東京都庁。
妻からの緊急連絡を受けた西丸は、首都防衛局の本庁でナインと共に指令を出していた。
「ミカドからの情報だと、善治郎は横浜市神野区にいる可能性が極めて高い!! 専守防衛を除いて戦闘はヒーローに任せ、善治郎と爆豪少年を確保したら速やかに離脱しろ!! 離脱後は都庁へ帰還するように!!」
《了解でござる》
《あの…もし善治郎君と爆豪って生徒以外の人質がいたらどうします?》
「インゲニウム事務所がサポートしてくれる。すでに市内との事だ、臨機応変に連絡を取れ!!」
《了解しました!!》
通話を終えると、西丸はナインに目を向けた。
「ナイン……君に訊きたい事がある」
「……何だ」
「君の〝個性〟って……どこまでできる?」
ナインは少し考える素振りを見せると、徐に語り出した。
「私が全力でやれば、東京23区ぐらいは容易く滅ぼせるな」
「じゃあ精度は? 特定の人物をピンポイントで攻撃できる?」
「目標の位置情報さえわかればだが…」
「……一つ、君に頼みたい事があるんだ」
西丸はいつになく真剣な表情と眼差しで、ナインにある事を伝えた。
時同じくして、神野区では出久達が爆豪を救出すべく、発信機を辿ってある廃倉庫の裏手に立っていた。
「安全を確認できない限り動けない。ここなら人目はないし…あの高さなら中の様子を見れそうだよ」
「この暗さで見れるか?」
「それなら私、暗視鏡を……」
八百万が暗視鏡を取り出した、その時。
「……そこをどけ、ガキ共」
『!!?』
冷徹さを孕んだ声がして、五人は驚きながら振り返る。
視線の先には、一人の女性が立っていた。
*
所変わって、
ヒーローと雄英高校を相手に大勝利を収めたアウトロー達は、一人の子供によって振り回されていた。
「どこも同じ事でつまんない」
「仕方ないよ、世間はそういうもんだぜ」
「何寛いでんだガキィ!!!」
カウンターチェアに腰掛け、死柄木とテレビを観る善治郎に爆豪はツッコミを炸裂させた。
西丸の一人息子を訳あって爆豪と共に人質にする事になったが、父親譲りの胆力と図太さで普通に居座っている。人質とは何なのか。
「何で私達には懐かないんですか~?」
「そこは平等だな!! 不公平だ!!」
「ハッ! てめぇらとは人望が違うんだよ、人望が」
勝ち誇った態度の死柄木に、マスキュラー以外のメンバーはジト目になる。
そんな中、テレビでは雄英高校の謝罪会見が行われており、相澤と根津校長、そしてブラドキングが記者達に言葉を発している。
「あ、相澤さんだ!」
「あ?」
「何と…善治郎君、イレイザー・ヘッドをご存じで?」
相澤がテレビに映っている事に釘付けになる善治郎に、黒霧はなるべく優しく声を掛ける。
イレイザー・ヘッドは西丸伸太郎とタッグを組んでいる事で有名。もしかすれば、何か重要な情報を聞き出せるのかもしれない。
先程のやり取りから、善治郎は年の割にかなり賢いので思ったような「収穫」は得られないだろうが、それでも情報は情報だ。
「父さんが一番信頼できるっていつも言ってるよ」
「オ、オールマイトとかではなくて?」
「僕、オールマイト嫌い」
青天の霹靂とは、この事か。
〝平和の象徴〟と称えられ、子供なら誰もが好きになるであろうNo.1ヒーローをキッパリと否定したのだ。
これには死柄木達だけでなく爆豪も愕然とした。
「……え、えっと…理由を聞いても?」
「父さんを困らせてるもん」
ムスッとした表情の善治郎に、全員は何となく察した。
オールマイトを始め、多くのヒーローはド派手に
善治郎は政治とヒーローの関係には理解が及ばない部分が多いが、自分の父親がヒーローの活躍によって時々大変な思いをしている時がある事は理解できる。故に父親の悩みの種である「派手に戦うヒーロー」への印象は良くない。
一方、独立独歩で合理主義の相澤のヒーロー活動は、人的・物的被害が最小限に済む為に西丸と相性が非常にいい上、プライベートでも極めて良好な関係だ。善治郎自身、父の関係で何度か顔を合わせている事もあり、相澤への好感度はぶっちぎりで高い……という訳だ。
「それ大丈夫か? その…周りにいじめられないのか?」
「嫌いなものは嫌いだもん」
即座の反論に、スパイ潜入中の
そう言えば、自分の上司もオールマイトやエンデヴァーへの好感度は低かったような……。
そんな事を思っていると、善治郎は爆豪目掛けて爆弾を投下した。
「お兄さん、何でオールマイトは謝らないの? オールマイトも先生だってテレビで言ってたよ?」
予想だにしていない発言に、爆豪は固まった。
雄英高校の教師陣である以上、オールマイトも謝罪会見に応じるべき――善治郎はそう言いたいのだ。
シーン…と静まり返った後、爆豪は口を開いた。
「……オールマイトはあの場にいなかったんだよ!! 当事者が謝るもんなんだよボケ!!」
「じゃあ、あのネズミさんもいたの?」
あっけらかんと訊き返す善治郎。
ぐうの音も出ない爆豪に、マグネも「こればかりは坊やが正しいと思うわよ…」とボヤいた時。
ドンドンドン、とドアを叩く音が響いた。
「あ?」
「ども~、ピザーラ神野店でーす」
「お兄さん達、ピザ頼んだんだね」
てちてちと玄関へ向かう善治郎。
すると、次の瞬間!
