いやぁ、夢と魔法の王国で現を抜かしてしまいました……。
時系列は一応、原作の1~2年前となってます。
政治家は時に、民放のバラエティ番組や情報番組に出演し、政策や素顔を語る。
その理由はいくつかあるが、大抵は堅いイメージを払拭して認知度を高める事やメディアを通じた国民への直接訴求、そして政治への興味喚起といったところだ。
東京都知事となって辣腕を振るう西丸もまた、例外ではない。むしろ時の首相を超える人気とオールマイトにも比肩するであろう影響力から、様々なメディアから出演依頼を受けていた。
しかし、西丸はメディア出演についてはかなり慎重で、界隈では選挙前後の特番にしかテレビに出てこない事で有名と言われる程に距離を置いている。元々ストリーマーだったので自分から発信する方に慣れているというのが理由だが、それは表向きの理由であり、実際はマスメディアによる偏向報道をはじめとした「情報操作」を警戒している為だった。
西丸はこれまでにない改革や政策を実現し、治安改善や地方政治の発展に貢献した事から、超人社会に風穴を開けた人間として国内だけでなく海外の政財界から注目を集めている。だがそれは、同時に無個性の人間が時代を動かす事に妬み不快に思う者も多いという事でもあり、そういった勢力が暗躍して彼の失脚を狙いに行くのは明白である。
だからこそ、西丸は念の為にと東京都の公式SNSや動画チャンネルを介して様々な情報を発信しているのだが……。
「都知事、どういたしますか?」
「こういうパターンはなかったからなぁ…」
西丸は机に置かれた企画書を見ながら腕を組む。
その内容は、某民放のロケのサプライズ登場の依頼だった。
「政治と全く関係のないネタですが、そこでのトラブルを西丸おろしの材料にする可能性も…」
「無きにしも非ず…ってところだね。実際、誰の為のサプライズかも書かれてない」
テレビ局側の意図を測りかね、西丸は顎に手を当てる。
これが収録番組であれば編集での印象操作の可能性はあるが、生放送だとすればそれらはほぼ不可能だろう。しかし西丸に何かあれば、それを理由にマスメディア総出で叩いてくる輩もいる。
悩んだ末、西丸は――
「流石にそこまで腐ってないだろうし…別にサプライズ登場程度ならいいか。ただ時間が時間だしな……」
「では、こちらになるべく合わせてもらうように交渉します」
こうして、西丸の生放送サプライズ出演が決まった。
まさかそこで、思わぬ再会があるとも知らずに。
*
数日後。
スタッフとの打ち合わせ通り、西丸はエレベーターで撮影場所の南展望室へ向かう。
今日は平日という事もあり、観覧者は少なめだ。
(あそこの人に声を掛ければいいって言ってたが……この後の定例会見に響かないようにしないとね)
西丸は展望室に設置されたピアノで演奏する女性に視線を向ける。
流石に演奏中にやるのは失礼なので、弾き終わるまで待つが、どうも見覚えのある背中に既視感を感じる。
すると、テレビ局のスタッフの一人がそそくさと西丸に近づいてきた。
「西丸都知事、ご協力ありがとうございます…! 演奏が終わったら声を掛けて下さい」
「…わかった」
まさかドッキリに参加するハメになるとは思ってなかった西丸は、微妙な表情を浮かべる。
しばらくすると演奏が終わり、拍手が巻き起こり、スタッフが合図を送った。
「いやぁ、見事な演奏でしたよ」
西丸は朗らかな笑顔で奏者に話しかける。
まさかの都知事が現れた事に周囲からはどよめきが広がるが……。
「え?」
「は?」
奏者が振り返ると、西丸も固まった。
黒のミディアムヘアで端正な顔立ちをしており、いわゆる「大人の上品さ」が窺える女性だが、問題はそこではない。
淡い記憶の中に残っている姿に、時が止まったような錯覚を覚えたのだ。
「――マル君!!?」
「ユ、ユリちゃん!!?」
二人揃って唖然とし、その反応に周囲は更なる困惑を示す。明らかに顔見知りの反応だ。
そして、彼女の顔を見た立華も目を見開いた。
「…あなたは…
小野田ユリ子。
今の日本の芸能界・映画界において「現代日本最高のアクション・スター」として名を知らしめ、卓越した演技力と優れた身体能力によるスタントマン無しのアクションシーンで海外にもファンが多い名優。ハードアクションにおいて右に並ぶ者はいないと言われ、アクションコーディネーターとしても活動している事で有名だ。
