なので出久君達が中学生の頃ですね。
ついに西丸都政が始まった。
都知事に就任した西丸は、鳴羽田区での経験と実績をもとに様々な改革を行った。
――副業特別納付金制度を「第三の財源」とし、幼児教育・保育の無償化や高校授業料の無償化、教師の処遇改善などを実現。
――就労支援を事業拡大させ、より多くの就労者を受け入れて雇用を拡大し、元
――無電柱化や木造住宅密集地域の解消など、あらゆる危機から都民の命と生活を守る「セーフシティ・プログラム」を推進。
その柔軟な発想と相変わらずの高い行動力は、まさに東京のリーダーに相応しいものであった。
しかし政権運営に躍起になっていたからか、彼は
そのミスの正体は――
「相澤さんが引き抜かれた……」
「お察しします…」
どんよりとした空気を纏う西丸に、秘書を継続する立華は心配そうに呟いた。
西丸の区長時代を語る上で欠かせない存在が、抹消ヒーロー〝イレイザー・ヘッド〟こと相澤消太だ。独立独歩主義で荒事に手慣れた彼は、政治家として合理性を求める西丸から厚く信頼され、鳴羽田区の治安改善に大きく貢献した。その実績はヒーロー業界では非常に有名で、西丸と相澤のコンビは「都市型犯罪に対しては無敵」とも呼ばれる程だった。
だが、相澤は突如として西丸の下を離れる事になったのだ。その理由は、雄英高校への教師着任であった。
事の発端は、彼の高校時代の先輩にあたる「18禁ヒーロー」ミッドナイト――本名は
これを根津校長は承認し、あれよあれよと話が進んでいった。
相澤は「西丸さんと組んでる方が性に合う」「教師なんか不合理」と何度も意見したが、先輩達のゴリ押しに敵わず、今年度からヒーロー科の担任を渋々受け持つ事になったのである。
「本当にすみません、俺じゃあ止められなかったんで……連絡もロクにできず」
「いや、気にしなくていいよ…僕が気づけば都知事として庇えたというだけの話なんだ……あ~、やっちゃった……」
申し訳なさそうに言う相澤に、西丸はがっくりと肩を落とした。
東京は他にも多くのプロヒーローがいるが、相澤ぐらい信頼できる人物は中々いない。そんな優秀な人材を失ってしまったのは痛手以外の何物でもない。
「とにかく、後任を探さないとな…」
「……東京で活動してるプロヒーローだと、インゲニウムとかいいんじゃないんですか? チームワークに優れてますし、人海戦術もできる」
相澤の提案に、西丸は一理あると顎に手を当てて考え始める。
ターボヒーローとして知られるインゲニウムは、サイドキックやサポートスタッフなどを中心とした「チームIDATEN」というチームを組織している。区という狭い範囲なら相澤だけでも事足りたが、都内全域となると相応の人数も必要になってくる。
それに彼は既に一区画を預かる程の優秀なプロヒーローであり、相澤とは別方向の合理性を兼ね備えている。確かに適任だろう。
「……虎太郎、あとでインゲニウムの事務所に連絡を入れといてくれないか?」
「わかりました」
西丸はそう言いながら、執務室のデスクからある物を取り出した。
「それは…」
「8年分のお礼、にしては軽すぎるかな」
手渡ししてきたのは、包装された箱。
開けてみると、中には目薬が入っていた。相澤がドライアイを患っている事を知り、餞別として用意していたらしい。
「あなたのおかげで、鳴羽田区は生まれ変わった。心から感謝しています」
「…いいですよ、仕事ですから」
西丸の言葉に相澤はぶっきらぼうに返す。
「色々ありましたけど、まあ……とてもいい経験をさせていただきましたよ」
「……また戻って来てくれると嬉しいかな」
「根津校長が許してくれたらの話ですね」
こうして〝イレイザーヘッド〟と〝鳴羽田のゴッドファーザー〟の関係は、一つのピリオドを迎えるのだった。
*
盟友との関係に区切りを迎えても、西丸の多忙は変わらない。
区長と違い、扱う予算の規模や住民人口、管理するインフラ範囲が巨大であるからだ。当然それくらいは百も承知で西丸は務めてるが、やはり思った以上に疲れる。
しかし、それは区長時代も経験している。そもそも新体制への移行は一番バタバタする時期なのだ。いずれこの多忙も慣れて円滑に事を進められるようになるだろう。
そんな事を考えながら予算編成に勤しんでいると、立華が執務室をノックして訪ねてきた。
「失礼します、西丸都知事。例の一件です」
「ああ、来てくれたんだね」
西丸はイスから立ち上がると、ある女性職員を出迎えた。
