目指せ、脱ヒーロー社会!   作:悪魔さん

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かなり色々盛り込んだ後編。
かっちゃんには申し訳ありませんが、西丸の説教を受けてもらいます。


No.34 雄英高校視察ー後編ー

 雄英高校へ視察に来た西丸は、昼食を終えて根津校長と会議をしていた。

「これが我々が計画している職場体験と校外活動(インターン)カリキュラムだよ」

「成程……」

 西丸は根津校長から渡された資料をじっくりと読み込む。

 

 通常、職場体験はプロヒーローの元で下働きや担当地区の社会奉仕活動、日々の訓練に参加して戦闘技術を学んだり、パトロールや事件対応のサポートを行う授業の一環(プログラム)。そしてヒーローインターンはヒーロー活動認可資格免許の仮免取得後、一ヶ月以上の期間プロ事務所にて有償での就労を行い、活動中はサイドキックとして扱われる生徒任意の活動。いずれもプロヒーロー事務所が対象だ。

 しかし今年度から、職場体験とインターンの対象に東京都首都防衛局が追加されるという。

 首都防衛局はプロヒーロー事務所よりも政治的側面が強く、裏社会(アングラ)案件の対応も多い。特に元(ヴィラン)の就労支援政策やヒーロー社会におけるグレーゾーンの見回りなど、未成年のヒーローの卵が関わるには刺激が強いだろう。

 このカリキュラムでは、首都防衛局に職場体験あるいはインターンに行った雄英生徒はヒーロー事務所と違って行政機関ゆえに無償になるので、「本当に覚悟が決まっている者のみ」を対象としている。

 

「……僕としては全然構いません」

「それは僥倖!! なら――」

「ですが、首都防衛局は「社会の〝闇〟」に触れる事が多い。大なり小なりスネに傷持つ者と接点を持つ。そういう部分の理解と寛容さを併せ持った人間じゃないと、こちらも責任を持てない。そうでしょう? 相澤さん」

「ええ。今の雄英で許可を出せるのは轟だけですね。〝ビッグ(スリー)〟は()()()申し分ないでしょうけど……」

 首都防衛局で職場体験と校外活動が可能なのは、ある種の顔馴染みでもあるA組の焦凍だけだと相澤は断言する。

 西丸もそれに同意し、焦凍以外の生徒だと軋轢を生んだり溝を深めたりする可能性があると説明した。

「成程……しかし、なぜ轟君なら問題ないと?」

「……根津校長、ここって防音設計しっかりしてますよね?」

「勿論。余程の大声を出さなければ外には聞こえないよ。……何か事情があるのかな」

「それについては、僕が説明します」

 西丸は根津校長に焦凍と荼毘の関係を語り出し、二人の関係をアングラヒーロー時代から知る相澤も補足説明を入れる。

 ――当然、西丸は荼毘が轟燈矢である事を隠して。

「……成程。轟君はグレーゾーンの人間である荼毘君と幼い頃から仲が良く、その関係で鳴羽田のスネに傷のある人々に可愛がられていたと」

「はい。轟は荼毘に連れられたおかげで、柄の悪い奴らとの関わり方をわかってますので」

「完全な善意で言わせてもらいますが、首都防衛局は焦凍君以外の生徒には厳しい体験先です。それを承知の上でなら、判を押しますよ」

「わかった。どの生徒にするかは相澤君、申し訳ないけど君に任せたい」

 二人の提言に耳を傾けた根津校長は、首都防衛局を職場体験先に加えるに辺り、生徒の推薦は相澤に一任する旨を決定する。

 アングラ系知事部局である首都防衛局は、プロヒーロー事務所と違って裏社会とグレーゾーンに踏み込む為、表社会が排除するものへの理解度と許容度の高さが求められる。故に手前勝手な正義感を振りかざす事は、余計なお節介どころか状況の悪化を招きかねないのだ。

