けた一方、その標的である〝傷の男〟――No.6(ナンバーシックス)は高速を走るトラックのコンテナの上に避難していた。

「あー、ビックリした…いきなりガサ入れっスか」

 男は額から滲む汗を拭う。

 いつかは強制捜査に踏み込まれると予想はしてはいたが、予想以上に早かった為に研究棟の協力者を逃がす暇もなく、爆弾敵(ボマー)を隠す倉庫も失うハメになってしまった。

 だが、次の実験でもキャプテン・セレブリティを狙っていた彼にとって、これは思わぬ好機でもあった。

「今日はスカイエッグのイベント当日…ものスゴい大惨事になっちゃうかもっスね~♪」

 次々と爆弾敵(ボマー)がスカイエッグへと向かう。

 このまま塔に直撃して爆破が連鎖すれば、たちまち崩壊して大勢の犠牲者が出るだろう。それこそ、何十万という命が奪われる大災害になる。

 ――だがそれすらも事前に想定されてるなど、No.6は知る由も無かった。

 

 ゴゥッ!!

 

「!?」

 突如として青い炎――蒼炎が爆弾敵(ボマー)の群れを呑みこんだ。

 青い炎は、酸素が十分に供給され高温で完全燃焼している状態。その火力は炎系統では地上最強クラスと言われるエンデヴァーの〝ヘルフレイム〟をも凌ぐ。その熱量の前に、爆弾敵(ボマー)はことごとく焼き尽くされた。

 一体誰の仕業だと、炎が飛んできた方向を確認すると、視線の先には焼け爛れたようなケロイド質の皮膚が目立つ青年が両手から例の蒼炎を噴射し、袖を通した黒いコートをビル風になびかせながら宙に浮いていた。

「よう、名無しの権兵衛。ザマァねェな」

「……いや、いやいやいや…そりゃあナイでしょ」

 不敵に笑う青年・荼毘の登場に、思わずそんな言葉が漏れる。

 オールマイトを筆頭としたプロヒーローの情報は頭に入れてあったし、その〝個性〟も()()()から教えてもらっている。だからこそ、日本のヒーロー達がキャプテン・セレブリティのイベントに集まっているのはラッキーだと踏んでいた。

 しかし、そう思っていた矢先に立ちはだかったのは、まさかの一般人。完全なノーマークであった。

爆弾敵(ボマー)が起爆しない……細胞が完全に()かれちゃったか~……」

「成程、爆弾に変化する特殊な細胞で構成されてるってか」

 スマホを高速でタップするNo.6に、荼毘はボソリと呟く。

 おそらく爆弾敵(ボマー)は、スマートフォンから発する電磁波か何かで信号をキャッチし、それを受信する事で起爆できる仕組みなのだろう。どこまで届くかは不明だが、スマホが繋がる限りはどこでも爆破させる事ができると考えると、中々恐ろしいものだ。

 しかし彼の言動だと起爆剤が肉体を構成する細胞にも聞こえるので、完膚なきまでに、それこそ肉片一つ残らず焼却すれば無力化できるらしい。

「地頭いいんスね、浮浪者みたいな見た目なのに」

「育ちはまずまずいい方だったからな」

「そうっスか。でも、まだまだ在庫は残ってるんで、残りで勝負させてもらいますわ」

 No.6はスマートフォンを操作すると、荼毘が仕留めきれなかった爆弾敵(ボマー)が集中し始め、再生融合と増殖を繰り返してみるみる肥大化した。

 ビル並みに巨大化したそれが爆発すれば、相当な犠牲が出るだろう。そして、それに巻き込まれれば荼毘もNo.6も死ぬが……。

「……あー、お前アレだろ。あの爆弾と同じ細胞取り込んでるだろ」

「!?」

 荼毘の推測に、No.6は大きく動揺する。

 そう……改造(ヴィラン)を操る彼も自身の肉体に改造を施しており、その細胞で生きている。自らの体が激しく欠損しても再生できるからこそ、至近距離で爆弾を軽率に巨大化させられるのだ。

