【妄想】AKIBA'S TRIP1.5 作:ナナシ@ストリップ
追跡中だった末端三名と合流の後、情報の人物と接敵し戦闘を開始する。
瑠衣とナナシが別れ、少し経った頃。
雨の中の秋葉原……人気の無い路地で、複数の足音が慌しく何かを追っていた。
灰色の空の下、建屋の立ち並ぶ細路地には、光も満足に差し込まず。暗い道の中、色もそこでは一様にくすんで、モノクロの世界に迷い込んだかと錯覚させる。
その中を走り抜ける複数の闘争意思。苛立つ様にバシャバシャと音を立てて行くその主は、狂犬の如く執拗に"何者か"を追い立てる四人。
先頭切って駆ける追っ手、安倍野優が吠えた。
「お前ら、逃がすんじゃねえ!」
『くそ……! 見失うぞ!』
それに続きバンドマンの格好をした末端が、後続二名の末端にそう言った。
優は左右の建物を素早く飛び移っていく。末端達は了解と、それに呼応しながら優の軌道に追随した。
「やっと見つけたぜ……クソ野郎が!」
優は末端三名と共に、フルスピードで標的を追跡する。だが、標的は速い。特に直線でのスピード差は顕著なものだった。
相手からの距離は少しずつ離されていく。
「逃がさねぇぞ……! ま、ち、や、が、れ……!」
「ふん。いつから追う側になったと錯覚していたんだ?」
突然、追っていた存在が優の眼前に現れ、続けて驚愕したその顔目掛けて蹴りをお見舞いした。
「なッ!?」
優はとっさに後ろへ退き、男の蹴りは優の頬のあたりをかすめた……受け止めず、とっさに避けたのは正解だった。
鋭利な蹴りは、その足先を掠めただけで右頬を細く裂き、切れ目からは鮮血が垂れていた。もし前腕を盾に受けようものなら、むしろ深手を負っていた事だろう。
下手に防げば、逆にそのまま多大なダメージを負いかねないほどに、それ程に凄まじい蹴りだった。
優は、気に入らない、と言いたげに舌を打った。
「全く、余計な戦いでスーツを濡らしたくはなかったというのに」
「バカな奴らだ。大人しく、見て見ぬふりをしておけばいいというものを……」
「そうすれば、この"天羽 禅夜"に逃げてもらえたんだぞ?」
「命を、奪われずにねぇ……!」
禅夜と名乗ったスーツの青年は両腕を広げて、残忍な笑みを見せる。
優は頬からの出血を拭い、敵意に顔を歪ませた。
「てめぇ……!」
『優さんっ!』
正面から一人の末端がギターを構え突進する。しかしいとも簡単に避けられ、蹴り飛ばされてしまう。その様を禅夜が鼻で笑った時だった。
間髪入れずに左右両端から、二人の末端がギターによる同時攻撃を掛けた。正面から攻撃し、それに気を取られた隙に左右から襲う、二段構えの攻撃━━だが禅夜はその場から一歩も動かずに、余裕の元、それぞれを左右の手で掴み止めてみせた。
「……なんだそれは?」
『こ、こいつ……!?』
一方の末端がその腕力に驚愕する。
もう一人の末端が全力でギターを押そうが、掴み止めたその腕はびくともしない。
『力が……強すぎる……!』
「小賢しい限りだな。そんな真似をしても無駄だよ!」
末端はギターを掴まれたまま、それぞれ禅夜の頭上を交差するような形で投げ飛ばされ……雨に濡れた路地に打ち付けられた。
「ふん、非力すぎる!」
(どうなってんだ、一体……!)
薄ら笑いを浮かべる相手を見て、優は戦慄した。
驚いているのはなにも脱衣の技術や戦い方のことではなく、その身体能力。まるで別世界から来たかと思わせるほどの、予期しない規格外の強さ……
それも、わざと舐めた動きで遊んでいるのかは分からないが……ろくに動きもせず、戦い方としてはまるでなっていない、荒削りで素人のような動き……それでもなお強引に相手をねじ伏せる様は、今まで見たことのないタイプだった。
優は一時撤退を決断した。
「お前ら、一旦退くぞ!」
『はい!』
「馬鹿め、最初からそうしておくべきだったな! ……今更逃がさん!」
路地を走り抜け禅夜を振り切ろうとするが、振り切れない。
それどころか、差は縮まっていくばかりだった。ついに末端の一人が禅夜の蹴りに捉えられ、彼の面前に倒れ込む形となる。
「捕まえたぞ」
『ぐッ……!』
(ちっ……! 捕まりやがったか)
倒れた末端を助ける為、他二人の末端は逃走を中止し応戦する姿が見えた。
「……ッ」
「…………関係ねぇ……!」
それを見、優は一瞬迷った……だが、自分に言い聞かせるように呟き、そのまま逃走する。今までなら、末端を囮にして逃げるなどやっていたことだ……
……今までなら。
だが今になって、優は内心葛藤していた。優は人間という心の底から忌み嫌っていた存在に、命を助けられたことを思い出していた。
その人間の名は、ナナシ。
優はかつてUD+で、ナナシとの最後の決闘を挑んだ。
己の全てを掛けた勝負。生き残る為に立ち回ってきたそれまでとは違う。もう己の存在理由は、ナナシに勝つかどうか、それだけだった。親からも失望され、自らに残っていたのは"奴"に対する、ちっぽけなプライド……
誇り高きカゲヤシとして強さを証明し、己だけでも納得させなければ、もはや何も生きる意味はない。ここで負ければ、自分は死ぬ。
そして優は決闘の結果━━━━━━負けた。
だが、彼は言った。
『━━優、ここまでだ。早くどこかへ行くんだな』
己にとっては文字通り、最後の決闘のはずだった。
本当なら自分は死んでいた……その寸前で、ヒトに情けをかけられたのだ。しかしその時、不思議とそれを不快には思わなかった。それは何故か初めて己という存在を、誰かに許された気がしたからだった。
そして今。情けで助けられておきながら、また自らは過去と同じように同族の部下を犠牲にし━━自分だけが助かろうとしている。
(全く情けねえ、それでいいのか? こんなんじゃ俺がクソみてぇに嫌っていた人間以下じゃねえのか?)
