目指せ、脱ヒーロー社会!   作:悪魔さん

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時系列で言えば雄英体育祭直前です。

それはそうとアンケートは終了したので、ツムジはバタフライエフェクトの立場にします。
ちなみにアンケート結果で二人目の転生者に決定してたら、記憶を頼りに原作改変に勤しむ存在になってました。
まあ、ダークマイト並みにやりたい放題するのは変わらないんですけど。


No.35 クロス・ギャング

《難度が高すぎる?》

「うん、第二種を司法試験とかより難しくする必要は無いんじゃないかなって」

 西丸は電話越しで親友・大泉勇人法相に告げた。

 一般的な免許が特権の多いヒーロー免許を取得するより難しいとなると、資格取得できるまでの過程で相応の学力・精神力・個性制御力を有する事になるので、効果はそこまで期待できないのではないか――西丸はそう考えているのだ。

 すると大泉は、この法整備に関連した裏事情を語り出した。

《いや、実は最初の案はもっと難度が低かったんだよ。車の免許取るのと同じくらいの難度だ》

「じゃあ、ある狙いの為にわざと難度を上げたんだね」

《その通りだ……マル、ちょっとSNS見てみろ。そこに答えがある》

 そこで西丸が言われるまま、パソコンでSNSを覗いてみると大泉に対するバッシングのコメントが連なっていた。

 たとえば「〝個性〟が解放できるかと思えば、そこまでの過程が抑圧的すぎる」「こんなに難しいんなら何の為の第二種なんだろう」「絶対難度緩和させないでしょ…」という穏やかな言い回しもあれば、「こんな高難度を取る為に金も時間も掛かるだろクソが」「大泉は落選しろ」「辞職しろバカ」という少し過激なコメントもある。中には明確な人格否定もあり、普通に精神的に参ってしまうものばかり。

 しかし大泉は、これらの事態は想定内であり、むしろ狙い通りであると続けた。

《俺をボロクソに言ってるこいつらのアカウント、よく調べてみろ》

「……!! これは」

 西丸は気づいた。

 様々な罵詈雑言で大泉を非難している面々は、市民団体や大学教授、マスコミ界隈に野党議員と幅広いが、それぞれをプロフィール文を確認すると一つの共通点がある。

 ――思想が解放主義に寄っている?

「……勇人、これって()()()()()?」

《そうだ。そもそも俺は「規制緩和はしない」と一言も言った覚えもない。政権のバッシングもあるが、総理が上手くはぐらかしてるおかげで俺の本当の目的を悟られてない》

 大泉の目的は、とどのつまり「炙り出し」。

 解放主義者という一昔前の過激派の生き残りを見つけ、最後の一兵卒に至るまで叩き潰す為の罠であった。

《この件でちょうど心求党の党首が見事に引っかかりやがった。あいつはクロだ》

「君が作った法律にギャーギャー喚き散らす奴は、解放主義者だと? ……まぁ、異能解放軍は国家権力が大っ嫌いだしなぁ」

《ああいう組織は時代に適合しても、本質は最初から変わりやしねぇんだ。あれこれ理由をつけて全力で反対しに掛かるだろうが、俺より大人気のお前が連中を締め上げる手段を使えば、あとは俺達の手のひらだ》

「……僕の場合はタイミングの見極めが大事だ。君も待ってもらうよ」

 法的拘束力の高い手段を持つ大泉と違い、西丸はそれよりも拘束力の低い条例が精一杯。

 しかし、影響力という面ではオールマイトに匹敵する西丸が然るべき筋道(ロジック)で然るべきタイミングで大きく動けば、あらゆる側面・分野に波及するのは明白。内閣総理大臣に比肩する政治的権力を持つ男が全力で潰しに掛かれば、壊滅の未来がちらつくのだ。

 だからこそ、西丸と敵対する者は慎重に動く。タイミングを逃せば相手に勢いや流れを与えてしまうからだ。

「じゃあ、僕も公務がまだ残ってるんでね。ここで失礼するよ」

《ああ、また暇ができたら酒を酌み交わそう》

 そんなやり取りをして電話を切ると、西丸はフゥ…と息をついた。

 

 いわゆる「原作開始時点」に突入してから、ヒーロー絡みの案件で随分と慌ただしくなったが、特に西丸を困らせているのは雄英体育祭を控えている事だ。

 首都防衛局の働きが方々で高く評価されているおかげとも言えるのだが、雄英高校から警備体制の応援を依頼されている。それ自体は非常に光栄な事であり、実質設立して2年余りの新米組織に対してヒーロー養成機関が頼ってくれるというのは正直嬉しい限りだ。