 この男はただの一般人ではない――No.6の警戒心は高まり、目の前の青年に注意が集中する。

「俺も自爆覚悟で焼き尽くしてもいいけどよ、それだと()()()()がうるせェからな……」

「……あー、そっちも迂闊に出れない事情があるってワケで? じゃあ好都合♪」

「させねぇよ」

 蒼炎を両手に灯す荼毘に、No.6はほくそ笑んだ。

 ただ巨大化しただけでは、ガサ入れに参加した相澤消太(イレイザー・ヘッド)に不発にされてしまう可能性がある。荼毘の規格外の火力ならば、起爆前に灰にしてしまうだろう。

 故に彼が取った策は、クラスター爆弾式。巨大化した爆弾敵(ボマー)を〝親〟とし、その腹の中で作った〝子爆弾〟を200体放出する事で、蒼炎を振り切って無差別爆撃を行う事だった。

(全然余裕っしょ♪)

 No.6は肥大化した〝親〟の爆弾敵(ボマー)を爆発させようと、スマートフォンの画面を押したが……。

 

 ――ウイルスが感知されました。至急、下記のボタンをクリックして詳細を確認して下さい。

 

「は?」

「あァ…?」

 素っ頓狂な声を出したNo.6に、荼毘も怪訝な表情をした。

 突然、スマートフォンの画面にウイルス感染の警告表示が出現したのだ。今まで起きた事のない事態に、思わず思考が停止する。

 その時だった。

 

 ドォン!!

 

「くが…っ」

 銃声が響いたかと思えば、No.6のスマホを持っている左腕が吹き飛ばされた。

 すかさず荼毘は炎を飛ばして傷口を焼き潰し、細胞の再生を阻止する。

 こうなってしまえば、左腕は元通りになれないだろう。痛がっている様子がないあたり、痛覚を遮断しているのだろうか。

「ボスの奥さん、流石は元公安だぜ」

「あの女は戦闘スタイルこそ異なるものの、〝個性〟の練度はトップヒーロー級だぞ? 射撃技術も「ホーミング」の〝個性〟を持つスナイプ以上だ」

「引退してこれだもんな。笑うしかねェ」

 拳をゴリゴリと鳴らし、ナックルダスターがコーイチを連れて姿を現す。

 その姿を見たNo.6は、嬉々とした表情を浮かべていた。

「……ハハ! どうもこんちは♪」

「……師匠、誰なんでしょうこの人?」

「いや、何者か全くわからん。わかるのは俺から盗まれた〝個性(オーバークロック)〟を手に入れているという事だけだ。聞きたい事は色々あるがな」

「〝オーバークロック〟……?」

 No.6のスマホを踏み壊すナックルダスターの言葉に、荼毘は咥えたタバコに火を点けながら目を細める。

 オーバークロック――それは、〝超速ヒーロー〟の異名で名を馳せた犯罪捜査専門のプロヒーロー・オクロックの能力。脳をブーストして思考と行動を加速する〝個性〟であり、極限まで集中すれば止まった時の中で自分だけが動けるような感覚で行動が行うことができる。戦闘だけでなく白昼堂々の隠密行動にも特化しており、逃走にも活かせるチカラなのだ。

「それにしても…こいつが再生能力を持ってる事に気づき、狙撃直後に瞬時に片腕を完全に封じるとはな。いいセンスだな、荼毘」

「荼毘さんみたいな人がヒーローだったら、スゴい心強いですよ!」

「……ハッ。生憎、俺はヒーローにはなりたくねぇし、なる資格もねぇよ……」

(くそっ……)

 軽口を叩き合う三人に加え、さらに遠くに身を潜めて銃口を向ける元公安ヒーローに囲まれ、No.6は動こうにも動けない。

 「オーバークロック」の要は脳機能の賦活による「認識と思考の加速による体感時間の遅延」であり、自身の認知や精神状態によっては加速率の加減速が変化する。言い方を変えると、むやみやたらに集中すると激しすぎる活動に脳が()()()を起こし、集中を乱されたり集中できない状態に入ると強制的に後手に回るという弱点があるのだ。

