目指せ、脱ヒーロー社会!   作:悪魔さん

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とうとう都知事選。
まぁ、結果は見え見えですけど。(笑)


No.23 西丸都知事、爆誕

 季節は過ぎて3月某日――西丸はいつになく真剣な面持ちであった。

 何を隠そう、今日は退任式。8年に及ぶ鳴羽田での西丸政権が今日で終わり、後任である石井副区長が新区長に任命される日なのだ。

(思えば、激動の8年だったな……)

 西丸は思い返す。

 

 26歳の若さで区長に就任し、憲政史上最年少にして史上初の無個性区長の誕生という快挙を成し遂げた。 

 副業特別納付金制度や学校の個性推薦枠の廃止、区内の小中学校の給食費無償化に治安改善政策など、政治改革・財政再建を推し進めた。

 東鳴羽田でのパークマネジメントによる開発などをはじめ、元(ヴィラン)の就労支援を全面的にサポートし、行き場を失った前科者達を社会復帰に導いた。

 組織ぐるみと思われる未曽有の(ヴィラン)犯罪に対応し、実行犯の逮捕に貢献した。

 

 当然、やり切れなかった事もあるが、8年間を総括すると自分の区政は大成功と言える。

 色々とあったが、最終的には鳴羽田区の知名度も上がって、警察から「柄が悪い」と称された治安も今では東京有数の安全都市へと成長した。 

 自分の役目はそれなりに果たせただろう。

「区長、そろそろお時間です」

「そうか……今行く」

 秘書の立華に促され、西丸は部屋を出る。

 退任式は庁舎ホールにて行われる。そこに、区議員や職員、報道陣などが集まる。 

「いよいよですね……」

「ああ……」

 西丸の歩みはどこかゆっくりとしている。

 別れとはいつだって名残惜しいものだ。

 自分の手塩にかけて育てたこの街を去る事に、少なくとも寂寥感は感じる。

(もっとも、都知事になればいつでも視察に行けるけど)

 8年に及ぶ区長としての責務を全うし、西丸は都知事選に挑む。

 政権与党内で決める総理大臣と違い、東京都知事は1000万の都民から直接選挙で選ばれる役職だ。リアルな人気に支持されつつ、アジアやヨーロッパの一国に並ぶ予算(カネ)を扱える……ある意味、権力と責任と扱える資金のバランスがちょうどいい塩梅のポストだ。

 都知事になれば、光と影の調和を重んじた「脱ヒーロー社会」が実現し、超人社会に風穴を開ける事ができる。世の為・人の為になる事に〝個性〟や自己犠牲の精神、ヒーローへの道は必要ないと証明できる。

 今日の退任式は、門出に過ぎない。自分に課せられた使命はここから始まるのだ。

「区長、皆さんがお待ちです」

「ああ…行こうか」

 立華に促され、西丸は扉を開ける。

 8年分の感謝と、これから先の都政への期待を胸に。

 

 

 ニュース速報で流れる、西丸の勇退。

 それを新たな工事現場の仮設事務所で知った荼毘は、弁当を食べながらテレビを観ていた。

《先程、鳴羽田区の西丸伸太郎区長の退任式が行われ、後任は副区長であった石井達三氏に決定しました。また、西丸氏は東京都知事選に出馬する事を発表し、トリガー撲滅を掲げた薬物戦争の終結を宣言しました》

「ボス、区長辞めたんだな……」

「都知事選に出る、か……東京のゴッドファーザーに昇格か?」

 現場監督はタバコを吹かしながら、ニヤケ顔で言い放つ。

 西丸の改革により、鳴羽田区では超人社会で生き辛い人々・行き場を失った人々の暮らしが年々改善傾向にある。それは区内の再犯率の劇的な低下と検挙率の高さに如実に現れている。

 何より彼は元クラスメイトの法務副大臣に協力を仰ぎ、「異形型」の名称を「平生型」に変更させたという功績がある。日本の〝個性〟の歴史における根強い社会問題にメスを入れた事実は、都知事選においては絶大な影響を及ぼすだろう。

