【妄想】AKIBA'S TRIP1.5   作:ナナシ@ストリップ

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※注意※
このSSはAKIBA'S TRIP本編の瑠衣トゥルーエンド後の世界の続編を妄想で書いております。なのでゲームAKIBA'S TRIP本編のネタバレあり。
2のキャラも微妙に出るものの、基本的には1がメインです。




一章
01. 帰って来た秋葉原


NIRO・カゲヤシ・秋葉原連合の三つ巴の戦いの結果……NIROとカゲヤシの長き争いは終わりを告げ、秋葉原に再び平和が訪れた。そして時は過ぎ━━

 

 

━━ナナシの自宅

 

変わらないいつもの一日、ナナシはベッドから起き上がる。

今日も例に漏れず遅寝遅起きを遵守していたナナシは、寝覚めも良く穏やかな気分で昼を迎えた……

それに今日は秋葉原に行く日だ。彼はすこぶる気分が良い━━ナナシはにこにこしながらリビングへ続く自室の扉を開けた。

「おはよー」と言うと、リビングに居た妹が実に刺々しい返事を返した。

 

「いつまで寝てんのよ」

 

と。

一日の始まりはさっそく出鼻を挫かれた気分である。

妹がリビングのソファでふんぞり返っている。テレビを見たまま、こちらに視線を向けようともせずにそう言い放ったのだ。

━━相変わらずムスっとした表情で可愛げがない奴だった。そのついでに胸もない……まぁ、言ったら殺される。そう思いながらナナシは心中で溜息をついた。

 

「もう冬だし布団からなかなか出れないんだって。てか今日日曜だし別に寝てたってだな……」

 

「お兄ちゃんはいつも日曜日みたいなもんでしょ」

 

「やめろ」

 

彼女の一撃にナナシは顔を青くした。図星だった。

やはり何やかんやで己の妹、兄については把握しているということだ。いや、こうも毎日昼起きでは嫌でも兄がどんな状態か分かるだろう。

しかしいつも日曜日みたいなもんでしょ、などとは言うが、こいつもこいつで大した違いがあるワケでも無かった。なにせ高校一年生の彼女も今は冬休み。

そのおかげで妹とのエンカウント率は平日においても急上昇しており、それが余計に彼女との衝突を生むのである。

最近はこのように言い合いが一日のスケジュールから外せない状態なのだった。

 

「……こんな奴が俺と血の繋がった人間とは思えん」

 

ボソッと呟く……しかし妹の方も興味ないような癖して、しっかりと聞いていたらしい。ばっと立ち上がったかと思えば怒りに拳震わせ、まくし立てる様に言い返し始めた。

 

「余計なお世話! そしてこっちの台詞! こんのクソニートがぁ!」

 

煽り耐性0、彼女に対戦ゲームやネット掲示板を与えてはならないだろう。彼女がそれらのコンテンツをオタクっぽいと毛嫌いしているのは被害が抑えられたという点で幸運だと言える。……なんにせよ、どこかの下僕の様に「おっと、言葉攻めとは嬉しいね」くらい軽妙に言って欲しいもの。というかニートじゃねぇ、とナナシは思った。

ナナシもこのまま妹に好き放題言わせられるかと反論する。

 

「な、なんだと。お金貰ったらお兄ちゃんだーいすき(はあと)とか言うくせに。ツンデレ、マジツンデレ」

 

「ふん! 今更あんたのはした金なんていらないわよ。給料良いバイト見つけたから」

 

「なっ! ……援助○際か…………」

 

金に魅せられた末ついにそこまで堕ちたのねと、ナナシは妹へ哀れむ目を向けた━━

 

「違うから!」

 

「兄は悲しいぞ。……さてと、秋葉原行ってきまーす」

 

ナナシはさっさと話を切り上げる事にした。そもそも今日は秋葉原に行く日で妹と争う日じゃないしそんな時間もない。この言い合いがあったとはいえ、これから秋葉原でたっぷり遊べるのだからと考えるナナシは気が楽だった。玄関で出支度する彼の耳に後ろから「帰ってくんな」と罵声が聞こえたがそんなのも苦じゃない。

