【妄想】AKIBA'S TRIP1.5 作:ナナシ@ストリップ
━━自警団アジト
久々の集合が叶った自警団一同。惜しくもナナシが欠席してしまったものの、そこではメンバーが楽しそうに場を囲んで、立ち話に興じている。パトロールの任があるはずだったが、しかし大いにお祭りムードな彼等。そう、クリスマスイブという……こと今日に関しては、例外的に任務もお休みなのである。
「今日は集まれて良かったなぁゴンちゃん」
「う、うん、ノブくん。折角の日だからね……明日はダブプリのクリスマスライブもあるし!」
盛り上がる二人をよそに、サラは人数分のオムライスをテーブルへ置きながら、残念そうに視線を落としていた。「ナナシさんは来れませんでしたが……」呟く彼女に、けれどもヤタベが明るく言う。
「やだなぁサラさん。ナナシ君が来れない理由は決まっているさ」
配膳を終えた彼女はテーブルに置いてあった銀のトレーを抱えた。それから言葉は無かったものの、一応の納得を得たように沈んでいた面持ちを元へ戻し、鼻で息をついていた。
傍ら……明日のライブへ向けてカメラレンズの手入れをしていたゴンが、手を止めて代わりに言葉を発した。
「そ、そうですよね。ナナシ君の為にも、クリスマスが中止だなんて言えないですよ」
「俺は中止でもどっちでもいいが……こうやって変わらず集まれてさえいればさ」
言いつつも、未だ不満そうな面持ちなのはノブである。
それから……彼は胸ポケットから取り出したスマホ画面をつついて、一人毒づいている。
「にしても
「まぁまぁ仕方ないさ。ナナシ君だって今日は大一番だろうからね」
そしてなだめるヤタベ……彼が言った大一番、というのはクリスマスデートの事。
……というのも。ナナシと文月瑠衣の仲の良さは、周知の事実であり……自警団も密かにではあるものの、二人に対してカップル同然の扱いをしている節があった。……本人達の心情が実際どうなのかはともかく。
そして今日はクリスマスイブ。それなら彼から連絡が無いのも言うに及ばずじゃないか、という事である。
「瑠衣さんに笑顔が戻られたのも、ナナシさんのお陰ですから」
そうしてサラも二人の仲の良さには太鼓判を押している程。ただ実際の所、今彼は仲良くデートをしている訳では全くなく、独り闘いに明け暮れている最中であるのだが。
「あいつのお陰かぁ」
どこか思う所があるような表情でスマホを仕舞ってから、ノブは腕を組んでテーブル近くの椅子へ座った。
少し会話に間が空いてから、
「でも正直、瑠衣ちゃんと付き合えるなんてすごく羨ましい事だと」
そう、ゴンが言いかけた時だった。
アジトの入り口から、こんにちわー……と、今にも消え入りそうで申し訳なさげな、まさにその文月瑠衣、彼女の声が聞こえてきたのだ。
彼女はなぜだか恐る恐るといった様子。
まさかまさか本人が来るとは思わず、ゴンは仰天の叫びと共に飛び上がっていた。
彼女の名を呼ぼうにもそれすら動転して言葉を噛むゴンと、「大丈夫かゴンちゃん!?」だとか、血相変えるノブの二人組はさておく事にして……。ヤタベが持ち前の柔和な笑顔を携え、快く彼女を出迎えていた。
「おぉこんにちわ瑠衣ちゃん。ナナシ君なら、ここにはいないよ」
「……はい。知っています」
…………予想外の返答に目を丸くする自警団一同。
そんな様子を見た瑠衣は、経緯を説明し始めた。
「あ、その。実はナナシは修行の予定が入って、今日会えそうに無いらしくて」
「元々は自警団の皆さんと……それに鈴と
「鈴と叔父さんはナナシと二人で遊ぶと思ってて、なんだか張り切っちゃって。それで今更ナナシに断られたなんて言えなくて……二人にはナナシと遊んでくるって、嘘を言っちゃったから。……だから、できれば自警団の皆さんとだけでも、その……」
なんて彼女は改まって言い出せず、もじもじと視線を泳がせていた。
「瑠衣ちゃんっ!」
いつの間にか、ノブがもの凄い形相で瑠衣の両肩を掴んでいた。俯きがちだった瑠衣は直前まで気付かなかったらしく、
「ひゃい!?」
裏返った返事と共に身体を跳ねさせる程にびっくりとしている。
思わず縮こまる彼女を気にせず、というか気付きもせず「何言ってるんだ」と熱苦しくノブは続けた。どうやらスイッチが入ったようだった。こうなると彼はなかなか止まらない。自警団最年長のヤタベですら手を焼く位には……
「ここはナナシをぶっ飛ばさなきゃ駄目だ。ナナシの彼女として!」
「かっ、彼女……!? わ、私はただナナシとも遊びたかっただけで」
「クリスマスに遊ぶならそりゃもう恋人だよ恋人!」
「えぇええ!?」
その理論だと場合によっては……自警団全員恋人という意味の分からない状況にもなりかねないが、まぁ、細かい事はもはやいいのである。顔真っ赤っ赤な瑠衣から手を離したノブは、演劇でもやってるみたいにその場で大立ち回りした。
「最近のナナシの忙しそうな素振り……まさか、まさか!」
「俺はあいつを男と見込んでいたのに! ITウィッチまりあを語り合う同じ男として!」
「あの地獄のコミケで夜を明かしたりもした! エロゲーを語り合った!」
「同じエロゲー趣味を持つアイツの」
しかし一同を置いてけぼりにしつつ熱くまくし立てる流れは、ついにヤタベによって断ち切られる事になり。
「ノブ君? 話が脱線しているから。落ち着こう、分かったからね」
「と、とにかくだな。アイツがそんなことする奴だったなんて見損なったぜ!」
と、そこへ思わずゴンが口を挟んだ。
「そそ、そんなことって……修行じゃなくて?」
「言うなゴンちゃん!」
(もしかしてノブくん、浮気って言いたいんだね?)