「
突如として壁が粉砕。
そこから現れたのは、死柄木達が抹殺しようとしている〝平和の象徴〟オールマイトその人。それに続くように人気急上昇中の若手実力派ヒーロー・シンリンカムイが〝
「もう逃げられんぞ、
「外はあのエンデヴァーをはじめ、手練のヒーローと警察が包囲してる。観念しろ」
オールマイトの言葉を補足するように、忍者ヒーロー・エッジショット――本名は
「オイタが過ぎたな。ここで終わりだ、死柄木弔!!」
全身からあふれ出る威圧感に、
しかし死柄木だけは、血走った眼で睨み返した。
「終わりだと? ふざけるな。始まったばかりだ。正義だの平和だの…あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す!」
「ぶっ壊されるのはそっちだよ」
不意に扉が開き、そこには一人の青年が姿を現した。
日本の裏社会の大物の一人…情報屋のミカドだ。
「〝ウォーターゲート〟!?」
「てめぇ、中立じゃなかったのかよ!?」
「そのスタンスを崩したのはお前らだろうが。……その前に潜入ご苦労、伊口」
『――は?』
ミカドの言葉に、死柄木達は凍りついた。
潜入ご苦労? スピナーが?
あまりにも唐突な急展開に、頭の情報処理が追いつかない。
すると、スピナーはゆっくりとした足取りで善治郎を引き寄せてからミカドの隣に立った。
「こういう心臓に悪い辞令、しばらく断るからな!」
「ハハハハ!! 気を立てるな、あとで特上寿司を奢ってやる」
ミカドがスピナーを労う中、死柄木は隙を窺って黒霧に目を向けるが、エッジショットが音速を超える速度で刺突を繰り出した。
モロに受けた黒霧は、そのまま意識を失った。
「黒霧!」
「キァアア、やだぁもお、見えなかったわ!! 何!? 殺したの!?」
「中を少々いじり気絶させた。死にはしない。〝
「引石健磁、今筋強斗、
ミカドは新規の連合メンバーの素性は全員把握済みだと宣告すると、次第にマグネ達は顔を青ざめさせた。
本来は中立を貫く裏組織が、ヒーローと警察に加担したのだ。仮に逃げ果せたとしても、ARIの情報収集能力からは逃れられないのだ。
「……で、何で善ちゃんここにいるの」
「連れてこられたの」
「何と…!! おのれ
「あ~…だから伸ちゃんキレてたんだな。電話ん時スゴかったからな。手を貸さなかったらお前だけ税率100パーセントにするっつってた」
声のトーン的にマジだよアレ、とミカドは苦笑いすると、グラントリノが死柄木に尋ねた。
「なァ死柄木、聞きてえんだが、お前さんのボスはどこにいる?」
「ふざけるな、こんな…こんな呆気なく…ふざけるな…失せろ…消えろ…!」
「奴は今どこに居る!? 死柄木!!」
グラントリノの言葉は、彼の耳に届いていなかった。
死柄木の中に渦巻く激情の前では無力だった。
「お前が!! 嫌いだ!!!」
死柄木が叫んだ瞬間、ドス黒い液体が突如として部屋の中に溢れ、新たな脳無が次々と湧き出てきた。
何もない所から脳無が現れた異常事態に、一気に対処に追われるヒーロー達だが……。
「おっ!?」
「むぐっ!?」
「しまった!!」
爆豪と善治郎が口から黒い液体を吐き出した。
そして、見る見るうちに身体を覆っていく。
オールマイトは善治郎をミカドに任せて手を伸ばし、爆豪を抱きしめようとするが、無情にもそのまま呑み込まれて姿を消した。
「うあああああああああっ!!」
またも爆豪を奪い去られ、〝平和の象徴〟は慟哭する。
だが、手掛かりが無くなったわけではなかった。
「俺がいてよかったな、オールマイト」
「っ!? 無事だったのか!!」
ミカドの方に振り向くと、何と黒い液体に呑み込まれていたはずの善治郎がいた。
彼は無事、黒い液体から脱出できたらしい。
「一体どういう事だ、お前さん何をした!?」
「これが俺の〝個性〟だからさ」
ミカドはその手に握り締めた球状の黒い液体を見せつけ、自らのチカラを明かした。
「俺は液体であれば何にでも干渉できる能力なんだ。触れるだけじゃなく、それを操る事もできる。一番の特徴は水や液体に関係した〝個性〟にも影響を与えられる事かな」
それが、今までミカドが一握りの人間にしか明かさなかったチカラ。
〝個性〟の名は「
ミカドは自らの〝個性〟の特性を利用し、善治郎を覆った黒い液体に干渉。引き剥がして善治郎が攫われるのを防いだという訳である。爆豪は運悪く距離を置いていた為、彼まで助けられなかったのだが……。
「ちょっと待ってな」
ポケットから十徳ナイフを取り出すと、ミカドは親指を軽く切って少量の血を流すと、それを黒い液体の中に注いだ。