「は、初めまして……」
「初めまして、
西丸は朗らかに笑いながら、宙に浮いた二つの目玉の〝個性〟を持つ黄土色の髪の女性に挨拶をする。
羽飼遠見絵は「とある事情」で公安に保護された女性であり、戸籍と姓を変えて暮らしている。
「あ、あの……そちらの方から大事な話があるって……」
「それについては、僕の口から改めて説明します。――虎太郎、お茶を」
立華にお茶を淹れてもらい、西丸と遠見絵はテーブル越しに向かい合った。
いくら自分より年下でも、「小国の大統領」や「首相以上」と称される程の影響力を有する東京都の
西丸は彼女に余計な緊張や不安を与えないよう、柔らかい態度で口を開いた。
「まず羽飼さん、いきなりお呼び立てして申し訳ありません。びっくりしたでしょう?」
「は、はい……でも、何の用でしょうか……?」
「実はですね――」
西丸は遠見絵に、今日彼女を呼んだ要件について説明を始めた。
「あなたに僕の補佐役――東京都副知事になってもらいたいんですよ」
西丸は真っ直ぐな目で遠見絵を見つめながら、はっきりと言い切った。
「……ふ、ふく、ちじ……!?」
遠見絵は呆然とした表情で固まる。
それはそうだろう。突然「副知事になれ」と言われれば誰だって驚く。
「ふ、副知事って……私は政治の事なんて全く知りませんよ……?」
「これについては、ちょっと政治絡みの個人的な事情があってね……まぁ、まず聞いて下さい」
そう言って西丸は、副知事選任における事情を話し始めた。
新体制への移行において最も求められるのは、旧体制との明確な違いをアピールする事だ。西丸は旧体制からの改革を目に見える形にするべく、女性を副知事に、それも生え抜きだけでなく民間からも起用しようと決めたのだ。
加えて、西丸は自分を支える人間として、いわゆる「没個性」「弱個性」と呼ばれ疎まれている人物を任命する主義である。これは区長時代から変わらず、強い〝個性〟が社会的に有利という前提を壊して「どんな〝個性〟でも社会に大きく貢献できる」とアピールする為である。
そんな西丸の事情を理解しつつも、遠見絵はどうしても納得がいかない点を訊いた。
「あの…何で私なんですか…?」
「……じゃあ、ここから先は
「!?」
いきなり知られてるはずのない旧姓を口にした西丸に、遠見絵はハッとして顔色を変えた。
そう、羽飼遠見絵の本当の名は「鷹見遠見絵」―― 事件解決数・社会貢献度・国民の支持率などを集計して毎年2回発表される現役ヒーロー番付「ヒーロービルボードチャートJP」で 10代でトップ10入りした若きプロヒーロー〝ホークス〟こと
「実を言うと、あなたの息子さんが公安直属になってる点と関係がありまして……それはそちらも存じてるでしょうが、問題はこの先。――あなたを守る人間が近くにいない事です」
「私を守る人間……」
「経歴が何であっても、あなたは大人気ヒーロー・ホークスの母である事実は変わらない。それは彼の数少ない弱みになる。すぐに助けられる距離にいる訳じゃないし、もしもの事があってもすぐ気づいてもらえない。でもこれが要職に就くと話が変わる」
つまり、西丸は遠見絵を公人にする事で、
実際、東京都は西丸への銃撃事件を機に公人の警護が強化されており、公用車もテロ対策を施したものに換装している。
何よりヒーローは治安維持活動が仕事。要人の警護も要請があれば応じてくれる。
「だから、身を守る為にはある程度の地位にある方が合理的なんです」
「そ、そうですか……」
「都政に関しては安心してください。東京都は副知事を最大4人まで配置していいと条例で決まってるので、あなたの業務を分担できるように最善を尽くします」
西丸は「もっとも、無理強いはしませんがね」と付け足しながら微笑んだ。
すると遠見絵は、少しずつ心の内を明かしていった。
「……私は、息子に母親として何もしてあげられなかった。母親失格なんです……」
「……」
「でも、そんな私にあなたは自分を支えてほしいと仰ってくださった……こんな私でも、役に立てるんですか? 息子に顔向けできるんですか?」
「できます」
西丸は真剣な眼差しで答える。
遠見絵は一呼吸置くと、西丸の目をしっかりと見つめ返した。
「…………私で良ければ、精一杯やらせていただきます」
「ありがとうございます、遠見絵さん」
遠見絵の言葉に西丸は力強く頷き、深く頭を下げた。
東鳴羽田、猫カフェ「
