スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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100.魔族とは

「癒しを司る者よ───彼のものの傷をお癒し下さい」

 

 淡い光と共に、身体の痛みが少しずつ和らいでいく。

 ズキズキと響いていた背中も、恐らくは押し飛ばされたであろう肩も痛みはすっかりと引いていた。

 

「申し訳ありません、私の所為で……」

「あのやり取りの中に、ツェツィが悪かった点なんて無かったと思うけど」

 

 申し訳なさそうな顔で謝る彼女だが、全くもって意味が分からない。

 髪の色に過失など、あるはずがないのだから。

 

「申し訳ございませんお客様、こちらお料理の方は新しくお作りし直しますので……」

「いえいえ、声を掛けて頂いてありがとうございます」

 

 本当に助かった、もしあそこで店員さんが『勇者』に声を掛けていなければどうなっていたか。

 今回は環境に助けられた、本当に。

 

「本当に有り得ない! 次あったら八つ裂きに……」

「したいくらいだけど、相手が相手だ。面倒くさい事になったね……」

 

 もしもう一度絡まれたら、その時はどうなるだろうか。此処が街の中だったから、潔く引いてくれたものの……戦場やダンジョンの中なら、穏便に事は済んだだろうか?

 

「国の威光で止められるような相手じゃないのが仇となりました、それに……その」

 

 流石にそこまで短絡的な人物では無いと思いたいが、「大丈夫だろう」で最悪の事態を引き起こすわけにはいかない。僕はこのパーティのリーダーなのだから、メンバーの事を守る義務がある。

 

 まずは彼がいるようなところを避けるしかないだろう。

 その上で……あのS級冒険者と戦闘になったとして、撤退する事が出来るだろうか?

 

 間違いなく本気じゃない、身体強化とやらだけであの強さ。

 S級が、一国を滅ぼすことの出来る強さだとすれば……身体強化だけで終わりなはずがない。

 

 恐らくはその名の通り、光にまつわる何かを持っている筈なのだ。

 彼をS級たらしめる、その何かが。

 

 

 だがしかし、一つだけ言えることがあるとすれば。

 

「『賢者』って強かったんだなって」

 

 あの『賢者』と相対したときほどのプレッシャーを感じる事は無かった。

 底知れない実力、無数の手札。

 

 そしてあの全てを吹き飛ばすかのような威力の魔法。

 あの絶望感よりは、幾分かマシだ。

 

 

 現状で無理だからと言って、最初から諦める訳がない。

 いずれ越えなければならない壁なのだ、だからこそ……喰らいつくための方法を捜すしかない。

 

「まずは実戦を積むしかないね、それと……」

「僕の方でも、やれることはやってみます」

 

 ある程度有効に使えそうなものには、幾つか想像がつく。

 少しずつ積み上げていくしかないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 日を改めて、僕達は再び馬車に揺られていた。

 

 魔族と戦う方法は、二種類ある。

 

 一つは、国が守る軍に参加する事。

 こちらはシンプルだ、国主体の兵士たちに交じって襲ってくる魔族を討伐したりするわけだ。その他にこちらから攻め入る事もあるが、あの土地が持つ毒性のせいで占領しておくことは難しいらしい。

 

 二つ目は、個人でどちらも占領していない地域への出撃を行う事だ。

 一番多いのは森の中だろう、兵士を常駐させるのには難しく完全に魔族の侵入を防ぐことは出来ないが……魔族としても大規模な砦を建てる事も出来ない。所有権の曖昧な土地。

 

 

 勇者が主に一つ目の舞台に参加している以上、僕達が取るべきなのは二つ目だろう。

 

 

 王都シルヴァーンの城門を出て、移動する事暫くして。

 鬱蒼とした名前のない森の中にある、獣道を僕とシエナを先頭にして進んでいた。

 

「流石に視界が悪いですね……」

「雰囲気は感じ取れるから、私は多分大丈夫かな」

「……雰囲気を感じ取れるから、大丈夫ってどういう事?」

 

 普通は、気配を感じ取れると言っても限度がある。

 先に断っておくが、剣士系のスキルに気配を感じ取るなんて効果は殆ど無い筈だ。

 

 軍が常駐できない程度に視界の悪い、鬱蒼とした森なら猶更に索敵は難しい。

 

「足跡……は、普通の魔物のものかな」

「当然だけど、魔物も居るよねぇ」

 

 魔族が通常の魔物と違う点は幾つかあるが、その中でも一番特徴的なのは人語を介する個体が多いという事だろう。基本的に人型をベースにしたものが多いが、それも確実ではない訳だし。

 

 奴らは戦略的に、そして連携を行いながら戦いを行う。

 魔族に飼いならされた魔物は、魔族に追従し戦闘を行う。

 

 その辺りの生態に詳しい訳では無いけど、どうやら魔族には魔物を飼いならす手法があるらしい。

 

 

