なのでゴールデンウィークと言っても、4月の月末ですね。
ゴールデンウィーク。
世間では旅行や帰省のラッシュが始まり、新幹線や高速道路の渋滞がニュースを賑わせている真っ只中。
そんなありがたい連休で西丸は仕事で、火伊那と善治郎は父の誘いで鳴羽田イーストゲートパークを訪れていた。
「何つ-か、落書きだらけの大会だな……」
「これも僕が区長時代に始めた政策の一環だよ」
「父さん、母さん! スゴい強個性だね!」
「ああ、ある意味な……」
善治郎の言葉に、火伊那は思わず苦笑いする。
今日行われているのは、年に一度のストリートアートの祭典であるトウキョウ・ストリートアート・コレクション、略して〝TSC〟。解体された雑居ビルの壁を題材に「立派な落書き」を描いていくイベントで、事前に作成してもらった作品の評価で本選出場者10名を決め、本選ではぶっつけ本番で作品を制作するという内容だ。
このTSC、優勝賞金が300万と高額な上、3位以上は都庁や東京スカイエッグなどで展示される事もあり、毎年参加希望者が後を絶たない。しかも出場資格は5歳以上であればエントリー可能とかなり間口が広く、子供の参戦も歓迎する。
まさに鳴羽田のゴールデンウィークの代名詞と言えるイベントで、地元民だけでなく県外、果ては海外の観光客も訪れる程の人気だ。
「今年で大会も5年目……今回は今の区長である石井さんにお願いされて、特別審査員として来ているんだ」
「父さんって、色んな仕事するんだね」
「そうさ。善治郎、色んなモノをいっぱい見ていきなさい。自分で見て触って感じ取るのが、一番の成長に繋がる」
「うん!!」
西丸が善治郎に優しくそう告げ、善治郎も笑顔で頷く。
するとそこへ、メキシカン風の格好をした男が近づいてきた。
「これは西丸区長!! ……いや、失礼。西丸都知事」
「元気そうじゃないか。ミスター・スマイリー」
見知った顔を視界に捉えた西丸は笑顔を浮かべ、固く握手を交わす。
ミスター・スマイリーこと
しかし犯行中のところを西丸と立華に見つかり、自らの〝個性〟である「スマイル」――自身の笑顔を見せることで対象を2時間も笑い転げさせ行動不能にさせる能力――を発動して逃げようとしたが、元
その後、西丸がTSCの開催を決定し、それに出場できるよう懸命に努力した結果、現在は誰もが一度は耳にした事のあるストリートアーティストとなったのである。
「こちらが奥さんと息子さんで?」
「ああ。西丸火伊那だ」
「西丸善治郎!!」
二人の挨拶に「これはご丁寧に」とスマイリーが笑顔を返す。
「聞いたよ。大会2連勝中だって? 今回は3連勝がかかっているから、過去の経歴も相まって報道関係者からも注目されているよ」
「ああ! だがこの私の3連勝を阻止せんとばかりに、他の作品も優秀だ」
「日本の美術界が明るいじゃないか」
その言葉にスマイリーは満足げに頷くと、西丸に改めて礼を述べた。
「あなたのおかげで、私はこうしてアーティストとして新しい人生を歩めた。……あなたには感謝しかない」
「僕はあくまでもきっかけを作っただけだ。罪を償うと決め、再起を図って成功したのは、君の努力の賜物だ」
西丸は柔和な表情を浮かべる。
アクの強い人間でも惹きつける夫の人間力に、火伊那は流石だなと穏やかに笑った。
するとそこへ、NHAのキャスターとカメラマンが駆け寄ってきた。
「ミスター・スマイリーですね!! あ、西丸都知事も!?」
「むっ!! NHAの者か!!」
「やあ。僕は今回特別審査員として来ている。審査員長は区長がやると決めているからね」
二人で応じると、キャスターは嬉しそうにインタビューを始めた。
「まず西丸都知事、都知事となってからは初めての審査員となりますが?」
「今回はとても楽しみにしているよ。毎年毎年、素晴らしい作品が生まれているからね。ただし審査は厳正に行わせてもらう」
「ありがとうございます! ではミスター・スマイリー、今回は3連覇がかかっていますが?」
「今回は中々の強豪揃いだ、本選に選ばれてからが真の戦いになるだろう……でも私は必ず優勝する!! なぜなら私はしがない天才芸術家……」
スマイリーが語った途端、西丸はすかさず目を隠した。
その行動にキャスターとカメラマンが不思議に思っていると……。
「そう!! ミスター・スマイリー!!!」
