【妄想】AKIBA'S TRIP1.5   作:ナナシ@ストリップ

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祝アキバズトリップファーストメモリー発売決定!
モチベーションが空になって苦悩していたのですが、これでもう少し頑張れるかもしれない…


19.無力の陰妖子、人間の意地

ゴンは片腹を庇い、よろけながらに叫んだ。

 

「こ、この娘達に手を出そうとするなら……! 僕を倒してから行くんだ!」

 

足元には、彼の愛用していたカメラが無残に破損し、地面に転がっている。

全てはゴン自身が坂口の傭兵達に立ち向かった結果だ。

 

彼には、そうしなければならない理由があった。

 

「バカ! 死んじゃうでしょ!? 人間の癖に!」

 

舞那が酷く破れた服装を腕で庇っている。傍らの瀬那もそうだ。同じく坂口の部下にやられたもので、それがゴンを突き動かした"理由"だった。

彼女に背後から何と言われようが、ゴンがその場を退く事はない。

 

「そ、そうさ。僕は人間だ。確かに人は弱くて……カゲヤシとは全然比べ物にもならないよ。特に僕なんて武道の心得も何もない――」

 

「――でも僕は僕だ。自分でも自慢できる事なんてあんまり無いけど……ダブプリが何よりも好きで、それだけは自信を持って言える事なんだ。だからこの状況を黙って見て見ぬふりなんて……出来る訳がないよ。そんなの自分自身を否定するのと同じで……僕は、僕は」

 

「僕は嫌なんだ」

立つ事もやっとという中で、声を振り絞る。舞那が思わず固唾を呑んで見守っている。

 

「――嫌だ。自分にそんな嘘をつく位なら死んだって構わない……! 死んでも……! さ、最期まで、ファンとして……!」

 

人間でも気弱でも脱衣が使えなくても、彼は確かに戦う者としてそこに居た。

そして、ただの人間による決死の行動を前に、傭兵達は未だ排除の一手を下せずにいる。

 

『一般人相手に手荒な真似はしたくないんだ。どけ!』

 

「ど、どくもんか! 意地でも離れないぞ……!」

 

押し問答に、最初に痺れを切らしたのは瀬那だった。

 

「もういい。舞那、私がどける」

 

「ね、姉さん……でも」

 

「いい。人間が居ても、邪魔なだけ――」

 

「ダブプリはこれからメジャーデビューも待ってるんだ」

 

その言葉を聞いた瞬間、瀬那までも割って入ろうとする動きを止める。険しかった眼差しが驚き、そして和らいでいた。

彼女は静かにゴンの言葉へ耳を傾けた。

 

「もっと大きな舞台でライブができて、ファンだって……けど、これじゃアキバを安心して出て行く事なんてできない。だから秋葉原の、人間の僕達が、ファンの僕達がやらなきゃならない! これは僕が……僕達がやらなきゃいけない事なんだ!」

 

坂口の傭兵が舌を打つ。

 

『あまり一般に被害を出すと面倒なんだが……仕方ない。少し手荒に行く!』

 

と、拳を構えた瞬間、迷彩の衣服が破け辺りを舞った。

その下に装着していた身体強化ギアも残らず脱がされ、いつの間にか下着だけの裸一貫になった己の姿に男はわなわなと震えた。

いつの間にか能面を着けた怪しげなスーツ姿の男性が、自身の戦闘服の切れ端を持って対峙している。

 

「おっと、住民に手を上げるとは野暮な事だね……大人しく手を引くがいい」

 

その提案を聞く気は無いと、残った他の傭兵達が一斉に跳びかかった。

謎の能面ヒーローが傭兵集団の激流に飲み込まれたかと思えば、次の瞬間、半裸となって立つ能面を残して傭兵達は散開した。

 

『やったか!?』

 

距離を取った傭兵達は、包囲しつつニヤリと笑みを零す。まさか、相手も能面越しに爽やかな笑顔を浮かばせているとは知らずに……

 

「良いぞ、もっとだ! 内なる高まりを感じる!」

 

『バ、バカな一般人か!? 炭化してないぞ! それどころか……』

 

『興奮している!?』

 

「カゲヤシではないからね。それともう一つ、僕は一般人ではない。その向こう側へと到達せし者、人呼んで逸般人(アブノーマル)!」

 

『……ふざけるな!』

 

「遅いッ!」

 