 それが東京都知事・西丸伸太郎という政治家(おとこ)が最も恐れている事なのだから。

「おや…もうこんな時間か。西丸都知事、他に話し合いたい事はあるかな?」

「じゃあ、一つだけ要請という形で。――雄英高校の全寮制化を強く進言します」

「!」

 根津校長は目を見開いた。

「先日、伝手から連絡を受けまして。〝ウォーターゲート〟って言えばわかりますか?」

「ウォーターゲート…!! じゃあ「ARI」は実在する組織なのかい?」

「ええ、俺も直接本部で会ってます。しかも西丸都知事の高校時代の同級生なんです」

「実は襲撃事件があった日、彼からカリキュラム内容が裏社会に流れているという情報を頂いたんです」

「何と…」

 根津校長が驚きを隠せない中、西丸は猪上知事の反省を活かして全寮制を勧める理由を改めて説いた。

 

 先の襲撃事件で裏社会に流れた情報の原本は紙媒体であり、ハッキングや不法侵入による盗難などの外部干渉ではなく内部からの流出が可能性として高く、より学校関係者の出入を制限して情報漏洩を防ぎつつ内通者が生徒の可能性もある為、その行動を把握し秘密裏に探る必要性がある事。

 仮にそれを抜きにしてもヒーロー科は7時間目まであるハードスケジュールであり、疲労の蓄積による〝個性〟制御の緩慢が思わぬトラブルを起こしてしまう恐れがある事。

 全寮制にすれば食育が親経由でなく自炊に変更され、それを当人に毎日実践させれば生涯にわたる健康的な食習慣の土台を築く為の知識・技術が身につき、体が資本であるヒーロー活動のスキルアップにも繋げられる事。

 

 その説明を根津校長は真摯に聞き入り、肘を机について両手を組み合わせ、口元を隠すように顎を乗せて呟いた。

「カリキュラムは紙媒体で漏洩したんだね……なぜウォーターゲートは君を介して情報を?」

「時価云十万単位で取引されるような代物をタダでばら撒かれたら、自分の商売が上がったりだからだと言ってましたよ。裏社会にもルールはありますから」

「わかった……西丸君の要請は、次の職員会議に上げておこう。ただ、近隣の不動産賃貸業や地価、小売業へのダメージも想定されるから、猪上知事を交えて進めようと思う」

「ありがとうございます」

 西丸は頭を下げて礼を言った直後、授業終了のチャイムが鳴り響く。

 すると根津校長は、帰りの時間について尋ねてきた。

「西丸都知事、帰りはいつ頃ですか?」

「いや……公用車で来たんで、まだ時間はありますが」

「じゃあ、今度は実技の見学でもどうかな? 我が生徒達の実力、是非ともその目で見て欲しい!!」

 根津校長に誘われ、西丸も現時点の生徒達の力量を把握しておきたいので快諾するが、相澤は自分は出席しないと宣言した。

「相澤さん、何か事情が?」

「今回の爆豪に生徒指導しなきゃならんので……流石にやり過ぎた」

「ああ、あのキツいジョーク?」

 西丸は気にも留めてない様子だが、相澤はかつてなく険しい顔をした。

 爆豪は知力・体力・戦闘センス抜群だが、攻撃的な性格で言動も粗暴、何より自尊心が強いせいで何であろうが負けた気分になる事が大嫌いな問題児だ。故に日頃の行いがトラブルを引き起こしやすいのだが、今回の件は最悪の形で表面化してしまった。

 多方面で超人社会に大きく貢献した人物に対するあの礼節と品性を欠いた侮辱的な発言は、教師や大人として看過できないだけでなく、()()()()()()()()許せないものだった。

「私情を挟んでるのはわかってます。でも西丸さんをあそこまで悪く言うのは、流石に我慢の限界ってもんです」

「ははは、あなたのそういう所を僕は信用してるんです。……ただ、彼の件は一旦僕に預からせてくれませんか?」

 西丸の意外な提案に、相澤と根津校長は怪訝な表情をする。

「まぁ、任せてください。僕も大人ですから」

 

 

 こうして西丸は、根津校長や相澤と共に体育館へ向かい、ナイン達と共に実技の授業を見学する事になったのだが……。

「ほう、個性強化訓練はオールマイトさんが?」

「ええ。まだまだ未熟ですが…」

「僕も前職が完全に畑違いでしたから、気持ちはわかります。些細な事でも気掛かりだったり困ったりしたら、教員歴の長いヒーローに遠慮せず相談していけばいいんです。ただあなたは規格外なので、物事の判断基準はできるだけ他の皆さんに寄せるべきかと」