ゴンはひっそりと耳打ち、すると彼は小声で、そうだ、と真面目な顔で頷く。さすがにそれは無いんじゃないかな…………一人思うゴンだった。
「ですが、ナナシさんが瑠衣さんとの約束を断ってまでということは、その修行はよほど重要なのでしょう」
「だから
サラへ爽やかな笑顔を向けた彼に「ストーップ!」とゴンが絶叫しつつ、飛び込むように手で制止していた。
ノブはハッと気付いて冷や汗を垂らし、あぶねー……なんて思いながら顔を強張らせる。
そんなやり取りに驚いた瑠衣は、ノブとゴンの二人へどうしたの? と問い掛けるも、笑顔で言葉を濁されるだけ……
どう見ても不自然だった。
「む……嘘ついてる?」
懐疑の念を持って、ノブの顔をじっと覗き込んだ……けれども彼は、自信に満ち溢れた表情でこう言い切る。
「俺は嘘なんてつかないぞ」
そうしてふっと笑う様は、世の女性なら漏れなく騙されてしまいそうな甘いマスク。もしナナシがこの場に居れば、このすけこまし野郎が……とか野次を飛ばしている所。
ともあれこれでやり過ごした……かと思いきや、
「ぅう嘘つくなんてそんなぁあぁぁ!?」
その横ではゴンが大慌てでうろたえていて。
(焦りすぎだゴンちゃん……ッ!)
ノブはたまらず拳を握り締め、先程の爽やかな笑顔は跡形もなく消えていた。何をやっているんですかと、サラの冷めた視線が送られる。
けれども、瑠衣はにっこりとした笑顔を向けていた。
「……そうだよね。疑ったりしてごめんね」
逆にノブが衝撃にビビらされる程の純真さ。……ナナシが普段の彼女を心配して気にかける訳だった。
「ぃ、いや……大丈夫だよ」
あたふたするゴンを傍目に、ノブは罪悪感に苛まれていた。こんな子を一瞬とはいえ騙すなどと……そんな良心の呵責と共に、ナナシに対しても一層の怒りが湧いてきてしまい。
「決まりだ。瑠衣ちゃん、ナナシに殴りこみを掛けるぞ!」
「えぇえ!? ノブくん、そんなダメだよ、喧嘩なんて!」
「これは必要な戦いなんだ。瑠衣ちゃんの為にも、ナナシの為にも!」
「は、はいっ!?」
ノブの力説に瑠衣も思わず姿勢を正す。
ヤタベは、和やかに「なんだか楽しそうだねぇ」なんて平和的に見守っていた。
「ヤタベさん、これは戦いなんです!」
「おっとそうだったね。ごめんごめん」
それからノブによる「よし、秋葉原自警団出動!」の宣言で、ゴンとヤタベもとりあえず雰囲気に任せて、掛け声と共に右腕を突き上げた。ノブに圧倒されつつも、なんだかんだ彼等もノリノリである。
「居場所も分かりませんのに、どうなさるおつもりなんです?」
すました顔でぴしゃりと放ったサラは、しかしそんな空気をすっぱりと切ってしまう。
あっ、と固まったノブとゴンに、「はは、私はついノリでー」と笑うヤタベ。
そんな彼等に、彼女はまた困った様子かと思えば。
「とはいえ私も、そんな皆さんが好きなのですけれど」
小首を傾げ、日照りの様に暖かな笑顔を向けていた。
━━師匠の屋敷
場は転じて屋敷の闘技場。
そこにあったのは、ひたすら修行に打ち込み続けるナナシの姿。
彼はヒロとの対決の後……新しい代えのズボンも購入し、その後真っ先に師匠の屋敷へ向かっていたのだ。
結局のところ、ヒロ達の襲撃作戦は反撃により、失敗に終わったようではあった。しかし彼は一安心する間もなく、こうして鍛錬に励んでいる。
一刻も早く、強くならなければという思いの下に。
「また私の勝ちだね。だけど今のは惜しかった。さてと、そろそろ休憩にしようか」
「……くっ、分かった」
準備が出来たら呼んでくれと言い残し、下僕は去っていく。それを見送ってからナナシは悔しげに腕組みし、どかりとその場にあぐらを組んだ。ため息がつのるばかりだ。
このまま経験値を積んで地道に強くなっていくしかないのか……"修行に早道なし"であろうが、脅威は待たずにすぐそこにある。後悔はしたくない。その為には……
ナナシが視線を落とすと、丁度、踏み割れた地面が視界に入ってきた。
(下僕が地面を踏み蹴って出来たヒビか……)
「とんだ怪力だな……」
恨めしそうに愚痴るものの、しかしながらナナシには、紛い者の短所についてもある程度の把握は出来ていた。
