【妄想】AKIBA'S TRIP1.5 作:ナナシ@ストリップ
妹:素手/妹の私服(上・下)
安倍野 藍:ブランドエレキギター/ライダースジャケット/チェックフレアスカート/マフラー
瞳は蒼眼、左目が少し濁っている。目つきが悪い、金髪に少し黒髪の混じった少女。
(モデルは原作のパンクガール)
【挿絵表示】
サカイ:素手/赤い鉢巻/パチモノパーカー/タンカラーチノパン/リュック
目が開けてるんだか分からないくらい細目。茶の短髪。
(原作ぽつりのahoNosakai)
瀬島 隆二:素手/瀬島のハット・スーツ(上・下)
※二章は妹の視点です。
09. 目覚め
これはナナシが瑠衣の妖主引継ぎの儀に向かっている頃……その同時刻に始まる、ナナシの妹のお話。
どうやら眠っていたようだ……
目覚め━━そこは見慣れない場所。まるで手術室のようで、部屋一面が赤い照明によって染められている……不快な趣の場所だった。
彼女は起き上がろうとするが、妙な抵抗があって身体がビクともしない。
そして、すぐに危機的状況であると気付く。
……彼女は手術台に、革ベルトで四肢の全てを拘束されていたのである。
慌てて見回せばそこには黒いスーツ服の男が三人。それと金髪が特徴的な、こちらもスーツ姿の男……"天羽禅夜"。
彼が様子に気付き、歩み寄った。
「やぁお目覚めかい……お嬢さん?」
そいつが視界を覗き込んで言った。気味が悪い程に不自然な作り笑いで、紳士ぶった口調も鼻につく。
真っ赤な部屋も拘束ベッドも、この薄気味悪い金髪も。どれも普通じゃなく、常軌を逸している。嫌悪を露にさせて身を左右に暴れさせるも、固い結束は肩を揺する以上の動きを許さない。
「ちょっと……これどういうこと!? ほどいてくれる!?」
金髪の作り物みたいな笑顔が一転して崩れ、忌まわしそうに生々しく歪んだ。
「解く訳ないだろう。自分の状況を理解しろ」
「理解できるかぁ!」
じたばたしながら必死に訴える様を、さも哀れそうに見返してくる。
「全く、金に釣られてこの様とは、貴様自身にも責任はあるぞ」
お金……そうだ。
おかしい、ただのバイトだった。面接をして……それで……
けれども美咲は、それ以上の事柄を思い出せない。
「うまい話には裏がある。そんな事も分からないのか?」
もしかしたら殺される……?
逃げたい。逃げないと、どうなるか分からない……
そんな思いが彼女を支配する。この状況で恐怖を感じない方が異常だ。これから何をされるのか、考えるだけで身の毛がよだつ。
だが、それで弱気を見せるような肝ではない。
「良いから離してよこの……ッ変態!」
一瞬面食らう男だったが……すぐにクールぶり、平静を装った。
「ふん……貴様の命は私が握っているということも分からないらしい」
「いいかい?」と彼は得意顔になって、ベッドの周囲を回り歩く。
「君は非常に幸運だ。他の候補は残念ながら適応できなかったんでね……処分させてもらったよ」
「君が最後の一人だった」、男は立ち止まり、頭上から囁きかけた。「そう、成功だ」と。
「君は晴れて紛い者となった。金なんかよりもずっといい報酬を手に入れたんだぞ」
そう言われるものの、先程から話が全く見えない。疑問顔で見ていると、彼はしたり顔で言葉を続けた。
「――力だ。シンプルだが魅力的だろう?」
は? いらないしそんなもの。というのが彼女の率直な感想だった。
「そんなものいらないから、さっさとお金寄越して帰しなさいよ!」
尚も吼えると遂に……
男の気取った振る舞いが、舌打ちと共に破られる。
「……また失敗なのか! 新型は記憶も消えるという話だったろうが……! ……おい薬を追加だ!」
「な、何すんの……!?」
「少しイラついたんでね……大人しくさせてやる。狂ったら狂ったで、実験材料にして廃棄処分にでもしてやるさ……!」
先程までのキザさは何処へ行ったのか、紳士風を演じていた割にどうやら血は上り易いらしい。
一転して残忍な笑みが剥き出す……こちらが男の本性だろう。それに後ろでは黒服達が何かを準備している。それを見て、彼女はいよいよ焦りだした。
「ちょ……っと! 何……!? 何なの!?」
「ちょッ分かった! お金いらないから! 帰してよ! 帰して……!」
「帰せー!」……彼女があらん限りの力を振り絞り、叫んだ時だ。
ふいに拘束が外れる。
……そこには今まで居なかった一人の少女。
誰、と美咲は問いかける。彼女は自らを『安倍野藍』だと、そう名乗った。
「もう大丈夫だ」
彼女の言葉を聞いて辺りを見ると、いつの間にか先程の男達は一様に、頭を押さえながら悶えていた。藍が急襲し、男達を一瞬の内に無力化していたのだ。
「実験だなんだと、ゴミのように扱いやがって」