「今回の選挙は西丸ともう一人の……何つったっけな……」

(もり)(もり)()だろ」

「そうそう。あいつが色んな政治家の支援受けてるらしいが、キナ臭いのも混じってる。まぁ、都民はそこまでバカじゃねぇとは信じたいが」

 現場監督は呆れたように笑う。

 するとそこへ、思わぬ珍客が事務所を訪ねてきた。

「すみません、()()イサム社長はいらっしゃいますか?」

「ん? おい、誰だ!」

「ちょっと待て、あんたそんな名前だったのか」

 声を荒げる現場監督の本名を知り、荼毘は驚く。

 無理もない。基本的に周囲はほとんど「監督」と呼び、荼毘自身も彼の本名にこれっぽっちも興味を持たなかったため、ついぞ知る機会が無かったのである。

「いやぁ、探したよ荼毘君。戸籍ない人間は久しぶりだったから」

 軽い調子でパーカーとジャケットを重ね着した男は、荼毘に目を向けた。

「……誰だ、あんた」

「俺は後藤田水門……しがない情報ブローカーさ」

 不敵な笑みを浮かべるミカドに、荼毘は水色の瞳を向けた。

 

 

 同時刻、法務省。

 西丸の区長退任のニュースをスマートフォンのネットニュースで知った大泉は、感慨深い様子を見せていた。

「ついに動いたな、マル……」

 副大臣室で大泉は一人呟く。

 彼がもし東京都知事になれたら、超人社会は大きく変わる。鳴羽田区での政策を都政レベルで行い、不理解と不寛容という社会の分断を乗り越えてくれるはずだ。

 無個性という絶対的ハンデを物ともせず、明晰な頭脳と柔軟な思考、そして広い視野と寛容性で常識を変えた男の門出を心中で祝いつつ、大泉は目の前の案件に取り組もうとした。

「さて……と、とりあえず書類を片づけるか」

 休憩を終えて仕事に取り掛かろうとした矢先、法務大臣補佐官が副大臣室の扉をノックした。

「副大臣、失礼します。お客様です」

「ああ、もうそんな時間か。通してくれ」

 大泉の了承を得ると、大臣補佐官が来客を招き入れる。

 姿を現したのは、右目周辺に傷があるスーツ姿のネズミっぽい動物。

 人間以上の頭脳という〝個性〟が発現した世界で唯一無二の存在――ヒーローを養成する国立雄英高等学校の校長・()()であった。

「やあ!! こんにちは、大泉法務副大臣!!」

「法務省へようこそ、根津校長」

 応接用のソファに腰掛け、大泉は根津を迎え入れるとコーヒーを淹れる。

 出された一杯を根津はまず一口飲み、喉を潤す。

「で、わざわざ法務省に来るとはどんな要件ですかな」

「まず最初に……異形型の名称変更、心から感謝するのさ」

 根津は深々と頭を下げた。

 個性道徳教育に多大な貢献をした「世界的偉〝人〟」と称えられる彼を以てしても、異形型の法的定義を変えるには至らなかった。公式な場面や社会的地位の高い人々の間ではあまり使われなくなっても、根本的な解決には程遠いのが現状だったからだ。

 だが、政府が平生型という新たな名称に変更・正式認定した事で、異形型という名称は完全撤廃される運びとなった。国が答えを出せば学術的な面でも解決し、超人社会の抱える大きな社会問題の一つに幕引きが見えてきた。

 その根回しをした大泉には感謝してもしきれないのが根津校長の本音だが、当の本人はあくまでも説得しただけだと返した。

「むしろ感謝を言う相手は、俺よりもマルの方だ。あいつが政府に意見書を提出し続けて、俺はその手助けをしただけだからな」

「西丸君か……」

「あいつは計り知れねぇ奴だ。思考の方向性が一線を画している。東京都知事になりゃ、きっと俺達を超える大仕事をやってのける」

 語気を強めて言い切る大泉は、西丸に対する信頼がひしひしと感じ取れた。

「東鳴羽田高校のOBは違うね。いや、正しく言うと西丸君の世代かな?」

「それより、本題は何だ? それだけ言いに来たわけじゃないだろ」

 根津に話を本筋に戻すように大泉は促す。

 ここに来て単なる挨拶で終わらない事くらい、法務副大臣という地位まで上り詰めた人物ならわかる事だ。

 根津校長は微笑みを浮かべたまま、大泉に向き合う。

「意見交換さ。文科大臣とはすでに終えてるけど、君の方がより柔軟な考え方ができるだろうからね。官僚的解答ってヤツさ!!」

「要するに文科省の公式回答つまんなかったんだろ」

 ハハハハ、と笑う根津校長に大泉はジト目になるのだった。 

 

