目指せ、脱ヒーロー社会!   作:悪魔さん

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お待たせしました、ようやっと更新です。

いつの時代も、政治家は命を狙われるのです。


No.5 鳴羽田区長狙撃事件

 自治体において、首長のトップセールスは重要な仕事の一つだ。

 ただでさえ柄が悪いという印象が強い鳴羽田だ、西丸は区長である故に街一番の宣伝マンとして鳴羽田の為に動かねばならない。

 しかし、政治家はいつの世も何かと凶刃凶弾に命を狙われる者。古い制度を解体して改革を進めれば、それを良しとしない者達は排除しようと動くのだ。

 そして西丸もまた、その凶弾に命を狙われる事になる。

 

 

 この日、西丸はPR活動としてマルカネ百貨店鳴羽田店を訪れていた。

 百貨店と言えばデパ地下。地下食品売場のスイーツを紹介し、街の名物にしようという考えだ。

「この度は、お忙しい中ご足労いただきまして誠にありがとうございます」

「いえいえ、これも鳴羽田の為ですから」

 百貨店の店長と握手を交わし、西丸は早速売り場を回る。

 広報課の職員が動画配信用にカメラを回し、西丸は社長から鳴羽田店限定のスイーツの説明を受けていた。

「これは……フルーツサンドですか?」

「はい、当店ではメロンとマスカットのフルーツサンドを販売する予定です」

「予定です? じゃあ、これから販売すると?」

 西丸はそう尋ねると、店長は無言で頷き、どこか申し訳なさそうに口を開いた。

「西丸区長、折り入って頼みたいのですが……この試作品を、是非とも試食してはいただけませんか?」

「全然いいですよ。僕メロン好きなんで。それに試作品食べる方が貴重ですよ、こういうのは」

 西丸は嫌がる素振りを見せずに快諾。

 店長は部下に指示を出すと、手ぬぐいを頭に巻いた店員が二人の前にフルーツサンドを持ってくる。

「こちら、マスカットとメロンのフルーツサンドです」

「では早速」

 試作品を一口食べて、西丸は微笑んだ。

「スゴいジューシーですね。クリームの甘さが控えめなので、果物の甘さをしっかり感じます」

 その反応に、店長はホッと胸を撫で下ろし、店員達は嬉しそうな表情を浮かべた。

 おそらく日本で一番有名な区長が太鼓判を押したとなれば、このフルーツサンドは間違いなく鳴羽田の名物になる。これならばすぐにでも販売に移れるだろう。

 すると西丸は、店長と店員達にアドバイスをした。

「クリームの量を調整して、果肉の食感と甘味の主張を強めにするのもいいと思いますよ。何なら試食会を開くのもいいでしょうし、SNSに公式アカウントあれば、そこで宣伝するのもアリかと」

「ありがとうございます!! 早速その方向で進めてみます!!」

 店長は西丸に頭を下げた。

 その時、西丸のスマートフォンに着信が入る。相手は副区長の石井だ。

「石井さん、どうしました?」

《区長!! すみません、急な来客で……!!》

「来客? 一体誰が?」

《け、警察庁長官です!!》

 石井の言葉に、西丸は目を細めた。

 警察庁長官は、日本国内の治安を司る警察機関である警察庁のトップ。全国的に起こる大規模災害やテロ事件、国際関係に重大な影響を与えるような犯罪の捜査を指揮監督する、約30万人いる警察官の頂点だ。

 そんな警察庁長官が、一自治体の首長にアポイントメントも取らずに突然訪問とは。

「わかりました。20分後には戻りますので、それまで対応をお願いします」

《わ、わかりました!!》

 電話を切り、西丸は店長達に急用ができた事を伝えると、早足で百貨店のエレベーターに乗って1階へ向かい、外へ出た。

 そんな彼の姿を、ビルの屋上から捉える人影がいた。

 右腕の肘をライフルの銃身に変形させ、バイカラーの髪の毛を練り上げて銃弾にする、一人の女性――ヒーロー公安委員会専属の暗殺者、レディ・ナガンだ。

「……この社会は、腐ってるよ」

 ヒーローにあるまじきセリフを吐き捨てながら、百貨店の入り口で店長達と握手を交わす西丸を髪の毛で造ったスコープから睨む。

 ナガンには、公安委員会の会長から下された非情な下知が下されていた。

 

 西丸伸太郎の射殺という命令を。

 

(……超人社会の土台はヒーローへの信頼。それを維持する為の歯車が私。だが、あんたもそうなんだろ……?)