それは彼らが怪力、その突進力ゆえ細やかな機動は苦手としており、直線的な動きをしがちということ。突進してから方向転換する際も、力ずくで無理やりブレーキをかけている……地を踏み割る程にだ。
ならばこちらが柔軟な動きで回避し、相手の力を受け流せば……動きの硬い彼らに隙を作れるのではないかと、彼は考えていた。しかし理論はそうでも、それを実現するのが中々難しい所。その為の修行という訳なのだが。
さておいて先程、ノブから送信されたメールが気がかりでもあった。
『ナナシ! 今どこだ! 今すぐ教えろ!』━━という鬼気迫るような内容に返信はしたものの、その後が返って来ないのだ。
(大丈夫なのか……? 何かあったんだろうか)
「ナナシぃーーーー!」
その時、後ろからノブの声が聞こえた。立ち上がって振り返れば彼を先頭に、自警団の皆が駆け足で迫って来る。
「ノブ! 皆! どうし━━」
ほっとしたナナシだったが……その両肩を突然ノブにがしりと掴まれて、問いただすように前後に揺すられていた。
「瑠衣ちゃんほっぽって何してやがったぁぁぁ!」
「ああぁああ」……質問に答えようにも揺らされすぎて言葉にならず、口から間抜けな声しか出てこない。そして答えないから揺すられ続けるという拷問がナナシを襲った。何がなんだか、それからノブが少し落ち着いてようやっと拘束を解かれた。
お互いにしばらく肩で息をし合った所で……お見合い状態から気を取り直したナナシが、半ギレ気味に拳へ力を込めて言った。
「修行だよ! 修行!」
「なんで修行なんかしてるんだお前はっ!?」
「決まってる。このままじゃ瑠衣を守れない。俺は強くならないといけないんだよ! ……瑠衣を守るって、約束したんだよッ!」
俺が守らなきゃ誰が瑠衣を守るのかという、懸命な、そしてもはや愛の告白じみた主張であった。
文月瑠衣自身は、未だ恋愛関係にあると思ってはいないが……それでもその宣言は彼女にとって純粋に嬉しく、かつ恥ずかしいやらで遠巻きに赤く顔を染めていた。というか、言った本人と聞くノブ以外全員何かしら驚いている。
しかし彼等二人は至極真面目。ノブは口を挟む事も無くひととおり聞き終わると……それから初めとは一転して、落ち着いた声色で言った。
「……なるほどな。お前も生半可な理由じゃないことは分かった。まぁそれに、約束を守ろうって気持ちも分かる」
「ただ、こう言っちゃなんだが心配したんだぜ? あんまり一人で突っ走るなよな。自警団は俺達で自警団だ。ここを救った時だって、皆で協力して進んで来たんだからな! ……だったら今回だって、これからだって同じことさ。だろ?」
「ノブ……! …………たまには良いこと言うじゃないか」
「だろう? たまには、は余計だけどな」
(……まぁ実は浮気の心配だったんだが、この流れだと言えねーな……)
「ともかく、お前の修行に望む覚悟は分かった。俺が受け取った! ITウィッチを愛する同志として!」
「頑張れよナナシ!」
「……ああ。勿論だ!」
同意からまもなく。硬い誓いを示すようにがしっと互いの腕を組んだ、その二人を遠目にして、不可思議な超常現象へ立ち会ったみたいにゴンが覗き込んでいた。
「……仲直ったんですかね」
サラを横目に言った。彼女もいつものすました顔ながら、小さくため息を吐く。
「喧嘩をしたと思えば。良く分かりませんね」
「サラさん、それが男の子というものさ」
ヤタベは嬉しそうにガッツポーズをした。……けれどサラはともかく、ゴンまでもあまりピンとはきていない様子ではあったが。
それから瑠衣がナナシへ駆け寄っていった。自らの名を呼ぶ彼女を目の前にして、申し訳無さそうにするナナシ。
瑠衣の為を思って修行に打ち込んでいたハズが……、一年に一度の今日ぐらい、修行なんて考えずに彼女の近くに居てやるべきだったのではないかと。そういった思いも彼には勿論あった。けれども苦戦が続き、それからヒロとの戦いによって……いよいよ焦る思いが強くなってしまったのである。
そんな彼が謝ろうとした矢先、瑠衣は言った。
「……ねぇ、ナナシ。私も出来る事をするからさ。キミは私を助けてくれる……だから、私にもキミを助けさせて欲しい」
……なんて優しいのだろう。この世にこんな娘が居て良いのか?
