スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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一応調べたけど、もしネタ被りしてたらゴメンね。


はじまりの村『ソノヘン』編
1.スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』


 僕という人間を一言で表すとするのなら『モブ』だ。

 

 

 今となっては、モブだったと言うのが正しいのかも知れないけど。

 

 のどかで住人も優しいが、これと言って特筆する名産もない田舎。

 それが、僕の住む村『ソノヘン』に対する旅の人の評価だった。

 

 そんな村に生まれた僕、ノマル・フトゥーには驚くべき過去が──―ない。

 そりゃあもう、ビックリするほど無い。

 両親は二人とも普通の人だし、村に代々伝わる伝説の剣の御伽噺なんかも無い。

 そして僕自身は特別頭がいい訳でも、腕っ節が強い訳でもなかった。

 顔が特別整っている訳でもないと思う。

 年齢にしては大人びているなんて言われたことはあるけど、それもまた普通っぽい。

 

 母は「あなたは夜泣きが少なかったのよ?」と。

 父は「ノマルは賢いなぁ!俺が小さい頃なんてな〜」なんて褒めてくれるけど。

 

 そんなところまで、村の他の子供にもありがちなエピソードなので、本当に何もなかった。

 

 そんな普通の日々をなんとなく変えたくて…まぁ今思えば、そんな動機そのものが普通っぽいんだけど。僕は必死に神様にお祈りを捧げたのだった。

 

 何故そこで神頼みなのかというのも、僕の国では12歳になると”スキル授与の儀”というものが行われる。読んで字の如く天がスキルを授け与えてくれる儀式で、今後の人生を左右する大事な行事だ。

 

 何せ、スキルとは絶対と言っても良い、剣術のスキルを持つものは持たないものと絶望的とまで言える程の差がある。農民だって商人だってそうだ。だからこの国では授かったスキルを活かせる仕事に就く事が多い。

 少なくとも、父さんと母さんはそうだった。

 

 

 そんな人生を決める授与の儀で、村で唯一の神父様が告げた僕のスキル名は。

 

「『ハーメルンの上の方にあるやつ』……ですと?」

 

 全くもって 意 味 不 明 のスキルだった。

 

 

 教会から帰った僕はそれはもう───荒れた。

 確かに“普通から逸脱したい”とは思ったが、それはプラス方向にであって。断じて……断じてマイナス方向にではないのだ。

 

『ハーメルンの上の方にあるやつ』なんてスキル聞いたことがない。ハーメルンってなんだ?上の方のやつって酷く曖昧だ。上じゃダメだったのか?“やつ”って何を指してる?

 

 そもそもこれはパッシブスキルなのかアクティブスキルなのかすら判断がつかない。

 こんな事なら父さんの『剣士』スキルか、母さんの『農業』スキルを貰いたかった。

 

 

 泣き腫らして一晩経った後の朝、両親は僕にこう言ってくれた。「スキルだけが人生じゃない、たとえどんなスキルを持っていたってノマルは私たちの息子だよ。」と。

 

 夜遅くまで話し合ったのだろう、両親の目元には薄い隈ができていた。

 当時の僕は、酷く後悔した。

 そうだ…当たり前のようにあるこの普通の日々は決して当たり前なものではなかったのだと。

 これからは心を入れ替えて“普通”に生きていこうと。

 

 

 そして、次の日。

「隣の家の幼馴染が剣聖のスキルを授かった」と聞いて…両親はそれはもう嬉しそうに跳ね上がって喜んだ……傷心中の僕を忘れて。僕はふて寝した、現実なんてこんなもんだ。

 

「100年に一人の逸材だ!」なんて、如何に剣聖が素晴らしいのか説明する神父さん。

 それを聞いて「村の誇りじゃ!」なんて喜ぶ村長。

 それを聞いて恥ずかしがりながらも満更でも無さそうな幼馴染。

 僕の時は決して見せなかった笑顔で喜ぶ父さんと母さん。

 

 そして、それを素直に喜んであげられない僕は───

 

「ノル君…具合悪いの?」

 

「いいや大丈夫だよ。おめでとう…シエナ」

 

「うん、ありがと!ノル君!」

 

 ───酷く、惨めだった。

 

 

 

 クソガキだった僕はどうにかして両親を見返してやりたくて、スキルを使ってみる事にした。……その決断が取り返しのつかない事態を招く事になるとは思いもしないで。

 

 当然、スキルには危険なモノも含まれている。例えば、『召喚』なんてその最たる例だ。「魔物をその場に召喚するスキル」といえば聞こえはいいが…召喚“するだけ”。従属したり、言う事を聞いてくれるわけではない危険なスキル。だから、この国では未知のスキルを使用する場合B級以上の冒険者を同行させることを“推奨”されている。