一人が威勢良く跳びかかったものの、呆気なく避わされて逆に脱がされてしまった。

残りの者達は呆気に取られ、ただその様子を驚愕する事しか出来ない。

動揺が広がる中、一人が取り乱すように言った。

 

『動きが急に速く……!? 服が重しだったとでも言うのか!?』

 

「君、良い質問だ。服を脱がされる快感によって、僕の感覚は研ぎ澄まされるのさ」

 

『い、意味が分からな』

 

男達が言葉を発せたのは、そこまでだった。

 

 

 

 

「ふぅ。君達、あぶない所だったね」

 

「ぁ、ありがとうございます……で良いのかな。とにかく、助かりました。結局僕は何も出来なかったのが情けないけど。あはは……」

 

能面の彼は、良い汗を掻いたと言わんばかりの余裕だった。彼を見たのは、秋葉原防衛戦の際が初めてであったか……特にゴン自身は直接関わりが無いのだが、あの時の衝撃は忘れようもない。

そして、あの時に戦闘役として進み出た事も納得の強さだ。やっぱり住む世界が違うんだな、とゴンは思うばかりだった。

はぁ、と溜め息をついたところへ、舞那の叱責が飛んでくる。

 

「ちょっとあんた、無茶しすぎ!」

 

……ごめんなさい、とゴンは申し訳なさそうに頭を垂れた。

 

「その……ぼ、僕、自分の気持ちに背きたく無くて……本当にごめんなさい。僕はただ大好きなダブプリを守りたい、……勝てなくても良い、それでも僕の命で時間を稼げるならと思って。その一心で僕は……僕は、ナナシみたいにヒーローにはなれないけど……」

 

自分で説明する内になんだか情けなくなって、目頭が熱くなった。

 

「ば……バカね、誰とか関係ない。あんたはあんたでしょ!」

 

暗く俯いていたゴンは、そんな舞那の言葉にますます目頭が熱くなるのを感じた。

……涙を拭う様子を見た舞那はおろおろと慌てている。

 

「……あ、これ愛情表現だから。勘違いするなよ!」

 

瀬那が口に手を当てて、くすりと笑う。

 

「ふふっ。舞那でもたまには良い事言うね」

 

「どういうことよ姉さん」

 

「そのままの意味」

 

「えっ……」と表情を曇らせた舞那は放っておいて、今度は瀬那が小首を傾げて、ゴンの目を覗き込んだ。

 

「君、あの公園でも守ってくれたよね」

 

「えっは、はい。そ、そうなのか自信ないけど……」

 

「ありがとう。私達にとって、君は十分ヒーローだった」

 

「ちょちょっと! 私は別に……えーっと……ま、まぁ、そういうことにしておいてもいいけどねー」

 

にひひ、と笑う舞那つられて笑うゴンに瀬那が釘を刺した。

 

「でもキミ、流石に無茶しすぎだよ」

 

……すみません。と頭を垂れてしゅんとするゴンへ「まったく」と口を尖らす舞那。

 

「やっぱりメジャーデビューの話は無しにすべきよ。こんな危なっかしいバカが居たら、アキバを離れられないじゃない。……そうするのが当然。でしょ、姉さん?」

 

「それが良い。やっぱり舞那でも、たまには良い事を言う」

 

「また? どういうことよ姉さん……」

 

「そのままの意味」

 

「えぇ……!? メジャーデビューは? え……?」

 

「だからその話はもう断るの!」

 

「そ、そんなぁぁ……」

 

がっくり肩を落とすゴンの下へ、今度はサラがスカートをなびかせながら駆け寄ってきた。

 

「ゴンさんっ! お怪我は?」

 

肩で息をするその様子を見るに焦っているのか、それとも派手に動いたのだろうか。いずれにせよ、普段の彼女からは想像出来なかったが……

 

「サラさん。えっと少し転んだだけで……大丈夫です」

 

「けれど、そのカメラは……?」

 

と言って、口に手を当てて訝しげな目を地面へ向けた。首を捻る彼女の見つめる先には、カメラ……というかカメラだったもの、が地面にある。

どう見ても、ただ転んだにしては派手に壊れすぎだ。ゴンは思わずぎくりとして、慌てて服の汚れを(はた)いてから、手早く"それ"を回収した。

 

「こ、これは気付いたらこうなってたというか……はは……」

 

笑って誤魔化そうとしたものの、サラは溜め息をついていた。

 

