ストライクウィッチーズ -Fly By The Rainbow-【七色の空へ】 作:それいゆ
この子達は37年38年でどうなるんやろなあ(ゲス顔)
――講道館・道場本室
朝稽古が始まる少し前、門下生たちが次々に集まり始めていた。
道場の中は、柔らかな日差しが障子越しに差し込む清浄な空気。
稽古着に着替え、素振りや柔軟を始めている少女たちの中に、少しだけ緊張した面持ちの尚樹の姿があった。
その横で腕を組み、道場の中央に立つのは北郷章香少佐。
「みんな、ちょっと手を止めてくれるか」
その声に、門下生たちの動きが止まる。
全員が整列し、章香を中心に円を描くように集まった。
「今日は一つ、紹介しておきたい人がいる」
章香が隣にいた尚樹に目配せすると、尚樹は少しだけ緊張しながらも前に出た。
「こちら、中川尚樹くん。今日からここで一緒に暮らすことになる」
道場内に、静かなざわめきが走る。
「……まあ、知り合いから“行き場のない子を預かってほしい”って頼まれてね」
章香は、あくまで“他所からの要請”であるという形を取った。
「軍の孤児院に入れることもできたけど、本人が人との関わりを持ちたいと希望したのと、私としても道場の空気に触れさせる方がいいと判断した」
「なので、私の私邸に住みながら、日中はここで道場の手伝いをしてもらう。掃除や準備、雑務が主だけど、君たちと時間を共にすることも多くなると思う」
「……だから、できれば、仲良くしてやってほしい」
その言葉に、数人の門下生が顔を見合わせる。
その中に、美緒・徹子・醇子の姿もあった。
すでに彼の存在を知っていた3人は微妙な表情を浮かべつつも、紹介が“そういう形”で処理されたことに内心ホッとしているようでもあった。
「尚樹、ひと言」
章香に促され、尚樹は少し躊躇しながらも前へ。
「……中川尚樹です。えっと……ここでお世話になる間、できるだけご迷惑にならないよう努めますので、よろしくお願いします」
その言葉は過不足なく、だが少しだけ年齢にそぐわぬ落ち着きがあった。
門下生の中から、ぽつりと「よろしく…」という声が漏れると、次第に周囲もそれに倣って頷きはじめた。
「よし。じゃあ、稽古前の準備を頼んでもいいか?」
「はい」
尚樹は道場の箒を手に取り、無言で床を掃き始めた。
その後ろ姿を見ながら、美緒がぽつりと呟く。
「……なんか、やっぱり大人っぽいな」
「ふ、ふつうの孤児にしては……いや、なんでもない……」
徹子がごまかすように言いかけて、美緒と目を合わせた。
醇子は、黙ったまま尚樹の働く姿を見つめていたが――
どこか、少しだけ柔らかい目をしていた。
――講道館・昼休みの縁側にて
道場の稽古が一段落し、昼休憩の時間。
数人の門下生が、縁側でお弁当を広げていた。
「……あ、あの、尚樹くん……一緒に食べる?」
声をかけたのは竹井醇子だった。
まだ少し緊張気味ではあるが、昨日の出来事もあってか、彼女なりに距離を詰めようとしていた。
「いいの?ありがとう」
尚樹は、木箱に包まれた質素な弁当を持って隣に座る。
そのやり取りを見ていた徹子が、やや皮肉気味に口を挟んだ。
「へー、尚樹くんって弁当も自分で作れるんだ。」
「まあ、慣れてるから」
「でも、確かにすごいわよ。おかずの配置も、色のバランスもちゃんと考えてる……」
「ねえねえ!卵の焼き方教えてよ!私いっつも失敗するから「卵を無駄にするな」って怒られるんだもん」
そう言って笑うのは、清水泉(しみず いずみ)と矢野千草(やの ちぐさ)
美緒や徹子と同年の門下生で、泉は済ました顔でよくトボけた態度を出すため、生真面目な美緒とはよく意見が食い違うが、何だかんだで友人。
千草は好奇心旺盛で、よく質問攻めにして周囲を困らせるタイプ。
「ハハハ…うん、また今度ね。でも言うほど上手いかな…」
「うん、私たちより上手いかも。っていうか、絶対上手い」
「その“私たち”に含めないでくれよ…まあ料理なんてろくすっぽしたこと無いけど」
徹子が唸りながら、手製のおにぎりをもごもご食べる。
尚樹はそのやり取りを、ほんの少し微笑みながら眺めていた。
「……みんな、仲いいんだな」
そう呟いた声に、場が少しだけ静まる。
「ん……まあ、ね」
美緒がやや照れくさそうに頷くと、泉が少し目を細めた。
「ちょっと~!美緒照れてんの~!?」
「男の子来たからってしおらしくしなくていいっての~!」
「は!?そんなんじゃないから!!!」
縁側に笑い声が広がる。
「……良かった。またこうやって話せて」
「……ふふ。そう言ってもらえると、こっちも嬉しいな」
醇子が、少しだけ誇らしげに笑った。