スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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11.王国最強の騎士 オットー・マグヌス

 緊張のせいであまり眠れないまま迎えた次の日。太陽はキラキラと輝いていて決闘を行うにはこれ以上ないくらいの快晴だった。

 

「シエナちゃん胸を借りるつもりで頑張るんだぞ! パパも応援しに行くからな!」

 

「私は怪我しないかが心配で……シエナちゃん無理だけはしちゃダメよ?」

 

「うん! 頑張るね、ノル君のパパとママ!」

 

「パパと呼んでくれても良いんだぞ?」

 

「それはちょっと……えっと、お義父さま?」

 

「あなた? シエナちゃんをあまり困らせないでくださいね?」

 

 父さんも母さんも明るい様子なのは、今日のお昼の決闘が表向きは『剣聖』の実力を知らしめるために行われるものだからだろう。あの『約束』を知っているのは、あの場にいた僕達だけだ。

 

 約束通り、今日の決闘にシエナが負けてしまえば彼女は王都に向かう事になるだろう。そうならないために、もしもの時は僕の『スキル』を使って……なんて考えていた時だった。

 

「ねえ、ノル君」

 

「どっ、どうしたのシエナ?」

 

 そんな僕の考えを見透かしたかのようなタイミングで、話しかけてきたシエナ。

 

「私を―――信じてくれる?」

 

 それはつまり──決闘に僕の助けは必要ないと言っているようなものだった。彼女の瞳が不安に揺れている、彼女は僕の答えを……じっと待っている。

 

「分かった、信じるよ。僕はシエナを信じてる」

 

「うん! 例え何があっても、最後まで見届けてね!」

 

 その時の答えが正しいものだったのかは当時の僕にはわからなかったけど、その時僕はシエナを信じてあげたいという気持ちでその答えを出したんだ……と思う。

 

 

 

 

 

 遂に、決闘の時がやって来た。村の広場には凄い人だかりが出来ていて、何故か露天まで出来ている始末。しかも店主をやっているのは何時も村を訪れてくれる商人さんだった。こんな時でも商魂逞しいというか……賭博の対象にもなってるのか、オッズが凄いけど。

 

「勝負は3本先取、それで良いんだよね?」

 

「それで構わないのである」

 

 かたや身長150㎝程しかない少女、それに相対するのは鍛え上げられた肉体の騎士だ。しかも生半可な騎士なんかじゃない、彼は『クロッカス王国最強の騎士』だ。0.1:9.9のオッズ比が現す通り、その差は歴然だった。

 

「『剣聖』シエナ・ティソーナ。良い試合にしようね」

 

「我こそは『聖騎士』オットー・マグヌス、いざ──────参る」

 

 騎士団長である彼が訓練用であろう剣を握った瞬間───その場の空気が吞まれるような感覚に陥って誰もが声を失った。恵まれた巨大な体躯、素人目に見ても洗練された構え。これこそが、王国最強の騎士にして……『王国の盾』と呼ばれる人物なのだと肌で理解した。

 

 一方でシエナは3ヵ月ほど前にスキルを授かったばかりの素人だし、そもそもまだ12歳の女の子だ。相手になる訳がない──いや、なる訳がない筈と思っていた。

 

 

 戦いの合図である鐘の音が鳴ると同時に───動いたのはシエナだった。目にもとまらぬ程の速度で駆けだした彼女の放った大上段からの斬撃は───容易く弾き返される。

 

 それに対して、距離を取って姿勢を立て直した彼女の腹を狙った横薙ぎの一撃は空を切る。首元を狙った突きも、頭を狙った振り下ろしも、足を狙った切り払いさえも──その尽くが空振り、打ち払われ、弾き返された。

 

 燃え滾る炎のような攻めを見せるシエナと、どっしりと構えて動かないオットー。攻めているのはシエナの筈なのに、徐々にオットーが押しているような気がするのは気のせいではないのだろう。攻めている筈のシエナは滝のような汗を流している一方で、受けに回っている騎士団長は汗一つ流していなかったのだから。

 

「素早く、鋭い──がそれまでですな。それだけなら魔物にでも出来る所業」

 

「はぁっ……はぁっ!!」

 

「……やはり『剣聖』殿はしっかりと『剣術』を学ぶ必要がある」

 

 それにしても何だろうか、この違和感は。シエナの剣はこんな──?