 

 誰よりも「オーバークロック」を熟知する無個性のヴィジランテ、ナックルダスター。

 異常とも言うべき高火力で爆弾敵(ボマー)を焼き尽くしたフリーター、荼毘。

 引退してなお驚異的な命中精度を有する元トップヒーロー、西丸火伊那(レディ・ナガン)

 

 コーイチはともかく、この三人の強者から逃げ切るのは、決して容易ではない。

 その上、この緊張状態では〝個性〟を用いて逃げきれても負荷が尋常でない為にすぐダウンし、待ち構えているであろう他の警察・ヒーロー達に捕まるのがオチだろう。

「これも…あの無個性区長の仕業っスか?」

「あいつだけではない。ちょっとした()()()()()()のおかげでもある」

「……あーハイハイ、そいつが俺のスマホをパーにした訳っスね……」

 もはや手の打ちようがないと悟ると、警察官とヒーローが一気に屋上に雪崩れ込んできた。

 これで完全に詰みだと理解し、No.6は溜め息交じりに「降参っス、降参……」と両手を上げた。

 その同時刻――

「区長、実行犯を取り押さえたようです」

「でかした! 仕事が早いね」

 秘書からの朗報に、西丸は拳を強く握る。

 事前に警戒されていたとはいえ、爆弾敵(ボマー)の脅威を押さえ込み、イベントとその会場を無事に守れたとなれば、これ以上喜ばしい事はない。自分に協力してくれた多くの仲間達や友人、ヒーロー、警察のおかげだ。

 そして、作戦実行中に乱入してきた元クラスメイトの助力も、見過ごす事はできなかった。

(まさかミカドが手を貸してくれるなんてね…)

 思い返すは、数十分前に西丸のスマートフォンに入った一本の電話。

 相手は後藤田水門。高校時代の元クラスメイトだった。

「ミカドの協力のおかげで、荼毘君達も怪我を負わずに済んだ。万々歳だ」

「……区長、彼は一体……」

「あとでお礼しに行くから、付いてくるといい。親切にメールで今の住居を教えてくれたしね。――作戦は終了だ、撤収しよう」

 作戦完了の旨を伝えるために、西丸は関係各所に連絡を入れてから現場を後にした。

 

 

 翌日、ニュースはクリスマスの事件の実行犯逮捕の報道で湧いていた。

 警察とヒーローに加えて民間の協力によって爆弾魔逮捕に至った事は、今後の個性社会における治安維持の在り方に一石を投じる結果となり、大きな話題となったのだ。

 しかし、当然世間には公表されてない情報もある。No.6の鑑定結果である。

 何と彼の血液には多種・高濃度の化学物質を含み、血液型もDNA型も判定不能という結果が出たのだ。警察は〝個性〟の影響による変質やトリガー投与の副作用など、多角的に探っているものの、未だはっきりした答えを出せていない。

 ――自分達が追っている(ヴィラン)は、本当に人間なのか?

 それが、鳴羽田における警察とヒーロー界隈の共通認識だった。

 

 

           *

 

 