さっさと秋葉原に逃げるのは良いが、それでも一応後々面倒なので……ナナシはとりあえず、即席万能なご機嫌取りアイテムである『諭吉』(一万円)で機嫌を取っておく事にした。金が無い中断腸の思い、一万円も主から有意義に使われず悲しかろう……ナナシにはこれから悪魔に手にされる諭吉がさも悲しげに見えた。しかし仕方が無い。

 

「……1万円置いとくぞ」

 

「お兄ちゃん大好き! 行ってらっしゃい!」

 

「情緒不安定か!」

 

あまりの変わり身に、ナナシは反射的にツッコんでいた。

 

 

 

 

━━秋葉原駅

 

 

(着いた……変わらないな、ここは)

 

日曜ともなればその人の数はかなりの多さであり、秋葉原がそれ程人を惹きつける場所である事を物語っている。

そして、この見慣れた広告群……その内容のほとんどが二次元美少女の写っているコンテンツだ。

 

(まさに、これぞ秋葉原といったところか)

 

意気揚々と歩き出し、改札を抜ける。

今日は駅前で、ノブ・ゴンと13時に待ち合わせをしているのだ。ナナシは駅前の広場へ出て二人を探すと、ゴンが先に到着しているのが見えた。ナナシはおぅい、と彼へ駆け寄る。

 

「あっ、ナナシ」

 

ゴンがイヤホンを外し、こちらに振り向いた。ノブはまだ来ていないように見えるが……どうせ遅刻だろうとナナシは思いながらも、ゴンに訊く。

 

「ノブは?」

 

「まだ来ていないみたい」

 

やっぱりかと思い、同時にゴンのイヤホンから流れる音楽に気が留まった。

彼が聴く楽曲は、無論ダブプリのものが殆ど。ファン即売会でnewシングルが出た時にはそりゃもう嬉しくて、大音量でのセルフライブに四六時中浸るほどのダブプリジャンキー……それほどダブプリ愛に溢れた人物なのだ。

 

「……待ってる間ダブプリの曲聴いてたのか? ゴンちゃんはほんと好きだな」

 

「う、うん。あれ以降どうなるかと心配したけど、活動を再開したみたいでほっとしたよ」

 

「これからもファンとして、ダブプリを応援していくんだ!」

 

「健気だ……」

 

横から、おーっす、とお馴染みの声が聞こえる。そちらへ振り向けば、ノブだ。彼が白い息を弾ませながら駆けて来た。

 

「ノブ……今日はギリギリ遅刻じゃないみたいだな」

 

「……第一声がそれか!? もっと友との再会を、分かち合うつもりはないのか!?」

 

「ついこの間も会ったけど」

 

「まぁ、そうだな」

 

「……というかだいたいだな、日本人は時間を気にしすぎなんじゃないのか」

 

「わ、分かった分かった」

 

ノブは油断するとすぐ一人語るのが困り所だった。……しかしそれがいつも通りのノブであり、変わらぬ様子に逆に安心させられる所もある。ゴンもそんな様子に心地よさを覚えるのか、楽しそうに笑っていた。

秋葉原があれほど大きな事件に巻き込まれた後も人々は変わらず生活をしている。勿論良い意味で、だ。秋葉原もかつての状態を取り戻し、争いの喧騒に包まれた事など無かったかのようにその息を吹き返していた。

 

「まぁ細かいこと気にせず、今日は楽しめばよし!」

 

ノブがそう言うと、ナナシもそれに「違いない」と返した。

 

 

 

 

━━中央通り南西

 

 

「いやー買った買った」

 

ノブはソフマップにとらのあな等、両手に一杯の紙袋を吊り下げて満足そうに言った……彼は我慢とは無縁であり買いたいものは全て買うのだ。さすがブルジョア御曹司といったところか。

 

「買いすぎだろ」

 

ナナシは嫉妬に満ち満ちた様子で文句を言う。以前まで懐事情で困ることのなかったナナシも、ひょんな気まぐれで恵まれない子供達に全財産をつぎ込んだ今となっては、やはり羨ましいことこの上ない。なぜ彼が全額寄付という奇行に走ったのかは甚だ疑問であるが、恐らくは瑠衣とのイチャイチャで調子に乗っていた為と思われる。

