――ステイン逮捕から2日。
「都知事は、こうなる事をわかってたんですか?」
「ん~…まぁ五分五分ってトコかな」
執務室で休憩がてら
その一面には、「雄英生徒に感謝状」と記されていた。
記事によると、今回のステイン逮捕は
また、今回の件を受けて警察は三名の雄英生に感謝状を送る事にし、代表として一番軽傷であり翌日退院した轟焦凍が受け取る事となったそうだ。
なお、西丸の公用車が破損させられた件についてはなぜか触れられてなかったが……要はそういう事だろう。
「…うん、落とし所としてはいいんじゃないかな? 襲撃の件で信用が落ちたんだ、世間は一部のアンチを除けば「流石あのオールマイトが教鞭をとる雄英生だ」って反応になる。そんな中で警察が罰則を課せば、世間の非難が集中する」
「法務省と見解が違うのも効いたでしょうね」
「そりゃそうさ。法秩序の維持が仕事の中央省庁がステインの件は正当防衛って言っちゃったんだ、警察がそれを否定しちゃお終いだ」
新聞を閉じる西丸は、近くのイスに腰掛けていたナインを一瞥する。
「マミー達に進展は?」
「カイロレンというダミー会社の倉庫に、アジア製トリガーと中国製サポートアイテムが保管されてるのを発見した。防衛局の局員数名と雄英生二名参加して摘発済みだ」
「そうか…密輸ルートは、やっぱり海と陸路かな?」
「アジア系は確実に絡んでるだろう。取引先が誰なのかは掴めなかったが、この国の
ナインは腕を組む。
チャイニーズマフィアや台湾黒社会、韓国のマフィア系組織である
特にかの魔王は、海外に大勢のシンパを抱えている。その縁で
「…〝ウォーターゲート〟はブローカー達の情報を寄越さなかったのか?」
「それまで商材にしたら
西丸は肩を竦めて両手を上げる。
取り扱う商材が違っても、直接的な同業者のビジネスの妨害は自身の信用問題に繋がる。ビジネスである以上は線引きは徹底しなければならない…という事なのだろう。
「ナイン。帯人と協力して首都防衛局を指揮、密輸ルートの調査・摘発を継続してほしい」
「國松と?」
「帯人は別ルートで調べてるからね。それと出久君はウチで見るよ。グラントリノの教育権がパーになっちゃったからね。黒岩局長…ナックルダスターが直々に見るそうだから、その辺は安心して」
「むしろ心配なんだが…」
「未だに「悪党を殴るとスカッとする」とおっしゃってますからね…」
数年前まで危険人物だった脳味噌の詰まった脳筋を思い出し、ナインと立華は揃って苦笑いを浮かべる。
しかし、〝個性〟を奪われるまでは犯罪捜査専門のベテランプロヒーローとして名を馳せた男でもあり、裏社会の知識もアングラ系ヒーローである相澤よりも造詣が深い。ヒーローとしての知識も豊富である為、良くも悪くも刺激になるのは確かだろう。
「心配というのなら、これこそだ。嫌な予感がする」
「「!」」
そう言いながら、今日の毎朝新聞を広げてみせる西丸。
それは刑務所の服役囚が行方不明になったという衝撃の内容で、よりにもよって
更生施設は国と法務省の管轄であるので、西丸個人としては何の関係も無い。だが脱獄した可能性がある以上、都民に及ぶ危険度が甚大である為、次の議会で首都防衛局の権限の拡大を承認してもらうつもりだという。
「首都防衛局には、再来月までに警察・消防・プロヒーローが来るまでの代行ができるように制度を整えとくよ」
「!? 都知事、それは…!!」
「……それが何を意味するのかわかってるのか」
都知事としての決断に立華は驚き、ナインは眉を顰める。
プロヒーローには多様な特権があり、それは他のどの職種にもないものだ。その一部が都知事部局にも与えられれば、ヒーロー業界だけでなくヒーロー社会のおかげで甘い汁を啜っている人間達から猛反発を食らうのは自明の理。更なる敵を増やす事に直結する。
しかし西丸は、それを承知の上で進めるつもりだという。
「今のヒーローは組織犯罪に対するノウハウがほとんどない。オールマイトがほとんど駆逐してしまったからだ。「〝平和の象徴〟の庇護下」という平和ボケが民衆だけでなくヒーローも汚染している。今回のように必要以上にオールマイトを恐れなくなる犯罪者が出てくると、途端にガタガタになる」
(色々なところに波及する言動だ…)
(お前じゃなければ言えんな)
「大規模な組織的犯行に後手に回ってしまう以上、警察だけでは回らないから行政機関で補う他はない。勇人を介して国家情報局との密接な連携も視野に入れ、首都防衛局のポテンシャルを最大限引き上げ、新しい治安維持システムを構築する必要がある。……これに反対する奴は
まるで踏み絵のようなアイデアに、立華とナインは息を呑む。
しかし、これは東京都知事という立場だからこそ為せる改革でもあった。
「議会の承認さえ得られればこっちのものさ。〝脱ヒーロー社会〟の早期実現が急務だ、任期満了までの残り2年で決着を付ける!!」
