【妄想】AKIBA'S TRIP1.5   作:ナナシ@ストリップ

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4章投稿の為に前話をさらっと読み返したら、クオリティがだいぶ酷かった……
かなり無理して書いていたとはいえ、うーん。

とりあえずこの4章が最後です、更新の遅さを反省して毎週投稿位のスピードで行くつもりですが、多少遅れるかもしれません。
(3章も手直ししたくなって来ちゃったしどうしよう……)


四章
24.平和……?


「未だ実現を見ぬ理論がどれだけあるか、キサマらにそれが分かるか!?」

 

坂口のヒステリックな叫びが空に響き渡る。

冬風が吹き抜ける中、無言で叫びの主を一歩、一歩と追い詰めていく――その足音が、坂口の焦りを余計に煽った。

 

「こ、こんな所でェ……!」

 

歯軋りと共に睨みつける眼差し。

 

だがそれは、所詮見え透いた虚勢。

 

今更声を荒げたところで、出来る反抗はそれくらいのものだった。血走った目にはもはや、敵意よりも怯えが滲んでいる。

 

背後はビルの縁。

もう、逃げ場はない。

 

屋上の端で、子供の様に地団駄を踏むのが関の山。

その姿に、ナナシは呆れたように肩をすくめる。

 

「いや、いい加減にしてくれよ」

 

軽く目元を擦り、疲れた声で続けた。

 

「……またびっくりメカが増えるだけだろーが」

 

そうしてまた一歩、確実にその距離を詰める。

疲れた眼差しに対して、なにおう、と唸る坂口……

 

「よいか! このテキストの全容さえ解き明かせば、不老不死さえもその手に――!」

 

なおも声を荒げ、その手に高く掲げられる禁書。

坂口にとって最後の頼みの綱だった。

だが次の瞬間――

 

見えない何かが空を切り裂く。

 

「……あっ?」と坂口が間の抜けた声を漏らした。

禁書が弾き飛ばされたのだ。

 

全員の視線が宙を舞うノートへ向けられた。

屋上の手すりを越え、落ちていく。

 

坂口は慌てて屋上の外側へ駆け寄り、身を乗り出すようにして下を覗き込んだ。

虚空に手を伸ばすものの、掴めるものなど何もない。

 

「あぁ……!? 私の夢がぁ、私の全てがぁ……!」

 

坂口はその場に膝をつき、屋上の冷たい床に力なくへたり込んだ。

先ほどまでの高圧的な態度が嘘のように、彼の背中は小さく震えている。

 

一方で、何事かと辺りを見渡すナナシ。

 

背後の扉が風でわずかに揺れている。その隙間で、確かに人影が動いた。

屋上へアクセス出来るのはあれが唯一。

階下へと繋がる出入り口――

 

「……っ!」

 

反射的にその扉へ駆け寄り、勢いよく扉を開け放つ。

 

冷たい風が吹き込む中、すぐ先に続くらせん階段が視界に入る。

だが、そこに人の気配はない――かすかに残る足音と共に消え去っていた。

 

階段の手すりに手をかけ、下を覗き込む。

 

姿は忽然と消えている……ただ、焦げたような火薬臭が漂うのみ。

 

いや、それにもう一つ。

 

どこかで嗅いだ事のある、甘い香りが鼻をかすめた。

ナナシは目を細めて思案する。

 

(……この香り、間違いない。俺は知っている! この匂いは――)

 

脳裏に浮かび上がる一つの答え。

だが、それを肯定したくないという思いが即座に頭をよぎる。

 

ナナシはしばし立ち尽くし、階段を見下ろしていたが、やがて小さく息をつき、低く呟いた。

 

「……まさかな」

 

手をポケットに突っ込みながら、仲間たちの下へと戻り始める。

その足取りは、どこか重い――

 

 

 

――第二アジト

 

翌日。

 

「アキバの平和に乾杯!」

 

缶飲料の触れ合う軽快な音が響いた。

自警団の面々は、それぞれが手にしたドリンクを片手に、勝利の余韻に浸りながら笑みを交わしていた。

 

「やれやれ、今回の件もようやく終わったねえ」

 

テーブル席に腰掛けるヤタベが、缶コーヒーを一口すすり……肩の力を抜きながらほっと微笑んだ。

 

「そーっすねぇ。……しかしこれどーするよ? 引越ししちゃったじゃん?」

 

カウンター近くに佇むノブが、手にした缶ジュースを軽く振りながら苦笑した。

 

視線の先には、急ごしらえで揃えた机や椅子たち。

無造作に置かれた家具のせいで、なんだかここの広さも余計に悪目立ちしている。

妙な居心地の悪さだが、しかし元のアジトへ戻すのも一苦労というわけで……

 

「も、もうこっちを拠点にしても良いんじゃ……でもちょっと広すぎだよね、ここ」

 

ゴンが視線を巡らせながら遠慮がちに呟く。

それにノブ・ヤタベも「そうだなぁ」「そうだよねぇ」と唸っては、ドリンクをもう一口含んだ。

 

「お三方。目を背けないでください」

 