言いながらギターを手の内で一回転させた後、背負っていた布製ギターケースに"納刀"した。そして藍は自身を横目に見る。
「お前を助けに来た」
「貴様ァ……!」
強靭にも先程の金髪、天羽禅夜が意識を持ち直し、剣による突きを仕掛けてきた。
すると藍は向かってきた右手首を掴んで引き寄せ、その鼻っ柱に頭突きをかました。
「ぶっ!?」
禅夜は反射的に顔を抑えて仰け反っている……その硬直を狙って腹付近の布地を藍の右手が掴んだ。
「くそッ!? 離せぇぇッ……!」
彼女は近くの壁まで駆け、壁を蹴り上がった後、そのまま天井を蹴って今度は急降下した。
コンクリートの地面に、猛烈な勢いで禅夜が叩きつけられる。
藍が叩きつけた姿勢からゆっくり立ち上がり、美咲自身へと歩み寄ってきた。
男はぴくりとも動かない。もはや起こっている事の何もかもが信じられなかった。
「ぇえぇぇぇ!? そ、そんな……し、死んだ……?」
「死んではいない。だが、今のはこいつでも効いただろ……」
(何これ!? 夢? 夢なの!?)
(考えてみればさっきから、訳の分からないことが突拍子もなく……)
「これは夢だったのね!?」
「……現実だ」
「夢!」
「現実だ」
現実……??
もしこれが現実だとしたら、今まで過ごして来た現実は一体なんなんだと、美咲は心の中で激しくツッコむ。こうなるともはや何が正しくて、何が正しくないのかも今の彼女には分からなかった。
「夢だったらどれだけ幸せだっただろうな。お前も私も」
「だが残念ながら、これは現実なんだ」
そう言って藍は厳しい表情の下、瞳を伏せる。
しかしすぐにハッとして、今度は冗談交じりに美咲の頬をつねった。
「ほれ。痛いだろ?」
「いたたた」
「――って何すんのっ!?」
不意の痛みが引き金になって、この不条理に巻き込まれた悲しさやらの感情が、今になって一気に爆発した。涙目で見られた藍は焦っている様だ……
「す、すまない……! そういうつもりでは……」
それから数秒硬直して、藍は素に戻る。
「……こんなことをしている場合ではなかった」
「とにかく長居は無用だ。逃げるぞ」――美咲の手を引っ張り、建物の外へと駆け出した。
一方、手術室に面したもう一つの部屋の隅で、何者かの影が動いた。何も無い独房のような部屋で寝転がっていた一人の男。
起き上がったその男は手錠をしていて、片方の腕には数珠の様なものもはめられている。風貌はパンクロッカー……優である。
優は外の騒がしい様子に気付き……鋼鉄製ドアの小さな窓越しに向かいの手術室を見る。
そこでは黒服達が倒れ伏し、おまけに鍵が掛かっていたはずのこのドアも、今ではなんの抵抗もなく開けられる。
「良く分からねぇが、チャンスだ。逃げさせてもらうとするか……」
優は誰にともなく呟いた。
◇
「こっちだ!」
藍と美咲は路地を走り抜ける。先程の戦闘で見せたパワーに恥じず、およそ人間とは思えない脚力で駆ける藍に手を引かれ、こけそうになりながらも追従する美咲。
周囲に人の気配はあまりない……彼女等としては安全の為、人の多い通りに出たい所だ。
「こっちだと言っても、ここの地理は良く分からないが」
「うっ、駄目じゃん……」
美咲がガクリと肩を落とす。
「秋葉原……というらしい」
「げぇ。よりによって秋葉原って、あのバカ兄の……」
苦々しい表情をしていると……後ろから、男の叫ぶ声が聞こえた。
「待てぇ!」
振り向くと先程の黒服達の一人が、こちらを追っていたようだった。
「ちっ。もう追っ手が来やがった」
追っ手の男が美咲の手に掴みかかる。
「きゃぁ!?」
「触わん……なっ! キモイ!」
男の胸部に後ろ蹴りを当てた。追っ手は吹っ飛ぶ……勢いからしてろっ骨が何本か逝っていそうだ。蹴りを入れた美咲自身が、予想外のその力に困惑していた。
「えっ……!? ご、ごめん……」
「驚くのも無理はないが、それが今のお前の力だ」
藍の言葉を受け入れられず、そして更に驚いたのは、蹴った男がゾンビの如きタフさでゆらりと立ち直した事だ。
「やりやがったな……!」
「……って起き上がったぁ! 嘘!?」
「どうやら戦いは避けられないか……」
藍が足を止め、戦闘態勢に入った時だった━━━━相手の男が、突如として崩れ落ちる。
「やぁお嬢さん方。……もう大丈夫ですぜ」
黒服の背後から現れた茶髪の男……右手にはスタンガン。恐らくそれで攻撃したのだろう。
一瞬気が緩む美咲であったが……
しかし信じられない事に、黒服はまだ起き上がろうとしている。
「……危ない!」
藍が咄嗟に上下のスーツを脱がした。すると、脱がされた男はその場でもがきながら霧散していく。
(どういう事……!? 身体が塵になって……!)