スマイリーがそう叫んだ途端、〝個性〟の「スマイル」を発動。自身の笑顔の残像が放たれ、それを見た者は一斉に笑い転げた。
彼の〝個性〟は、自分の笑顔を見せる事で任意の対象者を2時間も笑わせる事ができ、たとえ鏡や映像でもリアルタイムなら効果は有効というトンデモ能力を有する。
この情報を予め掴んでいた西丸は、咄嗟に目を隠す事で回避したのだ。それもそのはず、2時間後にはすでに表彰式が始まっていて、特別審査員として来た意味がなくなってしまう。
「相変わらず強力だね……免許は持ってるのかい?」
「無論! 個性社会でこれは命綱だからね」
その言葉を聞き、西丸はホッとする。
第二種個性使用許可証、いわゆる一般個性免許証は数年前に制定された制度だが、実は先月に改正された法が施行された。それは「〝個性〟の非殺傷性を認められた発現者は試験を簡略化、場合によっては免除する」というもので、免許の取得を外形的に難度緩和したのだ。
しかし免除対象は「体中からレンズを生やす」「5キロメートル先までくっきり見える」といった明らかに他者に害を及ぼさない〝個性〟と認定された者で、法改正の実態は
(ヒーロー以外の人間が公的な場での〝個性〟の使用を許される一般個性免許証の制度……その改正のスピードは異常だったな。ちゃんと審議してないんじゃないかと思った)
言い方を変えれば、それぐらいあの法律に不満を抱いた国会議員が多かったという事だ。法律の施行の時点で、法改正を是が非でも成し遂げようと野党は一致団結したのだろう。都政や地方自治は安定しているが、国政は割と荒れている部類なのかもしれない。
しかし、今はそんな事はどうでもいい。ひとまずこの大会の成功の為に仕事をしなければ。
「……火伊那、善治郎。僕はこれから仕事に入るから――」
「「アハハハハハ!!!」」
「あっ、言うの忘れてた……」
お腹を抱えて笑い転げる妻と息子を見て、西丸はしまったと頭を掻いた。
その後、TSCの優勝者は僅差でミスター・スマイリーに決定。3連覇の達成を西丸は表彰式でトロフィーと祝辞で盛大に祝ったが、次の公務に支障が出ないよう彼の〝個性〟を回避したのであった。
*
鳴羽田で賑やかな大会が行われている頃。
ヒーロー公安委員会の庁舎内で、全国のヒーロー達が集められていた。
『クロス・ギャング?』
「ええ。ここ最近、立て続けに発生している事件の主犯とされるチームよ」
ヒーロー公安委員会会長の言葉に、列席したプロヒーロー達が怪訝な表情を浮かべる。
素性が謎の男・街風操也をリーダーとし、傭兵として活動する
彼らは民間人を標的にはしてないが、代わりにヒーローと
それゆえに公安委員会会長は、首領である街風操也ことツムジを最重要危険人物と見なしているという。
そんな中、背中に大きな紅色の翼を生やした〝ウイングヒーロー〟ホークス――東京都副知事の羽飼遠見絵の
(このツムジって
ツムジは一味を率いてヒーローを襲撃するという凶悪な事件を何度も起こしているが、それらは警察組織や公安委員会としては公にできない案件ばかりだ。
何を隠そう、彼らが襲ったヒーローは、蓋を開けてみれば裏で犯罪グループと癒着して利益を得ていた不届き者ばかり。西丸に庇われる形で「汚れ役」を辞したレディ・ナガンの後釜であるホークスとしては、法を犯したプロヒーローをシバき倒して財産を強奪するツムジの暴れん坊ぶりには笑うしかない。
何せ「ヒーローの犯罪行為」という社会の基盤を揺るがしかねない
「クロス・ギャングと
「エンデヴァー、それはないと
腕を組むエンデヴァーの質問に、会長は答える。
クロス・ギャングは同業者も標的にする組織である為、接触はむしろ
それに現状、死柄木と違ってオールマイトを標的としていなければ恨んでもない。〝平和の象徴〟と事を構えてまで大事件を起こしたくないという腹積もりもあるかもしれないが、撲滅したはずの組織犯罪が再興し始めている中では不幸中の幸いだろう。
「いずれにしても、クロス・ギャングは捕まえなければならないな」
「問題なのは、一度に全員捕縛できる状況じゃないといけない可能性がある…という事でしょうか?」
「ツムジ一人だけ逮捕という流れは、他の厄介な連中を解き放つ事に繋がるからな」
会議に出席するプロヒーロー達は、ツムジの対策について意見を出し合う中、ただ一人エンデヴァーは呟いた。
「……あの小僧、やはり
