ストライクウィッチーズ -Fly By The Rainbow-【七色の空へ】   作:それいゆ

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章香が見つけた「謎の少年」についてその正体を探っていきます。


episode1『傷ついた器』

2月27日

 

道場内休息室

 

雷雨の中の捜索から丸1日、ようやく雨が上がり快晴となった昼前。

 

章香は珍しい客人を招いていた。

 

「…で、好みだから攫ってきたのがこの子と」

「だ、誰がそんな事言った!?」

 

痛烈なジョークを言い放ったのは扶桑陸軍江藤敏子中佐(以後、敏子)

章香とは旧知の仲であり。いがみ合う陸海軍の上層部の裏でお互いが派閥の垣根を超えた連携を取るようパイプを敷いている。

 

今回いわゆる「謎の少年」を保護した件で直接相談したいと連絡を貰い、

舞鶴まで足を運んできたのだ。

「でも……確かにこの子が落ちてきたのは事実よ。」

 

「まあ、そこは信じるけど……」

 

その問題の「謎の少年」は静かに寝息を立てている。

暗器等を隠し持ってないためスパイの線は無いことだけはわかったが、この1日何を問いかけても一向に目を覚まさない状態だった。

 

「持ち物は?」

 

章香は首を横に降る。

 

「ただね…」

「?もったいぶってないで言いなさいよ」

 

言うのをためらっている章香にそう言うと決心して口を再び開いた。

 

「彼の身体検査で上半身だけ確認したんだが…『無数』といって良い位に傷や銃創があったんだ」

「…へえ」

 

この少年は明らかに市井の中で暮らしてきた人間ではないことは確かであるが現状はなにも『わからない』という他なかった。

 

「まさに謎の子ね……」

 

お手上げと言うように両手を上げる素振りをしながら呟く敏子

 

「困ったもんだよ、ホント」

 

やや呆れ気味に視線を送る章香。

が、その瞳が彼を映した時に僅かに慈悲の意思が含まれているようだった。

 

「全く……すっかり先生兼お母さんって事かしら、北郷少佐?」

 

「だ、だからそんなんじゃないって」

 

「はいはい」

 

「もう……!」

 

青かった時代を知る身として微笑ましい表情を出した旧友をからかう敏子だった。

 

「う…ぐぅ…」

 

そんなやりとりをしていると少年が目を覚ましたのかうめき声を出しながら身をよじる。

 

「!」

「お、おい章香!」

 

章香は素早く少年に駆け寄り、対する敏子はやや警戒しながら後を追った。

 

「………」

 

少年は起き上がることなくゆっくりとまぶたを上げた。

 

「大丈夫かい?君、この近くの雑木林で倒れていたのよ」

 

「あ、ええと……」

 

「どこか痛むところはある?怪我は無いみたいだけど……」

 

「いや……大丈夫です」

 

まだ少し頭が回っていない様子ではあったが、受け答えもしっかりしており特に問題は無いよう見て取れる。

 

「ここは…」

 

「舞鶴の講堂館の中よ。」

 

まだ意識がはっきりとせず、見知らぬ土地に戸惑うような素振りの少年に章香はそう答える。

 

「舞鶴の…」

 

少年はほんの少し目に光を取り戻して反応した。

 

「あなたは空から落ちてきたのよ」

 

敏子は少し言いづらそうに切り出す。

 

「信じられないと思うけど事実なのよ。ね?北郷少佐?」

 

「……ええ、近隣にある雑木林で気を失っていたあなたを発見、保護しました。」

 

「『落ちた』所を見たわけじゃ無いけれど、周辺の状況から見てどれだけ少なく見積っても高度500m以上から地表に落着した、と見るのが自然だったためそう呼称しています。」

 

章香も状況を全く掴めていないが、そう答えるしか無かった。

 

「少し落ち着くまで待ちましょうか」

 

ーーーーー

 

「尋問みたいになって申し訳ないけど、いろいろ質問するわね」

 

数分後、洋風の座席に3人は向かい合うように腰かけながら質疑応答を始めた。

 

「まず、あなたの名前と年齢から教えてくれる?」

 

「名前は…中川尚樹です。年は…じゅう…に…です。」

 

少年こと中川尚樹(以後、尚樹)は自分の腕を確かめるように握りながら答えた。

 

「…?えっと、中川尚樹くん、住所だったりご家族について教えてもらっていい?」

 

どもりながら返事をした事を章香は少し気になったが構わず話を続ける。

 

「家は…ないです、家族も…」

 

「あ、ああ、そうなのか…ごめんね。」

 

