今回、西丸がついに雄英高校訪問。
その裏では色々と動きが……。
季節は4月、第2水曜日。
入都式での訓示や新年度予算に基づく各種施策のスタート対応、今後の経済・気候変動に向けた方針表明など、新年度の初頭ならではの仕事を一気に終え、ようやく一息つけるなと思った矢先にそれは訪れた。
「雄英高校の視察だって?」
「はい。根津校長から是非にと」
秘書の立華が告げた内容に、西丸は目を丸くした。
「どうして急に?」
「今年度の東京都内での職場体験と
立華の言葉に、西丸は腕を組んで少し考え込む。
ここ数年で犯罪発生率及び再犯率が改善傾向にあるが、裏経済や非合法ビジネスの拠点が首都圏の巨大歓楽街に集中している為、東京は多くのプロヒーロー事務所が密集している。港区六本木にそびえるオールマイトのマイトタワーやインゲニウムの事務所、ベストジーニストのジーニアスオフィスなど、東京は日本プロヒーローの聖地と言っても過言ではない。
しかし、その地域のヒーロー活動の承認をするのは各自治体の首長であり、たとえ職場体験であってもヒーロー事務所が関わる以上は行政も携わる。特に東京都の動向は国全体の経済や政治、ひいてはヒーロー業界に強大な影響を与える以上、雄英高校としても都知事との関係を強化しておく事は重要だろう。
何より自分は「脱ヒーロー社会」を推進しており、トップヒーローを数多く輩出している雄英高校とは方針が真逆と言える。根津校長からすれば、ヒーローに頼り切らない社会を作ろうとする自分の実像を改めて確かめたいという狙いもあるのかもしれない。
(僕としても、雄英とは良好な関係でいたい。僕の目標を達成する為にも雄英との繋がりは強固にしておくべきだ)
少し考えてから、西丸はスケジュールアプリを開く。
ちょうど明後日の金曜日、午後2時に空き時間があった。
「わかった。明後日の金曜に入れよう。根津校長によろしく伝えてくれ」
その返事を聞いた立華は「かしこまりました」と一礼して退室する。
一人執務室に残った西丸は、机の引き出しを開けて一通の茶封筒を取り出した。
「……これを渡したい子もいるしな」
そう呟いた直後、スマートフォンのバイブレーションが鳴り、着信を知らせる。
西丸がスマートフォンを取って耳に当てると、聞き慣れた声が聞こえた。
《伸ちゃん、俺だ》
「ミカド! どうしたの、いきなり」
《ちょっと問題が起きてな……パソコン開いてくれるか? メール送るから》
級友に言われた通りにパソコンを起動すると、デスクトップにメールが届いており、そこに添付されたファイルを開いた。
「!? これは…」
《ああ……雄英高校のカリキュラムだ。よく見てみろよ》
「ちょっと待て、カリキュラムが
西丸は思わず声を荒げた。
このカリキュラムの漏洩は、後々の襲撃事件にも繋がる一大事。しかも画面に映っているのはミカドがカメラ撮影したもので、カリキュラムそのものはデータではなく紙である事を示している。
学校関連の紙の媒体とは、基本的に教職員が生徒に配るモノ。それはすなわち、雄英高校に情報を漏らした人間がいるという事に他ならない。
「……生徒か教職員のどっちかに内通者がいると?」
《そう考えるのが筋だな。闇バイトか家族ごとどっかのバカに脅されたか、それとも
「君はどうするつもりだい?」
《ん~~……その気になりゃあ雄英の生徒のプロフィールをかき集めて犯人捜しできるが……俺ぁそこまでお人好しじゃねぇんでな》
――雄英の情報が洩れてる事を教えてくれるだけでも、十分お人好しだと思うけどな。
西丸は級友に対してそう思いつつ、明後日の視察について語る。
