ヒロアカって、車のネタが少ないので本作では盛り込んでみました。
作者は車が好きなので。(笑)
束の間の休日。
善治郎と買い物をしていた火伊那は、偶然とある人物と遭遇していた。
西丸の級友である裏社会の情報ブローカー、後藤田水門だ。
「スゴい音!」
「だろ? これが男のロマンってヤツだ」
今時の車にはない重低音を響かせるそれに、助手席の善治郎は興奮し、後部座席の火伊那は窓の景色を眺めていた。
シボレー・シェベルSS。
1970年に「スーパースポーツ」という高性能モデルで売り出された、アメリカの伝説的マッスルカーだ。
赤い車体に黒のレーシングストライプが特徴的なこの旧車を、ミカドはレストモッド――当時の迫力あるスタイルを維持しつつ、現代の技術で快適性や走行性能を高めるカスタム手法――を施しており、エアコンの性能改善やシートの張り替え、制動力とハンドリングの強化など、オリジナルを損なうことなく乗り心地を格段に向上させている。
何より強化されたのは大排気量のV8エンジン。純正454ビッグブロックを496キュービックインチにカスタムして排気量を拡大し、450馬力から550馬力にパワーアップ。静止状態から100メートルを走り抜けるのに4秒前後という
「ナガンちゃん…伸ちゃん、相変わらず軽トラ?」
「もうそろそろ売ろうかなとは言ってた。先に一台買ってから軽トラ売るつもりだと思う」
「流石に軽トラだけじゃ厳しいか」
西丸家の自動車事情に、ミカドは苦笑いする。
そんな他愛のない話をしながら西丸の住むマンションに到着すると、駐車場に見慣れぬ車が停まっていた。
「……何だアレ」
「軽キャンパー…成程」
ミカドはシェベルを路肩に停めて二人とその荷物を先に降ろすと、少し離れたコインパーキングに停める。
マンションの駐車場まで歩くと、西丸が火伊那に説明していた。
「お前がこの前〝多目的用新車〟を買うって言ってたの、これだったのか」
「軽キャンパーは4人乗りな上、使い方次第ではどこでも役に立つからね。家族と出かけてる最中に仕事が入ってもリモートで対応できる」
「土日祝は登庁できないんだっけか? そこに緊急の案件が来る事考えると、理には適ってるか」
ヒーローとは違うもんな、と火伊那は近寄って眺める。
そこへミカドが歩いて到着する。
「相変わらず軽トラのこだわり強いな」
「ミカド! ……まさか、君が二人を?」
「偶然スーパーで会ってな。この状況なら週刊誌にスッパ抜かれても問題ねぇだろ? 帰り道を顔馴染みに送ってもらっただけだからな」
ミカドは軽キャンパーの周りをぐるりと回り、興味深そうに観察する。
「これ、冷却強化されたターボエンジンのヤツか」
「いつも乗ってる軽トラは高速道路にも対応できるよう、ボルトオンターボキットを装着して64馬力に上げてあるんだけど、後付けだから費用が100万ぐらい掛かってね…」
「だがこいつは純正で64馬力。加速力だけじゃなくコスパも優秀、加えて直進安定性・静粛性・ブレーキ性能も高いから車旅にも向いている。……いいセンスじゃん」
内装を拝見しながらミカドは笑う。
在車勤務も視野に入れた新車購入となると、軽キャンパーが最良の選択になるのだろう。
「で、あの軽トラ売ったらどうする? 2台目買うだろ?」
「うーん……火伊那はどんな車がいい?」
「ゴツいのはヤダ」
キレイなもの・かわいいものが好みである火伊那の反応に、西丸は「アメ車はフラれたようだね」と苦笑する。
するとミカドは、二人にある提案をした。
「かわいいかどうかは感覚によるが……いいのは持ってるぞ」
「「?」」
新宿、某高層マンション。
その地下に立ち寄った西丸一家は、ガレージと化した地下駐車場に圧倒されていた。
「これは……」
「2ヶ月ちょっと前にマンションのオーナーが俺に所有権を譲渡してくれてな。生前贈与の形で俺が持ち主になったんだ。マンション丸ごと俺のモンになれば、本部の拡張も可能だしな」
「この駐車場、こんなに高かったのか?」
「いや、機械式の地下駐車場を自走式に改装したんだ。ガレージとしての高さにはそれぐらいないと使えないからな」
ミカドは平置き駐車場と地下駐車場の二つの内、地下の方を自分の所有物にしてガレージに改装。住人用の平置き駐車場はカーポートを付けて雨風対策を施したという。
当然、安全面や豪雨対策、耐震性の観点から改装には莫大な費用がかかったが、表の稼ぎと裏の稼ぎで得た巨額の収入を合わせれば支払いも容易かったとか。
