実はあるユーザー様から「日本語が国際公用語として通用している可能性があるのでは?」というメッセージを頂きました。
その可能性も十分高いなと思い、本作ではオールマイトのおかげで日本語が国際的に通じる言語としても扱おうと思います。
ただ西丸の性格上、パフォーマンスとして外国語を使います。政治家ですから。
月日は流れ、年が明け、春が来る。
都政2年目を迎えた西丸は、遠見絵と食堂で昼食を取りながらテレビを見ていた。
《まずは速報です。今朝、段東区で発生した銀行の立てこもり事件ですが、東京都首都防衛局の職員らによって首謀グループを完全制圧・人質全員の無事が確認されたとの情報が入りました》
「流石ですね…」
「ああ、全くだ」
驚く遠見絵に対し、西丸はご満悦といった表情でそばを啜る。
犯罪発生率と再犯率が右肩下がりになった東京といえど、凶悪犯罪自体が起きなくなったわけではない。
その穴埋めに成功し、思わぬチカラを与えたのが東京都首都防衛局だ。首都防衛局の職員はナインが全国からスカウトしてきた人材で、〝個性〟の有無を問わずポテンシャルが計り知れない面々。同時に人物としても個性的な面々なのでチームワークに難があるかと思われたが、意外にもヒトの上に立つ素質をナインが発揮し、着実に実績を積み重ねている。
「彼も中々のリーダーシップだよ」
「随分と私を高く見てるな、西丸」
「天動副知事…!!」
「やあ、来てたのかい」
そこへ、首都防衛局のトップであるナインが日替わり定食を盆に乗せてやって来た。
ナインは西丸の反対側の席に座ると、マスクを外して飯に手をつける。
「どうかな、ここのところ体調は」
「お前の伝手のおかげで随分と楽だ……西園寺は変人だがいい医者だ」
「だろう? 変人だけど」
「それで、今朝の事件はどうでした?」
遠見絵が問うと、ナインは「悪くない手応えだ」と答えた。
「今回の件は、首謀グループの説得を駆けつけた警察に頼み、その裏で私の部下達を突入させた。ヒーローが現場に来る前に終わらせる事ができたのは僥倖だ、いい成果だと思ってる」
「君も鼻が高いね。――何かわかった事は?」
「連中の武装についてだが……お前の想像している通り、と言えばいい」
「やはりか…」
ナインの言葉を聞き、西丸は渋い顔で考え込む。
ここのところ、違法サポートアイテムによる犯罪が増えてきた。しかも派手な犯行の手口がまるで通販の宣伝にも見え、
本来、サポートアイテムとは個人の〝個性〟を補助・拡張し、戦闘力や生存能力を引き上げる為に開発された装備品やガジェットの事だ。故に非合法なサポートアイテムは武器等製造法に抵触し、製造した武器をそのまま持っていれば、さらに銃刀法違反などの罪も重畳的に問われる。
事実、今の経済産業大臣は「ヒーローサポート事業は防衛事業ゆえ、未認可のサポートアイテムの扱いは武器の密造密売と同罪」だと公式回答を出しており、西丸の親友の一人である大泉法務大臣も「国に認可を求めないという事は国家転覆も視野に入れているも同然」とキッパリ言い切っている。
「違法サポートアイテムの中には、アメリカや中国では合法とされてる物もある。海外の組織犯罪も関わってるだろう。そのあたりは国に任せるとして、完全な密造は要注意だ。経産省との連携強化も急務だね」
西丸はお茶を飲みながら呟くと、テレビのニュースが次の話題に移った。
《続いてのニュースです。昨日に一斉検挙された
「何…?」
「……」
ナインと西丸は、そのニュースに目を細めた。
報道によると、都市部を中心に活動する大規模ひったくり犯である彼らは郊外に隠れ家を所有していたのだが、突然外から爆風が襲い掛かり拠点ごと吹き飛ばされ、構成員全員が全治半年の重傷を負ったという。襲撃時に辛うじて意識を保っていたリーダー格の男は、襲撃者が一人の男である事と手に刀のような黒い棒を握っていたと証言しており、警察とヒーローは被疑者の行方を追っている、という内容だった。
なお、隠れ家には資金洗浄済みの現金が保管されていたようだが、警察が駆けつけた時にはそれも跡形もなく消え去っていたとの事なので、襲撃犯に持ち去られたのは間違いないだろう。
「……刀のような黒い棒、ね」
「何か心当たりがあるのか?」
「……都知事に就任して間もない頃、ある青年が僕の執務室に来てね」
――2年前。西丸が都知事就任して1ヶ月と経たない頃。
区長時代以上の激務に追われ、残業が続く日々を過ごす中、西丸は用を足し終えて執務室に戻った時に事件は起こった。
「よォ、会いたかったぜ」
「っ⁉」
ドアを開けた西丸は、突然の侵入者に驚いた。
バランスの整った筋肉質な体格や黒いスパイキーヘアが目立つ、オレンジ色の双眸をした青年が、会議用の大テーブルの上に靴を履いたまま片膝を立てて座っていたのだ。白シャツとスリムズボンの上に黒いロングコートを羽織り、サッシュベルトに鍔付きのポリプロピレン製木刀を差した出で立ちは、到底堅気には見えない。
しかし長年グレーゾーンの人間や裏社会の人間を見てきた西丸は、目の前の男は自分の命を狙いに来たわけではないと直感し、冷静さを保って執務室に入り青年と向き合った。
「君は……
「まァ
「…じゃあ、何をしにわざわざ