「……理由はなんとなく分かります。あまり無茶、なさらないでください」

 

「……ごめんなさい」

 

「あ……いえ。怒っている訳では……ただ心配でしたから。それと他の方とははぐれてしまって。申し訳ございません、私の方でも手一杯でしたので……。私達も急いで合流しましょう」

 

「は、はい。ただ……」

 

ゴンが不安そうにちらとダブプリを見ると、

 

「ふむ、二人が気掛かりかい? それなら大丈夫だ。僕に任せると良い」

 

気付かれたらしく、快くガッツポーズで応じた下僕。

 

「ぁあ、ありがとうございます」

 

ちょっと、いや正直ちょっとどころじゃなく変わった人だけど……良い人だ。

ファンとしてダブプリに着いていけないのは残念ではあるけど、この人の言う通りに任せよう……と、離れようとした矢先、舞那の叫び声が聞こえた。

 

「寄るな変態!」

 

「おお、言葉攻めとは嬉しいね!」

 

(だ、大丈夫なのかな……)

 

……ゴンは別の意味で心配になりながらも、壊れたカメラを(いだ)きつつサラの後へ着いて行った。

 

 

 

 

 

 

秋葉原駅前広場が良く見渡せる建物の屋上。がばりと上半身を起こしたエージェント━━瀬嶋の手の者である━━が、突然錯乱した様子で叫んだ。

 

『アイエエエ!? メイド!?』

 

同じく隣で地面に伸びていた仲間の一人が、『うわぁ!?』と飛び起きて言った。

 

『なんだお前か、びっくりさせるなよ』

 

錯乱していた男は、仲間の顔を見て我に返るなり、地べたに座ったままうなだれる。

 

『す、すまねぇ。……少し気を失ってたみたいだな』

 

『ああ……なんだ、ハンカチを口元に当てられて…………』

 

しばし二人共、途方に暮れるやら眠いやらでぼやっとしていたが……それから一息ついて、男は『なぁ』と言って再び切り出した。

 

『見たよなお前、メイドがこっちに一人で乗り込んで来たの』

 

スカート内に秘める異空間からともなくハンカチを取り出して、迷わずこちらの懐へ跳躍してきた。

恐ろしい光景だったと男は嘆いた。

 

『お前も見たのか!? 夢じゃなかったんだ……あんな場面、最近録画したドラマで見たぐらいだぞ』

 

『ああ。メイドは空だって飛ぶ。夢じゃない』

 

ぼうっと見上げながら絵空事を呟く同僚に、苦言を呈する。

 

『冗談よせよ……』

 

暫く立ち直りそうもない仲間は放っておいて、他の人員へ通信を入れようとした途端、男の顔色が変わる。

耳に掛けていた通信機が無くなっていた。

慌てた手つきで自身の胸ポケット類をしらみつぶしに(はた)いたものの、何も無い。それからせわしなくズボンのポケットを(まさぐ)ると、探していたものの代わりに一枚のチケットがそこから顔を出した。

それをつまみ出した男は、まじまじとそれを眺めた。

 

カフェ・エディンバラ特別優待券━━

 

そう書かれているチケットを思わず凝視した。

まさかここに行けば"あのメイド"に会えるのか?

空からメイドが降ってきたあの光景に魅了されてか、はたまた眠気が抜けないせいか、ぼうっとした様子で呟いた。

 

『今度行ってみよ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――第二アジト

 

 

冷えた地面に、ナナシはどかりとあぐらをかいた。

 

「やれやれ。ここならもうあの音も聞こえないな……」

 

どうやら自分達以外にはまだ誰も来て居ないようだ。

アジトに戻った旨の携帯メールをナナシが送っている最中、志遠が言った。

 

「これじゃ、あなた達が外に出るのは危険ね……私が外で情報を集めてくるわ。音の出所が特定できれば良いんだけど」

 

う~ん、と瑠衣は首を捻る。

 

「カゲヤシにだけ聞こえる音、か……あ、紛い者もなのかな?」

 

「ええ、恐らくは。それでどこかに装置があるはずだけど……周辺に音を伝えるって事を考えれば、高い場所の方が効果的でしょうね。それでいて人目につかず、駅前に程近い場所っていうのが手がかりかしら。けど、それだけね」

 

そう言って足早に立ち去ろうとした志遠を、ナナシは立ち上がって呼び止めた。

 