 割とガチな西丸の助言に、オールマイトはペコペコと頭を下げる。

 その光景を目の当たりにしたお茶子は「社会科の教科書の光景や…」と呟いた。

「いや、実はですね。さっき根津校長と今年の職場体験とヒーローインターンの話をしてて、東京都首都防衛局を新たに追加すると決めまして」

「首都防衛局!! ヒーロー以外で有事の〝個性〟行使が許されている東京都の行政機関!! 東京で活動するヒーロー達を支える、縁の下の力持ち!!」

「最近よくニュースで見かけるぜ!! ベストジーニストも太鼓判を押すスゴいチームなんだろ!?」

「東京の闇の守護者…!!」

 今年度からニュースで話題の組織が新たな選択肢に追加されると聞いて、爆豪を除いた生徒達は盛り上がる。

 だがそんな彼らを見て西丸は、期待を一瞬でどん底に叩き落とす宣告を放った。

「ただ、ヒーロー科の1年生が礼節を欠いた態度を取ったので、ヒーロー科だけ受け付けません」

『――は?』

「じゃあ言葉を変えよう……今回の視察の出来事を議会に報告して、雄英高校の職場体験と校外活動は中止します。僕が都知事の任期を満了するまでの残り2年」

 西丸の非情な宣言に、出久達だけでなく相澤達も固まった。

「ほら、困るでしょ爆豪君」

「あ……」

 爆豪は顔面が蒼白になった。自分の発言が、どれだけ大きな事態に発展したか理解して。

 西丸は怒鳴ったり口調を荒げたりする事はせず、それでいて容赦なく言葉を投げかけた。

「僕はアレ以上の暴言を吐かれた事あるんで何とも思わないし、そもそも()()()()()言葉で傷つくような人間じゃないです。でも若気の至りとかじゃ済まないんですよ、本来アレは。いきなり大声で差別的暴言を浴びせるのは、侮辱罪が成立しますから」

「……」

「物凄いカウンター来たでしょ? 自分一人じゃなくて雄英高校全体の問題になっちゃったから。〝平和の象徴〟の教え子は非常識な差別主義者ですってレッテル貼られちゃうんだから」

 無慈悲に並べられた言葉に、目に見える程に追い詰められた表情を浮かべる爆豪。

 西丸は、そのカウンターを予見してないのが油断や驕りと呼ばれるものだと語った。

「これが世の中なんだよ。自分の立場が強いか弱いか、どこに置かれてるのか、常に意識する……世渡りってこういう事なんだよ。別に君の心をへし折るつもりじゃないけど、襟を正さないと自滅するよ?」

 色々と巻き込んだ説教に、冷や汗が止まらない爆豪は……。

「…………すみません、でした……」

「わかれば結構。……相澤さん、すみません時間を頂いて」

「ええ……ちなみに、中止の件は?」

「合理的虚偽です」

 含み笑いで言う西丸に、相澤は「流石は政治家」と呟いたのだった。

 

 

           *

 

 

 その後、爆豪は相澤とマンツーマンの生徒指導60分コースへ直行。

 西丸は時間の許す範囲でオールマイトの授業を見学する事になったのだが……。

「フンッ!」

 

 ドンッ!

 

「だはーーっ!!」

「ふごぅ!!」

 肉球の掌底を食らい、稲妻模様のメッシュの入った金髪男子――(かみ)(なり)(でん)()が弾き飛ばされ、運悪く直線上にいた峰田を巻き込む。

 その二人――ただし片方は貰い事故だが――と交代するように大きな尻尾を生やした平生型個性の()(じろ)猿夫(ましらお)が、尻尾を織り交ぜた機動力に優れた格闘戦を仕掛ける。しかしその全てを的確に捌かれてしまい、一瞬の隙を突かれて足払いでバランスを崩されて制圧された。

「つ、強い…」

「これぐらいしないと、西丸都知事は守れないんだ」

 淡々と語る相手に、尾白は「まだまだ!」と威勢よく尻尾を振るって脱出する。

 それを眺めていた西丸は、穏やかな笑みを浮かべていた。

「僕の傍に居続けるだけある。流石は元プロヒーロー事務所の職員」

「ねぇ、職員のレベル超えてない? 彼、ホントにヒーロー科出身じゃないんだよね? 滅茶苦茶強いじゃん!?」

 ご満悦といった表情の西丸に対し、オールマイトはあまりの実力に絶句する。

 今回の授業、何と根津校長のお願い――というかほぼ無茶振り――で立華とマミーがA組と手合わせをする事になったのだ。前職がプロヒーロー事務所という経歴と、長年培ってきたハイスペックな直感で立華の力量を察知したのである。