ちなみに彼女もまた、西丸と同様に無個性の人間である。
「ちょっと待って、聞いてないわ! マル君、どういう事!?」
「いや、聞いてないのは僕もだよ。スタッフさんからサプライズ登場してくれって頼まれたんだけど、まさか君だったとは…」
予期せぬ形での再会に驚く、西丸と小野田。
そんな二人に、テレビクルーの一人が質問を投げかけた。
「えっと…お二人はどういう関係で?」
その言葉に、二人は顔を見合わせる。
「…言っちゃっていいかしら?」
「公人の僕はともかく、そっちは大丈夫なのかい? 事務所との兼ね合いとか」
「大丈夫よ。確かに過去の事はあまり公にしてなかったけど、隠してる訳じゃないし。マル君こそ迷惑がかかるんじゃないかしら?」
「どうせ嗅ぎ付けられたら定例会見でツッコまれるから、時間の問題だったさ」
お互いに苦笑しながら、改めて向き直る。
「僕と彼女…小野田ユリ子は」
「幼馴染です」
『――えええええええええ!!?』
そう言い終えた瞬間、周囲は再び騒然となった。
それもそうだろう、史上最年少の東京都知事と現代のトップ女優が、幼馴染と言えば誰だって驚く。
「えっ!? 幼馴染って本当ですか!?」
「本当さ。ウソだと思うなら調べてみるといい」
「ちなみに、副都知事の國松君も幼馴染よ」
『何だって~~!!?』
立て続けの情報過多に、テレビ局サイドが慌てふためく。
すると西丸が、ディレクターに声を掛けた。
「ディレクターさん、そろそろ僕も次の会議があるんで。ここで失礼しても構わないですか?」
「あ、はい! 都知事、ありがとうございました!」
「……それにしてもビックリしたわ。まさかマル君が来るなんてね」
「本当に偶然だよ、これに関しては。また今度会おう、ユリちゃん」
そう告げて展望台から去っていく西丸と立華を、小野田は懐かしそうな眼差しで見ていた。
なお、午後2時から行われる都知事定例記者会見では、記者達に政策云々よりも小野田との関係をツッコまれ、西丸もタジタジになったのは言うまでもない。
*
翌晩、某マンション。
西丸の自宅にて、小野田はもう一人の幼馴染・國松とも久方ぶりの再会を果たし、三人で酒を飲んでいた。
「こうして面と向かって三人揃ったの、中学の卒業式以来じゃないかしら?」
「そうだな。しかも伸太郎に至ってはちゃっかり抜け駆けしやがったしな」
「しかも相手があの女性トップヒーローのレディ・ナガンだものね!」
「結婚までの過程は色々あったんだよ…ホント」
ジト目で西丸は猪口に日本酒を注ぐ。
そこへ彼の妻である火伊那が、白身魚の刺身を乗せた皿をテーブルに置いて話しかけた。
「私は伸太郎と家族になれてよかったよ。こいつがいなきゃ、私の心は壊れてたからな……」
「全く同感だ。実際、ヒーロー業界は闇深い……!! 俺はヒーロー事務所に追い出されたが、正直あれでよかった」
「――マツ君、クビにされたの!? 何で!?」
「事務所の花形のメンツを潰しちまった」
「「あー…」」
西丸と小野田は事情を察した。
生まれつき目の色素が薄く光に弱いという病気を抱えている國松だが、彼は杖術の心得があり、〝個性〟の併用もあってそれなりに高い戦闘力を有している。そのせいで当時所属していたヒーロー事務所では、
どう考えても、國松を疎ましく妬ましく思ったヒーロー側の手前勝手な理由だ。
「それで、その後は?」
「腕っ節は裏社会でも知られてたからな、
「……そして僕のところに國松の情報が来てね。いざって時に頼れるのは顔馴染みの方が助かるって事でスカウトしたのさ」
そういった経緯の末、國松は西丸の提案を承諾して副都知事に就任した…という事なのだろう。
乱高下とでも言える波乱の人生に小野田も「ジェットコースターね…」と評したが、例のヒーロー事務所には続きの話があるという。
「用心棒を始めて半年ぐらいか。俺をクビにしたヒーロー事務所は潰れていた。詳細は一切不明…何をしでかしたか知らねぇが、煙のように消えた。勿論、ヒーローや他のサイドキック達の行方もわからないままだ」
「……」
「どうしたの? 顔色悪いわよ」
顔を青ざめさせる火伊那に、小野田は怪訝な顔をする。
それもそのはず、國松を解雇したヒーロー事務所を破滅に追いやったのは火伊那なのだ。その原因も大方想像がつくものである。
「本音を言うと用心棒やってた頃が一番気楽だったが……ダチの頼みは断れねぇ」