直後、黒い液体は弾け、そのまま消滅した。
「何を……」
「俺の血を刻印とした。これでどこに行ったかわかる」
「逆探知か!!」
シンリンカムイが驚愕する中、ミカドはエッジショットに向かってこう告げる。
「そろそろ首都防衛局が到着するはずだ。善ちゃんはそっちに任せておけばいい」
「……後藤田水門。君の善意に感謝する」
「俺はビジネスの邪魔をする奴がムカついただけだ」
感謝する暇あるなら早く行け、と言いつつミカドは彼らの居場所を教えたのだった。
一方、廃倉庫もとい脳無格納庫の方では――
「成程…相当な練習量と実務経験故の強さだ。君のはいらないな、弔とは性の合わない個性だ」
漆黒のドクロを模した金属質のマスクを装着した男が、更地に降臨する。
長い沈黙から復活したオール・フォー・ワンだ。彼はベストジーニストやギャングオルカなどのプロヒーロー達を、〝個性〟の掛け合わせにより一瞬で吹き飛ばしたのだ。
表舞台に再び現れた「悪の帝王」のプレッシャーは、出久達に死を錯覚させた程だった。
「くせぇ! んっじゃこりゃあ!!」
「悪いね、爆豪君」
直後、現れた黒い液体が地面に落ちると、爆豪がむせ込みながら膝を突く。
そこに続いて、死柄木達が続々と転移してきた。
「また失敗したね弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい」
死柄木に優しく声を掛けるオール・フォー・ワン。
しかし彼は目が泳いでおり、己の後継者として育て上げた子供のいつもと違う様子に気づく。
落ち込んでいるというより、迷っているようだ。
「弔?」
「……」
――バァンッ!!
『!?』
不意に銃声が鳴り響き、死柄木達の頭上から弾丸の雨が降り注いだ。
瓦礫を砕く程の威力を有する無数の銃弾を、その場から退避してどうにか回避した。
だが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。
「〝バックショット〟!!」
「うぐォオォ!!?」
先程よりも重い銃声が響くと、マスキュラーの巨体が大きく吹き飛び、後方のビルの壁に盛大に叩きつけられた。
メンバーでも最高火力を有する男が圧倒された事実に、驚きを隠せない。
唯一反応が違うのは、オール・フォー・ワンただ一人だ。
「……雄英のガキだけ。ハズレか」
破壊し尽くされた街中に立つ、一人の女性。
170センチ越えの長身で、スタイル抜群だが引き締まったプロポーション。髪型はピンクとダークブルーのバイカラーのショートボブで、紫色の瞳は鋭い眼差しをしている。服装は紫を基調としたノースリーブのロングスカートで、バックルとポーチが付いたタクティカルベルトを巻いて頑丈なコンバットブーツを履いている。
少なくともヒーローではない。だが
あまりの情報量に死柄木達が戸惑う中、どこか楽し気なオール・フォー・ワンが口を開いた。
「フフ……これは驚いた。まさか君が最初に来るとはね。まだ昔の正義感が燻っていたのかな?」
それとも、これも家族愛というヤツかな? と悪の帝王は現れた女性に顔を向ける。
「初めまして。麗しきレディ・ナガン。会えて光栄だ」
「その名は捨てた。今は西丸火伊那だ、顔金玉」
かつて名実共にトップクラスのプロヒーローだった女傑――レディ・ナガンは、一児の母として〝巨悪〟に対して怒りの眼差しを送りつけたのだった。
本作の火伊那は10年前にヒーローを引退して以来、メディアへの露出はほぼありません。彼女の現役時代を知るヒーローも少なくなった上に公安からの守秘義務も重なり、今ではレディ・ナガンというヒーロー名すら知らない者もいます。一時期は西丸との結婚が報じられましたが、引退した女性ヒーローの話に世間が食いつくはずもないので、ひっそりと記事になってひっそりと忘れられていきました。なので筋金入りのヒーローオタクの出久ですら、思い出すのに時間が掛かってます。
なお、必殺技はウルトラランブルの引用です。
そしてついに明かされたミカドの〝個性〟は、水や液体を駆使する〝個性〟の最上位種。
相手との相性次第ですが、実は本作に登場しているオリキャラ達の中では最強クラスで、戦闘力は劇場版レベルです。
弱点は体力の消耗が激しいので全力の戦闘は30分しかできない点と、氷結に弱い所です。
感想の方で捕捉する事もありますが、悪しからず。
ちなみに火伊那の顔金玉発言ですが、執筆中は糞野郎と悩みましたが、CV種崎敦美で一回聞いてみたいという妄想で決定しました。現に火伊那なら言いそうですし。(笑)