【完結】失学園:または少女たちの学び舎に流通した大量生産型知恵の実による後天性原罪について   作:詠符音黎

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第1節 完全偶発的知恵の実の第n次接近遭遇

『連邦生徒会文書 カテゴリー:Case Apocalypsse No.13-1 FF案件について

                         統括室首席行政官 七神リン』

 

 この文書は■■■■年■■月■■日、キヴォトス全土にて起きた散発的かつ一斉蜂起を一連としたFF案件、通称“知恵の実事変”と呼ばれている案件について記録を残すものである。

 FF案件においてはその事件の特殊性から事件の全容を把握する事が非常に困難な性質を持っている。

 

(中略)

 

 しかし、多数確認されている被害者の中において、事細かく初期からの動向を確認できる者として便利屋68の名で知られている小規模企業の社長、ゲヘナ学園所属の二年生、陸八魔アルが存在する。

 陸八魔アルは上記した便利屋68のメンバーと常時行動を共にしていた事、また彼女からの聴取がそれを裏付ける事から被害に至る経緯を比較的詳細に確認することができた数少ない事例だ。

 彼女がFF案件に関わったと思われるのは、キヴォトス全土において一斉蜂起が行われた八日前まで遡る――

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「もーーーっ! なんでこうなるのーーーーっ!?」

 

 私、陸八魔アルはもう何度言ったか分からない叫び声を夜空に向かい上げてしまっていた。

 いやでも今回ばかりはこう叫びたくもなるのよ。

 最初はただ取引で不正がないよう警護する任務だって聞いてたのに、双方なんか思った以上に兵隊がいたり、戦車だのヘリだのが湧いてきたり、挙句の果てには関係なかったはずのゲヘナの風紀委員長である空崎ヒナだのなぜだか湧いてきた正義実現委員会の剣先ツルギだの偶然そこに居合わせただけらしいのに成り行きで銃撃戦で参加することになった砂狼シロコだのが入り混じってもうグチャグチャ。

 最初の目的ってなんだっけ? なんで私ここにいるんだっけ? ってなっちゃうぐらいには大乱闘会場になって結局報酬の話は消滅、それどころか契約書に巧妙に読みづらくしてあった部分で違約金を取られてしまったのである。

 

「今回は随分と大変だったね……」

 

 ボロボロになってる私の横で、同じくボロボロになっている私の頼れる右腕、便利屋68の課長を務める鬼方カヨコが言っていた。

 普段はクールな彼女もさすがに疲れが顔に出ている。

 

「いやいやあれは無理ぃー……。もう突然台風が直撃したもんと思うしかないよー……」

 

 また、室長であり一番付き合いも長い浅黄ムツキもだいぶへばった声でやはりボロボロの姿で地面に仰向けで倒れながら言った。

 

「ごごごご、ごめんなさい……! わ、私がもっと、頑張れてたら……!」

 

 そして平社員だけど頼れる、いやでもちょっと暴走することもあるかも……な伊草ハルカはいつもの調子で、いや、いつもよりも余計に申し訳無さそうに私に当然ボロボロの姿で謝ってきた。

 

「……いや、今回に関しては私が悪いわ……みんな、ごめんなさい」

 

 私はハルカの言葉に対して、私からはみんなに向けてそう言いながら頭を下げた。

 そう、今回に関しては完全に私の失態だ。

 確かに大勢いた兵隊だの兵器だのキヴォトスの名だたるメンバーだのという想定外の事態はあったけれど、契約書の違約金に関しては高額報酬に目が眩んで即決しちゃんと確認してなかった私が悪かったわけだし、加えて今回の契約で守るべき物資を守りきれなかったのも私だ。

 最後に物資が入ったケースを託されたのは私だった。

 でも、激化する戦闘の中で私は転んでそれを手放し、銃撃の中に投げ込んでしまって壊したのは私のミスで間違いないのだ。

 

「もーアルちゃんそんなしんみりした感じで頭下げないでよー! ぶっちゃけアルちゃんがうっかりするのなんていつものことじゃーん!」

 

 倒れていたムツキが上体を起こしながら言ってくれた。

 でも、私は首を横に振る。

 

「いいえ……私があのときパニくらないでちゃんとしたルートを選んでいれば違約金まではいなかったはずなのに……今月全然稼げてないから焦っちゃって……」

 

 今月はどうにもうまくいってなかった。

 こなす仕事はほとんど失敗してしまい、お財布は火の車。

 食べ物も一つのカップ麺や弁当を四人で分け合う日も他と比べて多く、現在構えている事務所の家賃を支払えるかも怪しいのだ。

 そんな状況で、私は焦ってしまったんだ。

 

「……しょうがないよ。それよりも、次頑張ろう。とりあえず即金の仕事でも探してさ」

「う、うううう……! ごめんなさいアル様……! 私、内蔵売りますぅ……! 私の内蔵なんか二束三文にしかならないですけど、それでもご飯代くらいには……!」

 