(どうせ救われた命なら……)
「クソッ、何を迷ってる……俺は……」
(見捨てるなんざ、今まで散々やってきたことだろ……!)
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『う、うう……』
アスファルトに倒れこんだカゲヤシ三人を禅夜は見下ろす━━
「土産にこいつらは連れて行くとするか……」
━━その時。
禅夜はとっさに何者かからの攻撃をかわした。
彼の代わりに自販機が攻撃を喰らい、ドゴン、という音と共に"く"の字にひしゃげたそれは、飲料を吐き出しながら豪快にふっ飛んで行った。
「……チィ! 避けやがったか」
そこにはナイトスティンガーを構える、優の姿があった。
「何……」
「カゲヤシは末端など助けないと聞いていたが……」
『優さん、なんで……!?』
「わりーな。ついさっきその考えはやめたんでなあ」
「……それによォ、末端かどうかなんて関係ねぇぜ? それ以前に俺の部下だ」
「パシレる手下いねーと、色々メンドくせぇからよぉ!」
いつもの悪者顔で優は言った。
『優さん』
━━さっさと逃げろ。
短く優が言うと、末端達は駆けていく。見送った後、顔を禅夜に向き戻した。
「ふん、自分から死にに戻るとは。予想以上の馬鹿だな」
「……だからなんだ? 元々俺は一回死んだようなもんだしな」
「今更……どうってことねぇ!」
優は突っ込み、ナイトスティンガーをがむしゃらに振り回す。
その攻撃は、禅夜にはかすりもしていない。
「クソッ……なんで当たらねぇ!?」
「ふん……」
「遅すぎてあくびがでる、よッ!」
優の腹に重い蹴りが入る。
「ぐぶっ……!?」
「ぉ……」
苦痛に身を屈め、よろよろと禅夜にの足へよりかかった。
「……もう終わりか? なら攻守交替……、こちらの番……うっ!?」
「バァーカ」
顔を下げたまま優が言った。それを聞き禅夜は気付く。よりかかったふりをして、スーツの下端を掴んでいたことに。
「こいつ……! 効いていないのか!?」
「へっ、あぁ。いや効いてるさ……しっかりな。お前の体の強靭さと比べりゃ、割かし打たれ弱ぇみてーだが……」
「テメーの身体に肉薄するぐらいには、役に立ってくれたぜ……!」
「殴るしか脳のねぇテメーが勝てるほど……脱衣は甘くねぇんだよ!」
禅夜のスーツは破け、上半身のYシャツが露になる。優は立ち上がり、ナイトスティンガーによる追撃をかけた。
━━とっさに禅夜は腰に下げていたロッドを持ち、剣で言う鍔の部分から伸縮式の刃が展開する。上半身を守るように伸びた刃はそのままナイトスティンガーを受け止めた。
「貴様……!」
「私に剣を抜かせたな……私にぃ!」
禅夜は激昂しながらナイトスティンガーを剣で払い、次いで高速の突きを繰り出す。
「ッ!」
優はその切っ先を避け、時にナイトスティンガーで切っ先の軌道を払うものの、反撃の機会を見出せずにいた。
「そらそらァ! いつまで避けられるかな!?」
「クソ!」
「おっと、足元注意だ!」
「……!?」
突如足を引っ掛けられ、優は転倒しそうになる。だが、ナイトスティンガーを足代わりに地面に突き立て、素早く体を立て直した。
しかし……優が顔を上げた時、既に眼前には禅夜の剣先が突きつけられていた。
だが、優も咄嗟に剣先を突きつける腕の袖口を掴んでいる。
「掴んでそれで勝ったつもりか? 今は雨だ。そのまま私を脱がしても……この剣が君を貫いて終わり……だ」
「どっちにしろ、上を脱がしただけでは灰にはならないけどね。普通に戦った所で、結果は私が君を灰にするだけなんですよ」
「それじゃそろそろ終わらせよう……さて先程も言ったように。灰にしてあげたいところだが、生憎の雨だからね」
「心臓でも貫いてやろうか?」
禅夜はその剣先を、顔から、胸部に移動させる。
「ちっ……」
「ふん。正直私としては、殺してしまいたいところなのだが。まぁ、いい」
禅夜は剣を下げ、空いた手で小型銃の様なものを取り出した。
「一応眷属には捕獲命令が出てるからね……従っておくのも悪くはない」
「テ、テメェ……何を」
「少し眠っていてもらうよ」
(ッ! 麻酔……!?)
優の意識が遠のき、視界は揺れる。
そのまま倒れこむ優を見下ろしながら、禅夜は不気味な笑みを浮かべる。降りしきる雨の中、その両目は妖しく光っていた。
元ネタ
AKIBA'S TRIP2
天羽禅夜
自信過剰で神経質。他を見下している節があり、カゲヤシを下等と決め付ける。