さらに翌日、鳴羽田区にて。
「いや~、助かるよ。俺だけじゃあ終わらない事もあるからさ」
「いえ…」
そう言いながら出久・焦凍・障子の三人に感謝を述べる、オールマイトなりきりパーカーを来た青年――灰廻航一ことコーイチ。
今日は防犯活動として特別区内を巡回。今のところ問題はない。
「西丸さんがここの区長になる前と比べると生まれ変わったな~」
「そんなにですか?」
「そーそー。鳴羽田は白昼から喧嘩や犯罪がしょっちゅうあったからね」
コーイチは大学生の頃を懐かしむ。
西丸区政が始まる前の鳴羽田は、警察からも「柄が悪い」と評される程の治安の悪さで知られていた。そんな区内に平和を取り戻したのが、当時の区長だった西丸と教師になる前の相澤だった。
独立独歩で合理的な活動を貫く〝イレイザー・ヘッド〟と、彼を政策で支援しつつグレーゾーンの人間達にも手を差し伸べる〝鳴羽田のゴッドファーザー〟により、犯罪発生率と再犯率は右肩下がりに減少し、今では都内屈指の治安の良さを誇る街となった。その裏では自警活動をしていたナックルダスター達のような協力者もいたが、西丸の功績は非常に大きいだろう。
そして都知事になり、彼は首都防衛局という新しい「戦力」を増設した。これにより
「ヒーローが社会インフラ? を担ってるのがよくない……都知事はそう言ってるんだよ」
「……コーイチさんも、ヒーローが嫌いなんですか?」
「まさか!! 俺はオールマイトのファンだよ。君も好きなの――」
好きなのかい、とコーイチが言おうとした途端、彼のスマートフォンに着信が入った。
「はい、もしもし…………っ!! わかりました、こっちで対応しますので現場に近いヒーローに連絡を!!」
電話内容にコーイチは血相を変えると、黒いマスクを着用してパーカーのフードを被り、サンバイザーを装着。
その場で四つん這いになると、三人に告げた。
「付いてきて!!
ギュンッ!!
「!?」
「は、速いっ!!」
コーイチは地面の上を滑るように高速滑走。
三人はその加速力に驚きつつ跡を追うと、通りで身の丈3メートルの青い巨人のような
「わぁーー!!
「危ないぞ!!」
「――そんな騒ぎから首都を守る守護者の一人、〝ザ・クロウラー〟参上!!」
逃げる民衆を庇うように、コーイチは自らのコードネームを名乗りながら巨人
そして出久がコーイチを助けようと咄嗟に地面を蹴った瞬間――
「三人共、街の人を遠ざけて!!」
コーイチの言葉に、出久の足が止まる。
「俺が
「!? 無茶です、危険すぎます!!」
「まずは目の前の人命救助を最優先!! 戦闘行為の可否はもうちょっと出方を伺って……うわっとと!!」
巨人
その言葉に迷う出久だが、焦凍と障子は躊躇う事無く従い、クラスメイトに声を掛けた。
「緑谷!! とにかく避難誘導だ!!」
「今はやれる事をやるんだ!!」
「っ……皆さん、すぐ避難してください!!」
二人の言葉に出久は意識を切り替えると、混乱する人々を安全な場所へ誘導し始める。
その間にもコーイチは、巨人
「ぬぅぅ…!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
(!! 黒く変色した舌……!!)
相手が咆哮を挙げた際に見えた舌の色を見て、相手が
コーイチは避難誘導中の出久に声を掛けた。
「緑谷君!! こっち来て!! 〝緊急安全確保〟!!」
「!? きんきゅ…何ですか!?」
出久はクラスメイト二人に誘導を任せ、コーイチの隣に立つ。
「俺が隙を作るから、あの人を押さえて! 君のパワーなら行ける!!」
「は、はいっ!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「来たよ!!」
巨人
高い威力を有する反面、大振りの攻撃しかできない巨人
そして意識が完全にコーイチにのみ向いたところで――
「今だ!!」
「はいっ!!」
出久が飛び込み、顎を穿つ。
即座にコーイチが足払いをして連撃。衝撃で脳を揺らされた事もあり、巨人
「よし、あとは警察とヒーローに…」
「遅くなってすまない!!」
直後、
クラスメイトの実兄である大人気ヒーローの登場に、出久は目を輝かせた。
「コーイチ君、まさか全て君が?」
「いやいや、オールマイトの教え子である彼らのおかげですよ~」
「天哉の? そうか、君達か。弟がいつもお世話になっている」
天晴は会釈をすると、出久達も頭を下げる。
「ケガはないかな? かなり強そうな相手だが……」
「チームプレーで切り抜けましたよ」
「流石は首都防衛局だ。――本音を言うと、君にもぜひウチのチームに入ってほしいが…」
「スイマセン、今の方が性に合うので…あ、出久君達は手伝ってあげて」
インゲニウム事務所のサイドキック達が雄英生徒と事後処理をする中、コーイチと天晴は情報共有をする。
「トリガー使用者か…」
