【妄想】AKIBA'S TRIP1.5   作:ナナシ@ストリップ

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21.前途多難

 

――屋上

 

 

 

かつて、師匠の屋敷があったオフィスビルの最上層。ナナシ自身結構気に入っている場所だが、御堂さんにとっても良く来る場所なのだろうか?

 

彼らは屋上の出入り口を抜けて、突き当たりにあるベンチや灰皿が設置された休憩スペースに向かう。今は、屋上を訪れる者の大半はここが目当てであろう……。ここでは座って一息つくも良し、あるいは、フェンス越しに眼下の街並みを堪能するのも悪くない。

――まぁ今のナナシ達にとってはそのどちらでもなく、ただ落ち着いて話す為に都合の良い場所というだけだ。

 

屋上フェンスの手前で足を止めた御堂は、ナナシらの方へ振り向き本題を切り出した。

 

「……実は先程、気になる事がありまして。ナナシさん達を退避させる時、霞会さんは私達に先んじて最上階へ向かっていた……彼女は坂口と接触し、色々と話し込んでいたのですが」

 

「まぁあの社長さんって、一人で突っ走り気味な所あるもんなぁ」

 

ノブはいつも通り明るく笑っているものの、御堂さんの表情は何やら曇っている。「その内容なのですが」と彼女は聞き得た全てを話した。

禁書の事、紛い者を改良しようとしている事、坂口に試料や資金を提供する者達が裏に居る事……

最初は興味津々で耳を傾けていたナナシだったが、

 

「まぁーだあのおっさん以外に何か居るのか」

 

いつの間にやら渋い顔で愚痴っていた。……正直もうお腹一杯だから、これ以上ややこしくなるのはやめて欲しい所だ。

それにしても、志遠さんも何か事情を知っているという事か……? いや、彼女は"自警団に任せっきりじゃ悪いし、独自に調べている"と言っていた。それで得た情報を元に坂口と喋っていたのだろう。とはいえ御堂さんは彼女の素振りを見て、何か怪しいと警戒しているようだ。

 

それから禁書に関しては、むしろ自分達の方がより良く知っている事だ。

逆にナナシが禁書の詳しい話を伝えると……彼女は驚きながらも、その真偽を疑っているようだった。

 

「NIROの出資者が裏で研究を……? 噂にも聞いた事がありませんし、本当と俄かには信じがたいですが……しかし亡き今となっては真偽も分からずじまい、という訳ですか……」

 

「まぁこれで仮にガセだとしたら、坂口のおっさんが阿呆すぎる。――そうだ! それより禁書といえば訊きたい事が」

 

「……何でしょうか?」

 

「実は秋葉原の地下に、カゲヤシに関係した研究施設があるって噂が……もしかしたら、それに関して御堂さんが何か知っているんじゃないかと」

 

「地下にですか……? それも聞いた事がありません。ごめんなさい、お力になれそうもありません」

 

「ああいや、単なる噂で一応訊いてみたっていうか。まぁそしたら、後は特に何もないな……」

 

「すみません、私からもう一つ。話という訳ではないのですが……その、この場を借りて瑠衣さんに」

 

「私ですか?」

 

「……はい。私がかつて、エージェントとして行ってきた事を、改めて謝罪をしたかったのです。……私にはその責任がありますから」

 

謝るなんて、と瑠衣は首を振るう。

 

「――あの時はただお互いが正しいと思っていて、お互いを恨んでいた……それだけだと思います」

 

「正しい、ですか」御堂は重い表情で、静かに言葉をこぼした。

 

「……カゲヤシは、国家を脅かす危機的な存在。それがNIROの"正しさ"でした。我々がこの国の未来の……唯一の希望というそれを、私は信じて疑わなかった。組織の意志の下、必ず歯車としてやり遂げる。そう思っていた。けれど、現実は……」

 

「すみません」

その一言を最後に、やりきれない様な表情で御堂は瞳を伏せた。申し訳なさからだろうか、言葉を詰まらせてしまった。

少しの静寂の後、今度はナナシが話題を変えた。

 

「むしろ目的が分からないのは瀬嶋だ……もう妖主の血は手に入れたはず。これ以上何の必要がある?」

 

「彼とは……最近、話す機会がありました。大切な者をカゲヤシの襲撃によって失ってからというもの、自分は復讐の為に生き永らえ、復讐の為にただ力を追ったのだと。しかし復讐……それがいつしか、己の苦しみを紛らわす為の行為に変わっていた。だとすれば、今の彼には明確な目的などない。……今はただ、己の衝動に突き動かされている」

 

「失う……、それが奴を変えたと?」

 

「ええ、当然その言葉も真実とは限らない。単なる欺瞞なのかもしれません。いずれにせよ、私も今更擁護するつもりはないですが……ただ」

 

そこで御堂は言葉詰まるが、再び重い口を開く。

 

「ただ、彼の執着は普通じゃない。まるで何かに取り憑かれている様で……」

 

