【妄想】AKIBA'S TRIP1.5   作:ナナシ@ストリップ

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二章の新キャラですがやはりあれだけでは分かりにくいだろうということで、まずは安倍野藍の挿絵描きました(二章09話のキャラ紹介の所に絵を貼っておきます)



12.人を訪ねて

━━駅前

 

 

「あの人で間違いないよね」

 

目の前に居る、スーツに上着を羽織っている出で立ちの男。帽子で顔は良く見えないが、特徴は全て情報屋が自分達に見せた写真のものと一致していた。

 

サカイ「……そうっぽいな」

 

藍「……? なんだ? カゲヤシなのか? あいつは……」

 

「えっ?」

 

藍「いや、なんでもない。行こう」

 

藍が男に近づき、話しかけようとした時だ。

 

 

 

 

飴渡「はは、見つけたぞ。お前が奴の妹か」

 

サカイ「……誰だ?」

 

「えっ? ……知らない」

 

飴渡「それに瀬嶋も一緒とはな」

 

瀬嶋「貴様は……? 久しいな」

 

「何で私を……」

 

それにこの声をかけてきた男、自分達が入用だった男性とも様子を見る限り、知り合いのようである。

男は妹へ一枚の写真を提示して見せた。それを見て彼女は驚く……そこには制服姿の自身が確かに写っている。

 

飴渡「奴に妹が居るのは知っていたからな。ちょっとした人尋ねに、君の写真を使わせて貰ったよ……」

 

飴渡「こいつを手に入れるにも中々苦労した。今こそ奴が俺をコケにした代償を支払わせてやるのさ」

 

飴渡「おまけに瀬嶋。貴様、のこのこと生き永らえていたか」

 

飴渡「今回のターゲットはこの女のつもりだったが……ちょうどいい一石二鳥だ。事が手軽に済む」

 

飴渡「情報屋とやらを頼って正解だったぜ」

 

(あ、アイツ~! 私らの情報を売りやがったな!!)

 

飴渡「どちらから殺すか迷うなぁ……非常に、迷う」

 

「ぐっ……!」

 

こいつは普通じゃない。それに今しがた男が取り出した、手に持っているあの長剣……言葉は嘘じゃなく、本当に自分を殺める気なんだと妹は思った。

同時に、自身の防衛本能が働き……それが先制攻撃をすべく、自身の身体を反射的に動かした。

だがその行動が男を挑発してしまう事となる。

 

飴渡「おっと動くなよ。よし、逃げる前にお前からやってやろうか……」

 

サカイ「いいっ!?」

 

サカイが真っ青になって妹の方を見る。こいつ人を爆弾みたいに恐ろしがって、と妹は思った。

 

瀬嶋「まぁ待て」

 

飴渡「あんたが一番を所望か? ……まぁいい。お前、動くなよ。動けば殺す。おいお前、見張っとけ」

 

飴渡「こいつは二人で来て正解だったか」

 

どうやら最初のターゲットからは外れた様だった……しかし状況はそこまで変わらない。

彼の仲間と思われる……黒服の男が一人、見張りを任されてこちらに寄って来る。サカイが真っ青な顔のまま、妹を見て言う。

 

サカイ「おいおいお前……何やらかしたんだよ」

 

藍「何かあの男と関係があるのか?」

 

「知らんわ」

 

こっちが聞きたい、と妹は思った……同時にもしかして、うちの兄が何かバカをしでかしたんじゃないかとも。

藍は意外にも焦燥した様子は無い……元々戦闘以外の会話では物静かな感じだとは思っていたが、それにしてもこの状況。冷静すぎるというか、大したことはないと思っているのだろうか。

つい先程、颯爽と敵を倒していた彼女ならそう思っても不思議ではないが……

そんなことは放っておいて目の前の、二人の男の話は進んでいった。

 

瀬嶋「その剣は……貴様、それを何処で手に入れた」

 

飴渡「アンタは良く知ってるよなぁ、これが何なのかを」

 