修行疲れも手伝って無性な感激に抱き付きたくなったが、流石にここでそれは色々まずい。
場面的にも倫理的にも。珍しく空気を呼んだナナシは……ほころびそうになっていた表情を無理矢理固め正した。
「瑠衣。……そうだよな。それにありがとう、皆」
(ナナシ、なんかヘンな顔になってる……)
「俺は言いたいことを言っただけさ」
そんなノブの後ろで、ヤタベとゴンは申し訳無さそうに頭を掻きながら、縮こまっていた。
「私は着いてきただけだよね」
「僕も……」
「それじゃナナシ、修行がんばろう。私に何か手伝えるかな?」
「よし任せろ、俺も手伝うぞ!」
「ノ、ノブ君は何するの?」
「……やべ、何も思いつかね」
「あはは。ノブ君らしいや」
笑いが溢れ。ヤタベはやれやれだね、と困惑ながらに微笑んで、サラは全くです、と言いながらも涼しい顔。
うーん、いつもの自警団だ。安心する━━っていや待て。
「おいおい待ってくれ、皆クリスマスは?」
動揺するナナシの言葉に「クリスマスは中止」と優しく微笑む瑠衣。
……どうしたものか、自分だけが出席できないならともかく、まさか全員を巻き込んでしまうとは。
改めて身勝手を呪うナナシだった。というか瑠衣、クリスマス中止なんてワードどこで覚えたんだ。まぁた彼女に変な事吹き込む輩が居るみたいだな……と思ったらそれも自分だった。
色々と罪深い男だ……そんな事を思い、そしてその罪深き男を前に、ヤタベは朗らかに笑いかけるのである。
「あはは。瑠衣ちゃんの言う通り、今となっては中止せざるを得ないね。いやはや、元々我々が行なう予定だった今日の会だって……中止決起だしね? 本当に中止した所で問題はないよ」
「そうそう。瑠衣ちゃんを守る為の修行があるんだろ?」
「ぼ、僕に何が出来るか分からないけど……」
「皆さんそう仰っておりますし。頑張りましょう、ナナシさん」
(みんな……! ……こんな優しい空間に居て良いのか!?)
しかし感動もそこそこに、ぞわっとする気配を感じた。後ろではいつの間にやら戻ってきた下僕がガッツポーズをしながら、すごく変な━━舐め回す様に変態的な━━動きをしながらこの場を観賞していた。感動が台無しである。
そんな下僕に目尻をひくつかせながらも、ともかく、こうも言われたらその想いに応えるしかない。でなければこの手前、今度こそ本当に男が廃るというものだ。修行をとにかく頑張って、再び強くならなければ!
紛い者だって、弱点である小回りの利かなさを突けば、きっと突破口は開けるはず━━
(━━まてよ? 良い事思いついたかもしれない)
「……瑠衣、俺を助けてくれるか」
「うん。勿論!」
「よし! それなら……」
その言葉を最後にして、ナナシは下僕の待つ方へと振り向いていた。
◇
闘技場でナナシに対峙し。そして威勢も良く両拳を構えたのは、修行相手の下僕。
「良いとも。一人増えたところで、この圧倒的なパワーの前には無意味!」
下僕は余裕そうに含み笑いを見せていた。
あれから改めて修行を再開した所だ。ただ前までの修行風景とは少し毛色が違う。というのも下僕に対するのは、ナナシに加えてそれから文月瑠衣の二人タッグになっていたからで。
一人増えたところで、というのはそれを指しての事だった。
……ナナシが瑠衣に軽く耳打ちした後、戦いの火蓋は切って落とされる。
しかし。
いざ始まったはいいものの、二人は下僕の様子を伺いながら動き回るのみで、一向に攻撃を仕掛ける気配は無い。
下僕は動きを視線で追いながら訝しんでいた。しばらくして━━
「何のつもりかは分からないが……私は受け待つよりも脱がしに行く性でね。……仕掛けさせて貰おう!」
━━宣言と共に突撃したものの、攻撃は軽やかに身をかわされるばかり。そして避けられる度、また直線的に二人を追っていく。力強く地を一蹴りして迅速に距離を詰めるも、そこからまたひらりと逃げられては、急制動による方向転換を試みる。
……その挙動はナナシの予想通りだった。そして踏み込んだ際に一瞬ではあるが、その足を取られ、滑らせている事も見て取れた。やはり、自らの脚力に振り回されていたのだ。
対する二人は、以心伝心で完璧に隙をカバーし合い、相手を翻弄する。急な本番でこれ程の連携とは、誰が見ても驚きであったし……それは協力を提案したナナシ自身でさえもそうだった。
有利になるとは思ってたが、ここまでとは。……そんな彼自身の驚愕。
それに加えて。
戦いの最中……それもあの紛い者を前にしているというのに……今まで感じていた脅威と焦りもどこかに忘れて、それどころか、なんでか悪くない気分にすらなってくる。そんな感覚に襲われていた。
不思議に思って彼女を見れば、彼女も嬉しそうに生き生きと動いている。
……もしかしたら、互いに気持ちは同じなのかもしれない。
そして、そんな彼の思いは当たっていた。そう文月瑠衣も、同じなのである。
協同し、こうして心合わせつつ動くという事に……どこか充足感、安心感さえも覚えていたのだ。
もはや今の二人には、今更戦う相手が何だろうと脅威を感じる余地も無く、そこにあるのは共に戦える事の心強さだけ。たとえどんな敵が立ち塞がって来ようと、今の二人なら必ず一糸まとわぬ姿に出来ると、互いに信じて疑わない。
そう、勿論それが……紛い者相手だったとしても!