 カヨコは現実を見て励ましてくれるし、ハルカもハルカなりに後ろ向きだけど前向きな事を言おうとしてくれた。

 でも、今日の私はちょっとナーバスになっていた。

 ここまで失敗を続けてしまって、こんなみんなに言わせてしまっている私は自分が凄く情けない気分になってしまっていたのだ。

 いつもなら内心焦ってても口では前向きな言葉を出せたのに、今日はどうにも出せなかった。

 

「ごめんなさい! 私、ちょっと寄りたいところあるから遠回りして帰るわね! みんなは先に帰ってていいから……!」

 

 私はそんなことを言って先に走り出してしまった。

 行き先はみんな同じ事務所なのに。

 でも、少し一人になりたかったのだ。

 

「あっ、あわわわわわ……!? アル様、私もっ――」

「――はいハルカちゃんちょい待ち! ここは一人にしてあげよーねー! 今日のアルちゃん年に数度あるかないかってぐらいの超絶スーパー後ろ向きなターン入っちゃってるからさ!」

「うん。社長だってたまには後ろ向きになって一人になりたい時だってあるさ。ただ、今回は仕事がとりわけうまくいってないのと重なっちゃったから、相当になっちゃってるね……。こういうときは一緒にいると逆効果。分かるよね、ハルカなら」

「……うう、ごめんなさいアル様、私がダメダメで……」

 

 みんなが何を言ってるかは距離が離れて聞き取れなかったけど、私の事に気を回してくれてるのはよく分かっていた。

 それがやっぱり、申し訳なかった。

 

 

 

「はぁー……私、本当に情けない社長ねぇー……」

 

 さっきまでみんなでドンパチしていた場所から離れた公園で、私はベンチに座ってため息をついていた。

 みんなと過ごす時間はとても楽しいし、お金がなくても結構いい感じにやれていると思う。一杯のカップ麺をみんなで食べるのだって、実はそんな嫌いじゃない。

 でも、こうして私のミスのせいでみんなに迷惑をかけてるなと感じる事はあるし、こうも続いてみんなに大変な思いをさせちゃっているってなると、ついみんなの前ですら自分の情けなさに呆れる気持ちを出してしまった。

 

「こんなの、全然アウトローでもなんでもないわね……」

 

 私はかっこいいアウトローになりたいのに、これじゃまるで正反対だ。

 とことん自分が情けなっていく。ただ、こんなに辛い気持ちになるのは自分でも珍しいなと思った。

 いつもはわりとすぐ気持ちを切り替えられるんだけど、なんだか今日は特にバッドなメンタルの日らしい。

 

「……こんなとき、先生だったらなんて言ってくれるのかしら」

 

 私はスマホを取り出し、先生に向けて電話でもかけようかと思い、連絡先を開く。

 でも、結局やめた。

 みんなの前から走り出しちゃったのに、ここで先生に頼るのは何かこう違う気がしたのだ。

 それに何がかは自分でもうまく言えないのだけれど、とにかく違うし嫌な気がしたのだから仕方ない。

 

「……ん?」

 

 と、そんなとき、私の目にあるものが止まった。

 そこにいたのはトリニティ総合学園の白い制服を着た生徒だった。

 トリニティはゲヘナと仲が悪いし人によっては面倒な子もいるから別に率先して関わったりはしないのだが、そこにいる子に対してはそうではなかった。

 一人歩くその子の顔を私は知っていたのだ。

 その子は、二ヶ月ほど前に廃ビルを現場にした仕事で会った。

 そのときその子はトリニティの生徒としてではなくなんとヘルメット団の一員として私達と争って、そして負けた。

 ただ、私もいつものようにうっかりをしてしまって足を滑らせ近くにいた彼女の袖を掴んで二人して滑落、下の資材置場に落ちてしまった。

 偶然そこにはクッションとなるいろんな資材……というかゴミがあったから別に大怪我はしなかったけれど、足にダメージが入ってしまったのでビルの上からみんなが来るまで二人で待ったのだ。

 そのとき、彼女のヘルメットも脱げたので顔も見た。そして二人で暇だしとお話をしたのだ。

 すると彼女はトリニティに入ったけれどドジが多く、それが原因でいじめられ、他人を信じられなくなり、学校に居づらくなって抜け出しなんやかんやあってヘルメット団に入ったらしい。もしかしたらここでなら自分は輝けるのかもしれないと。でも、結局ここでも自分はダメダメで腐っている、とも。

 そんな彼女に、なんだか私は共感してしまったのだ。

 ゲヘナを出て便利屋を初めてうまくいかなかったりでもたまにうまくいったりな生活をしていた私にとって、彼女の気持ちは理解できた。

 そのとき直前にまたうっかりミスを発動してし落ちてまったため余計に、であるし、なんならトリニティからヘルメット団なんて私以上に思い込みが激しくて極端な行動に走るんだな、ともなった。