飴渡「NIRO次期主力装備として開発されていた、対カゲヤシ戦用武装」

 

飴渡「俺も良く活用させてもらってるぜ。既に俺達の間ではこいつが普及している」

 

瀬嶋は男の剣を見る。先程彼が剣を取り出した際、瀬嶋は目を疑っていた。あの男、飴渡が手に持つ剣は間違いなく、自身が居たNIROで開発が進められていたものだった。

その昔、脱衣術が確立されなかった場合のプランBとしてNIROで発案されていた、対カゲヤシ用の格闘兵装……

脱がすのではなく衣服を斬り破る事に戦闘の主眼を置いた刀剣であったが、脱衣格闘が採用された為開発は一度中止されたものだった。

 

その後瀬嶋自らのロッドをベースに、己を含めた強化エージェント専用の新武装として開発は再開される……

しかし、日の目を見る前にNIROは壊滅することとなったのだ。

それが今、瀬嶋の目の前に存在する。無いはずのものが、だ……

 

瀬嶋「貴様、バックに何がいる」

 

飴渡「NIRO……と言ったら驚くか?」

 

 

 

 

藍「NIRO? 解体されたはずでは」

 

藍が疑問げに呟いた。

 

サカイ「残念だったなぁ、トリックだよ」

 

妙なイケメンボイスでサカイは言う。

 

黒服「おい、黙ってろ」

 

サカイ「はいスミマセンッ!」

 

 

 

 

瀬嶋「戯言と思いたいが……貴様のその剣を見る限り、あながちそうでは無いようだな」

 

飴渡「確かにNIROは一度解体された。そして行き場を失った俺達は、とある人間に拾われた」

 

飴渡「そいつは言った。俺達に居場所を用意してやると」

 

飴渡「別の組織に吸収され……そしてNIROは生まれ変わったのさ」

 

飴渡「変わらない、カゲヤシ撲滅の名の下に」

 

瀬嶋「愚かだな。首輪をはめられている事に気付かんのか」

 

飴渡「自分の好きにやれるってんなら、飼い犬も悪くねぇ」

 

飴渡「それにだ。元々俺達はNIROの犬だった。昔と何が違うってんだ?」

 

飴渡「"元"飼い主さんよォ」

 

瀬嶋「その飼い主を殺しに来た……ということか」

 

瀬嶋「"元"飼い犬に手を噛まれる様な事をした覚えは、無いのだがね」

 

飴渡「とぼけんじゃねぇ。俺をポストから外し、好き勝手した挙句NIROを終わらせた罪はでかいぜ」

 

瀬嶋「能力に相応しい地位が与えられ、時として失権も有り得るというのは組織として当然のことだ。それを逆恨みというのだ、飴渡君」

 

瀬嶋「君は犬でも、噛み付き癖のある狂犬のようだな」

 

飴渡「ふん、そんな連中を集めてたんだろぉ、はなからよ!」

 

 

 

 

サカイ「意味が分からん、何の話なんだ」

 

藍「どうでもいい。私達はあの男から情報を聞ければそれでいい」

 

サカイ「これ、目の前で見てなきゃいけないパターン?」

 

「どうせお前は何もできないだろ」

 

サカイ「確かに」

 

黒服「黙ってろ!」

 

サカイ「スミマセンッ!」

 

 

 

 

飴渡「さて、と、だ。……まぁなんだ、死ねやッ!」

 

飴渡が鋭い矢となって突進する。

 

飴渡「俺はカゲヤシを超える力を手に入れた。このスピードについてこられるか!?」

 

言って剣を構え、斜め上に斬り上げる。その切っ先は先程瀬嶋が居たはずの場所を捉えていた、だが。

瀬嶋は頭を下げてかわし、飴渡の懐に入り込んでいた。

 

瀬嶋「確かに、素晴らしい身体能力だ。しかし」

 

飴渡「何……!?」

 

瀬嶋「当たらなければ何の意味も成さんな」

 