その言葉に、ナナシ自身も他人事ではないような恐ろしさを感じた。己にも少しだが思い当たる節がある、と。

 

――もっと力さえあればと思い詰めた時、紛い者に苦戦した時の自分だ。

もし紛い者との戦いの中で瑠衣の身に何かあったとしたら、自分もなりふり構わなくなっていた可能性はある。力というものは、時として酷く人を狂わせる――ナナシ自身もそれは実感していた。

 

「力に執着……か」

 

「……これまで通り、彼は手段を選ばないでしょう。それからあの霞会志遠という人物……どこか不自然な点が多い。皆さんも、くれぐれも気をつけてください。……それでは私はこれで。先程のビルに何か残されているか、調べる必要があります」

 

…………御堂さんを見送った後、「ここで解散にしようぜ」とノブ。

 

「――俺も一足先にアジトに戻る。ナナシ的にもその方が良いだろ」

 

「……その方が良い? 別に俺はどっちでも――」

 

「言わせんなって、二人きりの方が攻略できるだろ?」

 

ノブの言わんとする事を察したナナシは、嬉しいと思うよりも余計なお世話だ! という感想が先に来た。

「お膳立てはしたからなー」と満足気に走り去っていく彼を見送りながら、ただただ、やりづらい……と目を細めるナナシ。

 

「攻略ってどういう意味だろう?」と瑠衣の質問が飛んできたので、ナナシは屋上の出入り口を細目で見つめながら応じる。

 

「ノブはな、エロゲのやり過ぎでたまに変な事言うんだ。気にしちゃいけないよ」

 

「事情が色々あるんだね…………エロゲ?」

 

「あっ……まあ、それも気にしないでくれ」

 

瑠衣は何かおかしいと感づいたのか、恐る恐るといった表情で訊ねた。

 

「……何故?」

 

「語れば長くなる、それに刺激も強い。そういう意味ではかなり危険なものだ。瑠衣にはまだ早い……」

 

子供扱いされたと思ったのか、瑠衣は不満そうに唸っている。

 

「むぅ……まぁ、いいけどさ。それじゃいつか聞かせてね」

 

「おうよ」

 

 

 

 

 

 

御堂がラジオ会館の調査に向かった後も、ナナシらは屋上に留まり続けていた。

瀬嶋という男についての謎。その疑問を晴らそうと話し込む内に、いつしか二人の議論は白熱していた。

奴はあくまでも倒すべき敵だ――というナナシと、瀬嶋にも何か理由があったのかもしれない――という瑠衣。

 

中々相容れず、ナナシは腕組みをして頭を悩ませる。

 

 

「――復讐か。しかし、分からないな。確かにカゲヤシが先に攻撃を仕掛けたなら、恨むのも分かるんだが……。けど、先にエージェント達の方から狩りを始めたのに……それに対してカゲヤシが反撃して、結果エージェント側に被害が出たからってさ……言い方は悪いかもしれないが、それは仕方のない事なんじゃないか?」

 

カゲヤシ狩り組織の実質トップである瀬嶋も、それを承知の上で任務に身を投じていたはずだ。勿論、憎しみに理屈など通用しないと言えばそうなのかもしれないが……

 

「――俺から見れば自業自得で、とても許されるような事じゃない」

 

「……ナナシの言う事は正しいと思う。昔の私も、きっと同じ考えだった……ううん、今もそこは同じで、あの人の事はやっぱり許せないよ。ただ……」

 

思い悩む瑠衣の素振りに、ナナシはかける言葉を見つけられずにいた。

――瀬嶋には瀬嶋なりの理由がある。そう思えるのは、彼女の優しさ故か。しかしそれにしても、拘りすぎじゃないか? と彼は思う。なぜ瑠衣は、そこまでわけを知りたがるのか……

 

瑠衣は今一度、ゆっくりと語り始めた。

 

「……母さんにも、理由があった」

 

「――昔は母さんの事を分からずやだと思っていたし、結局私と母さんは、直接戦う事にまでなってしまった。けど本当の事を知って後悔したんだ。母さんは酷く人間を嫌っていたけど、それにだってきっかけがあったんだって。ずっと誰にも言わなかったきっかけが……」

 

「だから、あの人にも理由があるのなら……すごく……悲しい事で……。けど」

 

「――けど、やっぱり母さんの血を狙って、私達カゲヤシをずっと狩りたてていたのも事実で……」

 

苦悩し、彼女自身答えを出せていない事が痛いほど分かったが、ナナシは沈黙する他なかった。

 

(まあ瑠衣の言う事だって分かるんだ。俺にとっては優だってそうだった……純粋な敵同士だったが、俺はあの時とどめを刺さなかった。今は、そうして良かったと思ってる……だが瀬嶋はどうだ?)