美咲はその様に驚き、たじろぐものの……藍どころかスタンガンを持ったあの茶髪さえも、あまり驚いては居なかった。
「炭化した……? カゲヤシだったのか? ……色々事情がありそうだね。だがもう心配はいらない」
爽やかに歯を見せる茶髪に、そもそも誰なのよ、と美咲。
少なくとも敵ではなさそうだが……
「俺かい? 俺はサカイ。見たとこ君らは誰かに追われているようだが……」
わざとらしくもきりりとした表情でそう言いながら、周囲警戒に勤しむ……フリをしている。
「お前、何故こんなところにいる?」
藍の質問、というよりは問い詰めに対して、空を仰ぎながら笑うサカイとやら。
「ただの通りすがりさ……そうだな、あえて助けた理由を挙げるとすれば……」
「ただ、ピンチの女の子を放ってはおけなくてね……」
なんだこいつ……と思わず渋い顔をする美咲。
こんな人気の無い路地を通りすがるわけないだろ、と言いたくなるが、実際の所彼女の指摘は当たっていた。
(かわいい女の子がいたからストーキングしてた、なんて言えねぇ……)
サカイがその密かな呟きを胸に仕舞いつつ、引き続き空を仰いでいたところ……藍が突如として叫んだ。
「おい! 避けろ!」
三人を目掛け、背後からミニバンが突っ込んで来ていた。おそらくは他の追っ手……始末するのにもはや手を選ばないという訳だ。
「死ぬゥゥゥ!?」
車に気付いたサカイが腰を抜かして尻餅をつく中、自らが前へ出て盾になる形をとった藍。彼女はなんと右の片手だけで、ミニバンを正面から受け止めた。
大きな音を上げミニバンが跳ねたのちに、ドライバー共々沈黙した。
驚くべき事に、藍は衝撃で少し後ろに押された程度だ。
「……バカめ、そんなもので私を殺れると思ったか」
笑みを滲ませる藍の後ろでは、サカイが未だ状況を飲み込めていない様だった。
「お、俺は……死んだ? 生きてる? な、何が起こってるんだぁ!?」
藍は振り向いて、呆れた様子で叱責した。
「……実際死んでいたところだぞ、お前は」
が、サカイにその言葉は届いていない。
「これは夢なのか……? そうか、夢か! いや待て自我がある……!? もしやこれは明晰夢というヤツでは!?」
「イィヤッホウゥゥー! 今の俺は何でもし放題だぜぇぇぇ!」
藍がきょとんとして見ていた次の瞬間、唐突にサカイは彼女の板みたいな胸にセクハラを仕掛けた。
「フゥゥウー! はっはっは! 俺は自由……」
「何を……しているんだ貴様はァッ!」
振り下ろされたギターがサカイの左肩をかすめ、その部分の衣服が破り取れる。ギターはそのまま大きな音と共に、地面のアスファルトをブチ割った……そこで完全に我に返る。
「いかん。力を出しすぎた。とっさに外したからいいものの……」
「ひぃい!? 痛い!? 夢じゃない……!?」
ヒリヒリと痛む肩を触り、ようやく夢ではないと理解したようだった……藍も面倒くさそうに彼を追い払う。
「ああ、もううるさいヤツだな! さっさと消えろ」
「はっ、はひ! ただ今そうしますです!」
色々と着いていけない美咲は「なんなんだ」とポツリと呟くのみだった。
さて変態を追い払った後、二人は再び歩き出した。
「それでお前、これからどうするつもりだ?」
「どうって言っても……こっちが聞きたい」
「お前も感じている筈だ。自分の身の変化を。そのまま元の生活には戻れん」
「じゃあどうすれっての……」
「そうだな……奴らによってお前の身体には今、特殊な血が流れている。身体能力を跳ね上げる特異なモノだ」
それまでふくれ顔でいた美咲がふと考えた。