飴渡「ぉ!?」

 

瀬嶋の右拳が飴渡の腹に直撃した……その威力たるもの、飴渡自らの自慢の突進力と合わさり凄まじいものである。

思わず怯み、剣を握った拳が緩む。瀬嶋はそれを見逃さなかった……次の瞬間、鮮やかに瀬嶋に剣を奪われ、服という服を斬り刻まれていた。

 

瀬嶋「なるほど……これは良い武器だ」

 

飴渡「ぐぁ!? 何故だ!? 能力の差は歴然のはず……!」

 

衣服をビリビリに破かれた飴渡は、破れた服の切れ端を空に舞わせながら、よろよろと仰け反り後退しつつそう言った。

 

瀬嶋「私自身、元々このような手合いは慣れているのでね。日々能力に劣る末端の血で、眷属共と相容れて来た」

 

瀬嶋「力の差がある場合の立ち回りは織り込み済みだ」

 

瀬嶋「加えて君は能力に反して、戦い方はからきしな様に見える」

 

瀬嶋「折角の力が勿体無いというものだ」

 

飴渡「グッ……」

 

瀬嶋「しかし興味深いな……その力は何だ?」

 

飴渡「こんなはずじゃ……おい! 早く加勢してくれ!」

 

黒服「了解! ……あっ!?」

 

駆け寄ろうとした黒服の背後を狙い、藍が脱衣する。

 

藍「なんだ、敵に身を背けるのか? だからそうなるんだ。少し考えろ」

 

塵になった男が持っていたサーベル……飴渡の持つ剣と同じものだ。

それが地面に落ち、見た飴渡は驚愕する。彼女が脱衣の使い手とは思っていなかったのだろう。

 

飴渡「じょ、冗談じゃ……」

 

瀬嶋「良い働きだ」

 

姿勢を低くした瀬嶋は地面を一蹴りし……即座に落ちたサーベルまで近づくと、その剣先を蹴りつける。反動でくるくると宙へ跳ね上がったそれを空いている左手で受け取り、勢い良く威圧的に振り下ろした。

かつかつと地を革靴で響かせながら歩み寄り、瀬嶋は飴渡に問う。

 

瀬嶋「さぁ、君はどうするね!」

 

飴渡「クソッ……!」

 

飴渡「……こうなりゃ、コイツだけでもやってやる!」

 

やぶれかぶれになった飴渡は瀬嶋を無視して突進し、妹へと一直線に向かってきた。

 

「私!?」

 

瀬嶋「む!?」

 

サカイ「おい! よけ━━」

 

「うぉりゃあああああ!」

 

言い終わる前に、妹の右ストレートが飴渡の顔面に直撃していた……丁度その先にあった街宣トラック、"ITウィッチまりあ"の荷台コンテナまで吹っ飛ばされた飴渡は、

 

飴渡「バ、バカな……こいつは……」

 

飴渡「ただの……人間の……はず……」

 

そう呻き声を上げてコンテナからずるずると崩れ落ち、気絶してしまった。

 

サカイ「終わったか……ほんと無茶苦茶な世界だぜ」

 

サカイ「ま、楽しいけど」

 

「これが楽しいとか正気か」

 

サカイ「代わり映えしない日常に飽きればそうも感じるさ」

 

「ついさっきぶるってたのは誰なのよ」

 

サカイ「最近耳が遠くなった気が……」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

瀬嶋「情報だと」

 

藍「私達は、この秋葉原で今暴れている黒服達の組織の大本を追っている」

 

藍「追っている途中でな、情報屋という奴に言われたんだ。今同じ事を調査している情報通が居ると」

 

瀬嶋「それがこの私だと言うのか」

 

藍「……違うのか?」

 

瀬嶋「はっはっは!」

 

瀬嶋「いや、すまんな。なかなか思い切りの良い若者だと思ってね」

 

瀬嶋「得体も知れぬ、私などと接触を試みるのだからな」

 