 

瀬嶋は目的の為ならどんな手であっても使うという男だ。

先の御堂さんの言う通り、その復讐という口実自体が欺瞞かもしれない。同情を惹き、あわよくば味方に引き入れる為の嘘とも考えられる。

むしろ、その方が自然だろう……それがナナシの結論だった。

 

「瑠衣、あまり瀬嶋の言う事を真に受けるべきじゃない。実は嘘で単にまだ血が欲しいだけ、それも理由になり得るだろ? もう何が事実かそうでないか……それを確かめる術はないんだ」

 

「――それにもう、何もかもが遅すぎる。今更奴に情けを掛けた所で、皆が納得するはずもない……」

 

彼女は静かに頷く。

 

「ナナシ。やっぱり終わらせる為には、いずれ倒すしかない……んだよね」

 

「……それ以外、道はないはずだ」

 

 

瑠衣は、彼のその言葉を噛み締める。後は自分の覚悟だけなんだと――空を仰ぎながら心に言い聞かせた。

 

 

 

――第二アジト

 

 

ビル屋上を後にしたナナシと瑠衣の二人は、アジトにてヤタベと談笑していた。

 

「いやあ、良かった良かった。ナナシ君達とはぐれてしまったから一時はどうなる事かと思ったよ」

 

ヤタベは胸をなで下ろし……続いて出迎えてくれたマスターこと姉小路瞬も頷いた。

 

「どうやら私達とは入れ違いだったようだ。しばらく連絡も取れなかったから、本当に心配した」

 

「ごめんなさい叔父さん。色々と余裕がなくて……」

 

少々申し訳なさ気な瑠衣に、「大丈夫だよ瑠衣ちゃん!」と鈴の声。

優しく微笑みかける、ゆるふわマスコットガールこと森泉鈴。癒されそうな光景だが――

 

「私なんてヤタベさんのお手伝い以外、なんにもしてないから! あ、カレーパンは食べてましたッ!」

 

眩しい笑顔の下、今もおかわり分のカレーパンを抱えている鈴が、ハムスター並にばかすか頬張っている。やはりと言うべきか狂気じみた大喰らいに、瑠衣は困った様な笑顔で応じた。

 

「鈴、ありがとう……。お手伝いって?」

 

その疑問に、ヤタベが部屋の奥へ視線を流した。その先に、パイプイスや折り畳み式のミニテーブルが新しく置かれている。

 

「私らにも何か出来ないかと思って、車から少し荷物を運び入れていたんだ。一緒に居た鈴ちゃんも手伝うと言ってくれてね。本来女の子に手伝わせるなんて、するべきじゃないんだけど……」

 

「いいんですッ! それに、お礼を沢山頂きました!」

 

と、鈴が引き続き"お礼"を次々口へ放り込みながら、顔を輝かせている。

マスターは皆へ向けて微笑んだ。

 

「皆お疲れ様、ヤタベさんもお疲れでしょう。みんな何より無事で良かった。今はしっかり身体を休めなくては。そうだコーヒーでも――あぁ、それだと眠れなくなってしまうな」

 

決まりが悪そうな照れ笑いに、ヤタベさんが朗笑で返すと、他の者もつられて笑った。

 

「まぁでも私は一杯貰っておこうかな? 一息つきたいしね」

 

奥で談笑していたゴンとノブが笑い声に反応してか、ナナシ達の方を見、お互いに平手を挙げて応じた。ついさっきまでの情勢が嘘に思えるような穏やかさだ。

早速コーヒーの用意に取り掛かったマスターを後ろに見やってか、「それでしたらご一緒に、お食事の用意でも」とサラがヤタベらに微笑む。

 

「サラさん、いいのかい? いつもすまないね」

 

「いえ。メイドとして当然の嗜みでございます」

 

マスターがコーヒーの用意を始め、周囲も食事や菓子の用意などをし始めている。

そんな中……テーブル席に腰掛けて一息つくナナシに、美咲がすすっと歩み寄る。

 

「……お兄ちゃん、無事で良かったよ」

 

気恥ずかしそうに言葉を掛ける彼女に、ナナシは立て肘をついて明後日の方向を見ている。

 

「なんだ改まって。金か? ないぞ」

 

「お金じゃなああああいッ! 折角真面目に人が心配してんのに~……」

 

「日頃の行いだぞ。……ところで、藍って子はどうだった?」

 

「え? ……っと、それが全然説得できなかったよ。むしろ危うくやられる所だったというか、あの変な音に救われたけど」

 

「駄目だったか……どれも上手く行かないな」

 

「う~、優って人も一緒に説得してくれたんだけど。結局駄目でさ」

 

「あ、あいつがぁ? そんな奴だったっけあいつ……」

 

 

 

 

 

 

ちょっとした慰労パーティがお開きになり、しばらくして、皆が寝静まった頃……いまいち寝付けずにいたナナシは人の気配に気が付いた。

起き上がり、その気配の主を見た瞬間……

最悪の事態にナナシの目の色が変わり、その巡り合わせの無慈悲さを呪う事となる。

 

……人影があのヒロだったからだ。

 

「ヒロ、なんでここが分かった」

 

「まだ寝ぼけてるのか? ……言ったろナナシ。"お前は俺"なんだ」

 

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