 しかし首都防衛局は、()()()()()()()()()()()()()()()()()を前提に設立した組織である。他道府県での活動は都知事の権限で対応する事は可能だが、東京で活動する現役プロヒーローもスカウト目的で雄英体育祭に観戦に行ってしまう為、首都の治安維持要員が不足してしまう可能性があるのだ。

 

 要するに、本音としては東京で活動するプロヒーロー達は雄英体育祭を観に行かないでほしいのである。

「インゲニウムとベストジーニストは僕の意向を理解してくれてるからいいが、他がなぁ……」

 東京のプロヒーローは若手の割合がかなり多い為、手柄や知名度を優先するヒーローが大半を占めている。

 一方の西丸は、区長時代から無駄な破壊を伴わない合理的かつ円滑な治安維持活動ができるヒーロー――先日コンビ再結成を果たした相棒・相澤消太のような人材を欲している。事実、ヒーローと政治家という異色のタッグを結成した8年間、鳴羽田区での凶悪犯罪は劇的に減った。

 だが実際問題、この社会は「ヒーローは事件を派手に解決し、笑顔で人々を安心させる存在」という固定観念を植え付けられており、合理的な仕事人気質のヒーローよりもエンターテイナー的なヒーローが求められやすい。悪い言い方をすれば、オールマイトという最強の武力・圧倒的なカリスマ性・ド派手な八面六臂の働き(エンターテインメント)が大きな弊害として出てしまっているのだ。

「荼毘君は荼毘君の人生を歩んでほしいし、火伊那に迷惑かけたくないし……この時期はホント嫌になるよ」

 そんな西丸が頭を掻きながら呟く頃。

 火伊那は自宅で幼稚園の扇子(おうぎ)()()()先生から、息子の善治郎に関する連絡を受けていた。

「善治郎が浮いている?」

《ええ……善治郎君が無個性であるのを周りが信じられてないようで…》

 何でも、周りの幼稚園児達が無個性であるはずの善治郎が実は〝個性〟を持ってるのではないかと思ってるらしい。

 無個性である善治郎をいじめていると思っていた分、幼稚園の先生の言葉が意外であった。

《実を言うとここだけの話……私も疑った事があるんです。発現が他人より遅いだけなんじゃないかと。そう思える程、善治郎君は尋常じゃないんです…》

 扇子先生曰く。

 善治郎は一度聞いた音楽を驚く程の速さで覚えたり、園内の本を全て読破しただけでなくその内容を把握してたり、幼稚園児では習得も理解もできないはずの単語を使用したりなど、とにかく記憶力と言語能力がずば抜けている。しかも職員の持ち物も一度見ただけで覚えており、忘れ物をした暁には持ち前の語彙力で指摘してくるという。

 また、同じクラスのお友達よりも職員といたがる節が何度も見られ、一人遊びを好む傾向で、ごっこ遊びなどには渋々付き合ってる雰囲気が駄々洩れなのだそう。それが原因で癇癪を起こしたりする事は現時点ではないようだが、それでも周りから浮くのは無理もないだろう。

 そんな担任の証言から、火伊那はもしやと思った。

「……善治郎はギフテッドなのか…?」

《〝ギフテッド〟?》

 ギフテッドとは、生まれつき平均よりも著しく高い知的能力や、特定の分野で突出した才能を持つ子供や大人の事だ。

 子供の場合、幼児期から並外れた記憶力と理解力、高い集中力に豊富な語彙力などを有する一方、身体や感情のコントロールは年齢相応である為アンバランスが生じやすくなり、興味関心やものの見方が周りと異なるので孤立しがちになる。

 今の善治郎は、話を聞く限りではその可能性がかなり高い。

「……わかりました。主人に伝えて、今後の事を話し合ってみます。ありがとうございます」

《いえいえ……》

 扇子先生との電話を終えた火伊那は、ため息を吐いた。

(まさか、善治郎がギフテッドの可能性が高いとはな……)

 無個性の我が子が、周囲に〝個性〟を持っていると勘違いされる程の才能児だった――それは〝個性〟ありきの超人社会において、あまりにも特異な存在と見られるだろう。

 何せ、今の日本の教育方針から逸脱している。超常以前は文部科学省もギフテッドの支援教育に力を入れていたが、そもそもギフテッド自体が少数派……超常社会になってからは〝個性〟の教育を主軸としている為、ギフテッドへの支援教育はほとんど行われてないのだ。

 つまり、西丸家の力だけで育てていかなければならないという事になる。

「……子育ても難儀なものだな」

 火伊那はインスタントのコーヒーを淹れ、一口飲むと息をつくのだった。

 