 そんな森を歩く事暫く、若干ノイズを感じ取る。

 普段なら気にも留めないような、地面の形と風上から漂う獣臭。

 

「止まって、多分……」

「居るね。それも大人数かな?」

 

 木の上に登って辺りを見渡せば、確かにここから真っ直ぐに進んだ先の開けた土地に魔物の群れが居るのが分かる。その数は凡そ30ほどだろうか。そしてその中にいる角の生えた人型と、獣の毛皮に包まれた人型。

 

 間違いなく飼いならされた魔物と、その主である魔族であることは間違いないだろう。

 犬型の魔物は、鼻が利くタイプだとすれば奇襲はほとんど不可能に近い。

 

 魔法は詠唱による魔力の起こりで気づかれるからだ、こういう時に隠密に優れた弓使いが居れば便利なのかもしれないが……うちのパーティでこれ以上後衛を増やす余裕は、無い。

 

「魔物は私が片付けよう、ノル君とシエナちゃんで一匹ずつお願いしても良いかな?」

「良いんですか?」

「良いも何も、その為に来たようなものだろう?」

「やった! 野良の魔族がどれくらいやれるか、気になってたんだよね」

 

 あまり時間を掛ければ気付かれる、情報の利がある今のうちに仕掛けるべきだろう。

 

 

 まるで弾かれるようにその場から飛び出したシエナに続いて、僕も魔族の元へと向かう。

 それから一拍遅れてグレイが魔法の詠唱をはじめ、魔族の視線がそちら側へと向けられる。

 

「───人間か!」

「その首、貰うね!」

「いきなりか、野蛮人どもめッ!」

 

 首狙いの一撃に対して、ギリギリで差し込まれた剣が何とか魔族の命を繋ぎ止める。

 侵入者を排除するために、狼のような魔物がシエナに喰らいつく。

 

 

 彼女の心配は要らないだろう、僕は僕の敵に集中しないと。

 

「詠唱者は……」

「悪いけど、お前の相手は僕だから」

 

 牽制に投げたナイフを、自慢の毛皮の腕で一瞬受け止めようとして……その短剣に込められた効果に気付いたのか、焦った顔で爪を挟み込む獣皮の魔族。最悪は外敵の視線をグレイとツェツィから離せればいいが、そんな低い目標でS級なんて夢のまた夢だ。

 

 ここは一気呵成に攻め立てるのみ……!

 

「魔法使いか、近接も出来るとは面白いが……!」

 

 短剣を振るうものの、自慢の大きな爪に阻まれる。

 何度か打ち合う内に、奴も間合いに慣れたのか反撃のために左手の爪を振り───

 

『お気に入り呼び出し→フローズンブレード』

 

 新しい氷狼の短剣に、氷の魔力を纏わせ───氷の長剣を振り切る。

 

「───ぐッ!」

 

 いきなり射程の変わった一撃に対応しきれず、奴の左手に浅くない傷が刻まれる。

 その場を飛び退くと、先ほどまで居た位置に狼が襲い掛かる。

 

 長剣の先に付着した血を振り払い、地面に鮮血が撒き散らされる。

 

 

「死ね、女ァ!」

 

 大きな咆哮のような声に、一瞬だけ視線を向けてみれば……丁度角の生えた魔族が渾身の一撃を振ろうと横に薙ぐように剣を振るっていて───

 

「これ以上は、特にかな」

 

 ふわりと、茶色の髪の少女が宙へと舞う。

 横薙ぎの大剣の腹に手を置いて、曲芸のような身体捌きで。

 

 くるりと空を舞った彼女が、すれ違いざまに剣を振るった。

 それだけで、ピタリと動きを止めた角の生えた魔族。

 

 

 こちらもそろそろ勝負を決めなければ、詠唱が完成してしまう。

 勝負を決める為に踏み出せば、こちらに向かって爪を振るう魔族。

 

「ガキがぁ……‥!」

 

 目の前に鋭い爪が迫って、世界がスローモーションに感じる。

 もっと、もっとしっかりと相手を視ろ。

 

 振るわれる爪を、紙一重で避けて。

 振るった長剣に、ギリギリでスキルを発動する。

 

『置換:剣→槍』

 

「がっ……!」

 

 爪と打ち合う直前の剣は、先端が伸びた事によってその胸元へと突き刺さる。

 槍が奴の心臓へと突き刺さり、真っ赤な血が撒き散らされる。

 

 

 それと時を同じくして、空中に大きな魔法陣が現れ───数十本の氷の槍が天から降り注ぐ。

 それは驚くべき精度で僕達を避け、魔物のみを貫いていく。

 

「お疲れノル君、いい天気だね?」

「あはは。当たらないと信じてても、ちょっと気が気じゃないかも」

 

 絶命する魔物たちを横目に、一先ずは大きく息を吐く。

 これ位なら問題ない、もっと実践を積んで……強くならないと。

 

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