【妄想】AKIBA'S TRIP1.5 作:ナナシ@ストリップ
ここは裏通り。自警団の一人に教えてもらったその情報屋とやらに、接触しに来ていた。
薄暗い路地に佇む人影……情報屋、その男はいた。
藍「どこかと思えば、さっきと同じ場所じゃないか」
「あんなとこアジトなんか行かずに最初からここに行ってれば……」
「あんたも知ってるならさっさと言いなさいよ」
サカイ「そんなこと言われてもな」
情報屋「見ない顔だな……仕事が必要か?」
情報屋と言う名といいこの場所といい、マスクにサングラスというその見た目といい、彼は凄まじく怪しい雰囲気を放っていて、見るからに"普通の世界"の住人ではない。恐らくこの男が行ってきた情報取引は、その殆どがアンダーグラウンドなモノ……非合法なのだろうと感じさせた。
藍「仕事は必要ない……必要なのは情報だ」
藍「今秋葉原を騒がせているであろう、黒服集団のな」
藍は禅夜の写真を情報屋に見せた。
情報屋「なるほど」
情報屋「ただ者ではないとお見受けするが……」
情報屋「しかし情報もタダではない」
情報屋「…………」
(なんだか変な空気……一体これからどうなるんだろう……)
ゴクリと唾を飲み込んだ、その時だ……緊張渦巻く静寂の中、情報屋が重い口を開いた。
情報屋「ただ者とタダを掛けた高度なシャレだ……君たちには少し早かったかな?」
「は?」
サカイ「ん?」
一同その発言に目を丸くして、しばし先程とはまた違った意味の静寂が流れた。
「あの、そういうのいいです」
情報屋「…………」
顔は全く見えないが、多分、情報屋は少し落ち込んでいた。この持ちギャグは来る客全てに言っているのか?
妹は、毎回それを見えないドヤ顔で言っているのかと思うと、少し笑えた……彼女の緊張は、すっかり解れていた。
(緊張して損したわ)
情報屋は気を持ち直し、テイク・ツーと言った具合にまた喋りだした。
情報屋「情報もタダではない」
情報屋「ギブ・アンド・テイク……世の常だ」
情報屋「俺もボランティアではないんだからな」
サカイ「あっ、笑うとこだったのか」
サカイが今更納得したように手を打った。
藍「ならさっさと情報の対価を言え……金か?」
情報屋「そうだな、こうしよう。指定する標的を排除することだ」
情報屋「ただしそのかわり、報酬としてお前達にお望みの情報をやる」
「標的?」
情報屋「秋葉原で好き放題にしている輩がいるのだ」
情報屋「ここは多種多様な趣味を持つ人々が自由に暮らす、一見夢のような世界」
情報屋「しかし裏では……その影で暗躍している者がいる」
情報屋「俺としても目に余る。依頼者は俺自身」
情報屋「その標的というのもお前達の言う武装集団の関係者だ……君達にとって悪くない相手だ。どうだ?」
藍「いいだろう」
藍「お前達もいいよな?」
「まぁ別に」
サカイ「望むところ」
情報屋「よし。標的の場所は━━」
━━電気街口広場
「ここが言っていた場所ね」
藍「……あいつか」
目線の先にはスーツを着た……仏頂面のいかにも胡散臭そうな男が立っていた。妹とサカイが近づこうか戸惑っていると……そんな様子は気にも留めず、先に藍がづかづかと男に歩み寄った。
藍「あんなのが何か知っているとは思えないが、一応排除前に情報を聞き出しておくか……」
藍「おい、ちょっといいか?」
勧誘員「なんです?」
藍「バイトの勧誘をしているらしいな」
勧誘員「おおそれは、よくご存知で」
藍「私もそれに興味があるんだ。だから、貴方達が普段その仕事で何をやっているのかを、詳しく教えて欲しい」
勧誘員「すみませんが、ちょうど先ほど募集人数が定員になりましてね……受付は終了しました。教えることも、できません」
藍はそんな都合の良い事があるか、と心で毒づきながら、
藍「そうか、ならもう用はない」
と言った。すると男は薄ら笑いを浮かべる。
勧誘員「死ね……そう仰るのですね?」
藍の後ろに着いていた二人が驚く。
「え?」
サカイ「何と?」
勧誘員「分かっていますよ、あなたの正体は」
勧誘員「失敗作……大人しく隠れていればいいものを」
勧誘員「にもかかわらず、あなたは各所で同志を狩っている。狙いは、秋葉原禁書か?」
藍「何? 知らんなそんなモノは……」
勧誘員「知らぬフリ、ですか。近頃はこいつを狙う輩が多くて困りますよ」
勧誘員「申し訳ないが、ここで死んでもらう」
藍「なるほど……ようやく化けの皮を剥がしたか」
藍「私もお前の正体を知っているぞ。お前は勧誘員をやりながら」
藍「私達カゲヤシの血をここの住民に密売している」
藍「そして見たところ、お前もカゲヤシの血をすすっているな」
藍「違うか?」
勧誘員「良く知っているじゃないですか」
藍「情報屋とかいう奴が言っていた」
勧誘員「カゲヤシの血を薄めて高値で売れば、飛びついて来るんですよ……愚か者がな」
勧誘員「こいつはヤクのようなもの……一時的な力を得るが、血が切れれば猛烈な倦怠感脱力感に襲われる」
勧誘員「一度買えば、二度目も買いに来る」
藍「良い商売だな」