その同時刻、クロス・ギャングのアジトでは……。
「ツムジ、このまま引き籠ってるつもりか」
「てめェ、今黙ってろ!! 大好きな小野田ユリ子ちゃんが出てるんだからよ!!」
テレビで映画を観ているツムジは、尋ねてきたキュレーターに怒声を返す。
《――5秒やるからその汚い面を生徒に見せるな》
「うおーっ!! 痺れるぜーっ!!」
「……ダメだ、あいつは映画に夢中だ」
「あの
「ま、俺達の関係はビジネスパートナーみたいなもんだからねぇ」
画面に映った小野田にリンゴジュース片手で盛り上がるツムジに、彼の儲け話に乗った仲間達は呆れ返ったのだった……。
*
新宿の某高層マンション。
日本の裏の情報産業の支配者であるミカドは、ある人物達と顔を合わせていた。
「噂の
「簡単だ…オールマイトを殺す為の兵隊を集めたい。お前も加われ」
全身に「人の手」を模した装飾を身に着けた青年――死柄木の言葉に、ミカドは目を細める。
おそらく、ミカドがトップを務める
しかしミカドも、裏社会の大物。当然その話に乗る事はない。
「――話にならないな。俺はどの組織の下に付くつもりはない。ウチはビジネスでやってんだ。ヒーローだろうとアウトローだろうと、ちゃんと取引をしに来るなら相応のサービスをする……それだけだ。裏社会ではARIの立ち位置は中立だというのは常識のはずだよ?」
「てめぇ……」
「死柄木弔、落ち着いて下さい。あの大物ブローカー・
お目付け役の黒霧に諫められ、死柄木はガリガリと首を掻く。
確かに戦闘となれば、死柄木が勝つだろう。しかし裏社会における影響力は圧倒的にミカドが格上であり、情報操作もできる程。情報戦になればミカドに勝てる者はおらず、下手を打てば自分達のアジトを特定されてヒーローに出動を煽られかねない。それにミカドしか知らない情報もあり、彼を頼る顧客を敵に回せば四面楚歌になる。
ここでミカドを排除するのは、悪手以外の何物でもない。死柄木は舌打ちしながらも、一旦矛を収めた。
「ウォーターゲート…後払いというのはいかがでしょうか」
「却下。必ず前払いだ。今までの客はずっとそうだったし、情報屋の信用を得るにはそれが一番だろ普通」
完璧な切り返しに、黒霧は一瞬怯む。
「言っただろ、ビジネスだって。手ぶらで来る奴らに売る情報はない。俺に買ってもらえそうな情報があるなら別だが、無いんだろ? ――いや、厳密には
不敵に笑う情報屋に、どんどん詰められていく二人。
冷や汗をかく二人を尻目に、ミカドは煙草をふかして悠然と座っていた。
「……だがタダで渡せるネタはある」
「何と……!! それはありがたい」
「何だよ、話がわかるじゃねぇか。とっとと教えろよ」
「〝警告〟だ」
ミカドの言葉に、二人は固まる。
「――「激しすぎる〝破壊〟は、時に新しいモノを生み出す。それは福音にも脅威にもなり得る」…努々忘れない事だ」
脱ヒーロー社会という構想に向けて突き進む元クラスメイトを思い浮かべながら、ミカドは中立者として警告するのだった。
今回はどこかで回収しようと思ってた、ヒロアカ最強キャラとも噂されるミスター・スマイリーを召喚。彼はちゃんとケジメつけてアーティストとして再出発してます。
西丸は東京都知事という立場とその激務ゆえ、彼の〝個性〟に引っかかる時間すら惜しいので会う度に回避してます。
このTSC、優勝は300万、準優勝は100万、3位は50万という賞金となってます。
そして感想欄でも賛否両論の一般個性免許証。
大勢の非難の声で改正に踏み切ったのかと思えば、蓋を開ければ元々施行する予定の内容なので、「大泉に騙された」と憤死する有識者が大勢いたという裏事情があります。(笑)
そしてクロス・ギャングの存在感がヒーロー達に知れ渡りました。
ツムジは小野田ファンで、出演作品はコンプリートしてますし、事件を起こす際も彼女が番組出演する時間に合わせる程です。
それとツムジはエンデヴァーと何かしらの関係がある模様ですが、詳細はまたいつか。ただ、結構しょうもない話です。
最後に、ミカドの勧誘に大失敗した連合の二人。
過去に何人も仲間に加わるよう脅してきた人間はいますが、全員ミカドの情報力に色々と晒されて破滅していったので、黒霧がいなかったら詰んでました。まだミカドは〝個性〟を披露してませんので、それについては物語がもう少し進んだらお披露目します。