ストライクウィッチーズ -Fly By The Rainbow-【七色の空へ】   作:それいゆ

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美緒ちゃん(19)を見てるとその先生の章香さんがド級の調理をするのが納得できる


episode6『屋根の下、畳の上』

北郷章香 私邸 台所にて

「さてと……じゃあ、夕飯にしましょうか」

 

日も落ちかけた頃、章香は手を叩いて尚樹を振り返った。

気取らない笑顔で、袖をまくるその姿は、なんというか――頼もしげには見えた。

 

「何か作れるものありますか?」

 

尚樹はやや遠慮がちに聞いた。

 

「あるある。買い置きしてある野菜とお米、それから干物……あと、これはどうだろう」

 

ごそごそと棚から出てきたのは……梅干し、味噌、缶詰、そしてなぜか柚子胡椒、チーズ、そしてジャム。

 

「ええと……何を作るつもりでした?」

 

「うーん、なんとなく……“柚子風味の味噌焼き”とか、甘いのもいいかなって思って高かったけどガリア産のジャムも……」

 

「……止めておきましょう」

 

尚樹は、実に穏やかな声で即答した。

 

「むう…駄目かな」

 

「“味噌とジャム”は……ちょっと危険です」

 

章香はむっとしたような顔を見せたが、すぐに苦笑して引っ込めた。

 

「まあ、実はね。料理は生徒たちからも評判が悪くてね、前は若…若本がすっ転んでた」

 

「なるほど、そういう空気は何となく……」

 

「ハッキリ言うね」

 

言い合うようで、どこか家族のようなやり取りに変わっていく。

尚樹は台所をぐるりと見回した後、木のまな板を取り出した。

 

「じゃあ、やるだけやってみます。包丁もよく研がれてますし、材料もいい感じです」

 

「お、おう……」

 

促されるまま、章香は横で見ているだけに徹する。

 

――20分後

「すごい……」

 

台所には、湯気を立てる味噌汁、きんぴらごぼう、干物の塩焼き、白米。

そして隠し味を一切入れていない、まともで美しい家庭の味が並んでいた。

 

「……すごくない?この手際。段取りも無駄がないし、味見も的確。正直、練習どころじゃないですよこれ」

 

「……ありがとうございます。まあ色々あって」

 

尚樹は、表情を変えずにそう言った。

 

「(色々と、ね)」

 

章香はその言葉に、ふと引っかかりを覚えた。

それは単なる例えではない“重み”だった。

 

「……ほんとに12歳?」

 

「え?」

 

尚樹は動きを止め、章香を見た。

 

「ううん、何でもない。ただ……」

 

その背中が、まるで年老いた者のように見えた瞬間だった。

 

「お疲れさま、尚樹くん」

 

「いえ、どういたしまして」

 

出されたご飯を食べながら、章香はふと、小さく笑った。

 

「……食べ物って、ちゃんと作るとこんなに美味しいんだね」

 

「……それ、作った人の前で言いますか?」

 

2人は顔を見合わせて、ふっと笑った。

 

その夜のご飯は、どこか懐かしくて、温かかった。

 

 

 

 

 

-------------

 

 

 

 

夕食を終え、片づけも尚樹が半ば強引にやってしまい、章香は湯呑みに茶を注いで一息ついていた。

玄関から続く廊下は静かで、風の音すら聞こえない。

 

火鉢の炭が、ぱちりと音を立てて弾けた。

 

「……参ったなあ」

 

章香はひとつ、ため息をついた。

普段のそれとは少し違う。心の奥に引っかかっていたものを、ようやく認めてしまったかのような、そんな吐息だった。

 

わざとらしい虚勢でもない。大人びた口調でもない。

けれど尚樹の言葉には、ひっかかりがあった。

 

「(私なんかより、よっぽど人の死を見てきた顔をしてた)」

 

思い出すのは、道場の問いかけの際。

ふと章香が「ご家族はいないの?」と聞いた瞬間のあの顔だ。

 

何も言わず、笑いもせず、ただ一瞬だけ目を伏せたあの表情が、焼きついて離れない。

 

「(信じられない話ではあった。異世界とか、ニホン?とか……)」

 

「(だけど、信じるしかないとも思ってる)」

 

理由はうまく言えない。

軍人としての勘か、それとも女としての本能か。

 

でもあの子を見てると、どうしようもなく――

 

「助けたい、って思ってしまうんだよ……」

 

章香は目を閉じた。

軍服の裏にある、自分の“人としての感情”が、否応なく動いているのを感じていた。

 

「だから……せめて、ここにいる間くらいは、ちゃんと生きてるってことを感じてほしい」

 

戦争じゃない日々。

命を削らなくても、食べて笑って眠れる日常。

 

それがどれほど尊くて、どれほど脆いものか、章香はよく知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝・北郷章香 私邸 客間

 

 

鶏も鳴かない時間の早朝

 

薄明かりが障子の外からゆっくりと射し込む。

 

尚樹は、ゆっくりとまぶたを開けた。

 

「……あ……」

 

布団の感触が、指先から伝わる。

綿の詰まった、少しだけ湿気を帯びた重み。

畳の香り――新しくはないが、手入れされた清潔な匂い。

 

寝返りを打った背中に、“床の温もり”が残っていた。

 

「……夢じゃ、ないんだな」

 

吐き出すように呟いた声は、誰にも届かない。

だがその声には、疑問も動揺もなかった。

ただ、現実をゆっくりと受け止めていく者の声だった。

 

起き上がって、天井の梁をぼんやりと見つめる。

蛍光灯もエアコンもない、木のぬくもりだけがある天井。

 

「……昭和か」

 

“目覚めの感覚”で突きつけられると、より一層、現実味が増す。

 

起き上がって障子を少しだけ開けると、見えるのは砂利の引かれた庭と、朝露の残る植木。

すう、と冷たい空気が流れ込んでくる。

 

「――」

 

コンクリートに敷かれた道が全く見えない、

 

モノクロ写真に色がついたかのような風景

 

だがそれが、尚樹にはどこか怖いくらいに“綺麗すぎて”落ち着かない。

 

(でも、今は……これが、日常なんだ)

 

そう自分に言い聞かせ、静かに障子を閉めた。

 

布団をたたみ、畳に正座して深く息を吐く。

 

「……さて、今日は……何をすればいいんだろうな」

 

そう呟いた時、どこかの部屋のふすまが開く音が聞こえ、尚樹はふと口元を緩みを正した。

 

 

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