「やっぱり、まだデカい密輸ルートが残ってるみたいで……昔に比べれば超減りましたけど」
「大麻や覚醒剤の所持より罪が重くなったからね……。コーイチ君…いや、〝ザ・クロウラー〟。西丸さん達には「チームIDATENも摘発に全面協力する」と伝えてほしい」
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします」
コーイチと天晴は互いに固く握手を交わすと、コーイチは三人に笑いかけた。
「三人共お疲れ様。それじゃあ戻ろうか」
首都防衛局に戻った三人は、局長のナックルダスターに一連の出来事を報告した。
「今回の緊急安全確保は適切な判断だ。よくやったな」
「ヤバかったんですよ師匠! 俺一人じゃ厳しすぎる相手でしたもん」
「素早く攻撃的で体がデカい奴は、そいつがド素人でも脅威だからな。今回は素早さが足りない奴だったからお前と学生で対応できた」
ナックルダスターは続いて出久達に目を向け、口を開いた。
「ウチはあくまでも専守防衛だが、首都防衛局員が緊急安全確保を宣言した場合のみは例外だ。宣言されたら思いっきり殴っていいぞ」
「でも、ヒーローじゃないんだろ? いいのかよ」
「これは東京都の決まりだからな。法や条例は破ってもどうにでもなるが、人命はそうはいかん」
焦凍の疑問に答えながら、ナックルダスターはニィッ…と破顔する。
緊急安全確保とは、1400万人の命を預かる東京都の首都防衛局に独自に認められた権限。目の前の
一公務員が持っていい権限を越えているという批判も少なくないが、現実問題としてヒーローや警察の到着の遅れは被害拡大の要因の一つであり、治安維持要員が来るまで待ってくれるような律儀な
何より「不手際があったら責任は誰が取るのか」という考えが、ヒーローにもある。華々しい職業でも人間であり、間違った対応で責められたくないものだ。
「そこで緊急安全確保というシステムが生まれた。発動した際の責任は
「成程…」
「当然、そのシステムは僕が作って議会に承認させたよ」
するとそこへ、西丸が姿を現した。
「西丸さん!」
「ヒーローは法的には警察の下部組織、あるいは嘱託を受ける民間協力者という位置づけ……ヒーロー公安委員会が庇う事はあれど責任は取らない。管理する側でありながらね」
「そう考えると、緑谷の失敗は特例とも言えるな。西丸伸太郎という男と事を構えるのを避ける為だろう」
色々と表に出たらマズい発言が飛び交い、障子と出久は苦笑いする。
唯一何とも思ってない焦凍は流石と言える。
「明日は俺が近接戦闘をレクチャーしてやる。〝個性〟が使えない状況下ではフィジカルに頼るしかないからな。今日はゆっくり休め」
「三人共、ご苦労様。あとはこっちに任せていいよ」
促されるまま、出久達は礼を告げてから首都防衛局の部屋を後にする。
すると西丸は、コーイチに出久の様子を尋ねた。
「今日の様子はどうだった?」
「いやぁ、スッゴくいい子で強いから助かりましたよ。通常活動も熱心で。流石は天下の雄英高校でした! ただ…」
「ただ?」
「俺が
「……それはよくないな」
コーイチの報告から、西丸は出久が自分自身を守ろうとする意識の極端な低さに懸念を示した。
自分を守れない人に他人を助ける事はできない――それが現場の鉄則だ。自分が危険な状態に陥ると、助けるはずが新たな救助者が必要になって二次災害を引き起こす為、まず自身の安全を確保する〝自助〟が最優先される。「考えるより先に体が動いていた」というのは、ヒーロー性としては100点だろうが現場に居合わせた人間としては0点なのだ。
肉体が思考よりも早く動くというのは、実はコーイチも同様で、彼も人のピンチには咄嗟に体が動くタイプだ。しかしコーイチの場合は自警行為を含めたボランティア活動という場数を踏んでおり、自分自身のレッドラインを自覚できている。そして出久は、コーイチのような場数を踏んでない可能性が高い。
自分自身を勘定に入れないままヒーローになろうとしている……それが緑谷出久という少年の危うさなのだ。
「……この件は相澤さんに伝えておく。オールマイトは使い物にならないからね」
「〝平和の象徴〟を使えないって言い切れるの、西丸さん以外いないですよ……」
「まぁ、教育者の才能は無いだろうな」
「師匠!?」
言いたい放題な西丸とナックルダスターに、コーイチは唖然とするのだった。
本作のコーイチ君は首都防衛局員としての場数も踏んでるので、原作より判断力や危機管理能力が高く、根っこの部分でも自分自身をちゃんと勘定に入れてます。まぁ、彼は入れたままで無茶する時もあるようですが…。
デク君は基本的に原作に沿った人物像でいたいので、コーイチ君とは明確に差をつけようと思ってます。コーイチ君の方が大人だし。
神野とかはもうちょっとオリジナル展開をしてから繋げようと思ってます。