「実は明後日、雄英を視察に行くんだ」
《なら、そん時にこの件を話してくれねぇか? 裏社会の情報産業は俺が仕切ってんのに、それを飛び越えるマネされると困んだよ。こっちもビジネスでやってんだからな。ったく、商材にしたら時価云十万単位で取引されるような代物をタダでばら撒きやがって……》
「心配せずとも、この件は僕も重く見てる。相澤さん達に伝える腹積もりだよ」
《気をつけろ、最近妙な連中もコソコソしてやがるからな》
その電話を終え、西丸は改めてパソコン上の情報を見つめた。
カリキュラムの内容には、今月の時間割スケジュールや訓練の予定まで詳細に記載されている。流石にセキュリティ配置までは漏洩していないが、それでも裏社会に雄英の予定が漏れればどう悪用されるかわからない。しかも最悪な事に、数日前にオールマイトが雄英高校に赴任するという情報が出回った為、視察を前倒しにしようにもスケジュール調整が厳しい。
「……僕が来る前に、何か起きなければいいが……」
西丸がそう呟いていた同時刻であった。
〝
*
翌週、月曜日。
多少のスケジュール変更を余儀なくされたが、西丸の雄英高校視察は決行された。
昨日の今日の襲撃事件というのもあり、西丸も秘書だけでなく警備役として首都防衛局の職員を連れてきている。視察に同行しているのは、最高責任者であるナインと先日の立てこもり事件で活躍した〝マミー〟こと
「このタイミングで行く必要あるか?」
「もう少ししたら体育祭だ、近づくとそれどころじゃないだろうからね」
「職場体験やインターンの協議ぐらい、書類ベースで事足りるだろう」
「現時点での雄英高校を自分の目で確かめておきたい。生の声と現場の空気は何よりも優先する価値があるからね。――さぁ、ビシッと決めていこう」
公用車で森に囲まれた小高い山を登り、ガラス張りのビルが4つ並んだ形の校舎の門の前に到着する。
そこには根津校長と雄英高校教師陣が出迎えの為に待っていた。
「やぁやぁ、ようこそ西丸都知事!」
小さな体躯で両手を広げて歓迎してくる根津校長に、西丸は苦笑しつつも握手を交わす。
「どうも根津校長。今日1日よろしくお願いいたします」
「いやいや、とんでもない! しかし流石お若いだけあって行動力もお早い」
「フットワークの軽さはどの首長にも負けませんよ」
にこやかに返した西丸は、他の教師陣とも一人ずつ握手を交わす。
軽く挨拶を終えてから、敷地内に案内された一行は雄英高校の校舎に入る。
「巻原君、どうする? 君も見ていくかい?」
「いえ…拙者はあくまでも護衛。都知事の身は拙者が守る所存」
「虎太郎もいるから問題ないと思うけどね……それでいいなら、まずはサポート科と経営科から見ようかな」
「!」
ヒーロー科を真っ先に視察に行くと思っていた根津校長は、虚を衝かれた様子だった。
しかし西丸としては、東京の経済を回すという観点から会社の起業・運営や経営戦略を学ぶ経営科は重視すべき存在である。特に東京は自治体経営や公共政策の実践的な研究・人材育成を進めており、国立の学術機関との連携強化は重要な課題だ。
「インターンや校外活動も、何もヒーロー科だけではありません。サポート科や経営科も含めて総合的に把握したいんです」
「流石だね、西丸君……抜かりはないってヤツかな?」
「僕は東京都の最高責任者ですよ? 物事は多角的に取り組まないと」
その後、西丸は根津校長と共にサポート科と経営科、そして普通科の教室に赴き、授業内容を視察したのだが……。
――スゲェ!! 西丸都知事だ!!
――初めて見た!!
――モノホンは違うな!!
