ストライクウィッチーズ -Fly By The Rainbow-【七色の空へ】 作:それいゆ
かなり長丁場になると思いますが読んで頂ければ幸いです
episode0『落雷』
1936年2月26日
京都府舞鶴市
「はあ…続くねえ…」
3日続いての雨に扶桑海軍北郷章香少佐(以下、章香)も流石に気乗りしない中で執務室の椅子に腰掛けた。
寒風吹き荒ぶ季節に雨が続いたこともあり、突き刺さるような寒さを室内
からでも感じていた。
「(昔はこういう時でも容赦なく走り込みさせられたなあ)」
降りしきる雨を見ながら任官した当時の事を考えて物思いにふけっていた章香だったが、瞬間窓が光り、数刻後に落雷の轟音と「ズン」と地面が揺れる感覚を肌で感じ取った。
「…?(変ね、近くに落ちたにしては光るまでちょっと時間差があった様な…)」
通常雷は遠くに落ちる場合は空が光ってから落雷の音が響くまでにラグがあり、逆に近ければ落ちたと同時に音が聞こえてくる。
数年前の遣欧の際に在欧中だったリベリオンの自然学者から雑学として聞いた知識を覚えていた章香は、振動が伝わるほど至近で落ちたのなら「光と音の時間差」は無いはずだが先ほどの落雷では時間差があった点に違和感を覚えた。
「………」
その振動というのも些細な揺れで、事実章香以外ならさして気にせず机の書類に意識を向けていたであろうが、その違和感から「何か」を感じ取った章香は腰を上げ執務室を経っていた。
「あれ、先生…?どうかされたんですか…?」
「ん?ああ、坂本か」
声を掛けてきたのは坂本美緒。
章香が受け持っている道場の門下生で魔法力にも目覚めているが、同時に発現した魔眼の異能を制御できず、苦心している生徒として特に目をかけている。
合羽と傘を準備して雷雨の中で外出しようとしている章香を見て思わず声を掛けた様子だった。
「少し確認したいことがあってね」
「すぐ戻るから心配しなくて大丈夫だよ」
「わ、わかりました。お気をつけて」
むやみに不安がらせないよう気を回しつつその場を後にした
「さて…そんなに遠くないはずだけど」
先ほどの振動の感覚から、少なくとも半径1km圏内で何かが激突したか、あるいは落着したかという予測を立てながら外に出た章香。
「流石にこの雨の中じゃ厳しいかな」
暴風雨とまでは行かないながらかなり強く雨粒が飛んで来るため、視界は想像よりも芳しくなく内心外に出てきたのを後悔もしつつあったが、自分の感性を信じて震源と思わしき方向に足を運んでいく。
「…参ったな、この中か」
そう思わず口に出してしまったのも無理はなく、たどり着いたのは手入れもまばらな雑木林であった。
単車がギリギリ通れる程度の小さな道が一本あるくらいで誰も寄り付かない場所であり、もしこの中で身動きが取れなくなった場合を考えても間違いなく雨の中で入るべきでない場所だった。
「特に何も言わずに出てきたし、雨が上がるのを待つしか…」
そう納得しながら雑木林を眺めていたが、次の瞬間木々の奥から青光りがしたのを章香は自分の目で捉えた。
「…!?」
一瞬見間違えかとも思ったが、残光がゆっくり消えていくのを遠目ながらも今度はしっかりと確認できた。
「まるで来い、とでも言いたげね…」
「(ウィッチが不時着したと考えるべきか、それとも…)」
先ほどの衝撃がこの雑木林に何者かが落ちてきた際の物である事を確信しながら思考を巡らせる。
唯の事故ならそれで処理すれば良いが敵性勢力の何らかの物である可能性も否定できなかった。
「まあ…なるようになるでしょ」
口は軽いが、その目は空に上がっている時と変わらない眼差しで章香は森の中へ踏み込んでいった。
数分歩くと10mはあろう大木が斜めに倒れているのを発見した。
木のひび割れの真新しさから見てついさっき出来たものとすぐに理解できた。
「対象はこの木に追突した…と考えたらこの辺りにいるね」
雨で音と匂いがかき消される中で神経を尖らせ、周囲を警戒しながらゆっくりと歩みを進めていく。
数分後、折れた大木の周囲50mほどを探索したが、それらしきものは結局見つからなかった。
「うーん、移動した…?にしても足跡も無かったし…」
何事も無いならそれに越したことはないが、それはそれで自分の直感が頓珍漢だったことになるため、少し意固地になって考え込む。
そうして立ち尽くしている章香の頭上から木の枝の折れる音が雨の水音を貫通して鋭く響き渡った。
「!?」
音に反応するまま上を見上げると「何か」が頭上から降ってきており、とっさに茂みに飛び込んで回避し、落ちてきたモノはドスンと鈍い音を出して地面と激突した。
「ッ!!」
転がりながら即座に起き上がり、レインコートの裏に仕込んでいた短刀に手を置く。
「…え?」
臨戦態勢で落ちてきたモノをに近寄って確認するが、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
それもそのはず、怪異やスパイといった類と思っていたが実際のところはただの少年だったのである。