 生徒の熱意にも押されて渋々応じた立華であったが、蓋を開けてみればA組の強者達を圧倒する一方的な展開になっていたのだ。

「立華さんって、ただの秘書じゃねえのか…!?」

「轟君、私はスポーツマンだ。そこらの秘書とは鍛え方が違う」

「……スポーツマンなら、仕方ねぇか」

「轟君、天然が過ぎるぞ!!」

 高い格闘スキルを見せつける立華の言い分になぜか納得した焦凍に、飯田は力強いツッコミを入れる。

 すると赤いスパイキーヘアの熱血漢、(きり)(しま)(えい)()(ろう)が立華の前に立って拳を構えた。

「立華さん、男らしく一騎打ちだ!!!」

 腕を捲りながら宣言すると、切島は〝個性〟を発動。

 両腕を硬化させて火花を散らせ、刃物のように鋭く光らせる。

「……あの尾を使う武闘家と同じ、徒手空拳の腕自慢か」

 息が上がっている尾白を一瞥してから、掌を見せるように構える立華。

 先手必勝とばかりに切島は突撃し、思いっきり殴りかかるが……。

 

 ――プニッ

 

「っ!?」

「盾は何も硬けりゃいいってものでもない。剛柔併せ持ってこそ」

 打撃と斬撃の両方の効果を兼ね備える拳も、日本刀による一太刀も容易く受け止める立華の肉球には通用しなかった。

「……盾は使い方次第で矛にもなる。君が一番わかってるはずだ」

「げっ!」

「どんな〝個性〟も使い方と訓練次第でいくらでも強い戦闘手段になる。忘れない事だ」

 

 ボンッ!

 

「ぐはっ!」

 立華の掌底を顔面から食らい、吹き飛ばされる切島。

 そこへすかさずプロレスラーのような体躯の()(とう)(りき)(どう)が、肩から腕の他に2対の触手を生やした障子(しょうじ)()(ぞう)とタッグを組んで攻撃するが、無駄のない動きで躱していく。

「立華さんの〝個性〟である肉球は柔らかいだけじゃなく強い弾性もあるから、衝撃を吸収するどころか物理攻撃を跳ね返す事ができる。それに加えて空手や合気道のような武術とその効果を最大限発揮する身体能力・格闘スキルを持っているから、一挙一動に無駄な動きがなく相手の隙を逃さない。どんな〝個性〟も使い方と訓練次第でいくらでも強い戦闘手段になる……立華さんの言う通りだ。僕ももっと努力して考えておかないと…」

「緑谷、そんな事言ってる間にもう俺達しか残ってねぇぞ!!」

「へっ!? ……うわっ!! 皆!!」

 緑谷がブツブツ言ってる間に、A組男子はほぼ制圧状態。残されたのは出久と焦凍だけとなり、二人は身構える。

 一方のマミーと手合わせしていた女性陣は……。

「ちょ、強すぎるよ~!! 無理無理無理ぃ~!!」

「ぬぅ……これは始末書案件か……?」

 あらゆる物体に包帯を巻き付けミイラを作り、そのミイラを意のままに操れる「木乃伊化(マミー)」が猛威を振るい、透明人間の葉隠透(はがくれとおる)が降参。

 物量戦を仕掛けて一対六の組み手に勝利したが、その直後に襲い掛かった罪悪感に気まずくなるマミーであった。

 

 

「よし! では実技の授業はここまでにしよう! 立華君と巻原君にお礼を!!」

『ありがとうございました!!』

 実技の授業を終え、生徒達は今回の手合わせに参加した二人に謝意を示す。

 立華は冷静に「仕事ですから」と答える一方、マミーは少し恥ずかしそうに会釈していた。

 そこへ、オールマイトが朗らかな笑みを浮かべて称えつつ、その秘密は何なのか尋ねた。

「それにしても、二人共!! 私から見ても実に素晴らしかった!! 今時のプロヒーローともいい勝負ができそうだが、何か資格や武術の免許でもあるのかな?」

「せ、拙者は荒んだ経歴ゆえ……いわゆる不良(ワル)でござった。首都防衛局に入ってからは、訓練を受けている。資格は一般個性免許証と銃砲刀剣類携帯許可証でござる」

『〝一般個性免許証〟?』

「簡潔に言えば、〝個性〟の使用に関する免許みたいなものだ! 数年前まではヒーロー一択だったがね」

 生徒達にいい所を見せようと、オールマイトは説明を始める。

 