 それから一週間後、新宿の某高層マンション。

 西丸は火伊那と相澤を引き連れ、No.6逮捕に際して協力してくれた元クラスメイトに礼を伝えに行った。

 エントランスのインターフォンを鳴らすと、すぐさま自動ドアが開き、そのまま指定された階数のエレベーターに乗って部屋に向かう。

「なぁ伸太郎……私も来る必要あったか?」

「居てくれた方が好都合だからね」

「好都合?」

 首を傾げる火伊那に西丸は微笑むと、目的の部屋のドアベルを鳴らす。

 玄関が開くと、そこにいたのはカジュアルスーツを着こなした黒髪の男だ。

「久しぶりだね、ミカド」

「やあ、伸ちゃん……うっわ、レディ・ナガン!! 連れてきてくれたの!?」

「せっかくだからね。昔からファンだって言いふらしてただろう?」

「相変わらず準備がいい奴だよ、お前は。ひとまず上がって」

 ドタバタする男――後藤田水門に招かれ、西丸達はリビングに上がった。

 応接室も兼ねてるのか、レザー製のベンチタイプ3人掛けソファと1人掛けソファが配置され、中央のセンターテーブルも高級感のある材質で統一されている。

 何より目に入ったのは、ミカドの仕事部屋と思われる一室。株取引用のトレーディングパソコンに加え、映画やマンガでよく描かれるハッカーの部屋のように複数のモニターとキーボードが整然と置かれている。よく見ると最近話題の小型スーパーコンピュータまであって、かなりの金が掛かっていそうだ。

(どう考えても、只者じゃないな)

 相澤が目を光らせると、ミカドは三人に自己紹介した。

「あらためて、アセット・リサーチ・インク…「ARI」へようこそ。代表の後藤田水門だ」

「なっ…「ARI」だと!? って事は、あんたが〝ウォーターゲート〟か!!」

「本当に実在したのか……てっきりありもしない噂の一人歩きだと…」

「へ~……やっぱヒーロー連中は俺の事も探ってたんだ」

 ミカドは納得した様子で笑みを浮かべると、コーヒーを淹れるからと先にソファに腰掛けるよう促す。

 全員が座ると、西丸は驚きを隠せていない二人に尋ねた。

「二人共、知っているのか?」

「ヒーローだった頃……〝上〟から聞いた事がある」

 火伊那は公安にいた頃を思い返す。

 

 曰く、この日本の社会には謎の諜報機関が存在し、その実態はヒーロー公安委員会ですらほとんど把握していないという。

 わかっているのは「ARI」というアルファベットの名称と、それに付随して判明した創立者と推測される〝ウォーターゲート〟というコードネームのみ。構成員・活動拠点・情報源……全てが不明で、そもそも実在する組織かどうかすら怪しいと考えている者が多かった。

 一方でヒーローや警察が把握していない情報が度々匿名で提供されており、それが重要指名手配犯の逮捕や未解決事件の早期解決に繋がった事もあったので、諜報機関「ARI」は実在する組織で、情報を提供したのも〝ウォーターゲート〟だろうという声も少なくなかった。

 しかし、結局は真偽不明のまま時間だけが過ぎていき、インターネット上の都市伝説扱いとなっていったという。

 

 つまりヒーローと警察、公安の認識では「ARIは陰謀論」だったのだ。

 それが目の前に確かに存在しているとあっては、驚くのも無理はない。

「まさか実在する上に、伸太郎の元クラスメイトだとはな……」

「国務大臣に国立の研究所の室長の次は、正体不明の諜報機関の創立者か。どうなってんだ」

「悪いけど元クラスメイトの卒業後の進路までは把握してないから」

 新旧ヒーローの視線に、西丸は肩を竦めて答える。

 ミカドはコーヒーを人数分淹れると、それぞれの前に置いて話し出した。

「とりあえず、何か聞きたい事あるだろ? 普段ならビジネスとして金を取るけど、レディ・ナガンがいるから特別サービスで言える範囲なら無料(タダ)で教えたげる」

「聞きたい事は山ほどあるが……まずはあんたが何をしてるかだ」

 まず名乗りを上げたのは、西丸が最も信頼するプロヒーロー――相澤だ。

 彼が問いたいのは、ミカドの活動内容だった。

「俺は表では株主をやって、その一方で情報ブローカーを営んでいる」

「ARIは裏の顔って事か?」

「本業だけどな。高卒後に死んだ親の遺産を全部株に替えて大成功、その資金を元手に設立させたのがアセット・リサーチ・インク……民間の諜報機関(インテリジェンス)って事だ」

 ミカドはコーヒーカップに口をつけ、軽く舌を潤す。

「情報屋は集めた情報を売り買いするのが生業……情報の収集・分析・整理で飯食ってる。その辺で聞いた噂話なら10000円以下で取引するが、信憑性の高さと事の重大さが上がるにつれて値段を吊り上げていく。調査依頼はもっと高くつくぜ? 時間もかかる上に一から情報集めるんだからな」