するとサラの澄んだ声が一同の注意を引いた。

「今の問題はそれよりも、でしょう?」そう言って彼女が視線を落とす先には――

 

縄でぐるぐる巻きにされ、正座させられる坂口の姿があった。

 

「ぼ、暴力反対ですよ!」

 

正座したまま、うねうねと身をよじらせる坂口を前に、叱られた三人共バツが悪そうに顔を見合わせた。

 

 

――屋上

 

他方。

勝利に沸く仲間たちの喧騒から離れ、ヒロはただ一人、秋葉原の街並みを静かに見下ろしていた。

その瞳には、どこか陰りがある……

 

「……おかしい」

 

浮かない顔をして立ち竦んでいると、ふと近づく足音に気づく。

振り向けば、ナナシの姿があった。

 

「どうした?」

 

彼は問いかける。

いつもの飄々とした態度ではなく、純粋に心配している声色で。

 

ヒロは街並みに目を戻して押し黙る。

何やら思うところがあるようだ。

 

一瞬の沈黙が流れる――

 

「これで本当に終わったのか? ……呆気なさすぎる」

 

――唐突に口を開いたかと思えば、神妙な顔のまま問いかけてきた。

 

「知らんけど、瀬嶋達で潰し合ってくれたおかげだろ。結果オーライじゃん?」

 

半ば出任せを返すと、ヒロは顎に手を当てて頷いた。

 

「……確かに、そうなのかもしれないな」

 

言葉とは裏腹に、面持ちは依然固いまま。

 

色々苦労していたのだろう、急な解決に当惑するのも無理はない……

労わる様に、ナナシは笑みを差し向けた。

 

「色々あったんだし。今は案じるより、素直に平和を謳歌する時にしようじゃあないの」

 

「……そうだな。……ようやく終わったんだ」

 

決して言葉通り納得はしていない。

ヒロにとって、それはただ自身に言い聞かせる意味合いが大きかった。

 

終わった。

だが。

 

どこか引っかかっていた。

特に、あのノート――秋葉原禁書の内容が。

 

もし内容が本当だとすれば……

ヒロは無意識に、拳を握り締めていた。

 

そんな様子を見て、ナナシは面白くなさそうに鼻を鳴らした。

……なんかまぁ、一人で真面目な世界に入っているのが気に食わなかった。

 

「お~いいつまで気難しい顔してんの?」

 

彼の肩をベシベシ叩きながら言った。

そのたびに顔をしかめるヒロは、鬱陶しそうに肩の手をどかして睨みつけた。

 

「……ほっとけ!」

 

その言葉を最後に、うんざりした様に背を向けてしまった。

けれどもナナシは気にするそぶりもなく、あっけらかんと捨て台詞を放つ。

 

「はいはい、んじゃさっさと瑠衣のとこ行こ~っと」

 

雷のように脳を直撃するその一言。

ヒロは動揺を隠すように、目を背けながら「……待て。そういう事なら俺も同行する」と静かに返した。

 

 

 

――ジャンク通り カフェ

 

瑠衣がカフェの人気ドリンク"練乳トマトラテ"をナナシに差し出しながら、ご機嫌そうにテラス席の対面へ腰掛けた。

 

「はいっナナシ。どーぞ!」

 

差し出したドリンクを置きながら……少し照れくさそうに微笑んでいる。

 

「へへ、決めるの迷っちゃって。キミと同じのにしてみたよ」

 

一方、ナナシは死にそうな顔でそのドリンクを受け取る。

ヒロの執拗な追跡を撒いた後だ、一苦労なんてもんじゃなかった。

 

(やれやれ、あいつ急に必死の形相になりやがって……からかうんじゃなかったよ)

 

そんな内心を隠しつつ、ナナシは曖昧に「ありがとう」と礼を述べる。

瑠衣はそんな彼の様子に首を傾げた。

 

「どうしたの? ……ね、これさ、叔父さんの自信作なんだよ」

 

「看板メニューなんだろう? 飲んだことなかったが……どんな味なのか想像つかないな」

 

ベジスイーツってやつだよなと一口飲んでみると――濃厚な練乳の甘い口当たり、トマトの爽やかな酸味が後を引く。

その意外なおいしさに思わず目を見開いた。

 

野菜ベースながら、しっかり利いた練乳とバニラの芳香な香りがスイーツとして成立させている。

それでいて後口はさっぱり、不思議な味わいに魅了される。

 

二人は甘いラテに癒され――道行く人を眺めつつ――ゆっくりと流れる時間を共にする。

どこまでも穏やかで、平和な時間。

 

「瑠衣よ……平和だな……」

 

「だね……」

 

テラス席に座り、気の抜けた表情で通りを眺める二人。最高のひとときだった。

しばし幸福感に浸っていたナナシだが、不意に瑠衣を見る。

 

「ところで瑠衣」

 

「うん?」ドリンクを飲んでいた彼女の瞳がぱっちり見開いてこっちを見た。

突然だけどさ、と話を続けるナナシ。

 

「自分で言うのもなんなんだけど、俺は今まで頑張ってきたと思う。そこでだ。そろそろ瑠衣から俺に、何かご褒美があっても良いんじゃないか」

 