 

           *

 

 

 都知事選の候補者の選挙活動が始まり、来週には投開票を控えた4月某日。

 西丸は対決相手である元国会議員の森守男氏と共に、討論番組に出演していた。

「本日司会を務めさせていただく(みや)()(だい)(かく)です。西丸さん、森さん、よろしくお願いいたします」

「「よろしくお願いします」」

 MCの大角に、二人は軽く会釈する。

「さて、まず最初の質問に入りますが……お二方はそれぞれ、都知事になった暁にはどのような社会を実現したいのでしょうか?」

「私は「個性解放社会」を実現します。今の社会は個性抑圧社会で、身体機能の一部を封印して生活を送る不自然で窮屈な生活は強要されるべきではありません。持てる能力を自由に行使するのは人間にとって当然の権利であり、これは今すぐにでも是正すべきだと思ってます!」

 森の力強い言葉に、スタジオがどよめく。

 しかし、隣の西丸は表情一つ変えず冷静な面持ちだ。

「成程。西丸さんはどうですか?」

「僕は「脱ヒーロー社会」ですね。区長時代から描いていた未来予想図を都政で実現させたいと思っています」

 西丸の言葉にスタジオは静まり返った。

 宮城も一瞬固まると、すぐハッとなって尋ねた。

「脱ヒーロー社会…ですか?」

「皆さんにとってヒーローは、清く正しく絶対に負けないっていう認識だと思ってます。……でもヒーローだって辛い時がある。泣きたい時もある。弱音を吐く事だってあります。今の社会はヒーローの負担がスゴい重く、年々増加傾向にあるんですよ。ヒーロー側が潰れてしまうのも時間の問題でしょう」

 まさかの主張に、スタジオがざわついた。

 ヒーロー飽和社会でありながら、ヒーローが使い潰されそうになる社会――西丸はそう捉えているのだ。

「ヒーローが潰れるという事は、この社会はもう保たないと?」

「このまま手を打たねば、の話です。治安維持、犯罪対処、救命救助活動、エンタメ……あらゆる分野にヒーローが組み込まれてるのが今の状態。そこに公私問わず多様な機関を介入・連携させ、役割を多極分散させる事でヒーローへの依存を徹底的に減らすのが、僕が目指す脱ヒーロー社会の方針の一つです。都知事になった際には他の公約実現と同時並行で、迅速に各機関に働きかけます」

(これが西丸伸太郎……幹部の皆様も頭を悩ませる訳だ……!!)

 二人のやり取りを眺めていた森は、平静を装いつつも内心は焦燥に駆られていた。

 堂々とした立ち振る舞い、1つの質問に10の解答で応えるような喋りっぷり、淀みのない言動。

 インパクトはどちらが勝っているか比べるまでもない。現に会場の空気は西丸に傾きつつあり、優位に進められていると言っても過言ではない。

「ありがとうございます。では次に、当番組で行ったアンケート結果で、気になる公約についてお話をお聞きします」

 

 

 東鳴羽田、コーイチのペントハウスにて。

「もうこの時点で勝敗決まってるな」

「まだ投票これからなのに?」

 食事中のコーイチ達は討論番組を観ていたが、ナックルダスターは西丸の勝ちを確信していた。

「どう考えても西丸の勝ちだな。森という男は経験は豊富なようだが、政策が心求党の影響を受けすぎている。実質、バックにいる政治家共の代弁者だ。西丸と違ってオリジナリティに欠ける」

「「あー…」」

 区長を務めた頃の西丸を思い出し、ポップとコーイチは苦笑いした。

 国政政党が支援すると、 公認候補には強固な組織票の上乗せや活動資金の提供、選挙に精通したスタッフの派遣に知名度の補完などの恩恵がある。一方で党の方針に従う必要が生じ、自身の独自性や地元の意向を反映しにくくなるという弊害があり、当選後はそれがより顕著に現れてくる。

 特に森が支援を受けている心求党は、政界でも高い求心力を誇る花畑孔腔が党首を務める政党だ。野党推薦の候補が東京都知事になるのは、国会における政局にも波紋を呼ぶだろう。