「基本的には旧車や往年のスポーツカーが揃ってるが、中身は現代水準だ。かなりの高性能に仕上げてる」
「……ミカド、あんたも実家が車屋だったのか?」
「いや…実家が車屋なのは大泉の方で、俺の場合は死んだ親父が車イジリが好きなだけだよ。お前は要領がいいからってレストアのノウハウを叩き込まれた」
ミカドは懐かしそうに笑うと、火伊那は一台の白い車の前で立ち止まった。
丸みのあるなめらかなフォルムと、丸いヘッドライト――ポルシェだ。
「…古いポルシェだな」
「1973年製911カレラRS、通称「ナナサンカレラ」。レストアに加えて空冷水平対向6気筒エンジンを搭載して、最高出力は300馬力。外観はヴィンテージだがBluetoothやGPS機能に対応でき、現代ならではの利便性も導入してある」
「…いいな、これ」
目を輝かせる火伊那の反応に、ミカドは「そっちがタイプか」と頷いた。
一方、西丸は善治郎と共に他の車を眺めていた。
(アメリカの往年のマッスルカーに日本の名車、欧州のブランド車……これだけでカーアクション映画が撮れそうだ)
「パパ、これカッコいい!」
「ん?」
善治郎が指差した先には、紺色のスポーツセダンが停まっていた。
ナンバープレートを左側に大きく移動させたフロントバンパー、大型のエアダクトが備わったボンネット、上下のフラップで構成される2段式リアウイング……多くの車が停まってるガレージの中で、それだけが別格のオーラを感じ取れた。
「目の付け所がいいな、善治郎。あれは俺の最初の愛車、ランエボだ」
「ランエボ?」
「三菱・ランサーエボリューション
このマシンだけはどんな大金を積まれても、どんな圧力を掛けられても、決して他者に渡す気はない……ミカドはそう告げる。
そんなやり取りをしている内に、火伊那が声を掛けた。
「このポルシェ、いくら払えばいい?」
相当気に入ったのか、火伊那は買う気満々だ。
元プロヒーローがクラシックポルシェを乗り回す――想像すると中々いい絵面である。
「伸太郎。私の金で買うからな」
「火伊那が? 僕のポケットマネーじゃなくて?」
「そこまでヒモじゃねぇよ、旦那様。ヒーロー時代いくら稼いだと思ってんだ」
どこか悪戯っ子のように笑う火伊那に、西丸は釣られるように笑う。
するとミカドは、思わぬ提案をした。
「じゃあ、伸ちゃんの軽トラと俺のポルシェを交換ってのはどうだ?」
「! いいのか?」
「ちょうど荷物運び用の車が欲しかったんだ。オイルやタイヤを一気に運ぶにはそういう車が必要だからな」
「…悪いね、ミカド。ありがとう」
級友の計らいに西丸は礼を言い、固く握手を交わす。
西丸家の車事情のグレードが上がった瞬間だった。
*
夕方の首都高湾岸線。
横浜のあるパーキングエリアで、國松は同じ東京都副知事である四元と電話をしていた。
「…で、何か進展は?」
《長官も全力を尽くしてるそうだけど、まだ尻尾は掴めないんだと。会長のおばさんはスパイ送り込もうとしてるけど、そう上手く行くもんか怪しいね……だが何の成果も得られなかった訳じゃない。私の方でもちょいと調べがついてね》
「何がわかった?」
《匿名の情報提供さ》
電話越しに四元は語る。
つい数時間前、首都防衛局に一本の電話が掛かった。その内容は、
それを聞いた國松は、一つ心当たりがあった。
「ARIだな」
《あの〝ウォーターゲート〟の?》
「前に雄英襲撃があっただろ? あん時にカリキュラム情報が流れてな。それで相当お冠だったって伸太郎から聞いた」
國松はシガレットホルダーに差し込んだ紙巻きタバコで一服する。
情報ブローカーとして闇の情報業を牛耳るミカドとしては、ブラックマーケットで高額取引されるような重大情報をタダでバラ撒かれる事は挑発行為に他ならないのだ。
「まぁ、それはともかく…メンバーは?」
《引石健磁、〝血狂い〟マスキュラー、ムーンフィッシュ、それと未成年が数名ってトコかね》
「未成年、か……」
四元の言葉に、國松は目を細めた。
未成年の
名も無き者は、時として予測不能の危機をもたらすのだ。
(一人はおそらく、噂に聞く連続失血事件の犯人だろうが……問題は
《…國松君、これからどうするね? もし連合がもう一度雄英襲撃を仕掛けたとして、我々の管轄外。首都防衛局は動かせんよ?》
「公安のババアから要請くればどうとでもなるけどな…」
そう呟きながら、紫煙を燻らせる。
