【妄想】AKIBA'S TRIP1.5 作:ナナシ@ストリップ
御堂さん便利キャラすぎて使い過ぎちゃう……
――駅前 ラジオセンター内
秋葉原駅ほど近くにある"ラジオセンター"。中は細い通路の両側に、小さな商店がぎっしりと寿司詰めになっている。
品揃えは電子機器が主だが、アキバらしく他では見ないような代物ばかり――
その中を一直線にナナシ達は突き進んでいる。来た理由は買い物でも観光でもなく、霞会志遠と合流する為である。
人混みを抜けた先に居た彼女は、こちらを見るなり「待ってたわ」と、ニヤりと白い歯を見せてきた。
……また何を企んでいるんだろうか。ナナシが訝しげな視線を送っていると、彼女は自信たっぷりな笑みを携えつつ続けた。
「リサーチ済みよ! 私は既に目星を着けていた……そう、ここよッ!」
志遠が勢いよく指し示したその一角にはこじんまりとしたお店がある。
古ぼけた大きな機械やスピーカーが奥に山ほど積まれていて、小さなレジスペースが今にも飲み込まれそうだ。量販店の様な整然さとは無縁だが……文字通り、良い掘り出し物のありそうなお店であった。しかし、ここがなんだというのか? そう思った矢先、志遠は続けた。
「――ここにあるのよ。音の出所を探る為にぴったりのものが……!」
ナナシの返答を待たずして、彼女は熱弁しながら店頭に向かう。
「出してくださるかしら」の一声で、店員が奥から何かを持ってレジに置いた。
ナナシが見てみると……商品らしい化粧箱ではなく、無骨な黒いケースがそこにある。
ケース内にはこれまた黒い、マイク付きのハンディカメラが収められていた。これが音の可視化を可能にする魔法の機器なのだと、志遠は得意になって説明している。
本来一般には流れない特殊な検査機器。素人が全てを使いこなす事は難しいが、それでも基本的な使い方は店側の親切で教えてくれるらしい。
別途PCが必要との事で、ノブの持っているノートPCを使う事となるのだが…………何やらノブの表情が曇っていた。
「なんだ、PCを使われるのが不満か?」
ナナシの問いかけに、ノブは顔を曇らせたまま首を振るう。
「……違う。そういう事じゃねえ」
「……あ~、大丈夫だって。傍目には個人配信してるとしか思われないだろ。多分」
「そういう事でもねえ。たださあ……」
「……歯切れが悪いな。何なんだ一体?」
「あの商品。見てみろよ、どこ見ても値札なんか無い。そもそも陳列じゃなく、わざわざ奥から持ってきただろ? それにあのゴツい見た目だ。やばいんじゃないかと思ったって訳。つまり値段がさ。……んで、幾らなんすかね実際?」
それを受けて、店員は長々と唱え始めた。機器本体が――それからオプションが――ソフトウェアのライセンスがなんたら……
半ば聞き流していたナナシの意識に、「全て込みで553万円です」という言葉が強烈に殴り込んできた。
精神的ショックのあまり、息が詰まりかけて咳き込んだ。……先端技術とはいえあんまりだ。店の方も、まさかそれほどの物を取り扱っているとは……
「サムライ☆キッチンが5万5千回もっ!?」
と、驚く瑠衣の声が背後から聞こえる。……その表現自体はどうかと思うが、確かにそうなる。それより、意外と少ないかも……と彼女が落胆している方がナナシとしてはどうかと思う。どんだけやるつもりなんだ……
今はサムライ☆キッチンの事を考えている場合ではない。
まさかまた金銭問題にぶち当たるとは。とナナシが苦悩していた所で、「あの店員を下僕にしましょう」と師匠が平然と言い放つ。
すぐさま御堂が割り込んできた。
「師匠、いけません! ここは公共の場です! 下界ですッ!」
とまあ色々騒いで周囲のご迷惑になっていた所で、鼻息荒く一歩前に出た霞会志遠。
「私に任せなさい!」
何やら自信満々に胸を張っている。……でかい。ではなく、
(今度は一体何だ……?)