「あ、志遠さん」

 

「何かしら?」

――きょとんとして振り向く志遠。

 

「アキバなら専門的な音の測定機器も手に入るはず……利用できれば、少しは楽になるかも」

 

「なるほど。探してみるわ。それじゃ、また後で」

 

手をひらひらとさせて出て行った志遠の姿を見送り、「上手く行くと良いけど」と不安そうな瑠衣。

 

「今は、志遠さんを信じるしかないな」

 

……それから少しして、今度は御堂とノブが到着した。

念の為、ナナシ達とは別のルートでこちらへ向かったのだ。

 

「おう! 待たせたな!」

 

変わらない様子のノブを見て顔を綻ばせたナナシ。

 

「ノブ! 心配したぞ!」

 

「俺だって! うおお~会えて良かった~」

 

二人が感動の再開に抱きついている所、御堂がこほんと咳払いした。

 

「話は今しがた志遠さんから聞かせて頂きました。すみません、少し遅くなりまして」

 

……ノブが苦い顔して腕を組んでいる。

 

「ってか、あの社長さん一人でってのはちょっと不安だよな。今更なんだけど」

 

「うーん、志遠さんには悪いけど確かにな……」

 

「よし、こうしちゃいられないな。やっぱ俺も行ってくる!」

 

と威勢良く飛び出そうとするノブに続き、御堂も出発しようとする。

 

「待ってください。ノブさん一人では危険です、せめて私も――」

 

その時であった。

入り口から聞こえたのは師匠の声。

 

「……賽は投げられたようね」

 

当然一同は驚愕するが、一際驚いていたのが御堂だ。

 

「師匠!? 何故この場所が……つけられていたというの!?」

 

露骨に焦る御堂。

まさか、と師匠は妖艶に笑う。

 

「あなたにそんな事をしても気付かれるでしょう? 前にここで下僕がお世話になったようだから、場所を知っているというだけ。それに今あなた達が、私のテクを欲しているというコトも知っている」

 

「いいえ、必要ありません」

 

「そんな事はないわ。必要でしょう? 私の、テクが」

 

「ノブさんの護衛の話なら、私一人で十分です!」

 

そうですね? という顔でノブを見るが、彼は顔を輝かせて言った。

 

「あのナナシのお師匠さんだろ? 心強いじゃないか!」

 

「ぐっ……!」

 

苦虫を噛み潰した様な顔の御堂に、師匠は「言いなさい」と詰め寄った。

 

「……ひ、必要です……師匠の……テクが……!」

 

「よろしい。向かうわよ」

 

毎度のこのやり取り……なんなんだろうと、ナナシは居たたまれない気持ちになる。

 

「おし、ナナシはどうする?」

 

「え? う~む、ずっとここで(くすぶ)ってるのもなぁ……やっぱり俺も行かせてくれないか? 戦闘では役に立たないかもしれないけど、良い店を知ってるんだ。何か役立つものがあるかも」

 

「とか言って、単純に居ても立ってもいられないだけだろ?」

 

「う……まぁそうだ。けど瑠衣は悪いけどここで……」

 

「私は……我がままかもしれないけど、私も着いて行きたい。駄目かな……」

 

まぁ、この流れならそうなるよなと思う。しかし彼女は妖主であり最重要人物なのだが……

「流石にそれは――」御堂が瑠衣の要望を断ろうとした時、ナナシは提案する。

 

「でも下手にここで一人待機するより、全員で固まった方が安全って考え方もあるっちゃあるよね?」

 

……まぁ予想通りと言うか、御堂さんが唸るだけで首を縦に振らない。

 

「しかし……」

 

「それに師匠も来てくれるんだし! ですよね!?」

 

「そうよ御堂。私が信じられない?」

 

(し、師匠まで……絶対に面白がって便乗してるだけでしょう……!?)

 

「わ、分かりました! 分かりました……はい」

 

……あからさまに師匠の呪縛に辟易している。

 

「やっぱり我がままだったかな」とコッソリ、複雑そうな顔をナナシに向ける瑠衣……

 

「い、いえ。いいんです。ナナシさんの言う通り師匠のテ……護衛もありますから」

 

どうやら御堂さんにも聞こえていたようで、気を取り直してスーツの襟を正していた。

なんていうか苦労人タイプだよな、この人……なんて感想は胸の内に仕舞い込み、ナナシは余計な事を口走らないよう努めた。

 

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