「行くぞ瑠衣!」
「うん、ナナシ!」
翻弄される下僕に隙を見た二人は、それぞれ互いの名を呼び交わした。次の瞬間には下僕が瑠衣の足払いで浮かされ、ナナシの蹴り上げによって打ち上げられ。互いは左右から同時に跳び上がって、瑠衣が上服を、ナナシが下服を、見事に脱衣していたのだった。
新たな連携技の下で、遂に彼等は……その手に勝利を掴んだのである。
◇
「私を負かすとは。ナナシ君、見事」
いそいそと脱がされたスーツを再び着込みながら、下僕はその技術を賞賛していた。
彼等が編み出した新技、
対紛い者に有効な脱衣技として、一応の完成を見たのだ。
(翻弄し、相手の隙を突く……か)
柔よく剛を制すとは、こういうことか? ナナシはそんなことを思っていた。
そこへ、師匠が闘技場の奥から現れる。ナナシは師匠の生の姿を見るのは初めての事であり、メガネを掛けていて清楚さを感じさせるその意外な出で立ちに驚いた。しかしだからこそ、その秘められた本性はより恐ろしく感じられる……というのもまた事実。
「……エクセレント。遂につかんだようね、ナナシ」
そんな師匠は妖艶な笑顔の元、健闘を褒め称えた。
囲んでいた自警団の面々も一眼レフ片手に喜んだり、いつもの気品あるメイドスマイルで優しく微笑んだり。はたまた場を離れていたノブとヤタベは、差し入れの缶飲料を片手に不思議そうな顔をしていたり。
「やったねナナシ!」
「瑠衣のおかげさ」
人々の中で喜びを分かち合うナナシと瑠衣の二人だったが、しかし師匠は釘を刺すように忠告するのだ。
「それでも、所詮は二対一よ。いつも二人居るとは限らない。いつかは、必ず一人で脱がさなきゃいけない時もあるわ。それもきっと少なからずね……だからこれで満足しちゃダメ。あなたには、まだ伸びしろがあるのよ」
言う通り、これはあくまでその場凌ぎのアイデアだった。ナナシ自身がこれから強くなる必要性に迫られている。その為にはこれに満足せず、修行、修行あるのみだ。
己の握り拳を見つめ決意も新たにした時。御堂もいつの間にやら師匠とその場を共にして、彼女も素直な喜びを向けてくれていた。
「おめでとうございます、ナナシさん。新しい脱衣技を閃いたようですね」
「御堂さん! 御堂さんはどうでした?」
「ええ。私も閃きましたとも。私にしかできない、特別な"脱衣"を」
確かな自信があるように胸を張る彼女に、ナナシと瑠衣は首を傾げた。御堂はそんな二人の様子を見止めて、それもそうか、と反応に納得した様な目。
「説明するより、見たほうが早いでしょうね」
言うと、御堂はスーツの裏側に仕込んでいた胸ホルスターから、手慣れたさばきで
「御堂さん……実はエアガン趣味?」
尚当惑する彼に、しかし御堂は至極真面目な表情でただ一言、
「ホンモノです」
また恐る恐る聞き返す。
「御堂さんそれはマジ?」
「はい。それでは……失礼します」
彼女は真面目な顔色を変える事も無く、丁度服を着終わったところの下僕へ向けて拳銃を構えた。次の瞬間……
銃口から発された発砲炎。それと共に、断続するけたたましい銃声が周囲に響き渡った。音からして恐らく、数連射はしたものと思われた。
ゴンはその轟音に思わず、ひぃ、と怯えながら耳を塞ぎ、身をすくませた。
「耳鳴りかな? もう年だね~」
なんて、あはは、と朗らかに笑うヤタベに「違います」とサラが突っ込む。
ナナシと瑠衣はその場で呆然と固まり、目を点にして立ち尽くすばかり。誰もが呆気に取られている中で、いち早く変化に気付いたのはノブだった。
「脱がされてる……!? こいつはどんな手品だ!?」
「フフフ、変態は二度脱がされる……」
下僕も言う通り、確かに脱がされている。今まさに感無量の面持ちで言葉を零した下僕は、パンツ一丁の姿に逆戻りさせられていた。誰もが目を背ける、あられもない姿が再び公然と晒された。それは下僕にとってかわいそうなのか……しかし光悦に満ちた表情なのだから、本人的には良かったのか。救いようがないのか。