ナナシが恐る恐る見守っていたところ、志遠は「そぉい!」と何かをレジに叩きつけた。
一瞬目を疑ったものの……近づいて見るとそれは間違いなく、あの言わずと知れたブラックカードであった。
「神のカードを攻撃表示だと!? この社長、出来る……!」
思わず漆黒のカードが放つ威圧感にたじろぎ、更にはあのノブまでもが資金力に戦慄していた。
「これがCEOってやつなのか!? 平民とはパワーが
二人して興奮に沸き立っていたものの、ふとナナシは素へ戻った。
「……いやしかし、志遠さんに払って貰うワケには」
「いいのよ」と志遠は涼しい顔をしている。
「この騒動の解決の為ならね。これは私自身の為でもある……だって元々は、私が依頼した事でしょう?」
彼女は得意になって、そしてやはりまた胸を張っていた。……わざとなんだろうか。ナナシのモヤモヤは晴れなかった。
◇
購入から使用準備までは完了した。いよいよ探し当てるだけだ。
音が直接カゲヤシに作用しているのか、それともこれは装置の稼動音というだけで、単なる副産物に過ぎないのか? 仕組みは分からないがいずれにせよ、この怪音が頼りになる……
店を出て、早速お目当ての音の絞り込みを行っていたところ、他の環境音とは明らかにかけ離れた数値が見つかる。ナナシ達はその音を追ってみる事にした。
ナナシはカメラを手に、機器の示す通りに進んでいく。――しばらくして、ふいに足を止める。
「……この建物から強く反応している」
いつしか、カメラはラジオ会館の前へ一同を導いていた。ラジ館か、とノブの呟き。
「ラジカン……って何かしら」
志遠の疑問に、ノブより先に瑠衣が答えた。
「ラジオ会館っていう、あの大きな建物の事です……今は工事しているみたいだけど」
彼女が指差す先を見て、志遠はへぇ、と息を漏らす。
言葉通り、現在は一面を灰色の工事用シートに覆われている。最上階はまだ壁も出来ていない吹き抜けのようだが、けれどブルーシートがカーテンの様に掛けられている。風に揺られているそれが、外壁代わりに地上からの目を遮っていた。
ノブは持っていたノートPCをリュックに仕舞いこみ、それから用済みになった探知カメラをナナシから受け取った。
「あ~、カメラは入りそうにねぇ。ま、俺が持っとくわ。……それより、ここが当たりで違いないのか? 今言ったように工事中だろあれ。いや、だからこそ怪しいか……?」
「ノブ君が言うように、だからこそ、かも。それにあの建物なら、条件は揃っている――ですよね、えと……霞会さん」
「そうね。ならもう、後は確かめてみるしかないわ!」
……そこへ師匠が名残惜しそうな顔で歩いてきた。その手には脱がしたのであろう迷彩服……そう、彼女と御堂さんは絶賛戦闘中であり、ナナシ達が音源の捜索に集中できているのもこの護衛があるおかげだった。
「もう着きそうなのかしら? もっと宴を愉しみたかったわ」
――と言っている
「もう、せっかちなのね」と光悦の笑みを浮かべる師匠。
片や御堂さんも、消音装置付きの拳銃をぶっ放しまくっている。……やはり、カゲヤシ並の力をスーツで得ているとはいえ身体はただの人間、顔面にゴム弾の直接攻撃をキメるエグいやり方にたまらず次々と倒れ伏していく。
しかし尚、周辺から恐れ知らずにも坂口の手勢が次々襲い掛かってくる。しかもその量が結構なものだ。
それでも師匠は涼しい顔で捌いているものの、御堂さんの負担が大きい。丁度駅前を巡回していた下僕などの有志も近くで戦ってくれてはいるのだが、連中の優先ターゲットはナナシ達のようだった。
これ以上はまずい――そう思ったのはナナシだけでなく、志遠も同じだったのだろう……彼女は急かすようにラジオ会館を指差した。
「皆! 早く行きましょう! ――ラジオ会館へ!」
――ラジオ会館
ラジオ会館の入り口は下僕達に任せ、一同は建物内を進んでいた。中は清々しい程何も無い。ガラガラだ。……本当にここに、現象の根源があるのだろうか?