《森さんはヒーローだけでなく、民間人にも許可証とサポートアイテムを与えて治安維持に貢献させようという事ですが……西丸さんはどうするお考えですか?》

《いきなり参加させるのは間違いですよね。不慣れな活動、取り分け犯罪の取り締まりは自分だけでなく周囲の市民も大勢巻き込みかねないので》

《では、西丸さんの公約にあるこの「首都防衛力強化」は森さんとは違うと?》

《森さんはいきなり民間からですけど、僕はまずヒーロー制度から変えていきます。先程言いましたけど、歩合制がヒーロー活動をややこしくしてるんですよ。成果が出ないと低収入になるから、芸能活動とかグッズ展開とかのタレント化が進み、公務員本来の仕事から逸脱していく。だからちょっと言葉悪いですけど、お前ら絶対公務員って事を忘れてるだろって話なんです》

「本当に容赦なく言うなぁ、西丸さん……」

 番組内で堂々とヒーロー批判を展開する西丸に、コーイチは若干引いていた。

《では、どうするおつもりですか? 都知事になったら》

《都内を活動区域とするヒーロー限定ですが、補助金を出します。返済不要の資金を提供し、その代わりに治安維持活動に一本化させる。当然、厳正な審査を入れますよ? 正義の味方に着服とかされたらシャレにならないですから》

「超スレスレの事言ってない!?」

 ほぼ放送事故に近い発言に、ポップは口をあんぐりと開けた。

 それは、同時刻に同僚と区内の居酒屋で観ていた相澤も例外ではなく。

「……」

「Oh……」

 相澤だけでなく、彼の同期である〝プレゼント・マイク〟こと(やま)()ひざしも言葉を失った。

 朗らかな笑顔でスタジオがざわつく事さえもさらっと言うのが、西丸なのだ。

 下手すれば中断してCMに入るのではと観ている人々をハラハラさせる討論番組は、宮城アナの見事な司会者ぶりのおかげで予定通り進み、いよいよクライマックスを迎えていた。

《そろそろお時間なので、最後にお二人の選挙の意気込みを聞いて終わりにします。森さん、よろしいですか?》

《はい!! 個性解放社会の為、全力を尽くします!!》

《森さんは熱く、そして力強く訴えました。西丸さん、いかがでしょうか?》

《はい。この選挙はこの国の未来を大きく左右します、必ず投票に来てください!! 皆さんの貴重な一票で、未来を作りましょう!!》

《ありがとうございました。では、以上でお時間が来ましたので終了します》

 討論番組が終わった後、相澤と山田はしばらく黙っていた。

「……どっちが勝つと思う?」

「西丸さんだろ、どう見ても。そもそも実績が圧倒的すぎる」

「だよなぁ」

 山田は苦笑いした。

 番組は公平に二人を扱っていたが、終始雰囲気は完全に西丸のペースに乗せられており、独壇場に近い状態だった。 

 区長として鳴羽田区の再建に貢献した男を完膚なきまでに打ち負かすには、同等以上の実績と相当なアピールが必要不可欠。政党の支援を受けても、こればかりはどうにもできない。

 この討論番組で西丸の王手が見え始め、二人は都知事選の結末を悟った。

 

 

 二週間後、投開票当日。

 都知事選は投票率が80%を超え、過去最高の数値を記録。結果は西丸が特別区及び全市町村で森を上回り、圧倒的な差を見せつけて都知事に当選した。やはり鳴羽田区での画期的かつ奇抜な政治改革・財政再建の実績が関心を集め、都民は圧倒的多数で西丸を選んだようである。

 後に「史上最強の都知事」と称され、ヒーローの卵から(ヴィラン)グループのリーダーまで様々な若者に絶大な影響を与える事になる、西丸伸太郎東京都知事の誕生であった。 

 

 

           *

 

 

「つくづく、忌々しいね」

 国内某所。

 ある高層ビルの一室で、鳴羽田における一連のトリガー事件の黒幕――オール・フォー・ワンは、西丸が都庁に登庁したというテレビのニュースに耳を傾けながら呟いた。

 鳴羽田の街に〝トリガー〟をバラ撒いていた彼は、時代の申し子である西丸をどうにか失墜しようと計略を巡らせた。蜂須賀の件も、No.6の件も、「オールマイトを遠ざけつつ、自身の目的を遂行する方法を模索する為」だけでなく、彗星の如く現れた目障りな無個性の政治家を排除する目的で起こしたものだった。