 

 ただ……あくまで推奨だ。義務付けられないのはスキルが天から授けられるものであるという事と金銭面の問題が関わってくる。こんな田舎の村にB級を呼ぶとなると、金貨5枚はかかる。そんな大金をポンと払えるような余裕は、うちの家にはなかった。

 

 でも、もし危険なスキルだった時に村の皆を巻き込みたくなかったから……近くの山に一人で行って、そこでスキルを使うつもりだった。

 

 

 森の中は、昼だというのに草木が茂っていて薄暗い。この読み上げるにはかなり恥ずかしいスキルを唱える事に少しだけ……いや、かなりの恥ずかしさを感じていたけど。それよりも、何かが変わるかもしれないという高揚感の方が大きかった。

 

 ───大きく息を吸って、祈るように唱える。

 

「ハーメルンの上の方にあるやつ……発動!」

 

 一秒、二秒と経って…何も起きない。その事に、落胆と一抹の安心を覚えたその時。

 

 

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 目の前に現れたのは、青白いウィンドウだった。訳の分からないスキルを使ったら、訳の分からないウィンドウが出てきた。その事に困惑して困り果てていたそんな時───ガサリと背後で音がした。

 

 きっとこのスキルを試すのに相応しい魔物が現れたんだろう。戦いの気配を感じて、僕が勢いよく後ろを振り向くとそこにいたのは…

 

「こんな所で何してるの?危ないから一人で外に出ちゃいけないんだよ、ノル君」

 

「なっ…シエナ?」

 

 魔物ではなく、幼馴染だった。もしここで僕が主人公なら、きっと強大な魔物が出てきて。それをかっこよく倒して、サクセスストーリーが始まるんだろうけど…生憎、僕は普通のモブで。そんな都合のいい展開が待っている筈も無かったんだ。

 

「外に出かけるなら私も連れてってよ!」

 

「ダメだよ、外は危険だろう?」

 

「そんな事言って、ノル君は出てるじゃん!ずるい!」

 

「それは……そうなんだけど」

 

 全くもってその通りだった。僕は今、その危険な村の外に一人で来ているのだから。とはいえ、早くシエナを無事に帰さないといけない。彼女に傷一つでもつけたら、うちの両親に殺されかねない。これは『剣聖』というスキルに関係なく、彼女が可愛くて優しい良い子だからだろう。

 

 

 その時の僕は茂みを揺らした正体が、幼馴染だったことに安心したせいか。その場にもう一体の気配がある事に───気づくのが遅れた。

 

「ガルゥゥゥウウウウウ!!!」

 

 茂みから飛び出してきたのは、人よりも大きな狼のような魔物。僕たちの話し声に寄ってきたのか?噛みつかれたらまず助からない。シエナだけでも逃せるか?僕のスキルを使えば何とかなるか?でも何を使えば?

 

 一瞬の逡巡。それによって───1手、動くのが遅れた。この場において逃げるのが最適解だなんて分かり切っていたはずなのに。こうなってしまったのは僕の責任だ、だから僕がシエナだけでも逃げる時間を作る…!

 

「シエナ、逃げッ!」

 

「大丈夫、私───」

 

 獲物に対して大きく跳びかかり、牙を剝こうとする灰色の狼。それに対し、その辺に落ちていたであろう木の枝を上段に構えたシエナ。その意図を察して、せめて僕が奴の気を引く事でも出来ればと…1番左上にあった“それ”を大きな声で叫んだ。

 

()()()()

 

「───()()から」

 

 シエナが木の枝を振ったのかどうか、僕の目では追う事が出来なかった。彼女が枝を振り下ろした姿勢なのを視認して、僕は初めて彼女が枝を振ったことに気づいたくらいで。

 

 吹きすさぶ風と、一拍遅れてドサリと地面に落ちた二つに分かれた狼の身体。

 

「すごい、すっごいよノル君!これノル君のお陰なんだよね?」

 

 そう言って興奮冷めやらぬ様子で木の枝を指さすシエナ。先ほどまで命の危険だったというのに、その事を気にした様子すらない。そもそも、あの獣はシエナにとって恐れるに値しない程度でしかなかったという事なのだろう。

 

「あれ…ノル君?ノル君ってば〜!」

 

 心配そうにこちらを見つめるシエナの、黄褐色の髪が風に揺れる。考えてみれば、この時初めて僕はスキルというモノの異常性に気が付いたのだろう。

 

 

 何故なら、彼女の握っていた木の枝は折れるどころか───魔物の血液で汚れてすらいなかったのだから。

 




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