瀬嶋「しかし君は良い目をしているな。気に入った、いいだろう」

 

「それでさ、おじさんは何か知ってるの?」

 

瀬嶋「あぁ知っているとも。そしてそれを君達に分け与えても良い」

 

瀬嶋「ただし条件はつけるがね」

 

サカイ「条件?」

 

瀬嶋「かくいう私も人手が足りなくてな、少々動きにくかったのだよ」

 

瀬嶋「先の様子を見る限り、君達は中々頼りがいがありそうだからね」

 

瀬嶋「調査に協力してくれるなら助かるが?」

 

(自分に協力するなら対価として教えてやっても良いってことか……)

 

藍「……する他ないな」

 

瀬嶋「ははは、そうだろう。今更後にも引けまい。だがこれで、派手に動けそうだぞ」

 

瀬嶋「私はその連中が秘密裏に営業している地下カジノの情報を持っている」

 

瀬嶋「この場所は連中の資金調達拠点だ。彼らにとってしても、重要度は高いものと言えるだろう」

 

瀬嶋「施設内にカジノ営業を取り仕切る幹部が居る。これを確保したい」

 

瀬嶋「……願えるか?」

 

サカイ「行くほかねーのなら」

 

「あんたは危ないから外で待ってた方が良いんじゃない?」

 

サカイ「おいおい、俺だけがか」

 

藍「その方が良い。お前はただの人間なんだからな」

 

サカイ「そりゃ、俺はあんたらみたいな紛い者みたいには戦えないけどよ」

 

妹は、その言葉に一瞬瀬嶋が反応したような気がした……

 

瀬嶋「では、ここらで話を終わろうか。詳しい話は追って伝えよう」

 

瀬嶋「好奇心旺盛なギャラリーもいるようだからな」

 

「え?」

 

瀬嶋「次に会う時は現場だ」

 

瀬嶋「準備を怠らぬように」

 

藍「……一つ聞きたい」

 

瀬嶋「なんだ?」

 

藍「あんた、NIROと繋がりがあるのか?」

 

瀬嶋「…………」

 

瀬嶋「まぁ、な。昔の話だ」

 

瀬嶋「……何故NIROを知っている」

 

瀬嶋は鋭く質問を切り返した。それに対して、藍は言葉を詰まらせる……

 

藍「いや……」

 

 

 

 

サカイ「秋葉原住民ならそりゃ知ってるさ。秋葉原でデカイ事件があっただろー?」

 

サカイ「あれ公にされちゃいないみたいだが、NIROがなんとかって噂は秋葉原でよく聞くぜ」

 

藍はこっそりサカイの方へ、笑顔を向ける。その意味するところは多分ナイスフォローとか、そんな感じだろう。こいつもたまには役に立つんだな、と妹は思った。

 

瀬嶋「……まぁいいさ。お互い色々とあるだろうが、今の我々の利害は一致している。余計な詮索は無しとしよう」

 

瀬嶋「ただチームとして、行動するだけだ」

 

藍「ああ、了解した」

 

そして彼は自身の名を瀬嶋だと、そう名乗って去っていった……さっきの戦闘によって痛む腰を叩きながら。

 

 

 

 

「……なーんか、嫌な感じ」

 

瀬嶋という男……快く情報を提供してくれたものの、妹に一抹の不安が残る。

良く分からないが、不気味なのだ……これでまた一歩、あの禅夜とかいう奴に近づけるのかもしれない。

人間に戻る手がかりを得られるのなら、なりふり構っていられる状況ではないのは分かっていたが……

 

藍「まぁ、確かにあまり信用できる奴じゃあなさそうだ」

 

藍「だが」

 

藍「こちらとしてもようやくこぎつけた情報源だ。悪いが信じるしかないだろう」

 

藍の言うことももっともだ。それに、自分の言う嫌な感じも、何ら根拠は無い……妹は何も言わずに頷いた。

 

藍「私も失礼させてもらう」

 

藍「明日、駅前に集合だ」

 