 しかし、その策謀がことごとく阻止された。武力ではなく、知力と政治力によって、魔王が張り巡らせた陰謀を叩き潰したのだ。

(No.6も捕まった以上、鳴羽田での実験はここまでだね。ひとまず実験の成果は得られたが……これからは市井の中からも英雄が現れる可能性だけでなく、無個性の人間でも「王」となる可能性にも注意しないといけないね)

 オール・フォー・ワンは結論付ける。

 世界総人口の約8割が超常能力〝個性〟を持つに至った超人社会でも、社会基盤や権力構造は大昔から基本的に変わっていない。権力の世界は人間力がものを言う領域で、超常能力が政治を動かす事はないのだ。

(それに厄介なのは、彼の政治に不満を持つ人間がほとんどいない事だ)

 それこそが、思うがままに悪行を重ねる魔王の、唯一の想定外。

 西丸は〝悪〟が生まれやすい事象にメスを入れ、根強い社会問題に風穴を開けた。特に異形型の名称を変更させられたのは、個性差別を利用しての悪事に著しい支障をきたす。

 個性社会の闇を熟知する彼にとって、異形差別は配下を揃えるのに格好の餌だったのに、それを取り上げられたのだから。

「……今回は僕の負けだと認めよう、西丸君。だが、僕が最高の魔王になるまでの物語はまだ終わっていない」

 最後に勝利の女神が微笑むのは自分なのだと、魔王は愉快そうに嗤ったのだった。 

 

 

 所変わって、西丸一家が住む高層マンション。

 区長から都知事になった西丸は、ベランダで選挙運動の協力者であるミカドと一服していた。

「パイプタバコか…紙巻き主流の時代に珍しいじゃんか」

「ミカドこそ、シガリロ吸う人はそうそういないよ」

 二人は紫煙を燻らせながら談笑する。

 300万円の供託金に加え、今回の都知事選では2400万円もの必要経費がかかったが、その全てをミカドが肩代わりした。SNSを駆使したメディア戦略や選挙運動用のビラ及びポスター製作など、西丸の選挙運動を陰で支え、圧倒的な勝利へ導いた。

 ある意味では、キングメーカーやフィクサーと言ってもいいのかもしれない。

「……で、わざわざ僕の家に来たのは、先日の選挙の労いの他にも何かあるんだろう?」

「ああ、これを渡しにね」

 ミカドはリュックサックから紐付きの茶封筒を取り出し、西丸に手渡した。

 その表にはマル秘の判子が押されており、秘匿性の高い案件――それこそ個人情報や企業秘密と言った内容が含まれていると思わせる。

「これは?」

「お前と仲の良いフリーター君、ちょっと調べさせてもらったよ。大変だったぜ? わざわざ静岡まで足運んだ上、()()()(だけ)登るハメになったんだ」

「荼毘君を?」

 西丸は目を丸くした。

 ミカドと荼毘の接点はほとんどないはず。それでも彼の素性を調べたという事は、何かに気づいたという事なのだろう。

 ガーデンテーブルにパイプを置き、封を開けて彼がまとめたであろう資料に目を通した途端、西丸は絶句した。

「……ミカド、本当なのか……!?」

「お前マジでファインプレーだよ、もし(ヴィラン)になってたらオールマイトでも手に負えねぇ事態になってた」

 ミカドは一筋の汗を流して告げた。

 もし公になれば、あらゆるところに波及する程の超特大級のスキャンダルになり、当人どころか業界全体に大ダメージだ。

 ただなぜだろう。脳内で「ザ・自業自得だぜ」という荼毘の笑い声が再生されている気がする。

「……とりあえず、今は()()()()()()()かな」

「まぁ…近い内に本人から言い出すだろうから、それまで黙ってるのが無難だろうな」

 青白いタバコの煙が、夜空に向かって立ち上る。

 それを眺めながら、西丸は気に掛けている若者が正しい選択をしてくれる事を祈るのであった。




ここまでが、本作の第一章だと思ってください。
次回からはヴィジランテのキャラを交えながら、本格的に原作キャラを登場させます。
コーイチ君達だけでなく、出久君やその他のヒーローとも関わらせていこうかなと。

ちなみに現場監督の本名、モデルはお察しください。
それと今回出た森守男は、多分もう出番ないでしょう。
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