 そんな感じで私は彼女に共感したし、彼女も私に共感してくれた。ささやかな内容だけど二人で盛り上がってしまったのだ。

 でもそんなタイミングでカヨコ達が来て私は帰り、彼女らはヴァルキューレに連れてかれていった。

 あれからどうしたんだろう、と気になる事もあったがとりわけここ最近の忙しさで忘れてたんだけど……そんな彼女が今、満ち足りた顔で手にお高そうな買い物袋を持って歩いていたのだ。

 私はそんな彼女の姿を見て思わず走り寄っていた。

 

「ねぇ、あなた!」

「え? あっ、アル!」

 

 彼女は私の顔を見て人懐っこく笑った。

 前に話したときはこんな明るい笑顔は見せなかったし、もっと喋り方も陰気な感じたったと思う。

 まるで別人だが、でも顔と声は間違いなく彼女だと私に教えてくれた。

 

「久し振りね! その制服、トリニティに戻ったの? それに随分と楽しそうだし羽振りが良さそうね」

 

 以前話したときは生活もまあまあ苦しいぐらいだなんて言っていた覚えがある。

 それに今の自分は落ちこぼれだからトリニティに戻っても辛いだけ、とも。

 あとよく分かってないけどヘルメット団までやってたのにトリニティへの復学ってできるものなのかしら? どんだけやらかしててもバレてなければオーケー?

 

「うん! おかげさまでね!」

 

 だが、今の彼女はそんな辛さを微塵も感じさせない顔で笑っていた。

 

「良かった、前は大変そうだったのになんとかなったのね」

「まーね、あれからちょっとした出会いがあってさ。そのおかげでもう私は昔の私じゃないの。ちゃんと自信を持ってトリニティでやっていけるようになったんだ!」

「出会い……?」

 

 元気に言う彼女の言葉に私は引っかかった。

 悪く言ってしまえばトリニティにいたのにキヴォトスでも底辺なヘルメット団にまで行くぐらい思い詰めていた子が、一体どんな出会いをしたらここまで変われるのかしら?

 

「気になりますよねーそこは。そうだ、アルにもこれあげる!」

 

 すると、彼女は笑顔のまま懐からあるものを取り出してきた。

 

「これは……?」

 

 私はそれを手にとりまじまじと見る。

 それは一見すると骨伝導イヤホンに見えた。

 全体カラーとしては白で、角度によって光の反射で色を変える細いラインが入っているそれは、どことなくミレニアムサイエンススクールを思い出させる感じがあった。

 頭に嵌める部分である幅は二センチ程度、厚みは薄く三ミリもないぐらいだと思う。

 

「凄いんだよそれ! 私が変われたのもそれのおかげなの! それを使うと、なんと頭の回転が早くなるの! 天才になれちゃうんだよ!」

「は、はぁ……?」

 

 あまりにも胡散臭い言葉に私はつい怪訝な顔をしてしまう。

 よく見ると今の彼女もそれを耳に引っかけ、後頭部につけていた。

 だがいくら私が騙されやすいからって頭にこれをつけただけで頭が良くなるなんて、さすがにちょっと……。

 

「え、えっと……それって、あなた騙されてない? 大丈夫? 力になりましょうか?」

「いやそんなことないんだって! 私、この機械……《I3(アイスリー)》に出会ったおかげでこうしてトリニティに戻って落ちこぼれから脱出できんだ! 今では微力だけど自警団のお手伝いもできるようになったんだよ?」

「えっ!? そこまでっ!?」

 

 私は驚いた。

 トリニティの自警団と言えば私達も成り行き上ぶつかる事もある非公認の自治組織だ。

 あの正義実現委員会ともぶつかれるぐらいだけど、全体はよく分からないなんて事も言われている。

 でも実力は確かなはずで、そこに彼女が関われるぐらいになってるなんて凄い。

 正直、前にやり合ったときは彼女にそこまでの実力は感じてなかったんだけど、このキラキラとした目を見たらどうやら嘘は言ってないようだった。

 

「そ、そんなパワーがこれに……!?」

 

 私はまじまじと手元の《I3》と呼ばれたそれを見つめる。

 そうと分かると、なんだかとんでもないオーラを感じてきたわ……!

 

「はい! どうぞ、アルも試しにそれを使ってみなよ!」

「えっ!? いいの!? これお高いものとかじゃないの!?」

「いいのいいの! 私はまだまだ友達から貰った予備を持ってるし、《I3》の素晴らしさをあのとき共感してくれたアルにも知って欲しいからさ。私、あのときアルに話し聞いてもらえて救われた気持ちだったんだから」

「ま、まあ……! ありがとう! 感謝するわ!」

 

 これがあれば、私がみんなに迷惑かけちゃう事も少なくなったりして……なんなら、かっこいいアウトローになれちゃったりして……!

 私はそんな気持ちになってすっかり舞い上がって掲げながら《I3》を見る。

 対して、浮かれる私を彼女はニッコリとした笑顔で見守っていたのだった。

 

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