元々はリサイクルショップを営む堀田兄弟が、鎌池桐仁をはじめとしたトリガー事件の改造被害者達と共に開き、西丸の意思を継ぐ石井達三現鳴羽田区長の認可が下りた「就労支援事業対象店舗」で、現在は鳴羽田の新名所として賑わっている。
そんなカフェの奥の席で、西丸は元クラスメイトの情報ブローカー・後藤田水門もといミカドに話を持ち掛けた。
「……という訳で、色々な人に声を掛けて副知事選任しようとしてるんだけど」
「そうすりゃあ俺の「ARI」が東京都の情報機関になり、政界とのコネもできるってか……」
「僕としては、君がサポート役をしてくれると大変ありがたい。どうかな?」
西丸の言葉にミカドは腕を組んでしばらく考える仕草を見せたあと、少し逡巡しながら口を開いた。
「伸ちゃん、俺は副知事なんて堅苦しい役割は御免だ。今の立場の方が自分としては面白いからな。……他にいねぇの? クラスメイトとか同級生に」
「勇人は法務省だし、帰蝶さんはアレだし……他の皆の中でそういう駆け引き上手は少ないからなぁ」
「……まぁ、前向きに検討はしとく」
「どっちの意味にも聞こえるよ、それじゃあ……」
明らかにやる気のなさそうな回答をするミカドに、西丸は苦笑いを浮かべる。
するとそこへ、思わぬ人物が姿を見せた。
「ミカドさん、ここにいたんだ……あっ」
「君は確か……!!」
「おー、珠緒ちゃん。お疲れさん」
眼帯をした少女がミカドに声を掛け、西丸は目を丸くした。
かつての蜂使いの騒動の中核であった、ナックルダスターの実の娘・雄黒珠緒なのだから。
「ミカド……まさか」
「そ。俺はその子の今の雇用主。カッコよく言うと「ARI東京担当・雄黒珠緒諜報員」って肩書きなんだ、珠緒ちゃんは」
「高校中退でめっちゃ出世したよ♪」
ピースサインを作る珠緒曰く。
懸命なリハビリの末に外を出歩けるようにまで回復したところへ、ミカドがスカウトしに直談判。珠緒はミュージシャンとして活動したい自身の
現在はストリートシンガーとして音楽活動に精を出す一方、ミカドからの「オモシロい依頼」を受けて仕事をしているそうだ。
「俺の「ARI」は学歴や人種、〝個性〟の有無は問わない。必要な能力さえあればそれで採用だ」
「あたしはさ、その……ちょっとヤンチャしてた時の記憶があるからさ…そこを買われたって感じ」
「それについて、よくナックルダスターさんは何も言わなかったね」
「俺に「無茶をさせるな」とだけ言って了承したよ。思うところはあったらしいが……今までクソ親父やってた分、好きにさせてやろうって魂胆だろ」
――早くに親を失い、その遺産で好きなようにしてる俺が言うのもおかしいが。
頼んだコーヒーを口にしながらミカドは一息つくと、かつての荼毘の時のように茶封筒を取り出した。
「また僕に?」
「こいつはお前を狙う可能性もあるからな……念には念をってヤツだ」
元クラスメイトから受け取った資料を、西丸はその場で読み始める。
そして全てを読んだところで、再びミカドの方に顔を向けた。
「……想像以上に厄介だね」
「プロヒーローも屠るゴリマッチョだ。用心しろよ」
ミカドの作成した資料には、薄い金髪を生やした筋骨隆々の巨漢の写真が載っていた。
その名は、
通称〝血狂いマスキュラー〟として恐れられる、天性の
西丸都政がついにスタートしましたが、基本的には区長時代の延長線上なので、結構描写の割愛もありますのでご了承ください。(笑)
そんな中で、原作通り相澤は雄英の教師に。今まで仲良くしてた西丸はかなりのショックを受けていて、少し引き摺ります。今後は兄の方のインゲニウムとかと仲良くするかも。
続いて、まさかまさかのホークス母。西丸が副知事への就任を提案するという斜め上の展開に。
他にも副知事はヒロアカ・ヴィジランテ双方の原作に出たキャラが着任予定です。
「原作のモブキャラをもっと活躍させたい」という作者の個人的な都合です。
そして感想欄で気にしてる方もいたと思います、珠緒達の動向。
珠緒はミカドの部下として、東京担当の諜報員として第二の人生をスタートさせてます。表の顔はSNSで人気のストリートミュージシャン、裏の顔はARIの諜報員(非常勤)です。
ホッパーズ・カフェも実はある事情で原作よりも〝従業員にとって〟バリアフリーになってます。かまやんとか悠々自適に暮らしてます。
その理由はまたいつか。
そろそろ出久君達を出そうかなぁと思います。西丸との出会いなら「静岡への出張」でどうにでもなるんで。(笑)