「どうやって情報を集めてる?」

「地道な諜報活動と思っておけばいいさ」

 諜報活動は、いくつかの手段がある。

 新聞・雑誌・テレビ・インターネットなどのメディアを継続的にチェックした上で、書籍・公刊資料を集めて情報を得る「オシント」。

 有識者から話を聞いたり、重要な情報に接触できる人間を協力者として獲得・運営し、そこから情報を入手する「ヒューミント」。

 通信や電子信号を傍受する事で情報を得る「シギント」。

 これらの手段を駆使して、ARIは日本中のあらゆる情報を集めてビジネスを展開しているという。

「今のメンバーはお前一人か?」

「募集中だけど、今は二人決まっている。別の拠点でシギントとオシントを担当している。ただ二人の身元と別の拠点の位置情報は黙秘させてもらう」

 続く火伊那の質問にも、ミカドは笑顔で応える。

 だが民間とはいえ諜報機関らしく、決して情報を垂れ流しにする気はないようだ。

「伸ちゃんは何かないの?」

「…スカイエッグへのテロ行為阻止に協力してくれた事には感謝してる。ただ、どうやってやったのかは気になるかな」

「……ああ、あれか! なりすましWi-Fiを使ってフィッシングメール飛ばしたんだ。あの辺りはフリーWi-Fiが弱いからな」

「じゃあ、完全な善意でそんなマネを?」

「昔のよしみってヤツだ。それに伸ちゃんが政治家やってる世の中は面白いからな。――おっと、今になって法律違反で逮捕だなんて言うなよ、イレイザーヘッド。俺のサイバー攻撃が遅れてたら、何人犠牲になったかわかんねぇぞ? その時は是が非でも司法取引に持ち込むけどな」

 ミカドに話を振られ、相澤は頭を掻きながらそっと目を逸らす。

 事件後の取り調べを担当した刑事から、No.6は突然のフィッシングメールさえなければ無差別爆撃を強行できたと供述していると聞いていた為、もし荼毘の火力で制圧できなかったら悲惨な未来が待っていたと予想できる。オールマイトが気づいて駆けつけてくれるかもわからない状況だった以上、ミカドのサイバー攻撃はNo.6の思惑を阻止した決定打と言える。

 この社会は「ヒーローは完勝が前提」「市民を守れて当たり前」が常識となっている。テロ行為にヒーローサイドがまるで対処できなかったと報道されれば、火消はかなり困難だっただろう。そう考えると、この件は見なかった事にした方が賢明だと思われた。

「さて、俺に聞きたい事はこんなモンかな? 今度は俺から伸ちゃんに訊いときたい事がある」

「僕に?」

「次の都知事選、出るか?」

 ミカドの一言に、西丸は目を見開く。

 確かに今年で西丸は二期目の任期満了となり、彼自身も都知事の座を狙っているのも事実。

 それがミカドと、どう関係するのか。

「ここだけの話なんだけどな……次の都知事選に出る候補者、心求党の支援を受けている。永田町界隈は大盛り上がりだ」

「またあの党か……」

 西丸は眉間に皺を寄せる。

 心求党と言えば、将来の野党第一党だと目される一方、支援団体の創立者があの異能解放軍の元メンバーという厄介な政党だ。

 あそこの党首から推薦された候補者が都知事になろうとしている――それは好ましい状況とは言えない。

「伸ちゃん、無所属だからバックに誰もいないだろ? 俺が手伝ってやるよ」

「……報酬は出せないよ? 公職選挙法に引っかかるからね」

「心配すんな。俺が欲しいのは心求党の裏の一面だ、報酬に興味はない。億単位の金くらい、株主やってる俺ならその気になればすぐ稼げるしな」

 そう言ってミカドはニッ…と笑う。

 やはりこの男の本命は情報――心求党の裏の顔を暴き、弱みを握る事に違いない。

「それにしても皮肉なもんだ。ヒーロー公安委員会が白昼堂々狙撃してでも排除しようとした無個性の男が、日本で最も大きな影響力(プレゼンス)を持ち、人気がオールマイトに届こうとしているなんてな」

「!?」

「ミカド、君はまさか…!!」

()()()()の真相はもう辿り着いてる。伸ちゃんが撃たれた数日後、実際に現場に行って調査したしな」

 全てを見透かしたようなミカドの瞳に、西丸と火伊那は思わずゾッと背筋が凍る。

 公安がもみ消した事件の真相を、彼は何年も前に把握していたのだ……!!

