【妄想】AKIBA'S TRIP1.5 作:ナナシ@ストリップ
しかし、ぎっちりじっくり書いた方が読み手側としては良いのだろうか……?
分からない。
瑠衣達は追跡の手から逃れる事に成功し、エージェント達は撤退。
仮初めではあるものの、街はある程度の落ち着きを取り戻し━━そしてすぐに、ヤタベさんからアジトへの集結を促す連絡が来た。
お互いの安否の確認と、そして情報の交換の為に。そしてまずは落ち着いて、現状をまとめよう……と。
連絡を受けたナナシは美咲を連れて、早速向かう事にした。
◇
ナナシと美咲は地下通路を渡り、固く閉ざされた鉄門前へと立つ。
通路横にある、このいかつい鋼鉄製の門を潜った先。そこに我らが第二秘密基地は存在するのだが……
用心の為か門は閉じられている。ナナシが開けて欲しい旨を伝えるも、けれど門は開かず、
「では第1問」
向こう側から、どこかノリノリなノブの声が返ってきた。どうやらこの回答の成否によって仲間か判断するつもりらしい。
……声で誰か分かるだろ、と言ってはいけない。……いや言っても、声色を真似る輩が居るかもしれないだろう!? と返されるだけなのだが。
引き続き「ITウィッチまりあの━━」とノブが出題する途中、サラが声を挟む様子が伺えた。
「ノブさん、開けましょう?」
「……くっ」
悔しそうな唸りが聞こえてから、門は擦れる音を立ててゆっくりと開かれる。
…………久々に見てもやはり、隠れ家……というよりか、一つの大きな倉庫。
広い空間の隅にはPCやモニターが置かれていたり、メイド服が立て掛けられていたり。各々持ち込んだ物が申し訳程度で点在しているものの……テーブルやら座椅子やらの家具類は何も無く、相変わらずのがらんどう。
控えめなサイズの
「よっ戦友! 遅かったじゃないか」
調子の良い挨拶と共に、開いた門の端からひらりと乗り出したノブ。隣には、深々としたお辞儀で出迎えるサラさん。
瑠衣は奥でヤタベさん・ゴンと共に居るのが見えた。心配そうに待っていた彼女も、こちらを見るなり駆け寄って、それまでの陰りが晴れたように顔をぱっと明るくさせた。
「二人とも良かった、無事だったんだね」
頬を緩ませる瑠衣へナナシは頷きつつ、再開にほっと胸を撫で下ろす。どうやら到着は自分達が最後のようだ。
皆が温かく出迎えてくれる中、美咲はなんだか、身を置き辛そうにきょろきょろとしていた。
はて、とナナシは首を傾げる。既に自警団とは顔見知り、と道中で美咲に言われたのだが。
……どうやらまだ慣れた間柄という訳でもないようである。
それからお互いに一通り再開の喜びを分かち合った所で、やがてヤタベが柔和な笑みを刻みつつ……皆へ呼びかけた。
「確かに全員集まったようだ。こうして無事に会えた事を、とても嬉しく思う」
しかしそれもすぐに物案じるような表情に変わる。「本当ならゆっくり、再開の喜びを分かち合いたいところではあるんだけど……」と。
そして彼は続ける。
「早速ですまないけれども、本題に入るべきだろう。…………周知の通り、今の秋葉原は予断を許さない状況にある。ただ現在は、態勢を立て直す為か一時休戦といった状況のようだ。おまけに日も落ちかけているし、恐らく再開は早くとも明日の朝……少しばかり時間がある。そこで、だ━━」
「━━丁度良い機会かもしれないし、今の内に色々と話し合っておくべきかと思う。どうかな?」
ノブが提案に「異議無し」と肯定する。
「また戦闘が始まれば、話し合う時間も取れるか分からねぇしな」
と、そうして、話し合いが行なわれる運びとなった訳だが……
さて何から話したものか……ヤタベは顎をさすった。今後を話し合うとは言ったものの、いまいち漠然としている。
そこで、ふと思い立つナナシ。
(丁度良い、これを機に色々質問してみるのも悪くなさそうだ)
その方が話の進みだって早いかもしれない。
という事で、今訊きたい事を思い浮かべてみたナナシ。
これまでの流れは?
相手の目的は?
今の状況は?
そして、今後どうすればいいか?