ぐいぐい先陣を切る志遠と、それを守るように警戒を絶やさぬ御堂。すぐ後ろでは、御堂に構って貰えず退屈そうな師匠が続く。後の三人――自警団組はまとめて最後尾だ。
階を次々と登っていく最中、ノブはナナシに問い掛ける。
「ナナシ、本当に着いてきて良かったのか? カゲヤシは今戦えないんだろ?」
「――ま、それ言い出したら、俺だって何の役にも立たないんだが。結局いても立ってもいられない、俺達自警団魂ってとこか。なぁナナシ。……おい、ナナシ?」
ナナシは先ほどから何も会話が聞こえなかった。
突入前、耳栓代わりに着けてみた防音仕様のイヤホンのせいか? と思って外してみるも変わらない。
あの不快な音が、他の全てを掻き消している。明らかにこの建物に入ってから"あの音"が強まっていた。
次第に視界がぐらぐらと揺さぶられ、冷や汗が顎を伝った。
おぼつかない足取りのナナシはとても立っていられなくなり、とうとう膝から崩れ落ちた。
「ナナシ君!? 大丈夫!?」
うずくまった所を志遠が介抱しようと歩み寄るが、そんな彼女に気を回す余裕もない。耐え難い不快感に襲われ、落ち着いて息をする事も困難なナナシは、ただ苦しそうに背中を丸めるだけだった。
瑠衣もまた、具合が悪そうにしゃがみ込んでいる。
志遠はナナシの身体を支えながら、御堂へ切迫した表情を向けた。
「やっぱり連れてくるべきじゃ――! 二人を外の安全な場所へ。私は念の為、ここで警戒しておくわ」
彼女の言葉を受け、御堂らはその場を離れていく。
…………見送った後、志遠は上層へ続く階段を静かに見据えた。
「今なら私だけ、か……」
――ラジオ会館 最上階
他の者達に先駆け、その場へ一人足を踏み入れた霞会志遠。見立ては正解だったようで、やはり装置はここ、建物の最上階に鎮座していた。
志遠の二倍以上はあろうかという巨大な鉄塊……階の四方に沿って張られた工事用カーテンによって、その存在は外から秘匿されていた。
それは大樹の様に配線の根を張り巡らせ、運び込まれたのであろうモニター類を始めとする、大小様々な機器へ接続されて成っている。
機器をモニタリングしていた傭兵達は立ち上がり、志遠の動向を警戒していた。
「――なるほどここで指揮していたわけ。確かにここ、即席の拠点として悪くないわね」
志遠は殺気立つ傭兵達の視線の中を平然と抜け、かつかつとヒールを打ち鳴らしながら、大掛かりな設備を見物しつつその"鉄塊"へ進んでいく。
だが、彼女は突如として歩を止めた。その面前には、苦々しい面持ちで出迎える坂口の姿……
「……来たようだな。のこのこと」
合間見えた両者だったが……更にその裏で思いがけず、二人の会話を盗み聞く者が居た。
積み上げられた建築用鋼材の裏に身を屈め、向かい側の様子を静かに伺う。それは、先程降りていった筈の御堂聡子だった。
(何か様子がおかしいと思えば……どういう事なの?)