ヒーロー公安委員会会長は、日本国内のヒーロー社会を裏と表から統括する。ヒーローの生殺与奪の権を握る為、権力者としては国務大臣以上、それこそ総理大臣にも比肩し得る。そして現会長も、通常の法律の枠を超えた実務決定を行う事も多々ある。要するに法律上の「縛り」がある事案でも彼女の権力であればどうにでも出来る…という事だ。
ただ、ヒーロー公安委員会は過去の一件で西丸との関係に溝を残している。今でこそ仕事として連携を取っているが、両者の信頼関係は改善しているか否かは不明のまま。それ程までに、
(……まぁ表立った抗争には流石にならねぇだろうが、緊迫した局面に限って鳴りを潜めてた軋轢や不和が顕になるっつーしな)
《おーい、國松くーん》
「ん? あ、あぁ…とりあえず俺達は動ける態勢だけは整えておこう。ナインと遠見絵には俺の方で言っておく」
《そうかね…まぁ、その辺りは任せるよ》
「了解」
國松は電話を切ると、タバコを始末して愛車に戻る。
しかし、自分の車の周りに車好きの走り屋が群がっている事に気づき、怪訝そうに顔を顰める。
「……おい、人の車で集ってんじゃねぇよ」
「っ! おい、あんたかこの車!? スゲェ珍しいの乗ってんな!!」
「今時「小ベンツ」乗り回す奴がいるなんてな!!」
走り屋達の反応に、國松は遠い目をした。
メルセデス・ベンツW201。
「190シリーズ」という車名で展開されたコンパクトセダンで、シンプルかつクリーンなエクステリアに加え、上級車種に引けを取らない高級感あるインテリアを兼ね備えた名車だ。
中でも國松の愛車は「エボリューションII」というアグレッシブなデザインのエアロパーツが装着されたホモロゲーションモデル――レース出場資格を得る為の市販車――で、空力性能を追求した希少なマシン。現在ではカルト的な人気を誇る近代ドリームカーとして、2000万円以上、あるいは3000万円前後の高値で取引されている。
そんな伝説的な車を所有していれば、車好きの走り屋達にとってはコレクターアイテムや垂涎の的以外の何物でもなく、珍しさと希少性から見物していたのも無理からぬ話である。目の前の若者達も殆どが物珍しさから来る好奇心の為であり、それ自体に対して國松も一々目くじらを立てるつもりもなかった。
「見るだけにしろよ」
「わかってますよ!」
「うおっ、中もピッカピカじゃん!」
「質感ハンパねぇ…」
――こりゃあしばらく帰れそうにねぇな…。
國松は溜め息をつきながら、愛車が汚れない事を祈るばかりだった。
本作の主要キャラの愛車一覧です。
〈西丸伸太郎とその一家〉
▪軽キャンパー(JP STAR HAPPY1)
▪ポルシェ911カレラRS(ミカドから譲り受ける)
〈虎太郎〉
▪ミニバン(トヨタ・ヴェルファイア)
〈大泉〉
▪1970年式ダッジ・チャレンジャーR/T(外観は映画「ワイルド・スピードX2」)
▪1969年式シボレー・カマロ(イェンコ・カマロ、外観は映画「ワイルド・スピードX2」)
〈ミカド〉
▪三菱・ランサーエボリューションVI(フルレストア、エアロ純正)
▪シボレー・シェベルSS(外観は映画「アウトロー」)
▪スズキ・スーパーキャリイ(西丸から譲渡)
▪スバル・インプレッサWRX(外観は映画「ベイビー・ドライバー」)
▪トヨタ・スープラ(外観は故ポール・ウォーカー氏の所有車)
▪日産・スカイラインGT-R(R34型、外観は映画「ワイルド・スピードMAX」)
▪BMW・E38 735i(外観は映画「トランスポーター」)
▪プリムス・ロードランナー(外観は「ワイルドスピード×3 TOKYO DRIFT」)
▪ランボルギーニ・ディアブロSV(後期型モデル)
〈國松〉
▪メルセデス・ベンツ 190E 2.5-16 エボリューションII(「HWA EVO」の仕様)
〈四元〉
▪トヨタ・クラウン(純正)
〈ナイン〉
▪ランボルギーニ・カウンタック(25thアニバーサリー仕様、黒のボディカラー)
〈遠見絵〉
▪5代目スズキ・ワゴンR
〈小野田〉
▪マツダ・RX-7(FD型、ボディカラーは赤)
▪ポルシェ・911ターボ(930型、外観は漫画「シティーハンター」の野上冴子の仕様)
ちなみにツムジは悪党なので、密輸業者であるインスマスを介してトラックを入手してます。
次回は本気で神野をやります。原作との相違を味わってくれると幸いです。
あと、今まで作者がひた隠しにしてきたミカドの〝個性〟をお披露目にします。