思いついたのはそんな所だった。とりあえず、順にこれらを訊いていく事にした。
では早速まず一つ目、ということで━━
「━━じゃあ、これまでの流れを再確認したいんだけど」
……ノブが一瞬、面喰らっていた。……なんでだ?
その反応が不可解だったものの、けれどノブはすぐ得心がいった様に頷いた。
「あぁ。確かに今一度、全員で再確認した方が良いかもな。…………ナナシ、単純に忘れてるわけじゃないよな?」
どうやら、今までの顛末を忘却したのかと驚いたらしい。
……面食らってたのはそういう訳か。
ナナシが慌てて首を横に振って、傍らその様子を見たヤタベが笑いながらも、気を取り直して本題に取り掛かった。
「そうだね。おさらいになるけれども、今回美咲ちゃんも居る事だ。私も今一度、最初から話をするべきと思うよ」
一同は無言で頷き、ナナシは場の空気を察した。
……これは恐らくシリアスってやつだ。
(こういう時は黙ってた方が良さそうだ)
今は、調子に乗って下手な事は言いたくない。
……というのもナナシは、行く先で美咲から「真面目にして」と釘を刺されたばかりなのである。
今回は聞き手に徹しあくまで静かにしておこう。
彼は黙って、ヤタベの話に耳を傾けた……
「まず私達は、大師本製薬の霞会さんに依頼されて活動を始めたんだったね。頼みの内容としては~……」
言葉詰まると、すかさずノブが付け足した。
「秋葉原で暴れている妙な連中の調査と、その撃退。だっけ」
「そうそう。それで我々は動き出した訳だけど、思った以上に厄介な事態になった。…………具体的に言おう。一つは暴れている者達の中に"紛い者"という存在が居た事。二つ目は私達と同じ自警団メンバーだったヒロ君が、その暴れている側へ加担してしまった事だ」
……厄介な点として挙げられた"紛い者"という存在。
カゲヤシ以上の身体能力を持ち、それも"次世代のカゲヤシ"……とまで言わしめるその力。
それは、ナナシでさえも苦戦を強いられるものだった。
第二に、ヒロの離反。
ナナシの親友であり自警団の一員だった彼が、言わば敵側についてしまった事……それは自警団メンバーを驚かせ、また同時に頭を悩ませた。
離反という事実は、自警団の情報を暴露される恐れも生じさせてしまったのだから。
「結果として私達は、こうして移動までも余儀なくされた……という事ですね」
サラが、アジトの広い空間を見渡しながら言った。
その言葉を受けたメンバーは、思い思いの反応を示した。
施設を仰ぎながら感慨深そうにする者。
やれやれ、そんな具合に辟易する者……
そして、悲しそうに瞳を伏せる者も。
反応は様々だが、ここへ戻って来た事にそれぞれ思う所がある。
何せこの場を使うのは、かつての秋葉原防衛戦で使った時以来。
皆"あの時"へ思い馳せている。話が止んだのはそのせいだろう。
今回この場へ移動した理由は、ヒロが旧秘密基地の所在を知っているからだ。
であれば、直接攻め込まれる危険も考えられた。それを回避する為の移動……
この新しいアジトなら、ヒロにも所在を知られてはいない。こうして集うには、この場がひとまずは安全なのだ。
会話はしばし停滞していたものの、やがてノブが再開させた。
「ま、それで今に至るって訳だ。おさらいとしてはこんなもんか? ナナシ的にはどうよ」
つまり今の説明で不足はあるかな? という事だが、ナナシへそう問うてきたのは、元々彼から"再確認したい"と提案したからであろう。
ナナシは「十分理解した」と頷きつつ、
「だけど、他にも話し合いたい事は色々ある。例えば……"相手の目的"とか」
━━そう二つ目の質問、"相手の目的"だ。
「相手……なぁ。結局いまいち良く分からないよな、それ」
「それについては、私が多少は……」