 

           *

 

 

 国内某所の廃校。

 その体育館では、裏社会の〝象徴〟になるという野望を掲げる悪漢の儲け話に乗り、あらゆる無法者が集まりつつあった。

「つまり俺がぶっ潰してェ奴は3人!!! そいつらを倒す事でこの儲け話は成功に大きく近づく!!!」

 そう演説する青年――街風操也は不敵に笑う。

「――それでオール・フォー・ワンだロ? 裏社会じゃあ都市伝説だけどネ…」

 ラウンド型のサングラスを掛けた中華風の衣装の上にファーコートを羽織った男、龍燕(りゅうえん)――本当の呼び方はロン・イェン――がツムジに問いかける。

 彼はチャイニーズマフィアの元幹部で、ヒーローによって組織が壊滅した後に日本へ密入国した経歴を持つ。

「しかもその内の一人は、表向きは医者なんだろう? 全国に何人いると思ってんだ」

「確かに!! 虱潰しで探してたら逃げられちまうだろ」

「ああ。向こうが裏社会に通じているのなら、自分が狙われる事ぐらい想定済みだろう」

 シデロとインスマス、ベロスに指摘されるが、ツムジは「うっせーな、人の話は黙って聞け!!」と言い返す。

「それにオール・フォー・ワン直属の配下もバカにできねェぞ」

 黒のダブルスーツで茶色のコートを羽織ったギャング――イタリア系犯罪組織に属してた首領(ドン)・マイヤーが鋭い眼差しを向ける。

「最近じゃあ脳無ってモンスターも量産してるんだろ? 負ける気はねぇが兵力差をどうする?」

 着流し姿で日本刀を二振り腰に差した極道風の(ヴィラン)のイチ――浮嶋京一(うきしまきょういち)――もマイヤー同様に懸念を抱いている様子だ。

 だが、ツムジは意にも介さず「その為に西丸が必要なんだよ!!」と高笑いし、続ける。

「全て〝異能〟で捻じ伏せるんじゃダメなのか? 西丸もそれで言う事を聞かせればいい」

「フザケんなこのクソガキャーー!!」

「ブッ!?」

「おい、止せツムジ!!」

 外典の言葉にツムジは怒りを露わにして蹴り飛ばし、それを見た迫圧紘もといMr.(ミスター)コンプレスが慌てて止めに入った。

「こいつ…!!」

「外典、お前もだ!! 止まれ!!! てめぇら、ここら一帯を更地にする気か!?」

 氷を展開する外典に、キュレーターが立ち塞がる。

 外典の〝個性〟は「氷操」……氷を自在に操るもので、氷の剣山や竜の様な巨大な氷塊を作れる程に鍛え抜いている。氷を纏い打撃力や防御力を高めるなど格闘戦も対応でき、実力で言えばこのチームでは間違いなく最強クラスである。

 だがそんな外典を凌駕するのがツムジだ。彼の〝個性〟は「バースト」で、猛烈な突風を操る。戦闘スタイルは特殊素材の木刀を振るって風を巻き起こすものだが、ツムジは徹底的に鍛え抜いた結果、軽い一振りで風速50メートル以上の猛烈な風を放つ上、溜めの一撃は瞬間風速113メートルというモンスター級の突風を巻き起こす。

 もしここでツムジが暴れれば、外典は敗北どころか周囲の人間や建物と共に吹き飛ばされてしまい、山の木々も根こそぎ薙ぎ倒されてしまう。だからこそ、キュレーター達は必死で止めたのだ。全員、命が惜しいのである。

 ちなみにツムジが日本刀ではなく木刀にこだわるのは、折れてもすぐ買えるからである。コストは抑えたいようだ。

「西丸は同志なんだよ!! 今度おかしな事言ったらタダじゃおかねェぞ!! 外典」

「っ…!!」

 そう一喝するツムジの気迫に押され、外典は渋々引き下がるしかなかった。

 ツムジは改めて集った無法者達に向け、再度語り出す。

「いいかバカヤロー共!! 俺達はこれから「クロス・ギャング」として活動する!! そして(ヴィラン)連合壊滅は裏社会制覇の重要な鍵になる!! 嫌な奴ァ今すぐ消えろ、いるだけ迷惑だ!!! だが俺と共に来る覚悟があるなら付いて来い、新たな〝象徴〟として君臨しようじゃねェか!!!」

 自らの野望へ邁進していくツムジは、癖の強いならず者達を率いてその一歩を踏み出す。

 この日結成されたクロス・ギャングは、日本の個性社会を大きくかき乱す無秩序集団として台頭し、後に勃発する「大きな戦い」に絶大な影響を与えていく事になる。

 