 「総〝個性〟社会」であると同時に「〝個性〟抑圧社会」でもある日本は、程々に〝個性〟を抑えて暮らすのが社会の絶対的ルールであり、唯一の例外がヒーローであった。

 しかし実際問題、ヒーロー以外にも〝個性〟を使用した方が効率のいい職業職場が存在するのも事実であり、非効率・非合理的な側面も少なくなかった。そこで今村篤太郎政権は、ヒーロー活動認可資格免許証――世間一般でいうプロヒーロー免許証――を「第一種個性使用許可証」として法で再定義し、新たに一定水準の安全性が担保できればヒーロー以外の〝個性〟使用を認められる公的資格を設立した。それが「第二種個性使用許可証」、いわゆる一般個性免許証なのだ。

 第一種と第二種の明確な違いは、許されている範囲だ。第一種もといヒーロー活動認可資格免許証は、全ての公的な場所での〝個性〟使用を許可されるだけでなく、自身の責任において無免許の人間へ〝個性〟の使用を許可する権限やサポートアイテムの作製及び公的な場での着用・携帯・使用が許可されるなどの特権が多い。一方の第二種は公的な場所での〝個性〟使用を許可されてはいるが、緊急時の際の正当防衛や国の認可が下りた業種での使用のみであるなど、第一種よりもはるかに厳しい制限を課されている。

 また、ヒーロー免許は実技形式の一次試験と二次試験の合否で仮免許が先に発行され、その後さらに厳しい試験や研修を経て正規の免許証を取得するが、第二種の方はより厳しいもので書類審査・記述式筆記試験・個別実技試験・救助演習試験の4つをクリアしなければならない。しかも救助演習試験に関しては不合格になった途端に他が合格でも失格扱いとなり、一から再受験しなければならないのだ。

 

「その非常に厳しい基準から、第二種個性使用許可証は〝日本で最も取得が難しい資格〟と言われている!」

「行き場のない〝個性〟を犯罪に走らせるのを防ぐ……この制度を立案した大泉勇人法務大臣には脱帽ですわ」

 クラス副委員長を務める優等生の八百万(やおよろず)(もも)は、大泉の慧眼に敬服の念を抱いた。

「ああ……最近連絡寄越さないしドライブにも誘わないなって思ってたんだけど、ちゃんと法案作ってたんだね。勇人って高校時代から遊び人気質のイメージあったから」

「え!? 法務大臣ってそんな人なんですか!?」

「そうそう。大抵の事は何でも一人でこなせる天才肌だけど、面白いか否かで物事を決めるという悪癖があってね……つまんない事はよく僕に丸投げしてたよ。今でも時々周りを揺さぶって法案出してるそうだし」

「思いの外、質の悪い人ね」

「いや、ホントごもっとも。あの人に法務省任せた今村総理は大物だよ」

 西丸の口から語られる大泉の意外な一面を知った八百万は驚き、いかにもカエルっぽい面立ちの女子・()(すい)梅雨(つゆ)は割と辛口なコメントを返した。

「そういえば、ナインは第二種だけだっけ?」

「他の資格は検討中だ…」

「別になくても生きていけますが、取って損はないでしょう」

「じゃ、じゃあ立華さんはどんな資格を?」

 金髪と大きな青い瞳を持つ(あお)(やま)(ゆう)()が尋ねると、立華は指を立て始めた。

「確か……一般個性免許証、秘書検定1級、手話通訳士、通訳案内士、調理師、それと1級小型船舶操縦士…」

「も、もう十分ですっ!!」

 あまりの情報量に、岩石のような頭が特徴的な男子・(こう)()(こう)()がシャットアウト。

 西丸のサポートの為だろうが、それにしても多彩だ。もはや資格マニアである。

「虎太郎って意外とオタクだな。そういえばこの間、何の勉強をしてたんだ?」

「無線技術士を…」

「君は一体どこを目指してるんだ?」

 西丸は自身の秘書をジト目で見つめながらツッコミを炸裂させたのだった。

 