「美咲ちゃん、知っているのかい?」
「全てを知ってる訳ではないんですけど……」
と、美咲は今まで知り得て来た事を全て話していった。
相手が元NIROエージェントである事、坂口の存在、それに対する瀬嶋の行動。そしてついでに、自身がそれに関わった成り行きも。
……ただ、高額バイトに釣られた事だけは言えないが。口が裂けてもだ。
ともあれ大方は喋り終えた。
それにヤタベが礼をしつつ、彼女の災難を気の毒と案じたのだろうか、「……美咲ちゃんも随分大変だったようだね」と労わる。
……元々は高額バイトに釣られたんだけど、と思うのは美咲。
傍らノブは「しっかし、相手の黒服が本当に元NIROとはなあ」と嘆く。
「━━最初見た時から、NIROのエージェントと妙に似てる……ってか、寧ろ全く同じじゃないかとは思ったけどな」
ヤタベも、未だ信じられない様子で首を捻った。
「まさか本当にそうだとは思わないよねぇ。元NIROの人員が再び集められたなんていうのは…………とはいえ、政府がまたNIROを復活させたとも思えないんだけど」
「ま、"NIROが解体される"ってのは、前に御堂さんが言っていた事だ。それは事実のはずだし。国の奴らも、解体してから連中を雇い直すなんて真似はしないだろ……カゲヤシ狩り組織がまだ必要だったなら、わざわざ解体なんてせずに存続させてるはずだ」
そこまで言って、「いやあるいは……そうか!」
気付きを得た様にノブの目の色が変わり、
「かつての俺達がそうだったように、表向きは解散、裏で再結成というパターンじゃないのか!? ……NIROは秋葉原で派手に暴れすぎた。その責任を取って表向きは解散、だが裏でカゲヤシ狩りの計画は依然進行していた……そして再結成という事なら辻褄も合う!」
彼は興奮まじりに主張するのだが……けれども、朗らかに笑うヤタベにいなされてしまう。
「私らにはそんな時があったねぇ。しかし、NIROが解体された理由は秋葉原での騒ぎの件もあるけれど、加えて出資者が亡くなった事の部分が大きいという話だったはずだ。それならば、やはり組織をもう一度立ち上げるのは難しいんじゃないかなぁ」
(……やべぇ、そういや出資者が亡くなった話すっかり忘れてた)
硬直したノブを置いておきつつ、しかしそれでは腑に落ちない点もあるとサラが言う。
「仮にこの件へ国が関わっていないとすればですが。その現状で警察があまり動いていないというのは……大きな疑問です」
サラの呈した疑問に、ノブはますます思考がこんがらがったやら、頭を抱えてしまった。
「確かにそこだよな。くそ、不可解な点が多すぎるんだよな……」
「うむむ、そうだよねぇ。……ええと、美咲ちゃん、訊いても良いかな?」
「は、はい! 大丈夫ですけど」
「……確か美咲ちゃんの話しでは、相手はエージェントだけど、カゲヤシ狩りが目的では無い……って事だったよね」
「……それは、はい。目的はカゲヤシ狩りじゃない、って確かに言っていたから。"新しいカゲヤシの技術を手に入れたい"んだって。それが嘘か本当かまでは、分からないですけど……」
「技術を手に入れて、か。……そいつが何者かは分からないんだっけか?」
ノブの問いにしばらくは「え~っと、色々あって」と口を濁していたものの、改めて言葉を進めた。
「そのぉ、結論から言うとその人が何者なのか、そこまでは分からなくて。捕まえようとしたんだけど、逃げられちゃったんですよね~……確か坂口とか言ってたけど」
「ごめんなさい」……髪をくりくりと指で弄びながら、えへへと苦笑う。
美咲の発言に合わせて瑠衣も「私も公園で姿だけは見たけど、それ以外は……」そう言うに留まり、ノブはうぅむと唸るばかり。
……そして、丁度その時だった!
