一閃。
眼前に迫った「それ」が、当たらない軌道であるという事を見抜いて静止する。
恐怖は重要だが、それに身体を支配されてしまえば戦闘が出来ない。
再び、一閃。
半ば直感的に、首元に振るわれた長剣と首との隙間に氷の刃を挟み込む。
硬質な音が響いて、身体が衝撃を殺しきれずに後ろへと後退る。
何度も斬られて、斬られて……斬られ続けて。
眼が慣れたというよりも、身体が憶えてしまったのかもしれない。
だがしかし、打ち合えている。
視えずに身体を切り刻まれ続けていたそれに、喰らいつけている。
【そう。■えすぎるから、■■が■れる】
もう一度、剣が振るわれる。
腹部を狙った突きを、剣の腹で受け流す。
ようやく、ようやく無心で剣を振るう事が出来ている気がする。
出来る事が多いからこそ、一瞬考えが遅れる。
反応が遅れ、致命的な隙を晒す……いままでもきっとそうだったのだろう。
それに比べれば今は、能力も魔法も無いからこそ剣技に集中できている。
【それでも、■える事を■めないで】
今まで何度も斬られ続けて、何度もの繰り返しを経て一つの違和感に辿り着いた。
今のシエナには、早さこそあるものの……剣の冴えが、綺麗さがない。
前よりも短い長剣、直線的でスペックを押し付けるような剣技。
格下相手にはこの上なく有効で、同格には通じないような剣技。
【うん、■■■は■いけど───■が■い】
それは、まるで再現してくれているようで───再現?
思い出せよ、こんな場面が一度あったはずだ。
まるで、鏡のような剣技。
少なくとも彼女本来の剣技じゃない、ならこれは……
「あ……ぐッ!?」
思考をそちらに裂きすぎたせいで、頬を長剣が掠める。
彼女がそのまま踏み込んで───踏み込んでから、剣を振るう。
その剣筋は、殆ど捉える事は出来なかったけど……辛うじて身を捩って避ける。
今のは、何故避けれた?
もっと早く、そして思考を回しながら攻撃をいなし続ける……漸く見えてきた。
大上段に構えた一撃を、踏み込みと供に放たれた振り払うような一撃にも。どんなに小さくても……予備動作がある。脚でもって踏み込み、腰を鋭く回旋させ、手の内を絞り込んでから力を込めて剣を振るう。
そんな敵の行動パターンを把握して、その攻撃の予備動作を見て何をしてくるかを予測する。
そうすれば例え攻撃自体が見えなくても、回避や反撃は可能だと言うのなら。
【そう、■の■■に■るよ】
急に戻ったスキルの感覚に、情報量に思わず立ち眩みそうになるのを必死に抑えつける。
どうしてこのタイミングで?
なんて言う疑問を解消する前に、大きく踏み込んだ彼女の足元が罅割れた。
【■■■。■いすぎたら……ここには■れなくなる】
「そんな事、言っても……!」
何となく、彼女の言うことが分かってきた。
1文字のノイズ、「使」いすぎたらか?
確かに、ここでスキルを使いすぎて……SPを消費しきれば、よみあげを出来なくなる。
残された時間的に、何にでも傍点を掛けたりするわけにはいかない。
【■■、■えてみて。■の■■がどんなものなのかを】
コツコツという音が響く。
ゆっくりと、しかし着実に足音が近づいてくる。
不意打ちをしようと言うのなら、その必要もなく僕は既に切り刻まれているだろう。
僕の眼前に立った黒い影、その表情は真っ黒で。
貌なんて分かりやしないけれど、それが何故か微笑んでいたような気がして。
その手の平が、僕の手を包み込んだところで……
───不■なErr●rを───
視界は、まるで幕を下ろすかのように途切れた。
目が覚めて、回復の為にもテーブルの隅に置かれた食事に手を付ける。
一週間もの間、肉体的に疲れはないとはいえ……何も食べずに過ごすわけにもいかない。
時刻は深夜だ、グレイさんはずっと隣で見守ってくれているものの……今は毛布を羽織って静かに寝息を立てていた。一週間もの間、起きているのは……無理ではないかもしれないが、当日のコンディションに差し障るだろう。
正直、部屋に独りじゃ無いだけで心強い。
落ちかけていた毛布を掛け直して、思考を先程の問へと戻す。
それにしても、彼女の話を聞き取れれば話は早いのに。
とはいえ発言全てにルビを降ってしまえば、直ぐにSPか底をついてしまうだろう。
僕のスキルについて、あまり深く考えたことはなかった。
『スキル:ハーメルンの上の方にあるやつ』
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物事を強調するスキル、ルビを振る機能。
人の物語を読み解き、感想欄でコミュニケーションすら可能な複合型のスキル。しまいには家を出したり、ステータスを表示したりする。
それら全ては、小説に関わる内容で構成されていると言う。
まるで世界の捉え方を変えるような、世界を改変するそんな不思議なスキルを。
僕は未だ十全に使いこなせているとは、言い難い。
そもそも、ハーメルンが何かさえわかっていないのだ。
ここからスキルを使えるようになって、接近戦にいかせる選択肢は何だ? 武器の透明化は悪くない選択肢だ、感想で来ていた通り武器そのものを振動させてみるのも良いだろう。自分の手も震えないように、工夫する必要はあるけど。
とは言えまずは相手と剣を合わせなければ、攻撃に転じれなければ意味の無いことだ。速度は相手の方が上な以上、攻撃の先制も行動の選択権も勇者にある。
お気に入りの魔法の速度だけが、あの勇者の攻撃に対応出来る魔法だろう。奴を誤字として報告、変換する? 無理だ、間違いなく無理だろう。僕の存在そのものをかけて行えば、恐らくはと言った所だが……残された、特にツェツィはどうなるかを想像するだけで選択肢に上がらない。
そも、投射物が当たるのだろうか。
あれだけの速さの的に、攻撃が当てられるのか?
よみあげてみるか?
オシエルさんはダメだ、物語の本質に関わる所へは干渉できない。
おじいちゃんに聞くと言うのも考えたが、それは最後の手段だ。答えがあるとそれに頼りきって、僕の物語でなく……誰かの二番煎じにしかならない。
答えを未来の僕に委ねてしまえば、それは彼の選択でしかない。
どうしよう、まずはもう一度シエナと剣を……いや、考えて来いと言われたのだ。考え無しにあの場に戻るべきじゃないのだろう。やはり僕も意味もなく切り裂かれたい訳じゃないし、シエナもそのはず……で、あれ。
なぜ、考えてこいと言われたと思った?
ノイズのようで、聞き取れない文章。
黒塗りなのは1文字だから、そうだと思った……だけなのに……
「かんが」え、なのに?
使いも、考えも同じノイズの時間は違ったのに……何故?
何故も何も、分かるのだから仕方ない。
本当にそうか?
何か勘違いしてないか?
出来ることばかりに目が行って……このスキルの本質を理解していなかった? このスキルが行なっていることの本質は、世界を小説とみなすこと……そのものなのか?
だとしたら、その辺りにこの状況を打開する何かが。
一皮剥けるための、何かがあるのではないだろうか。