【朗報】ワイの鯖、見覚えのある奴しかいない件 作:エタル丸
柳洞寺の洞窟を抜け、私達は黙々と歩を進める。
辺りには靴音が響き渡り、僅かな息遣いが聞こえるだけの静寂に満ちていた。しかし、その雰囲気はかつての特異点Fとは全く異なる。
ねっとりとした空気が、まるで粘性を帯びているかのように、それが肌を撫でるのだ。若干の気持ち悪さを感じつつも、それを無視し続けて歩いていく。そうして辿り着いたのは広大な大空洞。
それは大聖杯が鎮座する空間だ。しかし、
──コツンッ。
「……!」
空洞に踏み入った矢先、聞こえてきたのは何者かの足音だ。それは明らかに大地を踏みしめ、こちらへと近づいてきているのが分かる。
「先輩、私の後ろへ」
「ありがとう、マシュ」
抑止力のランサーは大鎌を、マシュは円卓の盾を構え、向かってくる相手の動向を警戒している。
だが──
ズドドンッ!!!
「……!」
「……ぐ、っ……!?」
相手へと声を掛けようとした刹那、暗闇の向こうから出現したのは数発の弾丸だった。それは私達を牽制するかのように、マシュと抑止力のランサーを蹂躙しようと問答無用で襲いかかる。
そんなマシュ達の様子を見た私は即座に、暗がりの先にいるであろう存在に声を掛ける。
「……!待って、私達は──」
「動かない方がいい」
「…………!!」
暗闇の先から出現した存在。
それは黒いドレスを身に纏い、頭部には獣耳と思わしきモノがついている大人びた少女だった。
「貴方達は詰んでいる。大聖杯のことは諦めて、大人しく聖杯戦争を続けるといい」
チャキ、と銃口をこちらに向けて少女は言う。
「……それは、どういう意味でしょうか?」
マシュは盾を構えつつも、意味がわからないといった様子で少女に問う。
その問いに少女は答えた。
「ん、そもそも貴方達は勘違いをしている。大聖杯と、今回の特異点騒動。大聖杯が何らかの魔術的な作用を
少女はそう言い、突きつけていた銃を下ろす。まるで既に勝負は決したと言わんばかりに。
だが──
「──ふぅん。だけど、おかしいと思わないかい?」
ふと、
「……何が?」
「君も言っていたように、この場所には残骸しか残されていない。だけど、そんな場所に……何もないはずのところにサーヴァントが一騎。これじゃ、何かありますと言っているようなものじゃないかな?」
「ランサーさん、流石にそれは……」
失礼ではないか。そう言葉が出かけたが、彼の言うように、目の前の少女が怪しいのもまた事実であった。ゆえにマシュも彼女に目線で問う。
「……はぁ。見逃すつもりだったのに、何で貴方達はそんなに死に急ごうとするの?」
少女は
それはさながら、死の嵐のように──大空洞を満たしていた空気が嘘のように一変した。
「気が変わった。やっぱり貴方達はここで倒さなきゃダメ」
ドドドドドッ、と私達の居た場所へ彼女は発砲する。しかし、それを予見していた私達はすぐさま後退し、それを避けた。
「おっと、彼女は気が短いみたいだ。マスター、君はどうしたい?」
「……そんなの決まってるよ。ひとまず彼女を落ち着けて、その上で何とか情報を聞き出す。つまり──」
一呼吸置き、私は言った。
「マシュ、ランサー!戦闘準備、行けるね?」
その言葉を聞き、彼と彼女は口角を上げて頷いた。
「了解だよ、マスター」
「任せてください、先輩!マシュ・キリエライト、迎撃します!!」
さて、察しのいい方なら少女の正体を既に理解しているはずです。フフフ……