予想はしていたが実際にそう言われると申し訳無さが勝ったのか謝る章香だが、そこを被せるように敏子が話す。

 

「じゃあ...…あなたが覚えている範囲でいいから、自分の気を失う前の事について教えて貰っていいかしら」

 

「……よく覚えて無いです、すいません……」

 

少年は俯いて目を強張らせた。

 

「んー……そうかぁ」

 

「…まずは自己紹介でもしたほうが良さそうね」

 

すこし考えた後、突拍子もなくにそう言い放つ章香。

 

「…あ~まあ確かに」

 

敏子は小さな笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「この子からすればアタシたち『目が覚めたら枕元にいた正体不明で怪しい美女2人』だしねぇ?」

 

「び、美女かどうかは置いておいて、知らない大人に問い詰められても正直困るだろう?」

 

「それは…」

 

どう反応していいのかわからない尚樹は困り眉で2人の問答を眺めていた。

 

「えーじゃあ…私は江藤敏子。扶桑陸軍中佐よ。趣味はコーヒー作りね」

「私は北郷章香。扶桑海軍少佐でこの講道館の剣術道場で師範をやっている、あなたと同い年くらいの女の子達を指導してるぞ」

 

「……ふそう?」

 

少年が2人の発言で1番引っかかったのは「扶桑」という国名であった。

初耳といったような反応を見て2人も少し戸惑う

 

「ええ、扶桑皇国。あなたや私達の国、覚えてない?」

 

「あ、ええと…そうですね」

 

一時的な記憶喪失の可能性も視野に入れつつ章香は思い出せる様に聞きながら話す。

 

「…(扶桑を知らない?いやそんなまさかね)」

 

色々な線で正体を詮索しながら敏子が考えていると尚樹の口が開いた。

 

「おふたりは…その、お若いながらかなり偉いように思うんですが…」

 

尚樹は恐る恐る質問する。

 

「あら、偉いように見える?いや~普段は将校の爺連中に小娘ガーってナメられてるけど」

 

「あはは…まあそうだね。ウィッチでもないとこの年で佐官にはなれなかったろうね」

 

尚樹の緊張を解すためか、少しおどけた様子で答える2人。

 

「ウィッチ……?」

 

また同じ反応する尚樹だが、こちらもうまく理解が出来ない様子だった。

 

 

「うん、ウィッチよ、空飛ぶ魔女。(そこすらも曖昧だなんて、本当に何も覚えていない…?)」

「(でも外傷は擦り傷くらいで頭を打ってはいなかったハズだけど…)」

 

人種的にも言語的にも間違いなく眼の前の少年は「扶桑人」の筈だがいまいち噛み合わない様子に章香は半信半疑を解くわけにもいかなかった。

 

----

 

「…(でもこのまま続けてもラチが開かないわよね)」

30分ほど話を続けるも実のない内容ばかりに章香はふと思い立つ。

 

「中川尚樹くん。」

前に身を乗り出して少年の名前を呼ぶ。

 

「…はい」

 

「まあ答えられるならでいいんだけど…」

「君を保護した際に軽い身体検査をしました。」

 

「特別怪しい物も持ってなかったしそこは問題ないんだけど…」

「わざわざ見てやろうとも思ってなかったけど、君の体に無数の戦傷後があったのを見つけたんだ」

 

一番気になっていた所に切り込む章香

身長は成人男性ほどではあるがまだ中学校にも入っていないような歳の彼があそこまでの古傷を持っている事が気になって仕方なかった。

 

「そ、そうですか…」

 

見られたくないものだったのか、尚樹も眉を下げて返事をする。

 

「私もある程度実戦での戦傷者を見てきたが…ここまでの物を持っているのは1次大戦で従軍していた古豪の方々でもそういない。」

 

「…辛い事があった事はよくわかるけど、言える範囲でいいからどうして君があんな傷を負ったのか…教えてくれない?」

 

敏子も少し神妙な面持ちでそう問いかける。

 

「……」

 

尚樹は俯いたまま押し黙る。

 

「「……」」

 

章香も敏子も、彼の次の言葉を待ち、意を決して彼の口が開かれる。

 

「…この傷の話をする前に、お伝えしたい事があります」

「うん?どうしたの?」

「その……信じてもらえない話と思いますが……」

「大丈夫、何でも言ってよ(…おや?)」

 

意を決したような表情を見せた尚樹の纏っている『雰囲気』が変わった事を感じ取り、文香は姿勢を改めて向き直る。

 

 

「実は自分は……」

 

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