「何か申し訳ないな……授業止める気はなかったんだけど…」
「HAHAHA!! それぐらい君が有名人だって事さ!!」
各クラスとも西丸の来訪で大盛り上がりで、授業どころではなくなってしまった。
唯一通常運転であったサポート科の工場が、ある意味素晴らしい。
「そういえば、今日は今期の職場体験とインターンの話し合いだったね。時間も時間だ、今年の新入生を視察して昼食を取ってからにしないかい? 長い会議になるかもしれないからね」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「ちなみに1ーAは相澤君が担任なのさ!!」
「相澤さん…!! そういえば先日の件、大丈夫だったんですか!?」
食い気味の勢いで確認してくる西丸に、根津校長は目を大きく開く。
何を隠そう、相澤は西丸の相棒だった男。8年もの間ガラが悪い街と揶揄された鳴羽田区の治安改善に大きく貢献し、西丸自身がオールマイト以上に厚く信頼している程の関係。かつての相棒の安否は気になって当然だろう。
「彼は包帯グルグル巻きのミイラのような姿で復帰してるよ!!」
「本人の意思…か。あまり無茶しないでほしいな。早速会えますか?」
「君、相澤君との再会が目的になってないかな?」
根津校長は苦笑しながらも、西丸達を1年A組のクラスへと案内する。
――雄英高校ヒーロー科、1年A組の教室にて。
「失礼するよ!」
「! 根津校長?」
突如訪れた根津校長にミイラのような状態の相澤が目を見開く。
「相澤君、この後の授業は急きょ時間割を変更するよ! 4時間目の国語総合は7時間目に移動だ!」
「ハァ…何でまた急に」
「彼が視察に来たからさ! 皆も注目!」
根津校長が手招きをすると、西丸が教壇に立って自己紹介する。
「こんにちは、東京都知事の西丸伸太郎です」
「うおお!! 西丸都知事!!」
「本物!? アタシ生は初めて見た!!」
現代日本で知らぬ者はほとんどいない程の有名人の突然の来訪に、教室中がざわついた。
すでに西丸は義務教育の教科書に載っている程の人物。治安改善から個性差別の解消まで、彼の功績は数多く語られており、オールマイトとは別ベクトルで雲の上のような存在だ。それ程の人間が、今まさに自分の目の前に立っているのだ。
雄英は来賓も違うなと生徒達が喜ぶ中、一人の生徒が目を吊り上げて睨んできた。
「テメェ‼︎ なに企んでやがる、無個性の
「随分とキツいジョークだね」
怒号を飛ばす少年――
一定数のアンチの扱いも慣れてるので、この程度の罵倒で動じる事はないが、クラスメイトは「ちょ、かっちゃん⁉︎」だの「爆豪君、流石に失礼だぞ!!」だのと焦る。
しかし、その罵倒が一番頭に来ていたのは意外にも――
「おい爆豪、西丸さんに喧嘩売ってんのか」
「あァ!?」
この場で相澤の次に接点がある人物――推薦入学者である轟焦凍だった。
普段は口数の少ない優等生のあまりにも殺気立った姿に、周囲は圧倒されるが、西丸が宥めて場を鎮めた。
「まぁまぁ、その辺で。ユーモア不足は困ったもんだけどね。……そうだ焦凍君、あとで渡したい手紙があるから、お昼休みちょっといいかな?」
「……俺に? ――そうだ、西丸さん!」
席から立ち上がり、教壇に詰め寄る焦凍。
相澤以外は西丸との関係を知らない為、周りは置いてけぼりだ。
「西丸さん、荼毘さんが――」
「彼の事は場所を変えて話そう。壁に耳あり障子に目あり、だ」
「……はい」
「皆ごめんね、プライベートな事でさ」
一匹狼なイメージが強い焦凍の年相応の姿に、クラス中から驚愕の視線が集まる。
すると西丸は、続いて出久に目を向けた。
「――やはり受かってたんだね。出久君」
「あ、はいっ!」
「おめでとう。別に贔屓をする気はないが、ヒーローとしての力を培ってくれ。期待してるよ」
「っ! ありがとうございます!」
海浜公園での出来事を思い出した出久は、キリッと引き締まった表情で返事をする。
そんな出久に微笑みつつ、西丸は相澤に目を向ける。
「相澤さん、お久しぶりです。ケガは大丈夫ですか?」
「ええ、おかげさまで」
「あまりご無理なさらないでください。昔みたいにタッグを組みたいならいつでも待ってますよ」
「生憎、担任受け持っちまったんでね……お誘いはありがたいですが、せめてこいつらが卒業するまでは待ってくれませんかね?」
「構いませんよ? 忍耐は政治家の得意分野ですから。まぁ、あの件は僕のミスもありますし…」
西丸は相澤との2年ぶりの対話を楽しむと、改めて生徒達に向き直る。
「さて…せっかく時間を頂いたところですけど…僕は視察と会議に来たんであって、講演の準備とかしてないですよ?」
「構わないさ! 生徒にとって、東京都知事なんて滅多に会えないしね!」
「じゃあ、30分ぐらい使って質疑応答するかな。何か質問ありますか?」
『はーい!!』
途端に挙手が上がり、西丸はなるべく全員の質問に答えるようにした。
ひとまず西丸は、すごい勢いで手を挙げているブドウのような頭が特徴の超小柄な男子生徒を指差した。
「じゃあ君から。ウチの家内と元同級生の小野田ゆり子に関するネタ以外でお願いしますね」
「チクショーーーーーー!!!」
思いっきり釘を刺され、スケベ心満載だった
西丸はその様子を笑いながら「伊達に10年政治家やってないんだよ」とツッコミを入れ、別の女子生徒を指名した。
「じゃあ君」
「はい!!