 西丸の姿を捉えたナガンは、撃つ事ができなかった。プロヒーローと暗殺者という矛盾した二重生活に心身を蝕まれる中、前科に苦しむ者達に手を差し伸べるという選択を取った西丸に淡い希望を抱いていたからだ。

 己が犯した罪を償い一からやり直す事を誓った者に救済措置を講じるという、綺麗なものだけでなく汚いものも受け止める。それが西丸の政治(やりかた)であり、公安が彼の排除を望む理由となってしまった。

 本部に呼ばれて任務を告げられた数時間前、唯一副会長は反対意見を述べていた。一度罪を犯したら最後、貼られたレッテルのせいで社会から弾かれる風潮の中でやり直すチャンスを与えた西丸を消すのは、あらゆる面で損失があまりにも大きいと。しかし会長や他の幹部達から「彼のやり方は社会の基盤を揺るがしかねない」「アンチヒーローの勢力が勢いづき、混乱を与えてしまう」という意見に押し切られてしまった。

 西丸が排除される事が決定した後、副会長は「これで終わりにするよう進言する」と涙ながらに頭を下げたのが印象的だった。

「……」

 ナガンは気配を殺し、銃口を西丸に向けて狙いを定める。

 しかし、その右腕はブルブルと震えており、彼女の精神は揺らいでいた。

 ここで撃てば、もう自分は後戻りできないのではないか? 自分の正義は一体何なのか?

「…………すまないっ……!」

 ナガンは全ての感情を押し殺すように目を瞑り、銃弾を放った。

 

 ドォン!!

 

「――ぐあっ!?」

 銃声が響き、地上では西丸の右肩をナガンの弾丸が掠めていた。

 傷口から血が流れ、西丸は右肩を押さえながらその場に倒れ込む。

「西丸区長!!?」

「きゃあぁぁぁっ!!!」

「西丸区長が撃たれたっ!!!」

 白昼に起きた、政治家の銃撃事件。

 周囲の人々は悲鳴を上げて混乱する中、西丸は左手で血が流れる肩を押さえ、痛みに耐えながらその場から動かない。

「区長!! 大丈夫ですか!?」

「うっ……何とか、ね……」

「早く警察とヒーローを!! あと救急車!!」

 周囲の人々が通報をする中、西丸は肩を押さえながら上体を起こす。

 政治家という職業は、何かと暴漢やテロリストなどに狙われやすい。故に命懸けで職務を全うし、身の危険に晒される可能性も承知の上だ。

 個性社会において銃に関する事件はあまり聞かなかった為、正直油断してた部分もあったが、白昼堂々と銃撃するとは予想もしなかった。だが、西丸には一つ疑問が浮かんでいた。

(なぜ右肩を撃たれたんだ……? 殺すつもりなら頭か心臓を狙うはずなのに……)

 右肩に食らった銃弾の事で疑問を抱きつつ、西丸は駆けつけた救急車に乗せられ、病院へ運ばれたのだった。

 

 