「こんなところでしょうか」
御堂は構えた姿勢から流れるように、拳銃を胸のホルスターに仕舞った。
「そうか……いや意味が分からんわ!」
突っ込むナナシに、真面目な顔で御堂は解説し始めた。いや、意味が分からないとは言ったけど……、であった。
「敵のウィークポイント……ボタン、ベルト
「これこそ新たな技、遠距離から放つ"脱衣"です」
そして、さも満足そうな顔で褒め称える師匠。
「脱衣は極至近距離で仕掛けるもの……その前提を覆した素晴らしい脱衣方法だわ」
なるほどさすがだな。……みたいな空気になってるけど、いやもう色々おかしいって、おかしいよね? と俄然抗議したくなるナナシ。が、師匠は尚続ける。
「警視庁の射撃大会で常にトップの成績だった、御堂にしかできない荒業よ……まぁそれだけじゃなく、柔道剣道の方も優秀なのよね? 御堂は」
……そんな凄い人だったのか。と、一時感嘆。いや、国の特務機関に引き抜かれるのだから……かなりの経歴であろう事はナナシも分かっていたのだが、それにしても、だった。
なるほどそれならば、瀬嶋がプロフェッショナルの集いたる"NIRO"の人員として、優秀な実績を持つ彼女を引き抜いたのも頷けた。そもそも人間でありながら、カゲヤシとの戦いに二年程身を置き生き残ったほどの実力者である。
「な、そんな事を
その実力者は、大層焦った様子で取り乱していたが。
「御堂の事なら何でも知っている」
それは不意に、ぞくりと悪寒を感じさせるような声色。師匠は彼女をご満悦で見つめていた。まるで獲物を前に舌なめずりをしているかのように。
「何者なんですか!」
「そんなことは重要ではないわ。重要なのは、後であなたが私の部屋に来なくてはならないということ」
「行きません」
また熾烈な攻防が発生していた……最も、御堂は防戦一方であったが。
こんなだから師匠に瑠衣は会わせたくなかった。まさか瑠衣も餌食になったりしないよなと、ナナシは不安な心情にかられて瑠衣を見た。これがあるからこそ、修行中は彼女と会おうとしなかった、そんな節もあったのだ。
瑠衣は師匠と御堂のやり取りを見ながらも、相変わらず無垢な表情を浮かべていた。ますます心配だった。視線に気付くと不思議そうな顔で「どうしたの?」と問う彼女に、いや、と慌てて目を逸らす。
まぁ、師匠は御堂さんの方へお熱みたいだし、大丈夫かと一安心するナナシだった。もっともその御堂さんが危ないから複雑な心境ではあるのだが━━
当の御堂は半ば強引に、自らの脱衣技に話題を変えていた。
「ともかく、これはかなり優位に立てます。目立つのが最大の難点ですが……」
それが致命的なんじゃ? と率直に投げかけたノブだったが、銃声を隠すために消音装置を着ければ、ある程度は弱点を抑えられるはずだと彼女が答えた。
「━━その場合銃が大きくなりかさばるのが少々問題ですが。銃弾に関しては無薬莢式の、陽光分解性ゴム弾を使っていますので、雑踏の中で発砲でもしない限りは怪しまれないでしょう」
彼女の言う陽光なんとか━━弾とは、カゲヤシが日の下に晒されると炭化する特性を利用・応用した、着弾後ほどなくして塵となって消える、かつてNIROが開発した非殺傷弾丸である。お陰で証拠の隠滅に役立つ、という代物だった。
この新機軸の弾丸は一見革新的ではあるが、その実、無用の長物と化して眠っていたそうで……そして解体直後のNIROから、勿体無いからとどさくさまぎれに彼女が拝借したらしい。
その抜け目のなさに思わず、乾いた笑いを上げるナナシだった。
それから……師匠が頃合を見て、締めくくる様に労った。
「二人共、良くやったと思うわ。……今回は一段落ね。また来なさい……脱衣に身を捧ぐ者達よ」
御堂を連れ行く事は断念したのだろうか?