 

 一方、首都圏の某所。

 雄英高校を襲撃した(ヴィラン)連合の拠点であるバーで、死柄木弔は支援者にしてブレーンであるオール・フォー・ワンから話を聞いていた。

「ツムジ?」

《そう……裏社会で突如として現れた暴れん坊だ》

 オール・フォー・ワンは、ある悪漢について語り出す。

 

 およそ半年くらい前から活動を始めたツムジは、強盗団サイダーハウスの壊滅をはじめ、KUNIEDA(クニエダ)などの多くの犯罪者を叩き潰しているという。その目的は今まで不明であり、狙われてるのが別に消えても困らない奴ばかりなので無視していたが、先月にそうも言ってられない事態になった。

 それは、自分とドクターが共同開発した改造人間・脳無の保管庫の一つが破壊の限りを尽くされた事だ。

 実を言うと、雄英高校襲撃計画では実験も兼ねて送り込む脳無は4体の予定だった。しかし直前になって何者かによって保管庫を襲撃され、執拗に破壊されていた。よって送り込めたのが死柄木に運用の説明をする為に予め出しておいた()()()()だけで、止むを得ず社会に不満を持つゴロツキを集めて兵力の代わりにしたのである。

 

 そのツムジの目的について、オール・フォー・ワンは察しがついたと言う。

《ツムジの目的は僕を倒し、裏社会を支配する事だろう》

「先生を…!!?」

《先生、それはいくら何でも話が飛躍しとるんじゃ――》

《ハハ…そう思うかい? ドクター》

 おそらく巨悪と同じ部屋にいるであろう協力者兼主治医の〝ドクター〟も、流石に度肝を抜かれたような声を上げた。

 しかし当のオール・フォー・ワンは、根拠は無いがそう考えると辻褄が合うと述べる。

《何かの情報を掴んでたのか、それとも直感か……吹き飛ばされた脳無の保管庫では地下に保管していたDNAサンプルも壊されていた。これ以上脳無を造られたくないという意思が丸見えだ》

《ムゥ……この期に及んで先生を倒そうと画策する者が生き残っておったか》

「……どうすんだよ、先生」

《弔…僕にとっての最悪のシナリオは、君が倒される事だ。ツムジは僕を倒す為なら君を狙うだろう。だから弔にもしもの事があってはならない》

 暗に死柄木とツムジでは相性が悪いと忠告するオール・フォー・ワン。

 口振りからして、ツムジの〝個性〟について大方の見当がついているのだろう。

《だが彼もいきなりは仕掛けてこないはずだ。僕は友達が多いからね……》

「では、方針は変わらないのですか…?」

《ああ。頼むよ(くろ)(ぎり)

「承知しました…」

 死柄木のお目付役である黒霧が命令を受けると、テレビ通話が終わる。

「死柄木弔……」

「また変なのが出てきたな……しかも俺と相性が悪いって? 場違いすぎるステータス持ってる隠しモンスターかよ……!!!」

 ツムジの存在をゲームで例えながら苛立つ死柄木。

 そういうのに詳しくない黒霧は、どう反応するのが正しいのかわからず困惑するのだった……。




今回はオリキャラが多い展開でした。

扇子先生は善治郎の幼児時代の先生で、善治郎の事をちゃんと理解してくれる「いい先生」です。
〝個性〟は「そよ風を起こす」で、夏場は最高との事。

一方でツムジの下に集うヤバイ奴らも。
チャイニーズマフィアの元幹部である龍燕(27歳)は、気配を消す〝個性〟を持つ風見鶏野郎です。確率としては一番ツムジを裏切りやすそうですが、儲け話には弱いので案外裏切らないかも。
イタリア系犯罪組織出身の首領(ドン)・マイヤー(45歳)は、現在は無個性なので銃火器を武器としてます。新入り時代のかつて所属していた組織が貧乏だったので、かなりケチです。
そしてイチこと浮嶋京一(30歳)。彼は「エアウォーク」という〝個性〟を持ってる設定です。死柄木との相性はこっちの方が悪いかもしれません。アレ……どこかで聞いたような……?

ちなみにイメージCVは扇子先生が茅野愛衣、龍燕が日野聡、マイヤーが中田譲治、イチが近藤隆となってます。異論は認めます。

それと前回の一件が大泉の策略と判明。
当初はヒーロー免許よりも低かったようですが、あえてより厳しくする事で非難の声を上げる人間から隠れ解放主義者を炙り出そうと企てたようです。
ちなみに大泉の策略の真意を知るのは、西丸と総理のみです。
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