 一方、区役所では石井が警察庁長官の対応をしていた。

(おせ)ぇな、この街のゴッドファーザーはよ」

「や、やめて下さい長官殿!! 区長もあまり好ましく思ってないので……」

「だがこの鳴羽田の頂点に立つ男なのは変わらないだろ?」

 粗茶を飲みながら、長官は東鳴羽田の工事現場に立ち寄った話をし始めた。

「廃ビルを潰して公園にし、そこを拠点に地域経済を活性化させる「ナルハッタン計画」だったか? あの工事現場に行ったよ」

「ちょ、長官自ら……!?」

「ああ。……俺が顔を出した途端に警戒されたがな」

 警察のトップだから当然だろうよ、と長官は小さく笑う。

 強面の顔が柔和に緩むと、石井は長官に問いかける。

「それで、工事の様子はいかがでしたか……?」

「そうだな……一言で言うと、西丸は俺が思ってる以上の傑物だ」

 長官は、その言葉に嘘偽りはない様子だった。

「スネに傷のある連中が口を揃えて言ってたよ、「西丸区長に街の未来を託された」とな。……西丸はやり直すチャンスを与えるどころか、そいつらに自分の政治生命を預けたんだ」

「……」

「元(ヴィラン)の社会復帰を目指した就労支援政策。世間をはじめ、プロヒーローや警察も反対・否定的意見が多いが……アレを見たらそう言えなくなるな」

 長官は腕を組みながら笑い、西丸の政策は成功していると称えた。

 些事であっても前科があるだけで、社会から迫害され排除される風潮が強い世界。その世界に一石を投じ、新たな可能性を示した西丸を高く評価しているのだ。

「……ここまで行ったら、総理大臣とか狙うんじゃないか? その方が日本を変えられるかもしれんぞ」

「いえ、区長は国政には絶対出ないと言ってます。東京都知事はやりたいとは言ってましたが……」

「そうなのか? なぜ都知事を?」

 長官の疑問に、石井は語った。

 西丸曰く、自分が国政に出たがらないのは、国は全体最適――組織全体が最適化され、生産性が高い業務を行える状態――を描かないといけない為に動きが取りにくいからだという。故に47都道府県で一番強い東京都知事の方が日本全体の絵面を変えやすいとの事で、もし都知事になったら全国の知事と議論をしてみたいと言っていた。

「なるほどな……」

「ええ、あの人の可能性は計り知れない。それこそ――」

 石井が言葉を続けようとした時、ドアをバンッ! と開けて職員が入って来た。

「石井副区長!!」

「コ、コラ!! 来客中だぞ!!」

「すみません、でも大変なんです!! 西丸区長が!!」

 ノックもせず入ってきた事を叱る石井だが、職員の慌てようから嫌な予感がした。

 そして、その予感は的中してしまった。

「西丸区長が銃撃されたって連絡がっ!!」

「な、何だって!?」

「おい、本当か!?」

 衝撃的な報せに、二人はこれ以上なく狼狽した。

 超人社会でも類を見ない、前代未聞の暗殺未遂事件が起きてしまったのだから。

 

 

           *

 

 

 ――東京都鳴羽田区区長・西丸伸太郎氏、マルカネ百貨店鳴羽田店前で狙撃される。

 

 現職区長への白昼堂々テロ行為という報道は瞬く間に日本中へ広まり、その日の夕方にはほとんどのテレビ局のニュースで特集が組まれる程に事件は大々的に取り上げられていた。

《東京鳴羽田区の西丸伸太郎区長がマルカネ百貨店鳴羽田店の前で銃撃された事件で、警視庁は捜査本部を設置しました。警視庁によると、西丸区長はマルカネ百貨店で視察の後、区役所に戻ろうとした際に右肩を銃撃されました。西丸区長は病院に運ばれましたが、命に別状はないとの事です》

《銃弾が肩を掠めるだけだったのは不幸中の幸いでしたね。一歩間違えば命を落としていたかもしれませんし、百貨店の関係者に被害が出る可能性もありましたから……》

《西丸区長は元(ヴィラン)の社会復帰を目指す政策を打ち出していましたので、恐らくその政策に反対する者が暗殺を謀った可能性がありますね。いずれにしろ、民主主義国家において暴力で訴えようとする者は許されるべきではないでしょう》