「うん」

 

藍「……良い目をしている、か」

 

 

 

 

瑠衣「あ……」

 

「え?」

 

藍が去った直後、一人の少女と目が合った。そして隣にはあの男。

 

ノブ「うぃーす! 元気してたか?」

 

「あ、あんたは……ケバブの人!」

 

サカイ「ノブ先輩じゃないっすか!」

 

ノブ「おう! また会ったな!」

 

瑠衣「あの……ちょっといいですか?」

 

「はい?」

 

サカイ「なんだ道案内? 君はラッキーだなー俺は秋葉原に詳しいんだ!」

 

サカイ「ついでに手取り足取り他の案内も……」

 

瑠衣「えっ、あっ、えっ?」

 

「おい……いい加減にしろ?」

 

構えた拳を見てサカイは青くなり、冷や汗を垂らす。

 

サカイ「わ、分かってるさ……もちろんな。何せ聡明な俺だ」

 

その割には酷く焦ってるじゃん、とは思ったものの、取り合えず妹は拳を下ろしてやることにした。

 

「ならいい」

 

ノブ「相変わらず仲が良いな」

 

「良くない」

 

瑠衣「え、えっと……あ。そうだった」

 

瑠衣「あの黒服の人と、あなた達は知り合い?」

 

「ううん」

 

サカイ「いや別にだな」

 

瑠衣「そうなんだ、今話している所を偶然見ていて。……ごめん、盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど」

 

瑠衣「なんとなく……だけど、あなた達は悪い人には見えないから」

 

瑠衣「ってノブ君も言ってたし」

 

ノブ「そりゃそうだ! 俺と心を通じ合った仲だからな!」

 

「そうだっけ?」

 

瑠衣「けどあの男は……」

 

サカイ「何かあるのか?」

 

瑠衣は、瀬嶋について、そして自身の境遇についてを一通り話した。

 

サカイ「なるほど。まぁぶっちゃけ知ってたけどね。最後の防衛戦もリアルタイムで参加してたし!」

 

瑠衣「あ、そうだったんだね」

 

サカイ「しかしそうか思い出したわ~、あのオッサン何か見覚えあると思ったらNIROのリーダーだったな! あの時、皆に配られた重要人物リストで見たわ」

 

「知ってたのかよ」

 

「かつてのカゲヤシ狩り組織指揮官……あの人がね」

 

瑠衣「そう。私達は、あの人が率いる組織と、長い間戦っていた」

 

ノブ「でも実際は人間の為平和の為なんて掲げ事はどこ吹く風でさ。結局自分の欲で動いてたんだよな、瀬嶋は」

 

瑠衣「もう改心したって話も聞いたんだけど」

 

サカイ「しかし、あのオッサンと今さっき協力しようって話したばっかだったな」

 

「まさかそんな人だったなんてね。まぁ、胡散臭いオーラは出てたけど」

 

ノブ「改心か、口ではなんとでも言えるさ。ホントにそうだとは思えねーな」

 

瑠衣「でも、そう言うのなら、少し信じてみたい気もするんだ……あの人の良心を」

 

ノブ「瑠衣ちゃんは人が良すぎるのさ」

 

言って、ノブは慌てて付け足した。

 

ノブ「ああ違う違う、悪く言ってる訳じゃないぞ」

 

ノブ「瑠衣ちゃんのそういう所を、皆は気に入ってるだろうしな」

 

瑠衣「ありがとう。大丈夫だよ」

 

瑠衣「確かに難しいよね……」

 

「でも、自分の自己満足の為に長年そこまでやるなんてね。ろくでもないというか、ある意味執念深いというか」

 

顎に手を当て、理解できないと言いたげに神妙な顔をする。

 

ノブ「全くだ。地位も捨ていやそれどころか、人として生きることさえも捨てただ力を得る為だけに……良く分からんよな」

 

ノブもそう言って首を横に振った。

 

瑠衣「うん……」

 