ハイヒールの音と共に、堂々とその場に現れたのは霞会志遠。かの女社長だった。
仁王立ちの後、「話は聞かせてもらったわッ!」━━広い空間に快活な声が響いた。
「坂口ってそれウチの専務ね! ほんと信じられない!」
口々に志遠さん!? と驚きの声が上がり、「えっ?!」と彼女も驚いた。
「いけね、また門閉めるの忘れてた」と爽やかに笑うノブ。
「っつーか、まさかあの時ペコペコしてたおっさんがか? 信じられねー……」
改めてノブが坂口の件に触れると、……本当よ、と志遠は重い表情で頷いた。
「自警団の皆さんに全て任せっきりじゃあ悪いから、私も色々調べてて……ウチの坂口が悪さしてるのは間違いないわ。私の所の社員が襲われてたのも、そういう事かって感じ」
「と、言いますと?」
「恐らく彼は勤めている大師本製薬に不満を持っていて、そして野心も秘めていた。……そこで偶然目に付いたのがカゲヤシの技術。それを手に入れて利用すれば、今居るこの会社なんて目じゃない……そう思ったはずよ」
それで、妨害目的で社員に対する嫌がらせもしていたんじゃないか、と。彼女の言う通りだとすればなんとも陰湿だが……
「なるほどなぁ。とはいえ今の会社を捨てるとは、思い切った行動に出たな」
「そうね……だからこそ、確実な儲けの保証もなく見切り発車をするとは思えない。これは私の予想だけど、恐らく、坂口に出資している者が別で存在する。でないとそもそもの活動資金だって馬鹿にならないじゃない?」
そこで、「……すみませんが、質問よろしいでしょうか?」とサラが切り出す。
どうやら彼女の中で引っ掛かるものがあったらしく、タイミングを伺っていたようだった。
「美咲さんにお聞きしたい事が」と彼女は神妙な顔をして言った。
「"新しいカゲヤシの技術"というものの、具体的な内容を聞かせて頂けますか」
「それは……」
美咲の言葉が途切れた。サラの真剣な表情に気圧されたのだろうか、けれどすぐに再び喋り始める。
「今は秋葉原の地下に眠っているんだって、力説してたんです。地下に研究所があるから、だからそれを手に入れてやるって。……でもそれ都市伝説らしくて。私には信じられなかったけど、その人は本気みたいで~……」
ノブは興味深そうに、「へぇ、都市伝説ね」と溜め息混じりに呟く。
「ヒロでも居てくれたらすぐ分かったんだけどな。……よし」
ちょっと待っててくれ、という一言から、彼は部屋の隅に置いてあったノートPCを持ち出して……どかりとあぐらをかくと、キーボード上の指を走らせていった。
間もなく彼の言葉が返ってきた。
「━━おっ、あったぞ! これか? "秋葉原駅周辺に、戦前からの地下構造物の都市伝説"」
ノブの手招きに誘われて、皆が彼の横から後ろから、PCの画面を覗き込む。
個人で運営しているサイトだろうか、"都市伝説全集!" と謳われるそこには確かに、言った通りのものが書かれているが……
「……秋葉原駅かい? とはいえ、駅にあったら気付かれそうなものだけどねぇ」
画面を見つめながらヤタベは顎をさする。けれど、所詮都市伝説と無視は出来ない。
この秋葉原で囁かれる都市伝説の数々……それが時として事実である例は、決して少なく無いのだから。
美男美女のオタク狩り。血を吸う人ならぬ者の噂。痴女が童貞を襲うアレは……どうだったかな。……ともかく本当なものも少なくない、PCをぱたりと閉じたノブは、腕を組んで考えを巡らせた。
「カゲヤシの技術が眠る研究所、と来れば怪しいのは当然NIROが出てくるが……元NIROの人員を囲ってるなら、とっくに見つけていてもおかしく無いはずだけどな。そこらへんはやっぱ、御堂さんに聞くしかねぇか」
「その研究所、実在するのかがそもそも怪しい所です」とサラ。
確かに眉唾な話ではある、とノブは言いつつも、
「もしその地下研究所が政府の手によるものであれば、って仮定だが、それだったら研究所を隠す為に政府が手をまわして、駅を建てた……とかか?」
「どうでしょう。余計に人の目が多くなってしまう気もしますが」
「……だよな。何にせよ、未だに探してるからには存在する確信があるはずさ……ま、"駅周辺"って所がミソかもな。あくまで周辺だから、実際は駅より少し離れた場所にって可能性はあるだろ? まあ都市伝説、その辺の細かいところも怪しい部分ではあるよな!」
ノブは陽気に笑っていたものの、