「僕の普段の仕事? そうだね……相澤さん、黒板を借りますね」
西丸はチョークを手に取り、黒板に書き込み始める。
「東京都知事は約1400万人もの都民を代表し、約17万人の職員を抱える東京都の最高責任者だ。やる事は多いよ? オールマイトより忙しい自信ある」
西丸は、自分の具体的な仕事内容は3つに分かれると説く。
都民の選挙で選ばれる為、掲げた公約やビジョンを実現する為の施策を立案し、条例案を作成して都議会に提出・成立を目指す「政治家」。
都の年間予算案を作成して議会の承認を得て執行したり職員の人事を行い、各プロヒーロー事務所とも提携する「経営者」。
諸外国の要人や大使らと交流して都市外交や国際イベントの誘致を推進したり、海外の有力ヒーローと会談をして巧妙化する
これら3つに大別される役割を同時にこなしつつ、都政の停滞を回避するよう努め、緊急時には首都を統括する立場として国や他の地方自治体の首長らとも連携するのが都知事の役割だという。
「まぁ、ザッとこんな感じかな?」
「ヒェ……想像以上にバリバリ働いてる……」
「まぁ、プロヒーローの方が自由度は高いよね。大変なんだよ、年間約10兆から16兆円の予算を組まなきゃいけないから」
『じゅっ…!?』
軽く語る西丸に、生徒達は驚愕の声を上げる。
ちょっとした国に匹敵する規模の巨大予算が動く大現場。その財政運営の責任を負うのだから、重圧は計り知れないだろう……。
「なら、ヒーローの人事も決められるんですか?」
耳たぶがプラグになっているボブカットの女子生徒・
「ヒーロー活動は各自治体の首長が承認するシステムになってるんだけど、プロヒーローに対して人事権を発動する事はヒーロー公安委員会が許してくれないんだ」
「各都道府県知事がトップセールスで呼びかけて、ヒーロー達に需要の高さをアピールして招致するんだ……でも首都圏や大阪、名古屋市と福岡市は巨大繁華街があるからトップセールスしなくてもヒーローが集まりやすい。という事は一極集中化で地方のヒーロー不足が加速する事でもあるから、治安悪化が懸念されてヒーロー達による地域活性化にも悪影響が出かねないぞ。ヒーローの管理はヒーロー公安委員会が行ってるから、西丸さんの言う通りなら情勢に合わせて異動させようにも擦り合わせが必要になる……ヒーロー飽和社会というけど政治的課題は複雑だぞ……」
ぶつぶつと分析する出久に、西丸は「流石の観察眼だね」と感心する。
「その通りだ出久君。逆にヒーロー公安委員会は行政機関として強い権限があるから、首長の承諾なしにヒーローを異動できるんだ」
「じゃ、じゃあ西丸都知事の事もガン無視するんスか…?」
両肘がセロハンテープのロールに似た形になっている男子生徒・
「特に裏経済でも中心地である東京は、独立独歩のアングラ系ヒーローである相澤さんは最適だったんだ。区長時代、鳴羽田で起きた事件のほとんどは僕と相澤さんだけで解決できたから」
「相澤先生、そんなスゴい人だったんだな……」
「轟、どういう意味だそれ」
「だから相澤さんを雄英に引き抜かれちゃったのは結構痛手だったんだよ…でもよくよく考えれば雄英高校もヒーロー公安委員会の下部組織みたいなもんだし…時間の問題だったかなぁ」
西丸が肩を竦めると、相澤は包帯の下で小さく笑い、根津校長は苦笑いした。
相澤をそのまま東京都直属のプロヒーローにできなかったのは、西丸の数少ない失策なのだ。
「だから今は、インゲニウムやベストジーニストとかの事務所と提携しているよ」
「そっ、その節は兄が大変お世話になってます!!」
実兄のヒーロー名が出てきた為、インゲニウムの弟である