━━そういえば、自身が力を手に入れたとあの金髪に説明された気がする。つまりそれが、この血の事という訳か。
「通常の場合それは時間経過と共に薄まり、元の人間の状態へと戻る」
「な、なんかもう既に意味が分からないんだけど……」
困惑に顔を歪ませるも……藍は構わず、話を進める。
「だがお前の血は特別。別モノだ。その濃すぎる血は薄まることなど無く、逆に己の身を支配してゆく。まさに呪いのようなものさ……確実に、刻一刻と、今もお前の身体を侵食している。あと何日持つか」
「そんな……!? う、嘘言わないでよ!」
必死な様子を見せたからか、藍が、はは、と意地悪くも笑う。けれど、藍はこうも言った。
「諦めるにはまだ……少しばかり早いかもしれん」
「……あなたは何が目的なの? 戻る方法は……無いの?」
「戻る方法か。奴らしか知らないだろうそんな方法は。奴らに訊くんだな」
素っ気無い返事に、妹の面持ちは暗くなる。
「あいつらにまた会えって……んな無茶な」
「それ以外に無い。……私の目的は奴ら、紛い者共を一つ残らず灰にすること」
「それだけだ」藍はその一言を最後に、黙ってすたすたと歩みを進める。
つまり人間に戻りたい自身と藍の目的は別。関係ないからそちらで勝手にしろ、といったニュアンスにも聞こえる。助けてくれたのは承知しているが、それにしてもドライな態度だ。
美咲が拗ねて黙りこくっていると、それから間を置いて藍がまた口を開いた。
「……なぁ」
「……何よっ」
「もしお前が奴らを追うのなら。狩る為に奴らを追う私と、戻る為に奴らを追うお前。お前と私……良いコンビになれる。そう思わないか?」
「全ッ然」
「……そうか。まぁ私の話は信じるも信じないも勝手、お前がどうするかはお前が決めるべきだろう」
「ここでお別れだ。じゃあな」――藍は後ろ手に別れの挨拶を済まし、歩き去っていく。
「えっ……あ。……う」
提案を拒否したとはいえ、取り残された美咲はわなわなと困惑するばかりだった。
「ちょ、ちょっとぉ! 分かった……! 分かったわよ! 着いてけばいいんでしょ!?」
藍は背を向けたまま、その言葉を聞き……ふっと笑ってから振り向いた。
「そうか、なら……協力なんて馴れ馴れしいことは言わない。お互いに利用し合おうか。何せ奴らと対等に戦えるのは、奴らと同じ力を持つ者のみ」
「……そしてそれが、私達というわけだ」そう藍は告げた。
"私達"? それって、この人も……
美咲の内に生じた疑念は、続く言葉に遮られる。
「だがこれからどうしたいのか、それを叶えられるか。それは全てお前次第だ。気張れよ」
「……そう言われたって」
美咲は立ち尽くす。一体どうなってんの、と当惑の念に襲われながら。
どうやらこの街……秋葉原では、何かが起こっている。そしてそれに自分は巻き込まれてしまった。
……最悪。
せっかくの冬休みが台無しだ。……いや、そんな場合じゃなかった。心中愚痴を垂れ流している所に、藍が言う。
「とりあえず今のお前は体調も優れないだろうし……一休みして、奴らを追うのはそれからにしよう。これから楽しみだろ?」
「どこが……」
藍は意地悪く笑い、美咲は露骨に疲れ顔をする。
そんなやりとりの最中、背後からはあの望まれぬ変態も着いて来ていた。
先程のサカイと名乗るヤツである。
カサカサと次々電柱の影に身を乗り移らせて、それで隠れているつもりなのかは甚だ疑問だが……
「あの、アイツ着いて来てるけど……」
「知ってる」
藍は、いかにも興味が無さそうな様子でそう答えた。
……突如現れた紛い者狩りの女、安倍野藍。
彼女は果たして敵か味方か。