とりあえず、今回の修行は無事に実を結んだかと皆が胸を撫で下ろし、帰り支度を始めようとした時に……師匠は付け加えて言った。
「ただし御堂だけは残りなさい」
「イヤです」
一同隠れ家からそそくさと撤収する中、御堂の戦いだけはもう暫く続きそうであった。
━━自警団アジト
一旦修行を終え、アジトへと戻った自警団メンバー。彼等は輪を作り、そこでは今後についての会議が始まろうとしていた。
そこでまず第一声をあげたのは、ナナシだ。
「……まずは、自分から色々と話すべきことがあると思う。俺はつい最近、紛い者とかいう人造カゲヤシと戦って、一度負けかけた。それで修行を始めたわけだけど。あいつらは筋力に関して俺達、通常のカゲヤシを軽く超えてる。まさに、戦いに特化したカゲヤシってやつ……」
「けどそれだけに全体のバランスは悪そうなんだ。お得意の力も上手く制御しきれてなかったりして、色々持て余し気味の結果、上手く動けなかったり……さ。それ以外にも弱点はあるのかもしれない」
「その分はこちらが有利……ということかな」
と言うのは、神妙な様子のヤタベの言葉。そして今度はノブが、転じて神妙どころか軽妙ぐらいな様子で続ける。
「所詮は人が造ったモノ、どこかしらボロはあるってことか」
とはいえ軽いノリなのは彼くらいで、ナナシが見渡せば皆どこか浮かない顔をしていた。いや、この状況で浮かれられる方がおかしいけれども。
瑠衣に至っては、悲しそうに俯いている程だった。
「私達カゲヤシは、戦いの道具なんかじゃ……」
彼女の呟きを、サラはやるせなさそうに一瞥してから言った。
「一体、それで何をするつもりなのでしょう。……そして、どうそれを造り出したのでしょう」
「そのような技術を持っている組織……あるのでしょうか」
「どうかなぁ。ぱっとは思いつかないよね」
ヤタベが首を捻りながら、顎をさすっていた。答えが出ずに沈黙が生じかけた所で、またノブが発言した。
「で、ナナシはそれに勝てそうか?」
「一応さっきは勝ったけど。紛い者は言うなれば、筋肉増やしすぎて小回りの利かなくなった……トラ○クスみたいなもんさ。ほら、ドラ○ンボールのセル戦」
ノブだけはピンと来ていたようだったが、他は良く分かっていないようで。自信満々に提示してみせたナナシは思わずずっこけそうになる。
ならば全員が分かる例えを探そうと、皆口々にあれじゃね、これじゃないか、と次々それとなく例を挙げていった。しかし……誰もがマニアな知識に基づいた例えを挙げるせいで、むしろそれは難解になっていき、どの道サラと瑠衣だけはその意味するところが分からなかった。
遂にはアニメの話題に傾きつつあるところを……サラが咳払いによって静かに牽制した所で、ナナシはテイク2とばかりに、真面目な調子を作って話を持ち直した。
「……つまり、その弱点さえ分かった今となっては脅威じゃない」
「ふむ、なるほどな……」
と、こちらも真剣に頷くノブ……彼は演技でもなく本当に真剣であって、つくづく切り替わりが早い男である。
そして取り残されていたのは、一人ぽかんとする瑠衣。
(あれ……? 話が進むのかな? 結局私にはどういう事なのか、分からなかったけど……)
「……というかナナシ、脅威じゃないってそれ本当か?」
「えーっといや悪い、それは調子乗って言いすぎた。正直やっぱ強いじゃん? やばいじゃん?」
「おいおいナナシ頼むぜ! ま、お前なら心配ないとは思うけどな」
「うん、ナナシなら大丈夫だよね!」
「おう瑠衣! 任せとけって!」
「おっナナシ君、心強いねぇ」
メンバーは楽しそうに笑っていた。少しその場から距離を置いていた、ゴンとサラ以外は。
「さ、サラさん?」
「ゴンさん。どうかされましたか?」
「い、ぃやその。なんだか顔色が悪いなと思って」
「いえ、ご心配なく」
言葉とは裏腹に、サラは頭が痛むように額へ手を当てた。頭痛のタネは勿論言うまでも無い。
この雰囲気を好んではいるとはいえ……
(大丈夫なのでしょうか……私達……)
◇
……自警団アジトでは気を取り直して、ナナシによるテイク3が行なわれていた。
「紛い者は弱点があるとはいえ、それでも俺が戦った中では相当強い。とにかく多少対抗はできそうだけど、これから俺も修行して、もっと強くなる必要がある」
「それと問題はもう一つある……ヒロだ」
そう、彼の事もメンバーへ伝えなければならない。
しかし自らがヒロと戦ったあの場をどう伝えたものか? 憂いの表情でうろうろと歩き思案していると、ノブが目の色を変えて身構えた。
「ヒロ? あいつがどうかしたのか?」
「ああ、問題はヒロなんだ……ヒロ……」
ぴたりと歩み止めて、しばし黙り考え込んだ。周囲は静かに見守っていたのだが。
なんだかあの場面を思い出して考えるあまり、ナナシは無性に腹が立ってきた。
「ヒロ……あいつ……絶対許さねぇぇぇ……!」
どう料理してやろうか……ぶつぶつ物騒な事を一人呟く背中からは、どす黒いオーラが湧き出ていた……ノブは身構えた矢先、動けないまま。
「いや……何が問題なのか言ってくれ……」
ようやく彼は、ヒロについてあらかたを説明した……
「……あのヒロ君がかい?」
「それは、本当なのですね……?」
「そう、確かに俺はヒロと戦った。あの集団に味方してるんだろうと思う」
「どうして……? ヒロ君はそんな悪い人には……見えなかったよ」