勧誘員「金は全部組織行きだ……だが対価として私は高純度の血を得ることが出来る」
勧誘員「カゲヤシの、血を。この力を!」
藍「残念だったな……それが無ければ灰になることもなかっただろうに!」
勧誘員「灰になるのはあなた方ですよ!」
勧誘員が言い、藍達三人の周囲に五人の黒服が現れた。手には武器……剣を持っている者も居る。
『増援の知らせを受けた、敵は?』
勧誘員「こいつを殺れ。例の失敗作だ!」
藍「カゲヤシ化戦闘員が計六人……」
「うわぁ!?」
『ここで終わりだ』
サカイ「ま、待ってくれ! 俺は秋葉原に遊びに来た善良な市民でー!」
サカイが慌てる中、藍が表情を崩さずにただ一言、
「これだけか」
そう言い放った。その言葉に、男の一人が聞き返す。
『ぁん?』
藍は同じ様子で、もう一度言った。
藍「これだけかと聞いている」
━━黒服の一人は笑った。他の黒服もつられて笑う。
『気でも狂ったか』
藍「気狂いにそう言われるとはお笑いだな」
『何……!』
その挑発で、空気は一変した。笑い声は止み、男達の頭に血が上っているのは妹にも容易く判断できた。いつ襲われてもおかしくない状況だ。
藍「やるぞ。ちょっとしたウォーミングアップだ」
「ええ!? いきなりこんなに!?」
藍「良い練習台だろ」
尚も余裕そうな態度を見せる。それが黒服達の怒りを余計に駆り立てた。
『こいつ……! 余裕こきやがって!』
激高した男が拳を構え、それを機に一斉に各々が構えた。
藍「構えろ! どの道避けては通れんぞ!」
「そんな……!」
藍「お前がここで死ぬならそういう事だ。私は言ったはずだ。全ては自分次第だと!」
「……分かったわよ!」
そう言って妹は構えた。藍は言葉を続ける。
藍「いいか」
藍「上段は△、中段は□、下段は○」
藍「服が赤く点滅したら……」
「えー、……え?」
藍「はっ!?」
藍は我に返る。
藍「な、何を言っているんだ、私は……」
藍「とにかくだな。暴れればいいんだ……そう! 習うより慣れろと言うしな!」
などと適当な事を言って藍がお茶を濁し、妹は「あのね……」と、それに少し呆れ顔だった。
『なめるなぁ!』
(来たっ!)
「ぶっ飛べ!」
妹が正面から来た相手を回し蹴る。男はふっ飛ばされ、ヨロヨロとまた立ち上がりだした。
『ごほっ! チッ、今のは効いたぜ……』
(立ち上がった? あの時と同じだ……! 前に私が男を蹴った時……)
「なんなのこいつら! 攻撃しても……!」
藍「そうだ。奴らに致命的なダメージを与える方法……それは」
「それは?」
藍「脱がす」
「へ?」
藍「脱がす」
「変態! そういう趣味だったのね!?」
藍「へ、変態じゃない! 変態というのはこいつのことだ!」
藍は若干頬を赤らめながら、遠くで見ていたサカイを指差した。
サカイ「俺かよ!」
何故かこの状況下で内輪の争いが始まった。
黒服たちは、そんな状況にいつしか呆れ果てていた……
『あの~……』
藍「もらったッ!」
突如そんな中、藍が凄まじいスピード突進し……一人を灰にした。
『ぬわぁぁぁ!? あついぃぃ!』
藍「雑魚め、注意を怠るからそうなる」
サカイ「あ……照れを誤魔化したね?」
藍「と、とにかくこういうことだ……」
「消えた……!? どういう」
藍「後で説明する。今は理解する前に戦え!」
藍「間違っても脱がされるなよ。それはお前が死ぬ時だ」
藍「いいな!」
「もう! 訳分からないけど!」
「うりゃぁ!」
妹は一人の男に向かって駆け出した……しかし、勢いが付きすぎてよろけてしまう。
「っと! と……」
(なんだこれ……? 結構動きにくいなぁ……)
『はは! なんだこいつ、一人で踊ってやがる!』
一人が妹を指差してあざ笑う。妹は悔しそうに拳を握り締めて言い返した。
「るさい!」
「み、見てなさいよ! あんたなんか今にボッコボコだから!」
『おらぁ、今度はこっちの番よ!』
黒服が藍に向かい一直線に駆ける。それをひらりと受け流し、上下の衣服を剥ぎ取った。
藍「お前、目見えてるのか?」
『何……!?』
男は塵となる。剣を握った次の黒服が、藍の正面から襲い掛かった。
『喰らえ!』
男が、目にも止まらぬ速さで剣を振り回した。しかし虚しくも空を切る音がするばかり……攻撃は彼女に、かすりもしていなかった。男は戦慄するが、すぐに虚勢の言葉を吐いた。
『ふん、避けるしかできないのか、臆病者め!』
その言葉を聞いた藍は、周囲を煩く飛び回っていた刃を片手指で掴み止めた。
藍「寄せ集めの雑兵が……」
藍は歯を食いしばって己の力を開放した……刃は、その驚異的な腕力の元にゆっくりと捻じ曲がった。
『何!?』
『な……なんだこれは……化け物……!』
化け物に化け物扱いされるとは、世話が無い。恐怖に駆られた男は思わず獲物から手を放し、後ずさるも……時既に遅し。脱がされた彼の身体は日に晒され、塵となった。
藍「次……!」
藍は次の標的に向かう……一方、妹は一人の敵と悪戦苦闘していた。
「今だ!」
妹が黒服へ駆ける……手が黒服のスーツを掴んだ。
(脱がすってどういう……こういうこと!?)