《銃撃犯はまだ見つかっていませんが、必ず逮捕される事を願います》

 そんな事件の報道を、西丸は病室のベッドの上で見ていた。

「……店長さん達には申し訳ない事をしたな…」

 右肩を一瞥し、西丸は小さく溜め息を吐いた。

 店前でテロ事件が起きれば、マスコミが集まるのは目に見える。営業に暫く影響が出るかもしれない事を考えれば、店長達に迷惑をかけてしまった事を悔やんでしまう。

 それに公務が滞るので、石井達にもとんだ迷惑をかけてしまった。幸いにも肩の傷口はすぐさま処置が行われた為に悪化はしておらず、医師の診断では明後日には退院できるらしいので、傷口に障らないように軽い事務仕事ぐらいならやれるかもしれない。

 そう考えた時、病室のドアがノックされる音が聞こえた。

「はい、どうぞ」

 西丸はドアの方に顔を向けると、ドアが開いて入って来たのは意外な人物だった。

「……」

「あなたは……」

 西丸は驚いた。

 現れたのは、公安直属のレディ・ナガンその人だった。

「面会時間は過ぎていますが?」

「……」

 そうナガンに尋ねるが、彼女は無言のまま右腕の肘をライフルの銃身に変形させ、ジャキンッと銃口を向ける。

 プロヒーローとしてあるまじき行為に、西丸は困惑しつつも全てを察した。

 

 ――自分を狙撃したのは目の前のレディ・ナガンで、その裏には公安が絡んでいるという事を。

 

「「……」」

 沈黙が病室を支配する中、ナガンは銃口を下ろして口を開いた。

「……私はヒーローであり、同時にヒーロー公安委員会直属の暗殺者でもある。会長からの命令は、あんたの射殺だった」

「だが、あなたは僕を殺せなかった。……いや、()()()()()()()()と言うべきですね。あの時も、そして今も」

 西丸の言葉に、ナガンは右腕を元の形に戻しながら俯く。

「あんたに……希望を抱いたんだ。あんたのやり方が、この偽り(ハリボテ)の社会を変えてくれるんじゃねぇかって」

偽り(ハリボテ)の社会……」

「だが、公安はあんたを許さなかった……。元(ヴィラン)の社会復帰なんて続けたら現代の基盤が揺らぎ、アンチヒーローの勢力が勢いづいて混乱を与えるという理由で……!」

 静かに目から滴を零し、ナガンは西丸に謝罪した。

「本当に、すまなかった……!!」

 泣き崩れたくなるのを必死に堪えるナガン。

 心身が疲弊したプロヒーローの懺悔を、西丸は責め咎める事をせず、静かに尋ねた。

「……これから、どうするんですか?」

「……自首をする。もう疲れちまったんだ……タルタロスで余生を送るさ」

 プロヒーローでありながら公安の暗殺者として十字架を背負ったナガンは、拘置所で余生を過ごすつもりだという。

 が、西丸はそれをしても無駄だと思い、声を掛けた。

「自首をしても、公安の権力が及ぶ以上はまた引き摺り出されるでしょうね。自殺したらしたらで、適当な理由をつけて闇に葬るのも目に見える」

「っ……」

 その言葉に、ナガンは拳をギュッと握り締める。

 プロヒーローによる現役区長の暗殺未遂という、個性社会でも類を見ない大事件(スキャンダル)を、公安はどんな手を使ってでも真実を隠蔽するだろう。もしこの真実(こと)が公になれば、ヒーローの不要論に繋がりかねないからだ。

 ヒーローの存在を守る為、公安はありとあらゆる手を打つはずである。

「そこでですが、ナガンさん。僕に一つ考えがあります」

「考え……?」

「伸るか反るかは、あなたに任せます」

 そう言うと、西丸はナガンにある提案をした。

 

 

           *

 

 

 一週間後。

 病院を退院し、公務に復帰した西丸は、区長室で休憩がてらテレビをつけていた。

 テレビでは、レディ・ナガンに関するニュースが流れていた。

《では最初のニュースです。公安直属のプロヒーロー、レディ・ナガン氏が過重労働を強いられたとして労働基準監督署に告発した件で、ヒーロー公安委員会は事実関係を認め正式に謝罪しました》