「そうだねぇ。ヒロ君については、私らもよく知っている。そんな子じゃあ……」
予想はしていたものの、やはり誰もがその説明を理解しがたい様子で。しかしナナシはその目で見て、確かに知っているのだ。
あの時の、別人のようなヒロを。
「普段の無気力な感じでも、ふざけてるヒロでもない。背筋が凍るような目つきだった」
(……いや。あいつ、普段のだるそうな目……どこか冷たさがあるような気もしたが)
「とにかくあの時は完全に……いつものあいつじゃなかった」
うーん、と唸ったり、首を捻ったりでそれぞれは一様に言葉を詰まらせていた。しかし少ししてヤタベが、未だ疑問を拭えない様子を見せながらも切り出した。
「とにかく今はまだ……分からないことだらけのようだね」
(……今はまだ、か)
そう、今はまだ。
だがいずれは分かる。霞会志遠、彼女の依頼をこなし、奴らを追えば。
「その先にきっと……」
「しかしよナナシ、やばいんじゃないか」
「ん?」
「ヒロが敵に回ったなら、このアジトも、瑠衣ちゃんの居たカフェも、全部バレてるだろ?」
ノブ本人としてはまだ軽い面持ちをしていたが、ナナシは凍りついた。確かに、彼が言うその通りだった。
他の面々も盲点だったのか……メイドスマイル以外は基本ポーカーフェイスなサラ以外、あっと面食らう反応をしていた。
「いつ直接襲ってくるか……」
「やばいいぃ! なんでそれを早く言わないんだぁぁ!?」
「おいおい、俺を責めるのはおかしいだろう!?」
どうする? とナナシは瑠衣に問う。瑠衣も目をぱちぱちさせて、二人は顔を見合わせた。はたから見るといちゃついてるだけであったが、周りももはやそれに構っている場合ではない。
ゴンも今まさに、酷く焦った様子で「急がないと」と皆を急かしていた。いつ襲撃をかけられるか知れないのだから、当然の反応と言えば当然の反応だった。しかし年長のヤタベはさすがに落ち着いた様子で、皆へ提案した。
「じゃあ……念の為に移動しとくかい? 新アジトの方に」
「アレがまた使われる日が来るとは」
ノブは感慨深げだった。
残念です、とサラだけは視線を落としている。折角彼女好みにデコレーションしたここを、また放棄せねばならないからだった。サラさんはそうだろうね、とヤタベは乾いた笑いと共に、心なしか恐れも感じさせる面持ちで言っていた。
「やれやれ、忙しくなるぞ。色々備品を調達しなければ」
やれやれと言いつつ、ノブはどこかわくわくと胸躍らせる様を見せ。……ゴンも同じような心境であるのか、
「でもこういう慌しさ、嫌いじゃないかも」
先程の焦燥もどこへやら、楽しげにしているようにすら見える。新アジト移行にまんざらでもない反応の男性陣としては、こういった展開に特有のロマンを感じ、心躍らせている節があるのだ。
メンバーは慌しく移動への支度に追われる。というより、自分達の私物の持ち出しに追われると言った方が適切か。前回移動した時に関しては、何も持ち出さなかった事もあり、新アジトは物一つ無いがらんどうの状態だった。けれどもあれは決戦直前だったからまだ良かったものの、今回は少し新アジトへ滞在する期間が長引くかもしれないのだ。という事で……皆ヤタベのミニバンに積み込める範囲で、思い思いに自らの大切な物を移動させようとしているのである。
そして、特に私物を置いていなかった瑠衣とナナシは他の邪魔にならないようアジトから出て、裏通りのアジト前通路まで移動し。そこでイチャイチャ━━ではなく、今後の行動について話し合っていた。
「ナナシ、私達のカフェ……どうしよう?」
「マスターに話しに行かないとな……ヤタベさんも行った方が話が早いかな」
「それとさ、ナナシ……」
「……どうした?」
「ヒロ君……大丈夫かな?」
「……ああ。何であろうと、俺の友人に変わりは無い。……全く。助けた恩も忘れやがって」
「あの馬鹿を連れ戻す」
彼女の手前、ちょっと決め顔でかっこよく言ってみた。
━━といっても、今どこにいるんだ?
目を細めてナナシは青空を仰ぐ。作り顔はすぐに緩んでいた。横で丁度日傘を差した瑠衣が、つられて不思議そうに見上げ。それからタワーPCを重そうに運び歩いて来たノブを筆頭に、後ろからぞろぞろとやってきた自警団メンバーもそれにならっていた。
今はどこか分からない。けど必ず探し出して。今度は止めて、あいつを連れ戻す。
果敢な思いが満ちかける矢先に…………しかし脳裏を不気味によぎるのは、あの時の不穏なワード。
『最悪の結果で終わるだけだ』
ヒロが投げかけたその言葉。
果たして、これから"
それにたとえ言葉通り……次々と試練が自分達を襲い、その先にどんな望まない未来が待っているとしても。
それでも自分と瑠衣の二人なら、そして自警団で力を合わせれば突き進めると信じていた。
俺達で突き進んで、いくらだって夢のような未来に変えてやる。
その後に……思いつめたような顔してたヒロを、思い切り笑い飛ばしてやるだけさと。
「……待ってろヒロ」
そうナナシは、力強く決意を固めるのだった。
秋葉原自警団。
果たして一団は、秋葉原を再び救えるのだろうか?
前途多難な彼等は団結の下、この街を奔走していくのである……
(師匠が何かアドバイスする場面を入れた方が良いと思いつつ、もはや書き込む気力が足りず)
元ネタ
AKIBA'S TRIP2……ユニゾンストリップ
必殺技的な要素として、2から新たに実装された脱衣技。