ストライクウィッチーズ -Fly By The Rainbow-【七色の空へ】 作:それいゆ
「んん~…何話してんのか聞こえねえな~~」
「普通に軍の話でしょ…なんで気になるのさ」
「ねえ~止めようよ、盗み聞きなんてしてバレたら言い訳出来ないって~…」
3人が会話している部屋の扉の前でひそひそと会話をしているのは美緒と「若本徹子」「竹井醇子」の3人。
「いやだってさ、『大事な話だから話が終わるまでは部屋に入らない様に』なんてあからさまに隠そうとしてたし、気になるじゃん」
美緒と同じ様に2人も章香を師範とする剣術道場で鍛えられている海軍の練習生でもあり、そんな「先生」がわざわざ陸軍中佐を呼びつけて人払いをしてまで話したい内容がある。という事に琴線が触れた徹子がどうにか話の内容を知ろうと2人を巻き込んで聞き耳を立てていた。
「多分窓際で話してんな~これ」
「ならどう頑張ったって聞こえないでしょ」
「も~……」
どうにか聞き取ろうとする徹子と変な事を辞めさせようと話す美緒、バレた時の事を考えて一人でハラハラしてる醇子と三者三様である。
「……そうだ」
何か思いついたのかハッとした表情をする徹子。
「よし、お前ら手伝え」
「…はぁ」
「絶対ロクな事じゃない…」
もう言うだけムダとため息をつく美緒とこの先の事を不安がる順子であった。
---
「えいしょっと」
外に出た徹子が持ってきたのは人一人が乗れそうな木箱。
これを建物の壁際に置いて準備万端という表情だった。
「な、なにこの木箱…」
「この上に3人で乗って話聞くんだよ、流石に2階なら届くだろ!」
おそるおそる聞いた醇子の不安をよそに自信満々で言い切る徹子。
この木箱の上から3人それぞれが肩車して窓に張り付き、話を聞いてやろうという算段のようだ。
「普通に危な過ぎる…」
「落っこちたらケガで済まないぞ、これ」
「んだよ~ここまで来ておいて尻込みすんなって」
「「………」」
「…じ、じゃあ今度街に出たらなんか奢ってやるから!頼むって!」
総スカンをくらってもまだ好奇心の方が勝ってるのか粘る徹子だが、
2人から冷たい目を浴びせられて流石に旗色が悪さを自覚したのか交渉を始めた。
「…喫茶」
「え」
「駅前にできた喫茶店のランチと洋菓子で」
「ぐっ……美緒おまえ」
ここぞとばかりに強気に行く美緒、
1930年代は洋化が進んだ時代とはいえ、まだまだ西洋の食品が一般流通してるとは言い難く、門構えをしっかりしている喫茶店はいち女学生の資金力では気軽には脚を運べない場所でもあった。
「勿論醇子の分もね」
「むぅ…」
「えっいや私は」
ついでとばかりに醇子の分の奢りの約束を取り付ける。
「で、どうする?」
「……わかった!わかったよ!」
「え、えぇ~……」
圧に負けたのか、やけくそ気味に承諾した徹子と、巻き込まれることが確定した醇子は困惑しながら肩を落とすしかなかった。
「じゃあ醇子が一番上な」
「え…な、なんで?」
「いやだって、私ら背負えんの?」
「う、無理だけど…」
「だろ」
「まあ下は任せてなって、魔法力を使えば二人くらいは余裕だし」
段取りとしては魔法力の使用を滞りなくできる徹子が土台になり、二段目を美緒が、最後に一番華奢な醇子が乗って窓に張り付く算段である。
「ごめんね醇子…怖くなったらすぐ言ってね」
「わ、わかった……頑張る……」
こうして三段タワーは組まれたのだった。
---
「…にわかに信じがたいわね」
「まあ…理屈としては納得できなくも…いやしかし…」
尚樹から聞いた話に2人は困惑しつつ彼のような人物がここにいる理由付けとしては筋が通っている事も理解した。
「つまり…君はこの世界の人間じゃなくて…違う時代からどういうわけか流れ着いた…って事よね」
「…その解釈で間違いないです。」
少年こと中川尚樹が言うには自分はこの世界で産まれた人間ではなく、違う世界の扶桑皇国と同じ文化・言語を持つ「日本」で産まれたと言うのだ。
「ブリタニアやリベリオンの小説じゃあるまいしそんなこと…」
「確かに……俄かには信じられないけど……」
「でも、その傷の理由とか、ウィッチやなんなら扶桑の国名まで分からない時点で……田舎者だからじゃ言い訳つかないわ」
尚樹の話の内容は荒唐無稽あったが、章香は尚樹が適当を言っているとは考えなかった。
それは彼の目を見ればすぐにわかった。
「こんな突拍子もない話……信じて貰えるとは思ってませんが……」
「う~~ん……」
「君を嘘吐きとは思っていないんだが…」
「歴史が違うだの異世界だのじゃあ私たちの理解を大きく越えすぎてるわ」
「…そうね。こんな話、すぐには信じられないよ」
敏子はリアリティの無さから理解を拒んでいた。
章香もあまりに突飛すぎる内容に一旦保留の方針を取る事にしたらしい。
「……そうですよね」
理解の範疇を超えている事を尚樹は同調せざるを得ない。
「まあでも…何かと合点はいくのよね」
「……例えば?」
意外な返答に尚樹は少し驚いた表情を浮かべて聞き返した。
章香は少し間を置いてから話す。
「……君の目が、背負っている人のそれだから…かな」
「いろんな人たちから思いを託されて、君も誰かにその思いを繋げてきた…って所かい?」
「!!」
章香の見立てが正しかったのか図星を隠すように尚樹は顔を俯かせた。
「……すまない。その傷は不用意に聞いていいものじゃなかったわね」
その様子を見て章香は言い当ててしまったと素直に謝罪の言葉を述べた。
「いえ……そんなことは」
「まあまあ!急にいろいろ詰められて大変だったろうしこの辺でお開きでいいんじゃない?」
「具体的な内容は話したくなったら話してくれたらいいしね」
少し場が気まずくなる前に敏子はフォローを入れる。
「……ありがとうございます……。」
尚樹は俯く顔を上げ、乾いた笑顔で2人を見てそう言った。