「だが俺はそこまで冷酷じゃない。誰にも言わないから安心してくれ。俺は麗しきレディ・ナガンのファンなんだしさ」

「君は油断ならない人間だとは思ってはいたけど…」

「言ったろ昔……ガキの頃から俺は噂話が大好きなのと、約束はキッチリ守る男だって。――で、どうする? 俺を広報担当にする?」

「ああ。だが法に則ってやるんだよ?」

「相変わらずの即判断だな」

 交渉が成立し、互いに握手を交わす。

 するとミカドは、懐からメモを取り出して相澤に渡した。

「これは……」

「俺の連絡先だ……ああ、あと俺は情報ブローカーだから、売る方も買う方もやれる。いい情報持ってたら売ってくれ」

「情報漏洩しろって言うのか?」

()()()()()()()とでも上層部に言っておきゃいいさ。アングラ系ヒーローなら別に問題ないだろ? ああ、もし売るんなら公安の情報をなるべく頼む。あいつらムカつくから」

「おいおい……」

 ミカドの爆弾発言に相澤は呆れ、西丸は笑うしかなかった。

 

 

 会談を終え、西丸達が帰宅した後。

 ミカドはある人物と連絡を取り合っていた。

「……で、何かいい情報掴めた? ジェントル」

《生憎だが、君が望むような情報は何も出てこない。ラブラバのハッキング技術でも中々突破できない》

「まぁ予想はしてたけど……流石にガードが堅いな、デトネラット社」

 ミカドは電話越しに返事を返しながら、コーヒーメーカーでエスプレッソを作る。

 大企業・デトネラット社――CMも全国ネットで展開しており、誰もがその社名を聞いた事があるライフサポートメーカー業界の顔役だが、ミカドはその社員だった者から「違法サポートアイテムの密造」という内部告発も同然の情報提供を受けていた。

 現行法上、サポートアイテムは系統によっては武器と同等の扱いになる物も多いので、厳正な審査や規制の対象となる。その為、公的な手続きを踏まねばリコール対象となり、最悪の場合は企業責任として巨額の罰金や罰則、社会的信用の低下といったリスクを伴うのだ。ましてや大企業ともなれば倒産の危険性も否定できない。

 大企業がそれを承知で密造しているとなれば、その目的は単純な金儲けではないはずだ。間違いなく裏に巨大な陰謀が隠されている。

《どうする? このまま続けるかね?》

「今年で伸ちゃ…西丸区長が任期満了になる上、東京都知事選も近い。一度切り上げて心求党を調べるぞ。あそこもキナ臭い」

《了解。私はラブラバと調整をしよう》

「ああ。よろしく頼むよ」

 通話を切ると、ミカドはベランダに出る。

 夜の大都会を一望しながら、彼は静かに呟いた。

「…頼むぜ伸ちゃん。オールマイトも時間がないんだからよ」




というわけで、No.6は一旦退場します。
でもまだ出番はあるので、ご安心ください。(笑)

そんな中、ついに姿を現した後藤田水門(ミカド)。
株主と情報屋の二つの顔を持ち、株で儲ける一方で色んな人達と情報商材の取引をしてます。株主総会でも他の株主と情報交換してるので、それも情報源です。彼と接触するには、新宿のある雑居ビルにある穴場カフェに行く必要があるとか。
一応〝個性〟は持ってますが、そこはいつか紹介しようかなと。
また、「ARI」のメンバーはこれから増えますが、原作のキャラが関わるのでお楽しみに。

次回こそ都知事選やります。
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