 ニュースを聞き、西丸は安堵の息を漏らす。

 西丸がナガンに提案したのは、公安から過重労働を受けたとして労働基準監督署に告発する事だった。

 華々しい活躍で人々から称えられるプロヒーローでもトップクラスの実力者が、労基署に駆け込むというのは前代未聞。そのニュースは瞬く間に日本中へ広がり、世間を大きく震撼させた。

《ヒーロー公安委員会は、レディ・ナガン氏へ謝罪すると共に、今後はそのような事を起こさないよう再発防止に努めるという声明を発表しました。レディ・ナガン氏は現在療養中との事ですが、今日をもって正式にプロヒーローを引退。すでにヒーロー活動認可資格免許を返納し、退職届も受理されています》

「……」

 西丸はテレビを消すと、再び公務に戻る。

 今日の公務は決裁書に目を通し判を捺す事なので、肩に障る事はなかった。

 そこへ、ドアをノックしてから石井が入って来る。

「失礼します、区長」

「石井さん。僕がいない間はどうも」

「いえ、区長こそご無事で何よりです」

 決裁書に目を通す作業を続ける西丸に、石井は話しかけた。

「この度の銃撃事件……公安は過激派や犯罪組織によるテロ行為と断定してますが、警察はそれを疑ってるそうです」

「……どちらにせよ、僕はテロに屈しないさ。誹謗中傷や銃弾が掠めた程度で辞めるなら、最初から政治家なんかやってないよ」

 そう言いながら、西丸は判を捺す。

 民主主義の法治国家である以上、暴力行為にひれ伏す事だけは絶対に許されない。西丸の公務復帰は、ただ後れた区政を進行させるだけでなく、暴力に屈しないという断固たる決意表明なのだ。それに自分が間違っているというならば、選挙で落選させればいいだけの話なのだから。

「銃撃犯はまだ見つかっていませんが、警視庁の捜査本部はあらゆる可能性を排除せず捜査にあたるとの事です」

(まあ、銃撃犯がレディ・ナガンだとは誰も思わないだろうなぁ……)

 石井の言葉に、西丸は心の中で呟いた。

 プロヒーローが暗殺者をやっていたという事実は、公安は全力で隠蔽するだろう。ナガンが労基署に駆け込んだ事で公安のブラック気質が暴露され、その対応に追われる事となるだろうが、彼女の裏の顔に関しては闇に葬られるだろう。

 ヒーローの増加に比例してヒーロー犯罪も増加の一途を辿っていた事実と、それをナガンが粛清する事で陰ながら社会に貢献し続けた実態を。そして……公安の命令で自分を射殺しようと試みた事も。

(ナガンさんは、これからどうするんだろうか……?)

 今頃療養中であろう暗殺者の事を考えながら、西丸は決裁書に判を捺す作業を続けるのだった。

 

 