 

           *

 

 

 時刻は午後5時。

 残された普通科の視察を終えた西丸達が東京に戻る時間となった。

「相澤さん、本日はお世話になりました」

「いえ、こちらこそウチの爆豪がご迷惑を…こいつ反省文書いたんですけど、受け取りますか?」

「いいですよ、そんなもの。マスコミに変に嗅ぎつけられると困りますし」

 西丸は目を背けて押し黙る爆豪を一瞥する。

「それに彼もいい社会勉強になったんじゃないんですか? 無個性の(ヴィラン)予備軍である僕のカウンター食らったんですし」

「嫌味か!!!」

「おや? またそんな口を利いていいのかな? 言っておくけど君の僕に対する暴言は虎太郎がちゃんと録音してあるんだ」

 西丸の隣でボイスレコーダーを見せる立華に、爆豪は血の気が引いた。

 これには相澤も「いい加減学習しろ…」と呆れてしまう。

「では、これで終わりですが、最後に聞きたい事は? 5分だけならいいですよ」

 西丸がそう尋ねると、障子が手を挙げて前に出た。

「あの…異形型の名称変更に尽力したと聞いて…」

「あれは僕一人だけじゃないよ。むしろ遅くなって申し訳ないくらいだ」

「……率直に言って、俺はあなたを尊敬しています」

 障子は徐にマスクを取った。

 その口元には大きく不自然な傷跡が残っている。

「あなたのおかげで、俺はマスクを取る事に躊躇わなくなった。本当にありがとうございました」

「いいえ、どういたしまして。――でもさっきまで口元を隠してたが、何か別の理由かな?」

「ヒーローが周囲を怖がらせるのはよくないですから……」

「僕としては結構な男前だと思うけどね。まぁ、個々の事情に口を出すつもりはないよ」

 西丸は微笑むと、立華達と共に公用車に乗り込む。

「では、相澤さん。今後ともよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、色々と迷惑かけるでしょうがお願いします」

 西丸は最後に相澤との僅かな時間の雑談を楽しんでから、都庁へ向かって出発したのだった。

 

 

           *

 

 

 

 その日の夜。

 新宿の某高層マンションに本部がある諜報機関ARIで、創立者兼代表のミカドがメンバー達と会談していた。

「皆、これどう思う?」

「どうって……バケモノでしょ」

 ミカドに書類を渡され、それを見た珠緒はジト目で一言で片付けた。

 それは、先日の雄英高校襲撃事件の折、圧倒的暴力を振るった謎の脳味噌剥き出し(ヴィラン)

 彼曰く、情報ソースは過去に自分に「借り」を作った警察庁幹部からで、DNA鑑定の結果は傷害・恐喝の前科持ちのただのチンピラで、その体には何と全く別人のDNAが少なくとも4つ以上混在しているとの事だ。

「むぅ……つまり改造人間という事か?」

 資料を眺めていたジェントルの反応に、ミカドは頷く。

「こんなクレイジーな生体兵器を作れる人間がいるなんてびっくりだよ。造れるのはそういう知識と技術に秀でた奴というのは当然として……問題なのは工場の場所だ」

 この日本で生体兵器を造るには、かなり土地が広い場所が無いと話にならない――ミカドはそう断言する。

 確かに、日本の国土は非常に起伏に富んでおり、超人社会になって開発が進んでなおも山地や森林が大部分を占めており、世界全体の面積の約0.25パーセント程度のままだ。そんな狭い島国で改造人間を造れるだけの大きな工場……言い換えれば「土地が広い」「隠密性が確保できる」という条件が当てはまる場所は限られている。

「じゃあ、あなたは見当がついているの?」

 ラブラバの問いに、ミカドは自分が改造人間を造る側だったらという前提で推測を立てた。

「材料集めなら病院。一度に多くの遺伝子と〝個性〟を集められる。それにあの脳味噌野郎の素体が生者でも死者でも、病院なら外部からの違和感も少ない。病院で誰か死ぬなんてしょっちゅうだしな」

『……!!』

「そして製造場所を選ぶなら港の倉庫。港なら倉庫持ってれば隠せるから、保管場所としても最適。何より警察とヒーローが嗅ぎ回っても、船を持ってれば積み込んで逃げられるだろ?」