『くそ! 放せ!』
妹は上服を引き裂く。続いて下服を掴み、力ずくで引き千切る。すると立所に、相手の身体はその場で霧散した。
「やった……倒せた!」
勧誘員「それは良かった」
妹の死角を取った勧誘員がそう呟き、背後からの一撃を仕掛けようと接近する。
勧誘員「我々は全ての種を超え、どこまでも進化の道を突き進む! その為の力……!」
サカイ「おーい! 後ろだ!」
「……え?」
(さっきの勧誘員……!)
勧誘員「死ねェ!」
「うわ……!」
勧誘員「━━んがっ!?」
突然横からギターが飛来し、男が間抜けな声を上げる。ギターは男のこめかみ辺りにヒットしていた。横から救援に来た藍がよろける勧誘員……最後の一人を脱がす。次いで藍は空に浮くギターを掴み、背負った。
勧誘員「私が……燃える!? 何故だ!? 私の進化は……!」
サカイ「終わったみたいだな」
「強い……」
藍「嫌でもこうなる」
藍「……こんな強さ、欲しくなかった」
藍「私はただ平穏に生きたい……それだけだったのに」
藍は俯いた。彼女に何があったのかは分からないが、それについて深く訊く事もできない。妹は「藍ちゃん……」とただ呟く。彼女は悲しげに藍を見守ることしか出来なかった。
そしてサカイも「藍ちゃん……」とただ呟く。彼は少しにやけていた。単にちゃん付けでからかっているだけだった。
藍「藍ちゃんて呼ぶな!」
恥ずかしそうに彼女は怒る。
「阿倍野ちゃんじゃ呼びにくいし」
そういう問題じゃない、とサカイは思った。
藍「阿倍野でいいだろ」
「なんかそれも……まぁいいや」
サカイ「いやーしかしすごかったなぁ!」
サカイ「俺らヒーロー! 悪を砕く! 燃えるぜ!」
彼はかなり楽しそうだ。黒服が脅威ではないと判断して後回しにしたからいいものの、一歩間違えれば死んでいたかもしれないというのに。しかも"俺ら"と言う割には、お前は何の役にも立っていないのに。
「何もしてないくせに」
藍「そんなのはお前だけで十分だ、間抜け」
瞬時に二人の冷ややかな言葉がサカイを貫く。
サカイ「んなぁ!?」
藍「燃えるのだけは御免だ……」
藍「それに、戦いに正義も悪もないのだから」
藍「さ、行くぞ」
「うん」
サカイ「はいよー」
━━裏通り
情報屋「フ、もう標的をやったか。貴様らの力、計り知れんな」
わざとらしく物々しい物言い。しかしもはやこいつが何と言おうと、くだらない洒落の前科がある以上それは薄っぺらい言葉にしか聞こえない。案の定藍もそんな情報屋の様子に呆れていた。
藍「そういうのはいいから、さっさと情報を寄越せ」
情報屋「いいだろう」
藍「ったく……」
情報屋「最近この秋葉原にある情報通が出没するそうだ」
「情報通?」
情報屋「この情報通、かつてその手の組織にいたらしく、情報収集の達人との噂」
情報屋「加えて今……お前達と時を同じくして、黒い集団の情報を調査しているらしいのだ」
情報屋「そして私は今彼の動向を掴んでいる……これがその男だ」
情報屋は写真を見せた。スーツ姿の男が写っている……
情報屋「彼に気に入られれば、重要な情報が手に入るかもしれんぞ」
情報屋「以上だ。行け」
藍「…………」
「…………」
情報屋「ん? どうした?」
「なにが行け。だ! なんだこのメガネ!」
藍「ただのたらい回しじゃないか!」
彼女等の不満は一気に爆発した。彼は情報屋とか何とかもっともらしい事をいって、その実ただのペテン師だったということだ。
情報屋「ま、待て落ち着け! 俺も結構大変なんだぞこう見えて……」
「この街って変な人ばっかり」
藍「そうかもしれない……」
文句を言いつつ、三人は向かった……