「そういう義理堅いところ、昔から変わらないわね」
「お前はどうなんだよ、ユリ子。喧嘩っ早いのは相変わらずなのか?」
「失礼ね! 勝気と言いなさい、勝気と! ――でも、まあ……どうしても譲れない部分があるのは否定しないけど」
小野田の反応に西丸は苦笑し、國松も「やっぱ変わってねぇな」と軽く笑う。
すると、小さく、その場に似つかわしくない声が聞こえた。
「とう、しゃん…?」
西丸の一人息子、善治郎である。
こんな時間に起きてくるなんて珍しいな…と西丸は思いながら訊いた。
「善治郎、どうした?」
「おっきい声して……」
「あっ…! …ご、ごめんね……」
小野田はばつの悪そうな表情を浮かべた。
直後、火伊那が徐に立ち上がった。
「伸太郎……寝かしつけてこようか?」
「悪いね火伊那…善治郎、父さんはもう少しお話がある。先に寝ててくれ」
「ん……おやすみぃ……」
「ああ、お休み」
火伊那に連れられて寝室に戻っていく善治郎に、西丸は柔らかい顔で返事をした。
幼馴染の父親としての一面を知り、國松と小野田は顔を見合わせてニヤニヤする。
「へぇ〜、お父さんとしても板についてきてるのね」
「結婚したらお前に子育て相談してもいいか?」
「いや、そこは都の相談窓口使ってよ」
東京都知事を何だと思ってるんだとボヤく西丸であった……。
*
時同じくして、新宿。
情報機関「ARI」を創った裏社会の情報ブローカー〝ウォーターゲート〟こと後藤田水門は、ある顧客と取引をしていた。
「ウォーターゲート、これが俺の目的だ」
黒スーツ姿で黒いマスクを着けた男性は、テーブルにアタッシュケースを置いてからアホウドリの写真をミカドに渡す。
顧客の正体は、死穢八斎會の若頭・治崎であった。
「アタッシュケースにアホウドリの写真……情報操作の依頼だな?」
「ああ。
「八斎會の組長さんが? あの人まだ現役バリバリだろ、耄碌なんて感じじゃないぜ?」
「違う。俺が言っているのは
治崎は事情を語る。
事の発端は、結婚の際に揉めて絶縁した組長の娘。彼女は一人娘をもうけ家族三人で暮らしていたのだが、その一人娘が発現した〝個性〟が父親を
引き取った組長は医薬学関連の知識も豊富な治崎に頼み、解析を勧めたところ、「触れた生物を中心に対象を過去の構造へと修復する」という非常に特異で強力な〝個性〟を有している事が発覚。しかも一度発動すれば対象を巻き戻し続けて消滅させるだけでなく、進化の系譜を辿りヒトを猿へと退化させる事さえもできるという可能性も孕んでいた。
つまり組長の孫娘の存在は、この世界の理を壊す程の力とも言える事案だったのだ。
この事実が裏社会に露見すれば、間違いなく孫娘を巡る抗争が勃発し、それを口実にヒーローと警察がガサ入れ・八斎會が壊滅の危機に晒されるのかもしれないのだ。そうなれば、治崎の今までの努力と苦労が全て水の泡になる。
そこで治崎は、現代日本の裏社会で最も影響力がある情報ブローカーに組長の身内に関する全ての情報を改ざんしてもらい、孫娘の存在を裏社会どころか表社会からも抹消しようと考えたのである。
「親族に関する全ての情報を改ざんし、
「そういう事か…5000万で手を打とう」
「何だと…!?」
話を聞いたミカドは、治崎が用意したカネの数倍の金額を要求。
当然治崎は不満を顔に出し、立ち上がって殺気を放った。
「ウォーターゲート、極道を舐めるなよ…」
「ただし…その孫娘さんで絶対に悪い事をしないって今ここで俺に誓約できるのなら、情報操作は500万で受けてやるよ」
「っ!?」
治崎は目を見開いた。
ARIは取引内容によって要求する金額が増減するが、その中でも断トツで高額なのが情報操作の依頼。すでに出回っている情報も含めてデータを完全に書き換えて流布し直す為、依頼料も
一方で、ビジネスである以上はペナルティも生じるとして、ミカドは自分との誓約を破った者には制裁を科す。その制裁はえげつないもので、対象の人物のあらゆる情報が警察とヒーローに流されて逮捕・刑務所送りにされるというものだ。そしてそれを可能にするだけのコネクションが、ミカドにはある。
「治崎……俺だって裏社会の人間だ。ただのお人好しと勘違いされちゃあ困る」
「……!」
「嫌ならそれで結構。俺も忙しいんだ、早く決めてくれ」
「…………わかった、それで手を打とう」
「そうそう、そう来なくちゃ」