Mr.(ミスター)ミカド、まさか……」

 その発言に、ジェントルは血相を変える。

 ミカドの考えがもし正しいとするならば……。

「東京湾にある全ての倉庫を調べ上げ、病院はデカいところに絞る。給料は弾むから頼むぜ」

 そう命じた時、ガチャリと玄関ドアが開き、リザードマンを彷彿とさせるトカゲじみた青年がコンビニ袋を片手に姿を現した。

「あっ……すんません」

「あー、いいよいいよ。むしろタイミングバッチリだ、伊口」

 気まずそうな表情をしたトカゲ青年――伊口秀一にミカドは笑ってみせる。

 彼は半年前にARIに加わった新入りだ。平生型個性を未だに異形型と呼ぶ故郷を捨てて上京したはいいものの、仕事が上手く行かず路頭を彷徨っていたところをミカドがスカウトしたのである。

「伊口、早速で悪いが君に〝S辞令〟だ」

「お、俺が!?」

 代表からの命令に、伊口だけでなくジェントル達も驚いた。

 日本の裏社会で最大手の情報屋であるARIは、稀にトップのミカドがメンバーに対して極秘の命令〝S辞令〟を下す。このS辞令はいわゆる「口外厳禁の機密情報の入手」であり、ヒーロー公安委員会や警察機構の上層部との取引の為だ。しかし一度しくじったら大ごとになるレベルの内容なので、本来なら伊口のような新入りが受けるものではないのだ。

 事実、過去のS辞令は「指名手配犯の情報追跡」「サイバー犯罪集団の情報強奪」「詐欺組織の逆探知」など、ミカドの支援があるとはいえ明らかに危険な臭いがプンプンするものだ。

「……俺に、何をしろと…?」

「横浜でしばらく暮らすんだ」

『は?』

 あまりにも斜め上な任務に、一同唖然となる。

 ――ただの移住が、極秘の命令?

 一体どういう事だと困惑していると、詳細な辞令内容をミカドは語り出した。

「おそらく京浜港のどこかに、雄英高校を襲撃した改造人間の格納庫があるはずだ。それを探ってほしい。仕送りは任せておけ」

「え? 俺が一人で調べるのか!?」

 伊口はギョッとした。

 というのも、京浜港とは東京湾の西岸一帯に位置する巨大な国際物流拠点で、東京港・川崎港・横浜港の三つの港の総称だ。たった一人で調べるとしたらとてつもない時間がかかり、労力も尋常ではない。

 しかしミカドは、三つ全部の港を調べる必要はないという。

「東京港は西丸都政で取り締まりが強化されている。だから首都高速湾岸線へのアクセスが抜群な川崎港か、大規模な普通倉庫や危険物倉庫も充実している横浜港のどちらかになる。確率的には80パーセント横浜だろうけどな」

「な、内陸の倉庫とかは、調べなくていいよな…?」

「海沿いの方が証拠隠滅しやすいからな……でも気になるなら調べていいぞ」

「わ、わかった!! でもヤベェと思ったらすぐ逃げるからな!!?」

 こうして伊口は、東京湾に潜む不穏な影を掴む為に、横浜へ移り住む事になったのだった。

 しばらくして、自分が巨大な陰謀に巻き込まれる事になるなど、この時の彼はまだ知る由も無かった。




今回は色々と小ネタが多いですね。

2年振りに復活した西丸と相澤の鳴羽田コンビは「独立独行で活動する相澤を西丸が政治的側面でスポンサーとして支援する」というスタンスで、互いに敬意を払い信頼し合ってます。西丸が東京都知事になった為に相澤は権力の後ろ盾を得てるので、ある意味で雄英最強です。(笑)

本作の世界線では、プロヒーロー免許証と一般個性免許証の二種類が存在します。一般個性免許証の法的制限が厳しいのは、解放主義の浸透をなるべく防止する為でもあります。

それと今回発覚した新事実。立華は資格マニアでした。
ちなみに武術では合気道や空手、柔道などを習っていたとの事です。

そしてスピナーがまさかのミカドの部下に。でも彼は死柄木達と関わらせる予定です。
ARIにおけるS辞令のSは「シークレット(Secret)」のSで、大体マジで危険すぎる任務になってます。その分ミカドからの報酬も跳ね上がりますが。
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