経歴柄、人の機微を察知する事に長けていた彼女は……ナナシ達を師匠に預けて一人、志遠の後をつけていた。
御堂は息を殺し、坂口と志遠……二人の会話へ耳を傾ける。
「はぁーい坂口君。また会うなんて、私達気が合うみたい」
「白々しい事を……あなたからしつこく会いに来ているだけでしょう。いい加減、うんざりですよ」
「……あら、うんざりなのはこっちよ。随分となりふり構わずみたいだけど。昨日からの大規模な人員の動かし方といい、そいつらが物々しい戦闘服で行動している事もそう。もう周囲の目なんか構う気も無し。極めつけはこの装置……って所かしら」
「もうこれ以上時間を掛けたくないのでな。是が非でも研究所の在り処をつきとめる為に……急ぎ、紛い者に更なる改良を施す為にも」
「……改良、か」
「そうとも。カゲヤシより優れた能力を持つのは良いが、適応できず暴れ出す様な個体が出てくるのは問題だ。毎回処分するのもいい加減効率が悪い、これから商品として売るにも問題がある。そもそもあの"オリジナル"自体御し難いという点を考えれば……紛い者の血に根本的な改良が必要という事だよ」
「知っているわ。その問題が邪魔をして、なかなか部下全員を紛い者へ更新する事が難しかった。……だから下位戦力としてカゲヤシまで使わざるを得ないという事も」
志遠は例の巨大な装置へ目を向けて、からかう様に笑みをつくる。
「でも、こんな"奥の手"を早々に使うなんてね。坂口君らしいわ。結局人ならぬ者達は信用せずに、あなたは確実に信頼の置けるこの装置と、人間の部下達を率いて最後の事を成す道を選んだ。……カゲヤシの血を持つ者だけを無力化し、制圧する。……人間からしてみれば、とても都合の良い装置。ミラースナップという判別技術といい、カゲヤシの特異さゆえの弱点か」
「――けど誤算だったわね。カゲヤシを封じても、彼らには脱衣術に長けた者が大勢居る。人間のね」
坂口の沈黙を見て、彼女は再び言葉を進めた。
「――まぁでも、それはそれ。……むしろ、この機械に関してはすごいと思っていたのよ。
顔をしかめたまま、坂口は答えた。
「これに禁書は関係ない。ある筋から、血の力を抑制する奇妙な試料の提供を受けた……その周波を参考にした装置というだけでな……」
「ふーん、そういうことか」
「……まさかとは思うが、上手く聞き出したつもりなのか? 馬鹿馬鹿しい……」
「別にそういう訳じゃないわ。良いじゃない、少し位お喋りをしたって。それで資金源もそこから?」
「それはまた別だ。私は禁書を持っているんですよ、これほどの餌をチラつかせれば、言う事を聞く者など容易く集められる……それくらいお分かりでしょう」
「……まさか! あれの存在を明かしたっていうの……!? やりかねないとは思っていたけど、つくづく余計な事ばかり……!」
「背に腹は変えられんでしょうが。そうでもしなければ、私の計画そのものが立ち行かなくなる。それこそ禁書の価値を無下にしてしまうというもの……価値ある手札は切ってこそ意味があるんじゃありませんか」
自信満々に語る坂口へ「馬鹿な人ね」と志遠は忌々しそうに吐き捨てた。
坂口は眉をぴくりと動かし、傭兵達に向け片手を挙げて合図をした。――傭兵達が、次々に剣を抜いていく。
「……ここを特定した事は褒めてやる。しかし追い詰めた気になっている様だが、追い詰められたのはあなたの方なんだ」
(禁書? それにある筋というのは……ともかく、この事を伝えなければ――!)
疑問顔だった御堂は次の瞬間……自身の背後に気配を感じハッとした。
咄嗟に銃を構えたその先には、奇妙なものを見る眼差しの師匠の姿があった。
「御堂。アナタ何しているのかしら?」
(――師匠ぉ!? 見つかる! こ、こうなったら――!)
これ以上は危険と判断した御堂は、志遠に振り向かれる前に素早く立ち上がった。
「――そこまでです! 我々が到着したからには、これ以上好きにはさせない!」
迷彩服の傭兵――勿論例外なく、カゲヤシ並の力を得る特殊ギアを着込んだ者達――が、追加でぞろぞろと坂口の裏から湧き出てきた。
志遠は味方がこの屋上へ到着した事に気付き、その二人を尻目に見て告げた。
「――あらお二人とも、ちょうど良かった。今偶然、相手の親玉を見つけたとこ。……さぁ、やってやりましょう!」
◇
秋葉原駅構内。
打ちひしがれていたナナシは、あの不快音が止んだ事をきっかけに無気力から舞い戻る。
頭痛の種が止んだ。まだ身体はあちこち痺れるけれど、さっきまで腐り落ちそうに重かった身体が、反して羽のように軽い。
――これだよこれ。この感覚だ。
すっかり我に返ったナナシは嬉々として、戻ってきた身体感覚を確かめる様に腰を捻ったり、その場で軽く跳ねたりしてみる。
……瑠衣の方もどうやら調子が戻ったようだ。
ナナシ達が護衛の下僕と外に出てみると、既に駅前の戦闘は落ち着いており、坂口の部下達が撤退しているのが見えた。
今なら行けそうだ、とナナシがラジオ会館の頂上を見定めた時だった。――漆黒に塗装されたヘリコプターが、低空飛行で会館の屋上に接近している。
(……なんだ!? 何かあったのか……?)