「そうだな…さしずめ〝挨拶〟ってトコだ」
獰猛な笑みを浮かべ、西丸を見据えてくる。
彼は自らを「全てを終わらせる者」だと語り、それ以上の事はしなかったし、その素振りも見せなかった。
だが、西丸に対して一つ言い残した。
「俺の時代だぜ……ここから先は!!!」
「……という事があってね」
「そんな悪目立ちする奴、今まで一度も出てこなかったぞ…!!」
表に明るみに出なかった出来事に、ナインは動揺する。
彼自身、西丸と出会うまでは裏社会に身を置いていたが、そこまで特徴的な人物を見た事はおろか聞いた事もない。つまり正真正銘、社会的に存在しないはずの人間なのだ。しかも報道通りなら相当強力な〝個性〟の持ち主で、その気になれば町の一つや二つ簡単に破壊してしまう程だろう。
だというのに、彼の異能の矛先は今の社会に向けられていない。大抵の
(彼はおそらく、僕という転生者が生まれた事で生じたバタフライエフェクトの一つか、僕と同じ転生者。この社会を狙う気ならば叩き潰さねばならないが……)
西丸はあの日の夜の事を考える。
自分の前に現れて宣戦布告とも言える言葉を残した事からもわかるように、男は壮大な野望を抱く野心家であるのは確かだろう。しかし今後台頭するであろうあの
ともすれば、彼が狙っているのは――
(オール・フォー・ワンか…?)
オールマイトに倒された後も裏社会に君臨し続ける、この世界の〝究極悪〟。
男は彼の存命を認知し、その上であの魔王を倒して裏社会の覇権を握ろうと画策しているのではないか。
もしそうだとすれば、彼を敵視するのではなくその動向を利用して真の脅威を排除する方が利口だ――西丸はそう判断した。
「――とりあえず情報収集だ。彼がどう動くかによって僕達の動き方も変わってくる」
「火急の対処は現状不要…という事か?」
「ああ。確かに無策で放置するのは危険だけど、むやみやたらに敵を作るのも悪手だ。一定の距離を置いて監視するのがいいかもね」
「わかった。部下達に周知しておく」
西丸は静かに決意を固め、首都防衛局の仕事を始める為に席を立つナインを見送り、同じタイミングで遠見絵と共に執務室に戻っていった。
*
それから時は流れ、世間は受験シーズン。
テレビでは雄英高校の入学試験が始まったと賑わうこの頃、西丸はある人物からの連絡を受け、立華と共に東鳴羽田の廃墟ビルに足を運んでいた。
「……都知事、いざという時は…」
「ここまでご丁寧に招待したんだ、ちゃんと応じないとね」
階段を昇り、ビルの最上階の部屋に入ると、まるで隠れ家のような雰囲気が漂う空間が広がっていた。
その中央には、只者ではない雰囲気を醸し出す男女が寿司を食べながら待ち構えており、例の男もいた。
「――やはり君か。今度は一体何の用だい?」
「西丸ゥ!! 会いたかったぜ!!!」
まるで旧友との再会を果たしたかのように、満面の笑みを浮かべてくる。
いつでも戦えるように身構える立華だが、西丸は「大丈夫、そこまでバカじゃないだろう」と制した。
「そういやあ名前を言ってなかったな!! 俺は
「街風操也……」
男はようやく自らの名を名乗ると、西丸と立華に食事を勧めながら自身の目的を明かした。
「俺の仲間になれよ西丸!!! 俺の野望とお前の政治思想の利害は一致している!!
「バカを言うな、僕は東京都知事だぞ!? 現役の
「おいおい、お前がどんなに善政を敷いても民衆は必ず裏切るぜ!? 大衆心理は無責任なもんだ!! 少しでもミスや被害が出ると手のひら返してお前を総攻撃するぞ!!?」
「市民からの責任転嫁と誹謗中傷が怖かったら、政治家なんか
勧誘してくる街風に、西丸は断固として拒否の姿勢を示す。
言い合う二人を見かねて、黒スーツでコートに袖を通した顔の左半分が異形の男が「おい、飯ぐらい楽しく食えないのか」と苦言を呈する。
「君達こそ、なぜ彼の仲間に?」
「仲間? 違うな。別に俺はこいつがタルタロスにブチ込まれたとしても何も揺るがない」
先程苦言を呈した男――キュレーターは、鯨肉の刺身を食べながら街風を慕って付いてきているわけではないと断言する。
彼に続くように、隣のイスで腰掛けている緑色のフード付きマントと黒のボディスーツ姿が特徴の美女――傭兵のベロスがワイングラスを傾けながらこの場にいる理由を語った。
「彼の計画が魅力的に感じた……それだけに過ぎない」
「計画?」
「あんた知ってるか? ここ最近、日本の裏社会でゴロツキをかき集めている集団がいる」
2メートルを超える身長の巨漢――べロスと同じ傭兵のシデロの情報に、西丸は目を細めた。
ならず者を集めているという事は、組織犯罪であるのは確定。テロか大規模な窃盗か、それとも武装立てこもりか……いずれにしろ手を打つ必要があるだろう。
西丸は遠回しに聞き出そうと、持ち前の巧みな話術で情報収集を試みる。
「それは特ダネだね。僕も伝手があるけど、丸っきりノーマークだ。どんな組織なんだ?」
「ああ、確か…」
――〝
「――!?」
西丸は言葉を失った。
彼らの活動は
(油断していた、こうも早く動き出していたのか!! ……いや、あの頭数を二日三日で用意できるわけがないから、当然と言えば当然か…?)