瑠衣「……あの人の目、なんだか恐ろしいけど……ふと、さ。疑問に思う時があるんだ」

 

瑠衣「何を考えていて何が目的で……見据える先には何があるんだろう、って」

 

瑠衣「ううん、それも含めて恐ろしかったのかもしれない。あの人からは何も分からない、何も感じられないから」

 

瑠衣「なんだか気味が悪いというか……そんな感じ」

 

サカイ「さー、本当に何もないんじゃねーのかな?」

 

……彼には心底どうでもいいらしい。多分早く話題を切りたいのだ。

 

「テキトーだなお前……」

 

サカイ「それよりさぁ瑠衣ちゃんって彼氏とかいるの?」

 

瑠衣「!?」

 

ノブ「ん?」

 

「は!?」

 

サカイ「いないなら俺と結婚前提ごっぁ!?」

 

全て言う間もなく妹の足払いですっ転んだ。

 

瑠衣「だ、大丈夫?」

 

「あ、気にしなくていいよ」

 

瑠衣「えーと、うん。……いいのかな」

 

瑠衣は困惑しつつ、心配そうな顔をしている。

 

「まったく……」

 

サカイ「良くない! 瑠衣ちゃん傷を診てくれ~!」

 

倒れこんだサカイはオーバーリアクションも甚だしく、そう喚いた。

 

「どこに傷があんのよ! お前は本当に大丈夫みたいだな……それより」

 

「やっぱりカレシとかいるんだよね? いいなー!」

 

ノブ「結局君も興味あるんじゃないのか……」

 

瑠衣「か、彼氏?」

 

「やっぱりお相手はカゲヤシなの? お姫様だと良さげな人とお見合いって感じ? いやいや、もう親が頭脳明晰超絶イケメンの候補を見つけてて……」

 

サカイ「何を一人で盛り上がってんだ」

 

いつの間にか立ち上がっていたサカイが、やれやれといった様子で言った。

 

「……うるさいわね」

 

それに対し腕を組んでムッとする……彼女はそういうこと話したいお年頃なのだ。

と、そこに、瑠衣が割って入った。

 

瑠衣「ま、待って待って。お見合い? もしないし、彼氏なんていないよ……」

 

「そんなにかわいいのに? まさかー、男が放っておかないでしょ!」

 

サカイ「いや待て彼女はカゲヤシだ。しかもプリンセス。男に免疫がなくても不自然ではあるまいて」

 

「そうね、私は人間の、しがない女子高生だからね」

 

サカイ「そんなことは言ってねーんだよな……」

 

ノブ「バカ言え、もう恋人なら居るじゃないかナナシが━━」

 

瑠衣「ノノノノブ君っ!?」

 

ノブ「━━なんだ、違うのか? てっきり俺はそうだと……」

 

ノブはからかってるのか、はたまた素で言ってるんだか妹には良く分からなかった。というか、もっと重大な問題がある。

 

「ナナ……え? いや……」

 

ナナシなんて名前は珍しい。そうは居ない。しかも男……同姓同名……アキバ通い……

 

「気のせいだな……有り得ない」

 

妹は考えることをやめた。

 

サカイ「は? 何か言ったか?」

 

「なんでも」

 

瑠衣「もう……ノブ君……」

 

サカイ「顔赤くね?」

 

瑠衣「えっ!?」

 

うつむく瑠衣をサカイが覗き込むと、ギクゥっと身を反らせる。更に顔が赤くなってる気がする。

 

瑠衣「あ、えと」

 

瑠衣「あぁっ、ごめんね。こんなに話しちゃって」

 

少し声が裏返ってる気がする。

 

「全然大丈夫だよー」

 

気がしたが、妹はあえて触れないことにした。

 

サカイ「ええってことよ」

 

瑠衣「あ、秋葉原には良く来るの?」

 

「さっぱりだよ。でも、最近は秋葉原に通いづめかな。私の意志とは全く反してね、全く」

 

妹は恨みがましい様子で、力をこめそう言った。

 