瑠衣、そしてノブにアイコンタクトを送ったナナシは、再びラジオ会館へ駆け込んだ。
三人が最上階への階段を上りきったその先――
累々と意識を失い、地に倒れ伏せている者達の中で、師匠と御堂がただ悠然と立っている。
それから志遠が何やらご立腹のようで、子供の様に拳を振り回して駄々をこねていた。
「ちょっと~! 今回こそ私が華麗に戦うハズだったのに! 私の活躍シーン……あら?」
……志遠がこちらに振り向いた。
「丁度良いとこに! かるーく制圧しちゃたわよ。このお二人と……そうっ! 私がね」
ウィンクをする志遠を背に、いそいそと御堂は拳銃を胸元に仕舞い込んでいる。
「――しかし、彼は取り逃がしてしまいました」
「坂口君ね。部下を捨てて一人脱出するなんて、どうせそんな事だろうとは思ったけど」
「すみません。ヘリで逃げられては……無理な阻止は危険が及ぶと判断しました」
「……仕方がないわ。でも装置は無事制圧した。……手間取った状況で、焦る彼にとってはまさに起死回生の一手だったのでしょうけど。まさか結果がこうとは思っていなかったでしょうね」
傍ら師匠が退屈そうに溜め息をついて、迷彩服を飽きた玩具の如く放り捨てた。
「残念。もっと燃える様なひと時を過ごしたかったのに……仕方ないし、この子達はお持ち帰りして楽しもうかしら」
妖艶に微笑むお師匠に苦々しい視線を投げかける御堂だったが、「当然、御堂も来るのよ」と釘を刺される。
「師匠……すみませんが……」
「私はまだ欲求不満なの。分かるでしょう?」
このやりとり、ナナシとしてはまたか、といった所だ。
あれだけ頑なに拒まれると、逆にそれが師匠にとって物珍しいのかも……しれない。まぁ、あまり深く詮索したくはない事だ。
……ナナシと同じく両者を遠巻きに見守る形だった志遠は、そのままじりじりと距離を取っている。
「え~っと、私は早いとこ失礼しちゃおっかな~」
いよいよ、志遠が困ったような笑みを携えてそそくさと退散していった。
志遠の動きを追っていたナナシの首が、今度は瑠衣の方を見た。
「……俺達もここを出ようか」
「うん。……でも御堂さんが……困ってない?」
「いやあれが本来の御堂さんで、いつも通りだ。何もおかしい事はないだろ」
「そうかなぁ……」
懐疑の眼差しを向ける瑠衣だったが、その両肩をがっちり掴んだナナシの顔が迫る。
「俺の言葉を信じてるって言っていたじゃないか!? あれは嘘だったのかッ!?」
「わッ!? 嘘じゃないよ……! うん。確かになんで私、キミの事疑ったんだろう」
(おい……そう言われると罪悪感が湧いて来るんだが)
思いつつ、しかしさっさとこの場を離れる為に仕方のない事だと――
「その、そろそろ離して欲しいかな……」
目を逸らしながら照れ笑う瑠衣にナナシはハッとして、すぐに身を戻した。
「あ。すまんすまん……」
「ううん。べ、別に嫌じゃないんだけど。少し恥ずかしかっただけでさ……そう、嫌ではなくて……」
俯いた彼女が何やらごにょごにょ口篭っている所で、ノブが二人に口を挟んだ。
「おいおい、空間を作るな空間を! 俺が居辛いだろ……!?」
「空間……?」不思議そうに返す瑠衣を見て、彼は慌てて取り繕う。
「ああいや、違うんだ瑠衣ちゃんその~……そう、ナナシが全部悪いんだよこいつが!」
「何故俺のせいになるんだ……!?」
あれこれ争っている所に、今度は御堂がぬっと現れた。
「ナナシさんッ! お伝えしたい事がッ!」
「うわぁ!? びっくりした……な、なんでしょーか……」
「詳細は後ほど。とりあえず、まずはここを出ましょう」
「……師匠は?」
「置いていきます!」