スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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101.しがらみ

 魔族を倒し、実戦を積み続ける事……1か月もの月日が経った。

 それと並行して僕達は、勇者についての情報も集め続けていた。

 

 

 その結果としては、ぼちぼちと言った所だ。

 

 まず、第一にこのシルヴァーンを訪れた目的でもある『母なるマテルメア』の情報は未だあまり集められていない、と言うよりも目撃情報自体が皆無だった。やはり前線を押し上げてもっと奥地へと踏み入らなければならないのだろう。

 

 だがそれを阻んでいるのが、魔族の住む土地に蔓延る正体不明の毒素。これのせいで魔族の侵攻を食い止める事は出来ても、それ以上進行する事が出来ないというのが現状だ。調査をするにも前線を押し上げるにも、この毒素をどうにかしなければ現状維持しか出来ない。

 

 

 だがしかし、魔族との実戦経験はかなり取れている。

 それは魔族が活発に活動しているという事でもあるので、あまり手放しで喜べるわけでは無い物の……人型との魔族との実戦でしか得られない経験もある。

 

 特に近接戦闘に関してはかなりの経験が積めたと言えるだろう、やはり命のやり取りをする実戦でしか得られないモノがあった。剣と魔法とスキル、その全てを組み合わせた僕だけの戦闘スタイルは少しずつ完成に近づいている、そんな感覚はあるのだが……最後の一欠片がどうしても埋まらない、そんな気がする。

 

 

 そして最後に、勇者についてだが……これもまたぼちぼちと言った所だ。

 英雄色を好むと言う言葉の通り、色々な女性と街を歩いている姿を度々確認されているらしい。彼に関しては何処で生まれたのかの情報も無いが、あの勇者『イカイノ』と同郷であるとまことしやかに噂されているらしい。

 

 そんな奴が使うスキルは、魔法と剣士の複合スキル『勇者』。

 魔法によって身体能力をブーストして、まるで光のような圧倒的な速さの剣技で敵を圧倒する。

 速く、力強い……故に強い。

 

 味方としては非常に心強く、敵に回すと非常に厄介な彼だが、その一番の強みはやはり光の魔法だろう。文字通り光速、不可避にして絶対の一撃は放たれたと同時に着弾するという、黄色い閃光。射程も威力も、何発撃てるかも全く分からない。

 

 

 正しくS級に相応しい強さ、これだけ情報を集めた上で何故ぼちぼち止まりと言ったのかだが……簡単な話だ。対策が、全く見つからない。強いのも早いのも、分かったとして対策が全く無ければ、知っているだけだ。ただ、知っているだけ。

 

 小説を読んで英雄を知り、剣の振り方を学んでも英雄に勝てる訳ではないのと一緒で。知っているだけでは、対策出来ない。そういう強さが、彼にはあった。彼がツェツィに執着していなければ、こうして頭を悩ませる必要も無かったのだが。どうして魔族の前に、人といがみ合わなければならないのか。

 

 

 

 

 

 今日も魔族を狩り、確かに成長した実感を身に感じて。

 だがしかし、焦りだけが募る。

 

「……さん」

 

 この調子で行けば、いつかは勇者に追いつけるだろう。

 それは、1年後だろうか?

 それとも、2年、3年?

 

 

 それとも……もっともっと遅く?

 

 

「……ルさん」

 

 ……ふざけるな、それじゃあ意味がない。

 何より僕が成長するように、勇者も成長していく。

 

 努力で才能は埋められるが、努力する才能に凡才は決して追いつけない。

 1を聞いて10を知る天才に、凡人の僕では敵わない。

 

 彼が何時、ふらっとツェツィの元を訪れるかもわからないのに。

 逃げる?S級の冒険者から逃げきれるのか?

 

 逃げたその先で、僕はどうするつもりなんだよ。

 

「───ノルさん!」

「あっ、わっ……どうしたのツェツィ?」

「もう、ずっと話しかけていたのに……全然気づかないんですから」

 

 そんな考え事に没頭するあまり、周りの声が聞こえていなかった。

 僕がこんな様子では、パーティメンバーへも要らない心配をかけてしまうだろう。

 

 

 気を、引き締めないと。

 そんな事を考えた矢先に、考えられる中でも最悪のニュースが告げられる。

 

「『勇者』から、書状が届きました。その……クロッカス王国宛に」

「なっ、それは……」

 

 何もあの様子の勇者が行動しない訳が無い、この一か月の間調べていたのだろう。

 隠しているとはいえ、その特異なスキルから彼女の生まれについて探るのはそう難しい話ではないだろう。油断していたと言う訳では無いが、想像が足りなかった。

 