瑠衣「そ、そう? あなたも色々あるんだ……でもそれなら、また会えるかもしれないね」

 

瑠衣「また、会えると良いね」

 

「うん」

 

瑠衣「……また喋ってくれる?」

 

「うん。もちろん」

 

サカイ「いつでも瑠衣さんの喋り相手になりますッ!」

 

瑠衣「良かった……やっぱりニンゲンって、優しい……」

 

そういって満面の笑顔を向ける。

妹としては、それが優しいというよりかはごく当たり前な事だと思ったが……いや、妹でなくても、誰もがそう思う事だろう。

 

「そうかな?」

 

ノブ「良かったな、瑠衣ちゃん」

 

瑠衣「うん」

 

サカイ「カワイイ……」

 

サカイはボーっとした様子でボソッと呟き、瑠衣の、彼女の笑顔にすっかり魅了されていた。

 

サカイ「カゲヤシって、カワイイ……」

 

「やかましい」

 

無論彼女、瑠衣自身に悪気も何もないのだが、しかし罪な女の子である……妹にはその魅力がちょっと羨ましかったりした。

 

瑠衣「それに何故だか……初めて会った気がしないんだ」

 

「へ?」

 

瑠衣「ううん、なんだかあの人に似ている気がしたの、それだけ」

 

それから瑠衣は、ほんの少し険しい顔をして

 

瑠衣「それと。あの瀬嶋っていう人には気をつけて。あの人は、目的の為ならどんな手段でも使う人だったから。もしかしたら……」

 

……すぐに元の笑顔に戻り

 

瑠衣「でもそれは昔の話! きっと大丈夫だとは思うけど、一応……ね」

 

ノブ「俺からも言っとくよ、気をつけな。あ、一応、な」

 

「うん!」

 

瑠衣「……じゃぁまたね!」

 

「またね~」

 

ノブ「またな~」

 

サカイ「うぅぅ……なんて可愛いんだ」

 

サカイが去っていく二人に、いつまでも手を振りながら言う。

 

「あんたには高嶺の花だね」

 

ふふん、と腕組みしながら、哀れむように言った。

 

サカイ「あー可愛げのない奴だ。今すぐにでも瑠衣ちゃんと交換したい」

 

「だったらさっさと離れろ……離れないなら私が!」

 

再び構えた拳を見てサカイは青くなった。事あるごとに顔色変えて、忙しい奴だ。

 

サカイ「まてよジョークだろ! 君ったら早とちりし過ぎなんだからぁー」

 

「…………」

 

サカイ「へへへ……」

 

「ったく」

 

「帰る!」

 

サカイ「お、おーい! 明日も秋葉原駅だよなー俺待ってるぞー」

 

「ほんと調子の良いヤツだな……」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

ノブ「どうだ? 結構良い奴らだったろ?」

 

瑠衣「うん。ノブ君の言うとおりだった」

 

瑠衣「…………」

 

瑠衣は少し上の空だった。というのも、さっきの事が頭から離れないからだ。

 

瑠衣(自分では気にしてないつもりだったけど)

 

瑠衣(何故だろう……ナナシの事を言われた時、何故かヘンな気分になって、それって、つまり……)

 

瑠衣(やっぱり私は……ナナシが……)

 

瑠衣(好き、なの? この気持ちが……何よりの証拠なのかな)

 

それぞれは駅前から去っていった。




アサルトサーベル 

飴渡やモブが持っていた剣。外観は細身の両刃を持つ西洋直剣。
半自動展開式で折りたためる構造になっており、収納時は警棒にも劣らないコンパクトさを持ち合わせている。
純粋な切れ味は用途が用途の為そこらの包丁よりも劣るが、カゲヤシの怪力にも耐えうる耐久性を持ち、特殊加工により衣服を容易に斬り破る威力を持つ。
超重量であり、通常の人間ではまともに扱いきれない。禅夜が持っているものは彼専用に強化されている。
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