「結局は分からない、という事ですね」
サラの無慈悲な切り捨てに「まぁ要約するとそうなるな……」と凍りつく。
……今更だがノブって熱く語るか、凍って固まるかのどっちかなのだろうか。
極端だなとナナシは思いつつ、彼の為にも話題を変えることにした。
━━三つ目の質問、"今の状況"についてである。
ノブは我に返ってナナシを見た。
「……ん? ああ、今の状況か。んじゃ話を戻さしてもらうけど。いわば新生NIROとも言える部隊がアキバに出てきた訳だろ? かと思えばあの瀬嶋が出てきて掻き乱した結果、その新生NIROも早々に分裂、組織は二分した━━」
「━━簡単に言っちまえば坂口派と瀬嶋派に。確か瑠衣ちゃんの話じゃそうだったよな?」
ノブが瑠衣の方を見やると、彼女は静かに頷いた。
「……そうなると瀬嶋の方も気になるよな、また妖主を狙ってるのか、とかさ。ともかく、今アキバじゃエージェント同士が睨み合ってる。目まぐるしいにも程があるが、何にせよ厄介だな……」
ノブは少し考え込む様な仕草を見せてから、一拍して再び喋りだした。
「で、だ。どちらの派閥も、収拾をつける為に一旦その場では互いに矛を収めた。態勢を立て直してから改めて活動ってとこかね」
「恐らくはね。私らとしては、今の内に対策を練っておきたい所な訳だけど……正直現状だと分からない事だらけでねぇ」
あははは、とヤタベにつられてノブもしばらく笑っていたものの、
「…………お二人方」
嘆息と共に放たれたサラの叱責に、二人揃ってがっくりとうな垂れた。
……もはやお約束の光景を経た後、ナナシによって話は最後の議題へ移った。
つまり、今後どうすれば良いか、である。
◇
「形としては"あの頃"と同じ三つ巴だよな。ただ、俺らには以前と違ってカゲヤシのバックがある。戦おうと思えばそこそこいけそうじゃないか」
先程サラに叱責されたのもどこへやら、すっかり立ち直ったノブに対して、ゴンは不安を口にした。
「け、けど相手には紛い者が沢山居るはずで……。相手にはヒロ君も、それにあの瀬嶋って人も居るから……」
「そこは……なぁ」
一転、饒舌だった様子から口ごもる。
ヒロは取り巻く状況のややこしさもさる事ながら、実力もあのナナシをして"あれ程速い脱衣は見た事が無い"と言わせるまでの神業。
瀬嶋も、あの優でさえ軽くいなす指折りの実力者……おまけに今では、妖主の血をその身に宿している。
それから紛い者の強力さは言うに及ばず、更にその中でも秀でた実力を持つ者が存在する。それは美咲を襲っていた女しかり、それに美咲の話にあった紛い者の"オリジナル"、天羽禅夜という男の存在もだ。
それぞれの陣営にトップクラスのカゲヤシである瀬嶋とヒロ、そして紛い者の安倍野藍と天羽禅夜。
こちらにもナナシ、そして紛い者の美咲も居るのだが、やはり戦いは厳しいものになるだろう。そこでノブが提案した。
「……どうする? また前みたいにネットで募って、他の人達の手を借りるか? それで上手くいけば━━」
しかし、
「駄目よ!」
突如として声を荒げたのは、それまで静聴していた志遠だった。
彼女の初めて見る一面に、ノブは意外そうな顔で志遠を見た。
「……初めに会った時も言ったけれど、事態が大きくなる事は望まないはずでしょう?」
彼女は先程と打って変わり、落ち着いた様子で説くものの……しかしそれに満場一致で納得という空気でもない。
━━既に街は大騒ぎとも言える状態だ。ナナシとしても、ここで協力を仰ごうがそうでなかろうが、どの道事態の拡大は防げないようにも思えた。
そして反論したのは、以外にもそれまで口数の少なかったゴンだった。
「で、でも。ネットじゃあ"またあの事件の再来か"、なんて言われているし、このままじゃ秋葉原が……」
続いて「そうそう」と口を合わせるノブ。
「それに俺達は一度、その方法で上手くやれた経験があるしな」
「一度は上手くって……以前にそれをやったの!? 無茶な事をするわねぇ」
呆気に取られたのだろうか、志遠は目を丸くして息を吐いた。
……社長も結構無茶な所ある気がするけど。しかし彼女が驚くのも無理はないとナナシは納得できた。
かつて住民との協力を提案したのは何を隠そうナナシ自身であったが、あの当時もいちかばちかの起死回生、無茶な行いだったには違いないからだ。