 

「問題ない、一旦自警団のとこに置いて行けばいいさ」

 

いやそういうことじゃなくてね、と言って羨ましがるナナシを知ってか知らずか、ノブはすまし顔だ。

 

「ノブ君の家、結構お金持ちだからね……」

 

ゴンも、その圧倒的財力に恐ろしさすら感じている。そんなゴンの様子にノブは高笑いし、それがまたナナシの額をピキリといわせる原因になるのだった……そんな中、ノブが提案した。

 

「……まぁそれより、腹へらね? メシどうする?」

 

「グーグーカレーにしよう。ノブのおごりで」

 

提案を返しつつキレ気味にナナシは毒を吐くが、それが彼に効く事は無く、

 

「おごる話はともかく、カレーか。いいな」

 

あくまでナナシの案には賛成の様だった。ゴンも異論は無さそうで、「そこにしようか」と口を揃えて言った。

そんなこんなでカレー屋へ向かおうとする三人だったが、ナナシはそこへ歩いて来る"ヤツ"に気がついた━━

 

━━安倍野優だ。不機嫌そうな面持ちで、周囲に睨みを利かせながらこちらへ通りを歩いてくる。睨みを利かせるパンクロッカーin秋葉原……その姿周囲とは明らかに異質。

何がそんなに面白くないのかは分からないが、優という男はいつだってこんな感じなのだ。とりあえず、

 

「おっ優じゃーん」

 

ナナシは声を掛けてみたものの……

彼には聞こえていないのか、不機嫌そうに歩くまま何も反応はない。

 

「うげっコイツは!?」

 

優に気付いたのか、ノブは驚きの声をあげ、ゴンも少し怯えている。無理も無い、かつては戦う相手だったのだから……優はそのまま目もくれずに三人の間を通り過ぎていく。

しかしナナシは少しも恐れずそして諦めない……というよりは、何も考えていない。かつて因縁の相手であろうが能天気なナナシの気にする所では無かった。

 

「優ー」

 

「おーい優ちーん?」

 

もはや煽りか? と思える程優の周囲をしつこく粘着していると、遂に無視を決め込むにも限界が来たか━━優が口を開いた。

 

「……うるっせェ!!」

 

ようやく立ち止まり、口から牙剥き出しのすごい形相で振り返る。

それに対しつい口が動いてしまったノブは、お前のがうるさくね、と冷静な突っ込みを返すも……優に睨みを向けられるやいなや、神速で頭を下げた。

 

「すいませんでした!」

 

そんな優を恐れたのかゴンも「まずいよ」とナナシへ耳当てて言った。

 

「心配するなって。カゲヤシはもう人を襲わない」

 

「カゲヤシが人を襲わねえ?」

 

「はっ、んなもん瑠衣が勝手に言ったことだろうが! 今この場でなぁ、テメェらをぶっ殺してもいいんだぜ!?」

 

優は悪役顔負けの外道顔で言う。心なしか生き生きとした様子で……おそらく優としては恐怖に怯える人間共を想像したろうが、ナナシは違う。彼は真顔のまま言った━━

 

「優もグーグーカレー行かね?」

 

「聞けよ……」

 

優はそんなナナシにただただ、唖然呆然とするのみだった。

 

 

 

 

━━グーグーカレー

 

ここは秋葉原中央通りのグーグーカレー。秋葉原住民が腹を満たしにやってくる。

がっつり食ってさっと出る……そこには飾り気などない。秋葉原に生きる男達、いや戦士達の食事所だ。

そんな中周囲とは妙に浮いた男がいた。しかし彼もまた、自らを満たす為にカレーを待っているのである。

 

男の名は瀬嶋隆二。かつて最前線で手腕を発揮していたNIRO指揮官としての面影は消え、牙は抜け落ち、そこにはただ、一人、くたびれた年配の男が居るのみ……

夢や欲を抱く者が集い、その望みを叶える街、秋葉原。彼もまた例外なく、自らの夢を叶える為に街を訪れた。

彼の願いは至上の力を手に入れる事。何十年越しかの長い長い夢……

しかし、この街が男の願いを叶える事は無かった。なぜならこの街は、街を愛する一人の少女の望みへ応えたのだから━━

夢破れた男は黙々と、目の前のカレーで飢えた己を満たすのであった。

 