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 一度目に見せた、大上段からの斬撃を試みた彼女の剣は──宙を舞った。

 

「之こそが騎士の剣──民を守り、悪を挫く『王国の盾』そのものである」

 

 宙を舞った剣は、地面に落ちてカランと言う音を立てる。聴衆が割れるような歓声に包まれていく。

 1戦目は、騎士団長の──圧勝だった。

 

「とはいえ、その若さでこれ程までとは流石はあの『剣聖』ですな。将来が楽しみですぞ」

 

 そう言いながら彼は、額に滲んだ汗を拭って休憩の為に席へ戻っていった。それに続いてシエナも戻っていったが、その顔色は見えない。

 

 それにしても体格差も大きい中、あんな接戦を繰り広げられるなんて……将来どれだけ強くなるんだろうなんて、そんな事を僕は考えていたと思う。だけどなんだったんだろう、あの時感じた『違和感』は。

 

 

 暫しの休憩の後、始まった二戦目。一戦目と違い、試合開始の合図が鳴ったというのにどちらも動かず見合っている。闇雲に撃ちこむだけではどうしようもないだろうが、これは……

 

「……動かないというのならば、こちらから行かせてもらうのである」

 

 彼がそう言い放って踏み込むだけで地が揺れる。瞬きをした訳でも無いのに、次の瞬間にはその剣はシエナの頭上へと迫っていた。

 

「……っ」

 

「この斬撃を防ぐとは……! 今すぐにでも中隊長としてやっていけるのである」

 

 剣を受けたシエナだが、つばぜり合うのは体格的に不利と判断したのだろう。後ろに飛んでその場から離れる。騎士団長の一撃を防いだというのに、その表情は明るくはない。

 

 そんな事は関係ないと言わんばかりに、オットーの猛攻は止むことなく降り注ぐ。目で追うのがやっとの重く速い斬撃の嵐。フェイント交じりのそれが、腕に、足にと少しずつ生傷を作っていく。痛々しいその姿に目を反らしたくなるが、決して目は逸らさない。最後まで見ていると約束したのだから。

 

「ぬうッ、流石『剣聖』であるな。これも受けきられるとは」

 

「……」

 

「子供相手に使うつもりは無かったが──流石は『剣聖』であるか。これも止む無しである」

 

 大上段へと大きく構えを取る彼を取り巻く威圧感が、また一段と大きくなった。まるで嵐が渦巻いているかのような圧倒的なオーラ。間違ってもこんな辺境の村の少女に放つべきではない『それ』。

 

「王国式剣術──」

 

 一足に飛んで剣を振り下ろす彼。何処から来るか分かっている剣術なんて、怖くはないと──そう思っていた。

 

「おいおい、何が起きたんだよ……?」

 

 横でオシエル君が困惑の声を漏らすのも無理は無いだろう、あんなどこから来るか分かり切った一撃で勝負が急についたのだから。防ぎきれなかったのだろう、シエナの持っていた剣が吹き飛ばされて地面に突き刺さっている。それが示すのは……

 

「──連。『剣聖』殿がこれから学ぶことになる剣術の秘中の秘である故に、覚えておくと良いのである」

 

「……参りました」

 

 2戦目は、騎士団長の勝利に終わったという事だ。

 流石に一戦目よりも疲れたのだろう、流れ出る汗を拭いながらゆっくりと休憩の為に席に戻っていく。それを横目にシエナは飛ばされた剣を拾って何処かへ走っていく。

 

 先ほどのは恐らく一撃じゃ……ない。スキルのお陰か眼のよくなった僕にギリギリ捉える事の出来たのは──目にも止まらぬ神速の二連撃。最適化された剣筋が成せる『それ』は、一撃目で彼女の構えていた剣を打ちつけ、二打撃目で弾き飛ばしたのだ。

 

 これが、噂では『S級冒険者』に匹敵するとすら言われる『王国最強の騎士』オットー・マグヌスの本気。その事実を、彼女が越えなければいけない壁を再認識していた所で……後ろから声を掛けられる。

 

「ノル、行かなくて良いのかよ。この決闘に負けたらシエナは王都に行っちまうんだろ?」

 

「オシエル君が何で知ってるのかは分からないけどさ……良いんだよ」

 

 行かなくていいかとは、走り去っていったシエナを追わなくても良いのかという事だろう。確かに彼女の事は心配だ。だけど……

 

【私を──信じてくれる?】

 

「シエナを信じるって……約束したから」

 

「砂糖を吐きそうな台詞を吐くんじゃねえぜ全く、うちのダディとマミィみたいじゃねえか」

 

 シエナが僕を信じてくれたように、僕もシエナを信じてあげたい。彼女が大丈夫って言ったんだ、きっと今追うのは彼女の邪魔になる気がする。

 

 それに、胸の奥に支えていた違和感の正体が分かったんだ。あれはシエナ自身の剣筋と言うよりも──

どれくらいが好み?

  • 主人公が無双無双してる方が良い
  • 紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい
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