志遠は「秋葉原は秋葉原の人間で守る、それは心情としてとても分かる事だわ」と理解は示した。
しかし、「それでも」と続ける。
「以前の相手とは違うわ、多くの紛い者が居る。もはや一般人が介入してどうにかなる問題じゃない……むしろ、余計に被害を増やす事にもなりかねない。今考えるべきは、私達の手でいかに素早く終結させるか、だと思うの」
"私達の手で"と言うが、実質それが指すのはカゲヤシであるナナシ達の事であろう。
人間であるゴンや他の自警団員が戦力のカウントに含まれていない事は、言われずとも察する事が出来た。
ゴンはそれが悔しかった。
同じアキバが好きな者だ、それは何も変わらないはず。人間だからと言って、何もせずに傍観など耐えられなかった。
だからこそ、いの一番にゴンは志遠へ反論して食い下がったのだが……
「確かにな」とノブの呟きが聞こえてきた。ゴンは、そちらへ不思議そうに振り向いた。
「……ノブくん?」
「有志に協力を募って住民全員で守ろうなんてのは、聞こえは良いが結局は苦肉の策だったじゃないか」
「それは……」
「あの時はそうせざるを得ない事情があった。アキバの被害を抑えようにも、自警団だけじゃ人手が無い……アキバに来る大勢の人を退避させる、なんてのも現実的じゃない。なら全員で戦ってやれ、そういう経緯さ。けどさ、今は瑠衣ちゃんの仲間だってついてる。それでも苦戦するかもしれないが、かといって今回は人間が出て行ったところでな」
「それは……そうかも、しれないけど」
「残念だけれどノブ君の言う通りだわ。以前はそれで上手く収まったからといって、次も成功するという保証にはならないもの」
人間が力になろうと息を巻いても、却って迷惑が掛かるだけか……ナナシ達の華々しい活躍とは程遠いと、ゴンはがくりと肩を落とした。
そんな様子を気遣ってか、ヤタベが言った。
「そう落ち込まずとも、僕らに全く役割が無いという訳じゃないよ。ちょっとしたサポートなら僕達でもいけるはずさ」
「メイドの教え子達にも、また逐一情報を伝えるようにと私から言っておきましょう」
「頑張ろうぜ。ピンチには違いないがやれるはずさ」
ノブのそれは、自分達に言い聞かせる意味もあっただろう。事態はどう転ぶのか……明確な答えなどない。
「きっと坂口は早く事を済ませたがっているはずだわ。今日なんて目立つ事も気にしないで、あんなに大量の人員を動かしてた位ですもの。きっとご執心の研究所が見つからないせいで、相当焦っているんじゃないかしら」
ヤタベも志遠に頷きつつ「瀬嶋という男も、早期に決着をつけたがっているはずだ」と付け加えた。
何しろ大量の人員を長期間動かすには、相応の資金が必要になるのだから、と。
(すぐに動きはある……か)
ふと、ナナシは瑠衣の事が心配になった。以前の様に気負いすぎているのではないかと……思えば、この会議の最中口数も少なかった。
「瑠衣。辛いだろうけど……やるしかない」
「……ナナシ? ありがとう。ううん、でも辛く無いよ。皆がいるから」
(もうなんかナチュラルにいい子すぎて、逆に心配になってくる……)
「それよりナナシこそ、元気が無いのかなって心配だったよ?」
「いや元気しか無いが。なんでだ?」
「えっと……そう? なんだか口数が少なかったから」
「ああ、あれ? 会議の邪魔にならない様にしてただけだぞ」
言うと、突然口を押さえてくすくすと笑い出した瑠衣。
「ふふ、そうなんだ。ナナシって私と似ているね。私もその……あんまり話を遮ったらダメかなって思ってた」
「なんだ、それで瑠衣も静かだったのか……そういう気配り出来る優しさが素敵です」
(……対して俺が口閉じてたのは、単に妹が恐かっただけです)
「ナナシ……」
「おう」
「……面と向かって言われると、少し恥ずかしい」
「あ……すまん」
困り顔でナナシは頭を掻いた。それにしても今度は赤くなったり、本当に表情豊かな子だなあと思う。初対面の時よりもそれが随分顕著に……
と、ナナシは急に殺気を感じた。
美咲だ。やばいと悟ったナナシは、早急に話を本題へ戻した。
「と、とにかく! すぐに動きはあるだろうな……」
「……うん。それに、時間に余裕が無いのは私達も変わらない。この街で、戦いを長引かせるわけにはいかないから」
「だから、一緒に頑張ろう」と瑠衣が微笑みかけ、ナナシは頷いた。
三つ巴の戦い、衝突の時は刻一刻と迫っている!