(今となっては、生きる理由はこの食事のひと時だけだ)

 

(私も落ちたものだな)

 

そんな事を男が考えていた……その時だ。店員が新しく入店した団体客に挨拶をしていた。いや、そんなことはどうでもいいのだ。今はお昼時だし大勢客が来るのは珍しくもない。特に人の多いここ秋葉原では尚更。

重要なのはぞろぞろと入ってきた客が"やつら"(自警団)だったという事だ。彼らに着いて、何故か安倍野までもが居る事に驚きを隠せないでいる。

 

(……なん、だと……!?)

 

「あいつらは、バカな、こんな所で」

 

「いかん」

 

彼は椅子をがたがたと鳴らせて慌しく立ち上がった。帽子を目深に被ると、足早に店を出ようとする。

そんな瀬嶋の姿に気付き、ノブは言った。

 

「お、おい、あれ」

 

ノブの言葉にゴンとナナシもその視線の先を見る。

 

「……瀬嶋…………?」

 

ナナシは驚愕した。ゴンも思わず驚きの声をあげている。

塵となったはずのNIRO指揮官が、目の前でカレー食っていたのだから当然だ。

 

「ったく……」と吐き捨てながら優も遅れて入店する。ガラの悪い不良よろしく両ポケットに手を突っ込み、気だるそうなヤンキー歩きで……けれども彼も律儀に着いて来ていた。

突如として、そんな優の横を素早く瀬嶋が通り過ぎて、店を出て行ったのである。最初何事か分からなかった優も事態を把握するとその目の色はみるみる変わっていく。

 

「アイツ、生きてやがったのか!」

 

「お、おい! 待て……」

 

ナナシの制止も聞かず、血気盛んな性格の彼はすぐに店を飛び出していった。

 

 

 

 

━━中央通り南西

 

 

待ちやがれと吠えながら追うのは優。そんな様子に動揺する人々を縫っては掻き分け逃げるのは瀬嶋。

尚も執拗に追いかける優に瀬嶋は舌を鳴らす。

 

「しつこい奴だ」

 

観念した瀬嶋は立ち止まり、優の方へと振り向いた……

 

「……なんだね。まだ、私に何か用でもあるか?」

 

「ったりめーだ……さんざカゲヤシを狩った償い、受けてもらうぜ」

 

一触即発、空気が張り詰める。

ナイトスティンガーを構えた優の元に三人が駆け寄った。

 

「優!」

 

ナナシが呼び止める。

 

「……あ、あんた生きてたのか!?」

 

ノブも息を切らしながら瀬嶋に問うた。

「見ての通りだが」━━彼が放ったその言葉をナナシは信じられなかった。

 

(そんな……あの時、止めを刺せてなかったのか……!?)

 

ビルでの最後の死闘。確かに、最初は瀬嶋の圧倒的な力によって苦戦を余儀なくされていたのは事実だった。しかし瑠衣の血によってそれをも上回ったナナシは━━奴を陽光の差し込む窓辺まで押し返し━━逃げ場を失ったその身は四方から光の刃に貫かれた。それがナナシ自身の知っていた"終わり"、エンディングなのだと、信じて疑わなかったのだ。

 

「ともかくだ。今の私には、争うつもりは毛頭ない」

 

瀬嶋のそんな言葉に「嘘つけ」とナナシは言う。彼のような人物がそう簡単に己の野望を諦めるはずはないと思っていた。

神の気まぐれか誰かの仕業かは分からないが、どうやら瀬嶋をまだ死なせたくはないらしい。つくづく、しぶとい男だ。

 

「もう何もかも諦めたさ……今は残った金で、ひっそりと暮らしている。ただそれだけだ」

 

「んなもんどうでもいいんだよ。俺はテメーを殺るだけだ」

 

「そう焦るな、私は腹が減っているだけなんだ」

 