「珍しいだろう? 今時大規模な組織犯罪を仕掛けようとして来るなんて。エンターテインメント性はあるけどな」
茶色い瞳のイケメンが寿司を口に含みながら、どこか面白がっているかのように言う。
実は彼の名は
「考えてもみろよ、ポッと出の奴らが金もコネもロクにないのに、そこに兵隊が集まってんだよ!! なぜだと思う!?」
タコの平生型個性の男――密輸業者のインスマスが缶ビールを呷りながら片目を大きく見開いて叫ぶ。
するとその隣で、軍艦巻きをバクバク食べながら厚手のロングコートを着た美少年――
「ツムジが言うには「オール・フォー・ワンがいるから」だって。そいつを潰せば僕達は望むモノが全て手に入るって寸法だ」
明確に〝魔王〟を標的としている事に、西丸は驚きを隠せなかった。
前世の記憶が正しければ、ワン・フォー・オール継承者がオール・フォー・ワンを倒す宿命を背負って戦うはず。だが街風はその因縁に殴り込み、最大最強の巨悪を倒して裏社会の頂点に君臨しようとしているのだ。
「この世界はどこまで行っても暴力の世界だ、法律じゃあ
「……!!」
「これが俺の人生の序章!! あらゆる大物
あまりにも大きく無謀に近い野望に、西丸も圧倒される。
「僕でもむやみに敵は作らないぞ…全方位に喧嘩を売るのか」
「何とでも言え、いつかは誰かがやるんだよ!!」
眉をひそめる西丸に、自信に満ち溢れた返事をする街風は付け加えた。
「伝説がいつまでも〝象徴〟をやってたら時代がグズグズ腐っちまうだろう!!? やってやろうぜ西丸、俺とお前が組めば時代は俺達のものだ!!!」
「だから誘うな、僕は都知事だと言っただろ!?」
「立場なんざ構わねェさ、善と悪が手を組めばどんなに巨大な敵も滅ぼせる!!!」
街風は乗る気ゼロの西丸を諦めず勧誘する。
その光景を眺めていた立華は、街風がただの無法者とは一線を画すると直感した。
(この男、案外「イイ奴」という類か?)
本来、
しかし街風は、強引な手段を一切使わず、比較的穏やかな対話での説得に努めていた。それは彼の感性が
調子が狂うなと感じながらも、立華は部下として護るべき上司と
「ハァ……君の狙いが社会秩序の崩壊ではないとわかった事だけは僥倖か。本当なら不法占拠で通報したいところだが、ここまで穏便に徹されるとな……今回は大目に見るけど、次は相応の対処をするからね」
「ハハハハ!! 流石は〝鳴羽田のゴッドファーザー〟だ、器のデカさが違うぜ。――また会おう、西丸都知事」
「……もう会う事はないでしょう」
西丸は寿司に一度も手を付けずその場を退席。
立華を連れ、複雑な心境で廃ビルを後にするのだった。
首都防衛局は順調に成果を挙げているようで何よりです。(笑)
さて、本作に突如として現れた新キャラ・街風操也ことツムジ。
彼はトムラ君とは対称的なオリジナルヴィランとして登場させました。
支援者達の手を借りるトムラ君と、一から仲間をかき集めるツムジ。
病的な痩身のトムラ君と、バランスの整った筋肉質な体格のツムジ。
ヒーロー社会への恨みを原動力とするトムラ君と、ヒーロー社会に不満はあれどそれはそれとして野望に突き進むツムジ。
彼の存在は、西丸にとって吉と出るか凶と出るか。
ちなみに彼の存在と荼毘のバタフライエフェクトによって、コンプレスと外典君はツムジとグルになってます。仲間意識はあまり強く見えませんがね……。
次回からはとうとう雄英高校と絡んでいきます。
相澤との再会、デク君とショート君の絡み、西丸の特別講義など……まぁ色々やります。
そうそう、今回のツムジの扱いでアンケート…というか二者択一をします。
今後の物語の進行にも影響しますので、何卒よろしくお願いします。
ツムジはどっちの存在がいい?
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バタフライエフェクトの一つ
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二人目の転生者