その様子に西丸は穏やかに笑い、「こちらこそお世話になってるよ」と返した。
「他にあるかな?」
「じゃ、じゃあ! この前のスターアンドストライプとオールマイトの件、聞かせてくれませんか!?」
「いいよ、出久君のリクエストに応えよう。事の始まりは――」
その後、西丸は生徒達の質問に丁寧に答えていき、話し足りない様子の生徒達を宥めつつ時間ギリギリまで対話を行った。
史上最年少で都知事になり、教科書に載る程の人物であるだけあって、返答の鋭さと柔軟さは教師陣をも唸らせた。
「――っと、もうお昼休憩の時間だね。会議は正午からで構いませんか?」
「勿論だとも!! 私達は時間があるからね。1時間後、校長室で」
「……そういう訳だ、お前ら。今から通常通り昼休憩だが、西丸さんに迷惑かけないようにな」
『はーい!』
相澤の言葉で4時間目が終わり、生徒達が各々ランチタイムに入るのだった。
*
食堂「LUNCH RUSHのメシ処」。
雄英高校勤務のプロヒーロー・〝クックヒーロー〟ランチラッシュがプロデュースする食堂で、西丸はナイン達と食事を摂っていた。
ちなみに西丸はざるそば、立華は塩ラーメン、ナインとマミーは日替わり定食である。
「流石に美味いね。ウチの都庁の食堂といい勝負だ」
「安さはこっちが圧倒的ですけどね」
「ブランドというモノだろう、それが」
西丸と立華の総評をナインがバッサリ切り捨てると、マミーがソワソワしている様子を見せた。
「あの……視線がスゴイんですが……」
「まぁ、君ら二人の素顔はイケメンだしね。僕と虎太郎は中庸な顔つきな分、より目立つよね」
「整った顔、とは言わないんですね」
「イケメンとかイケおじとかって、他人に言われてこそ成立するもんだよ」
ズルズルとそばを啜りながら雑談していると、1年A組の生徒が四人近づいてきた。
出久と焦凍、飯田に加え、赤いほっぺたとショートボブにした茶髪の女子――
「西丸さん! 一緒にいいですか?」
「あ、いいよいいよ。ほら、座って」
西丸に促されて同じテーブルにつき、昼食を食べ始める。
ちなみに出久はカツ丼、焦凍はざるそば、飯田はカレーライス、お茶子は焼き魚定食である。
「……あ、そうそう。さっき言ってた手紙、ここで渡すよ」
そばを食べ終えた西丸は、焦凍の前に茶封筒を置いた。
食事に手を付ける前に受け取ると、表面に記された「焦凍へ」という字を認めて、目を見開く。
「西丸さん…これって…!?」
「いつか代わりに渡してほしいって、僕に頼んできたんだよ。彼とは長い付き合いだ、何を考えてるのかも大方想像つく」
焦凍は緊張した面持ちで茶封筒を開封する。
中には一枚の便箋があり、走り書きのような文字で一言だけ綴られていた。
――好きに生きて、好きに笑え。
「……」
「彼なりの祈りの言葉だろう。誰よりも君の幸せを願っている証拠だ」
「……ありがとう、ございます……」
便箋を見つめる焦凍の目尻は、少しだけ潤んでいた。
西丸は「僕も彼には世話になった身だ」と語りながら、緑茶を一口飲んで喉を潤す。
「轟君と西丸さんとの接点はずっと気になってたけど、荼毘さんって人のおかげなんだね」
「……一体何者なんだろうか?」
「いい人なのは確かだと思う!」
出久と飯田、お茶子が考察する中、西丸は立ち上がる。
「さて…個人的なミッションも終えたし、都知事としての仕事をこなさないとね。今年の職場体験とインターンに関しては公安とヒーロー事務所がうるさくて仕方ない」
「ま、まさか兄が何か御迷惑でも…!?」
「いやいや、インゲニウムのところじゃなくてそれ以外だから安心して。あとなぜかエンデヴァー事務所も口出してきたんだ。今まで口出ししてこなかったのに、一体どうしたんだか」