殺意バリバリの優をからかう様に、瀬嶋はそう言っておどけたような態度を向ける。戦う意志が無いことを示しているのだろうか、あるいは余裕の表れなのかもしれない。

その様子に反応することなく、優はナイトスティンガーを手にジリジリと間合いをはかっている。

 

そこには興味本位のギャラリーも少しずつ集まってきている。両者少しばかりの沈黙を挟み、あきれたように瀬嶋が言った。

 

「聞く耳もたぬか」

 

「……悪いが、逃げさせてもらうぞ」

 

━━再び瀬嶋は身を翻した。

 

「待ちやがれ!」

 

優が後を追い、ナナシ達も続いた━━やがて人の多い大通りから袋小路へと進んでいく。━━瀬嶋が角を曲がる。

 

「クソッ、路地裏に入られた!」

 

優が叫び、ナナシが優と共に曲がり角へ折り返した時には、既に瀬嶋の姿は消えていたのだった。

 

「……遅かったみたいだな」

 

ナナシはため息混じりに優へ言いながら腕を組んだ。だが、優はただ消えた路地の先を見つめるばかりで彼に見向きもしない。少しして優は言葉もなく舌打ちで答えた。

まだ諦めきれないのか、逃がした事が余程悔しかったらしい。同胞の仇にしろ個人的な因縁にしろ、瀬嶋に一矢報いたい気持ちは大きかったものと見えた。

 

「こうなりゃ追跡は無理だな……相手がカゲヤシなら尚更だ」

 

優はようやく諦めた様子でナイトスティンガーを背負った。

遅れてノブとゴンが、息を切らせながらも到着。さすがに人間の脚力ではキツかったに違いない。

 

「はぁ、はぁ……お、お前等……速すぎだ。と、というか荷物が」

 

ノブは紙袋をガサガサいわせて走り着くなり、がくりと頭を垂らし息を弾ませた。その横ではゴンもひぃひぃ言いながら額を首のタオルで拭っている。

 

「まぁ俺達はカゲヤシだからね、仕方ないね。ノブは買いすぎ」

 

「はぁ、なぁ、あいつ、本当に改心したのか?」

 

息も切れ切れにノブはそう言うと、ナナシはふと考え込んだ。

しばし沈黙して一言。

 

「そう、なのかな」

 

その表情は懐疑の念と不安を表していた。ナナシにもはたしてそれが真実なのかは分からない。しかし、信じたいという気持ちよりも嫌な予感の方がどうしても大きかったのだ。

 

「どうだかな……」

 

優もそれに疑問の声を上げた時だった。突然、ポケットに入っていたナナシのスマートフォンが震える。

着信表示━━発信相手を見た。ヤタベさんだ。

 

「はい、もしもし?」

 

《ナナシ君かい!? 大変だ、今、駅前で乱闘……カゲヤシが襲われてるんだ!》

 

声は明らかに憔悴していて、電話越しに駅前が騒がしくなっている様子も何となくではあるが察することができた。

 

「な、何故に!?」

 

《それが分からないんだ……、けどこのまま見ている訳にもいかないし、かといって私じゃ何もね》

 

「すぐ行きます」

 

ナナシは険しい顔で電話を切った。

その表情を見たノブがただ事で無いと察したのか、ナナシに電話の内容を訊く。

 

「なんだ?」

 

「事件みたいだぞ。駅前」

 

「おぉ、久々の出番だね~」

 

ゴンはそう言って喜ぶが、

 

「まじかぁ。けど、喜ぶに喜べないよな。事件だし」

 

ノブの言葉にすぐにしゅんとする。

 

「そ、そうだね。ごめん」

 

そんなやりとりの中、くだらねぇ、と優は吐き捨てた。

 

「俺は帰るぜ」

 

彼はヒュッと軽く跳び上がり……風の如き身軽さで路地奥の壁を右へ左へ飛び移って、その姿は日も差し込まぬ、暗い闇の向こうへと溶けていくのだった。

 

「カレー食えなかった……結局優は何しに来たんだ?」

 

「まあいいや━━秋葉原自警団、出動だ」

 

ナナシの言葉を聞いた二人はそれぞれに頷いた。


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