「ご褒美……っていうと?」

 

ストローから口を離して、小首を傾げる瑠衣。

 

「私に出来る事ならしてあげるけど……」

 

何が良いかなあ……? と、ちょっと楽しそうに尋ねる彼女。

が、ふと一転して神妙な顔で見つめてきた。

 

「……あ、変なのはダメだよ? 普通なのが良いな」

 

ふむ、とナナシは真面目な顔して顎をさする。

 

「普通じゃないご褒美か……SMプレイ的な? それだとちょっと違う方向性になってしまう」

 

「また私の分からない単語が出た……というか、普通の、だよ?」

 

呆れたようにジトっと見つめてくる。相変わらず表情豊か、話しているだけで楽しくて本来の目的をつい忘れそうになるが……

 

「それで、それってどうして"普通じゃない"の?」と、今度は知識に飢えた子供の様に、彼女は期待に目を輝かせた。

 

「普通じゃない理由……なんで普通じゃないかっていうと、ご褒美なのに痛いからだね。…………何を言っているんだ俺は?」

 

「……私に聞かれても分からないよ」

 

「すまん、師匠に課せられた修業が頭に浮かんでだな……それに引っ張られた」

 

「修業? 課せられた修業は、ある意味痛いご褒美、って事か……確かにそうかも!」

 

「なんだか、すごく良い心構えを聞けた気がする」と瑠衣はキラキラの笑顔。

 

「やっぱりナナシって私とは違う達人というか、だからそんなに強いんだよね……」

 

「いやぁ、そうかな~?」とナナシは頭を掻く。

ちなみに、照れている訳ではない。

えっ? そういう解釈で来るか~、のそうかな~、である。

 

「そのさ……最近ずっと一緒に居るから麻痺してたけど、改めてやっぱりナナシってすごく強いなって。皆よりも一つ抜けてるっていうか……私だって結構真面目に強くなろうとしてるけど」

 

「キミは脱衣の腕も、戦いの駆け引きも完璧だった……恐ろしい程に。最初は冷徹な戦士だと思った位なんだよ。けど話してみて分かった。……そうじゃない、優しい人だって」

 

「……本当、キミが味方で良かったな」

 

参ったな照れるぜー、と今度こそ照れるナナシだったが、ふと神妙な顔になった。壮大に話がズレてきている事を悟ったのである。

 

「……話を戻そう。じゃあなでなでとかどうよ」

 

「ナデナデ?」

 

「そうだ。瑠衣に一度やってみたい」

 

えぇっ!? と瑠衣は目を丸くしてから、

「良いけど……」とモジモジしている。

 

「それじゃ私がご褒美を貰っているような気が……」

 

「確かに……」とナナシも呟いてから数秒経って、彼の脳内で何かが引っかかる。

 

「いや待ってくれ、俺に撫でられるのはご褒美という認識なのか?!」

 

思わずテーブルに前のめりになるも、彼女は慌てて両手を振るった。

 

「それは……っ! その、普遍的な感覚であって、やっぱり撫でられるのって良い事した時だし……!」

 

「……ナナシに撫でられたらそれはまぁ……嬉しいけど」

 

「いや素直か?」

 

「……もう。意地悪しないでよ」

 

瑠衣は照れたように視線を逸らしてしまう。

 

「いやすまん、そういうつもりじゃないんだが。あ~そうだ、それより良い知らせがあってだな……」

 

 

 

 

「父さんが?」

 

瑠衣は驚きに目を見開いて、ナナシの顔をじっと見つめている――

 

「ああ。会いたいってさ」

 

その言葉に、一瞬戸惑いを見せていた彼女の表情が、明るい笑顔へ変わった。

 

――瑠衣の父親が、どうしても娘に会いたがっている。

 

情報屋経由で連絡があったのは、つい昨日の事だ。

彼は以前、娘の写真が欲しいと依頼してきた事もあった。

 

初めはナナシから写真を受け取り、それで静かに身を引くつもりだった。

だが、愛娘の姿を一目見てからというもの――近頃、アキバで再び騒ぎがあってからは特に――会いたいという思いが強くなったのだと。

 

瑠衣にとって、その知らせは思いがけないサプライズ。

 

母親とはすでに和解を果たし、今度は父親とも会うことができる――

瑠衣の表情には、喜びと期待、そして少しの不安が交じり合っているようだった。

そんな様子に、「俺は伝えただけさ」とナナシ。

 

「……会うかどうか決めるのは瑠衣だ」

 

「うん……ごめん、少し緊張してて。でも、やっぱり会ってみたい」

 

「……ありがとう、ナナシ。本当に」

 

感極まるのを誤魔化すように、瑠衣は無邪気に笑ってみせた。

 

その微笑みは何にも代えがたかった。

 

ナナシが戦ってきたのは、この街の為、友人の為、人々の為……

だがそれ以上に、彼女の笑顔の為だった。

 

(頑張ってきたご褒美、か)

 

そう、今はただ、笑顔を見守れるだけで十分なご褒美か……ナナシも気づけば、彼女を前にしてふっと微笑んでいた。

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