「S級冒険者『勇者』として、魔族との戦争に関わる重要な話し合いを貴国としたいと。是非とも『聖女』ツェツィーリア・フォン・クロッカスを同席させてほしいとの用件でした」

 

 

 国防の要である『勇者』からの「お願い」。もし断れば……どうなるかは素人の僕でも想像に難くない。そして無策で向かえば、取り返しのつかない罠が仕掛けられているであろうことも。

 

「S級の冒険者に逆らうという事が、どういうことか分かっていますか?この大陸の国の数よりも少ない……1つの世界に牙を剥くようなものですよ」

「そんな事分かって……!」

「いいえ、全く分かっていません。彼らが腰を上げれば、国の1つや2つ……それこそ村や町なんて吹けば飛ぶようなものでしか無いのですよ?それがどういう事か、分からない話では無い筈です。ノマル・フトゥー男爵」

 

 あえて突き放すように僕の名前を告げた彼女の言葉に、思わずハッとする。

 そうだ、国に働きかけられるような相手なのだ。

 

 

 その影響力が如何ほどのものが、僕は本当の意味で理解していなかったのかもしれない。

 

 

「あまり、気を張り詰めすぎないでくださいね?ノルさんが悪い訳ではないのですから」

「そんな、僕は……」

「良いのです。王女として、貴族として生を受けた以上は覚悟はしていましたから。人よりも好きに生きて、贅沢をして。自由の対価を、その責務を果たす時が来ただけと言う事です」

 

 優しく、それでいて窘めるように。

 そして彼女はその信念を、まるで読み上げるかのように告げた。

 

「クロッカス王国の起こりを考えれば、そこまで悪い話でも無いですから」

「本当に、ツェツィはそれで良いの?」

「これがツェツィーリア・フォン・クロッカスとしての責任です」

 

 話すべきことは終わったとばかりに、席を立った彼女。

 

 冷たいように見えて、今思えば、それは彼女なりのメッセージだったのかもしれない。

 普段のツェツィならもっと気取られないように、粛々と事を進められたはずだから。

 

 

 

 

 

 

 ツェツィと別れて、自室で必死に思考を回していた。

 落ち込みも、自己嫌悪に陥りそうにもなったが……刻限まで残り一週間、そんな時間は無い。

 

「どうすれば、いい?」

 

 凡人にすぎない僕には、少しの時間すら惜しいのだから。

 僕に切れる手札を必死に考えろ、どうすればいい?

 

 

 どうすれば、この状況を打破できる?

 現実的に考えて、人が一週間で劇的に強くなるなんて不可能だ。

 

 

 それこそ、何かズルでもしない限りは。

 

 

 そんな僕の思考の海の中に、差し込んだ一筋の光。

 

 僕にだけ許された、命のかかった実戦を何度も行える方法が……ある。

 疲れも気にせずに、そしてほとんど時間をかけずに……何度も。

 

 死ぬかもしれないような一撃じゃなくて、確かに殺される一撃をその身に受ける事が出来る……一生で一度の機会を、繰り返し行える。それがどれだけ、実力を引き上げるのかは想像に難くない。

 

 必要なのは、覚悟を決めるだけだ。

 僕の覚悟を決めるだけ、それだけで大切な人を守れると言うのなら。

 

 

『スキル:よみあげ+水平線』

 僕は喜んで、この身で死地へと踏み込もう。

 

 

 

 


 

 

 

 相も変わらず、身の凍るような闇が広がっている。

 何も無い、真っ暗で何もない空間が僕を迎え入れる。

 

【■■君】

 

 そんな中に、さらに一つの影が生まれた。

 

 今まで、いろんな経験を積んできた。

 グレイ師匠に世界を教わった、あの時から僕の道は始まった。

 

 僕のスキルの可能性を広げてくれたのが、もう一人の僕で。

 魔法の可能性を広げてくれたのが、『賢者』だとするのなら……

 

 何時だって、僕の剣の可能性を広げてくれるのは。

 

【や■■り、■たんだ】

 

 真っ黒な影のような世界に、幽鬼のように佇む彼女。

 その正体には、何となく想像がついていた。

 

 

 思えば何時だって、僕に剣を教えてくれたのは彼女だった。

 

 

 揺らめく彼女は、表情すら見えない黒い貌をこちらに向けてただただ、佇んでいる。

 彼女は、彼女こそが。

 

【■ないでって、■ったのに】

「シエナなんだよね、君は」

【■ないで、■ないで、■なないで?】

 

 

 別の世界の、シエナ・ティソーナ。

 

 

 もしも僕が、スキルを授からなかったとしたら。

 いいや、本来この世界が紡ぐはずだった世界線の彼女だ。

 

 

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