ミカドは笑みを浮かべて誓約書をテーブルに置くと、治崎はサインをした。
「よし、確かに承った。……それとこれは他の顧客にも言っているが、情報操作後の責任はウチは負わない。あくまでデータの改ざんまでだ」
「フン…それくらいわかっている」
話は済んだと言わんばかりに立ち上がり、出入り口へ向かう治崎。
しかしミカドは待ったをかけた。
「ちょっとタンマ、もう一つ訊きたい。その孫娘、名前は?」
「……
「壊理ちゃんか……憶えておこう」
ミカドは部屋を出る治崎を見送り、マンションの外に出るのを確認してから電話を掛けた。
その相手は――
「やあ、どうも。夜分遅くすいませんね」
《君は…ウォーターゲートか! ハァ……一体何の用だね、つまらない事を言う気なら切るぞ》
ミカドの電話相手は、電話越しに溜め息をつく。
その正体は、サー・ナイトアイもとい
かつて
「そう言わないでくださいよ、佐々木先生。先生にどうしても頼みたい事があったんだ」
《……どうせロクでもない話だろう。早く言いたまえ》
「ああ、お宅が目を光らせているヤーさんのお家の件でね」
ミカドの言葉に、電話越しで息を呑む音がした。
サー・ナイトアイ事務所は、通常のプロヒーロー事務所と違って知能犯の捜索や検挙などを行う、言わば私立探偵のような仕事を主に取り扱っている。彼が請け負っている案件はサイドキックですら完全に把握できてない程に膨大なのだが、その中でも死穢八斎會――正確に言えば若頭の治崎――の監視を徹底している。
当然、ナイトアイは自分が八斎會の監視を強化しているという情報は隠匿しているつもりだったが、ミカドはそれを容易く掴んでいるらしい。
《なぜそれを……》
「ARIを甘く見ちゃ困りますぜ、先生。これでも公安委員会を出し抜けるぐらいの情報力は持ってるんでね」
《……話してくれ》
「つい先程、治崎から情報操作を頼まれましてね…俺がイジッたその情報を、ヒーロー公安委員会に本当の事だと吹聴してほしい。真実は俺と先生だけの共有だ」
ナイトアイは絶句した。
要するにヒーロー公安委員会に対して虚偽の報告をしてほしいと頼み込んでいるのだ。
普通なら首肯できようもない頼み事であるが、一応理由は知っておくべきと考え、ナイトアイはミカドに尋ねた。
《……何が目的だ》
「あそこの組長さんの孫娘さんの〝個性〟が非常に特殊な能力なんだ。それを悪用すれば、日本だけの問題じゃ済まなくなる。……ここまで言えば、先生も大よそ察するだろ? 彼女を守る為にも、俺とあんたで口裏を合わせておきたい」
ナイトアイは少し考えると、ある提案をした。
《それこそ、ヒーローや警察に保護してもらえばいいんじゃないのか?》
「先生、あんた西丸が狙撃された事件の事を知らねぇのか? あの事件、裏で糸を引いてたのは公安だぜ?」
《なっ……!?》
「性善説で判断するな。ヒーロー業界は闇深いんだ」
ミカドは強い口調で告げてから、ナイトアイに最終確認をする。
「それで…先生、引き受けてくれるか? 本当の情報は後日そっちに直接手で渡す。そうだな…3日後には情報操作した内容が出回るはずだ、それをそのまま伝えればいいか」
《……わかった》
「恩に着るよ、先生。それじゃあ」
電話を切り、ミカドはソファに座る。
窓から新宿の夜景を眺め、天井を見上げて呟いた。
「……少し厄介な事になってきたな。これは俺も本腰を入れるべきか……?」
ミカドのARIで取り扱うサービスは以下の通りです。
・情報売買(信憑性の高さと事の重大さによって価格が変動)
・調査依頼(内容と調査にかかった時間によって金額が上昇、請求金額は後払い)
・情報操作(最低1000万からが原則、ただし事情によっては例外的に安くなる)
ちなみに諜報員は少し増えてます。あのゲーム好きの彼も、今はミカドの部下だとか……。
そして新キャラ・小野田ユリ子。以前の後書きで記した「芸能界の同級生」が彼女です。
どこぞの某俳優みたいに「元凄腕が平穏に暮らしてたら大事な人間が傷つけられ、激怒して無双」という映画で話題をかっさらってます。(笑)
アクション女優なだけあり、空手や合気道、琉球古武術の有段者です。
彼女のファンは非常に多く、あの男らしさがモットーの彼とか、姓と名が同じである彼とか、頑丈で力強い尻尾が生えている彼とかがゾッコンになってます。もぎもぎの彼は言わずもがな。
もうそろそろ、原作開始まで進めようかな……。