 今日の公務を終えた西丸は、退勤して帰路につく。

 普段なら軽トラを走らせているところだが、肩の傷の関係で運転が難しく、電車と徒歩で帰宅する事となったのだが。

「よぉ、区長様」

「レディ・ナガン…!!」

 喉が渇いた為に公園で缶コーヒーを飲んでいたところ、あのナガンが声をかけてきた。

 ポニーテールだった髪型もショートボブに変わっており、服装も実用的なカーゴパンツからスカートに履き替えている。

「あんたに頼みがあって、待ってたんだ」

「それって僕をストー……いや、何でもない。頼みとは一体?」

 ストーカーしてたんじゃないか、と続けようとした言葉を飲み込み、改めて質す。

 ナガンは西丸の隣に腰掛け、目を配った。

「私を救ったのはあんただ、でも仕事を辞めるきっかけもあんただ。その責任を取れって訳」

「…………それはつまり……」

「私をあんたの女にしてくれ。……あんたを命懸けで守ってやるからさ」

 ナガンの言葉に、西丸は驚きを隠せなかった。

 自分の暗殺を試みた元暗殺者が、今度は命懸けで守ると言ってきたのだから。

「ヒーロー社会の闇を知る女と、ヒーロー社会に変革をもたらそうとする男。お互い都合の悪い者同士だ、仲良くしようや」

「普通、撃った人間と撃たれた人間がすぐ仲良くできますかね?」

「ハハッ! それもそうだな!」

 西丸の素朴な疑問に、ナガンは笑いながら応える。

 その表情は、まるで呪縛から解放されたような明るさだった。

「撃った人間と撃たれた人間がひとつ屋根の下……何のドラマのシチュエーションだか」

「私は歓迎するぜ?」

「揶揄うのは止めて下さい。病み上がりの身に毒です」

 缶コーヒーをゴミ箱に捨て、西丸は自宅の方へ向かう。

 するとナガンも立ち上がり、後を追って歩き出した。

「……ナガン、明日は手続きが忙しいよ」

「筒美火伊那」

「?」

「本名で呼んでくれ。私はもうヒーローじゃねぇんだから」

 そう言われ、西丸はナガンの呼び方を改める。

「……火伊那、明日は書類をしこたま書くから忘れない事」

「ゴッドファーザーの権力でどうにかしてできないのか?」

「だから僕は区長だっつってんでしょうが」

 ――まさかゴッドファーザーって呼ばれてるから公安の抹殺対象(ブラックリスト)に登録された…とかないよね?

 そんな疑問を抱きつつも、西丸は火伊那と共に自宅へ向かうのだった。

 

 

 それから1ヶ月後。

 西丸は二人分の朝食を作り終え、納豆をかき混ぜていた。

「朝から早いな……」

「区長だからね。規則正しい生活を送れないと、下の人間達に示しがつかない」

「ふーん……」

 火伊那は席に着き、味噌汁を啜る。

 撃った人間と撃たれた人間の同棲は、思いのほか順調だった。

「……いい加減、軽トラ以外の車は運転しようと思わないのか?」

「四輪駆動の軽トラは色々便利なんだよ。悪路にも強いし、荷物もたくさん載せられるから行政主体のイベントの物資運搬でも役に立つ。何より軽自動車税が安くて燃費も良いから、経済的な負担が少ない」

「……それは初耳だ」

「法律を知ってると、お得な事もあるんだよ」

 そんな雑談を交わしながら、二人は朝食を食べ進める。

「……今日はどんな仕事なんだ?」

「会議だよ。僕の政策を都内全体に広げようと、色んな人と意見交換をする」

 西丸の言葉に、火伊那は目を細める。

「公安もいるのか?」

「警察庁やプロヒーローも出席するからね。……気を害したのなら悪かった」

「いや、別に」

 そう言いながら、火伊那はご飯を頬張る。

「帰りはいつもの時間になる」

「じゃあ、夕飯は私が作るか?」

「楽しみにしてるよ」

 朝食を食べ終えた西丸は、食器をシンクに置いて背広に袖を通す。

「それじゃあ、行ってくるよ」

「ああ、気をつけてな」

 朝食をちょうど食べ終えた火伊那に見送られながら、西丸は区役所へ向かったのだった。




という訳で、西丸銃撃の一件はこうして幕を下ろしましたとさ。
西丸が肩のケガで済んだのは、ナガンが撃つ直前に目を瞑ったからです。あれで軌道が逸れて致命傷を避けました。彼女としても西丸の件は相当堪えたようです。

そして公安内部は、あの女性の副会長、後の会長になる人がマトモな方です。彼女は西丸を排除すれば元ヴィランの面々が社会に反乱を起こすかもしれないと考えてましたが、他の幹部達は西丸の影響力に恐れを抱いていたので、会長の意向に従いました。
まぁ、あの後ナガンが労基署に駆け込んだ事で色々と大変な目に遭ったようですが。(笑)

で、ナガンは公安が手を出せないように西丸と同棲を選びました。次に彼が狙われたら、どう足掻いても警察・ヒーロー・公安への猛バッシングは確定なので。
最初は利害関係のルームシェア見たいなノリでしたが、西丸の本気度や信念を感じていくにつれて惚れていき、彼女の方からアピールしてゴールインしました。

リア充め、と思われた方。申し訳ありません。(笑)
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