「あのクソ親父……」
焦凍が忌々しそうな表情をしている間に、西丸は食器を片付けてビジネスバッグを持つ。
「すまないが、一足早く抜けるよ。三人共、答えられる範囲で質問に応じてね」
「都知事、一体どこへ?」
「全方向秘匿案件だよ、巻原君」
副知事や秘書にも言えない完全な機密案件だと悟り、マミーは口を噤むしかなく、西丸はある人物に会いに行った。
その人物こそ――
「……で、食事を早く終えて俺に会いに来たんですか」
「あなたにだけはどうしても伝えたかったんだ、相澤さん」
西丸は会議前の空き時間を利用し、仮眠室で相澤と二人っきりで話していた。
「実は、問題が持ち上がった。雄英高校のカリキュラム内容が裏社会に流れてるんだ」
西丸が告げた衝撃の一言に、相澤の眉がピクリと動く。
先日のUSJ襲撃事件の当事者として、これは看過できない事案だ。
「どこでその情報を?」
「ミカドさ。裏経済の情報産業は彼がほぼ独占している状態だからね。あなたもミカドの情報網の広さとリサーチ力はわかってるだろう?」
「……誰の仕業です?」
「そこまでは掴んでいない。でも原本が紙媒体だと判明してる。こんな事を言うのもアレだけど、僕とミカドは生徒か教職員に内通者がいると踏んでる」
「成程、こっちがセキュリティや警備を強化しても、内部情報が筒抜けなら意味がないな……」
包帯まみれの姿である為に表情は窺い知れないが、明らかに相澤の纏う空気が変わるのを西丸は感じ取った。
「他に誰とどこまで共有すれば?」
「根津校長だけにしてほしい。あまり表沙汰にすると警戒されて雲隠れされかねない」
相澤は包帯の中で溜め息をつく。
外部干渉による情報漏洩ではなく、
勿論、何だってあり得る超人社会である以上、「相手の記憶を読み取る〝個性〟」を持っている
「わかりました……最善は尽くします」
「僕もミカドに頼んで、他の情報が洩れてないか確認してもらう。こうしている間にも、雄英内の情報はリークされてるかもしれないしね」
「ハァ……こんな形でコンビ再結成とはね」
「いいじゃないか、僕達は無敵のコンビなんだしさ」
笑顔で西丸は徐に手を差し出すと、相澤も小さく笑って固く握手した。
西丸・相澤コンビ、2年振りのタッグ復活の瞬間であった。
本作における内通者は原作と同様ですが、西丸はそこまでの知識がないので「もし内通者がいるとしたら生徒の誰か」「いないけどそういう風にヴィラン達が揺さぶってる」と考えてます。
さて、視察早々かっちゃんの洗礼を受けましたが…会見や議会には普通にアンチ西丸がいますし、何なら区長時代には元ヴィランの就労支援政策の実施の時にネガキャンも経験しているので、あの程度の罵倒はノーダメージです。それに西丸は「罵詈雑言に耐えられない奴が政治家やるな」って考えてるので、かっちゃんがどんなに喚いても無意味です。メンタルの強さと煽り耐性は作中最強クラスなので。(笑)
ただ、ショート君が爆豪君にキレかけたのは意外だったようです。まぁ、でも本作のショート君にとって西丸と荼毘は大恩ある存在ですからねぇ……エンデヴァー、大丈夫かな?
ちなみに荼毘はイサム社長と工事してます。
峰田君は顔を見た途端にゲスそうな顔をしたので、瞬時に潰しました。
小野田ゆり子ファンは雄英にも大勢いますからね。
ただ、小野田のタイプは意外と……?
それと以前、西丸の推しは誰なのかという質問をいただきましたので回答します。
推しは相澤先生です。個人的にも政治家としてもです。
デク君とショート君は、まだ「期待」というランクです。
次回は雄英視察の後編です。