「同胞……って?」
「答、個もまた大いなるものの代弁者たる素質を持っている。否、個の内に宿している?」
1人称、3人称のそれぞれが全部個なのか……分かり辛い事この上ないが、それは彼女が個々人に対しては、興味のない事を如実に示しているのだろう。
「個よりも、大いなるものを身近に感じる」
「あはは、そっか……」
一瞬の内に感想に目を通す、大いなるものと言うのは……つまりオシエルさんの事を指しているという事か。ホワイトランドについてから随分と静かだと思ったが、もしやこの事を察して? だとすれば、随分と……小賢しい事をする。
それで結局バレているのだから、あまり意味も無かった気もするが。
彼、あるいは彼女もそれなりに危ない橋を渡っているのだろう。もしもスキルが無かった時の僕の未来は、黒い本の彼女が教えてくれた通りな訳だし……感謝はしている。後で何か、捧げる用のお菓子を作らないと。
「個、個の名称は何と呼べばいい」
「ノマルです。ノマル、フトゥー」
「ノマル……ノマル・フトゥー……認識した」
気に入られた、と言うよりも懐かれたという雰囲気。
想像とは違ったものの、勇者みたいにいきなり壁にたたきつけられるような事は無くて良かった。
「その、『聖浄』さんのお名前は……」
「個は、個体としての識別名を持たない。教会のものは代弁者様、もしくは『聖浄』様とだけ呼ぶ」
そんな彼女は僕を観察するかのような視線を向け、じっと確認を続けている。
「随分と仲が良くなったようで、何よりだ。今回の会合の目的は顔合わせだからね」
「個に興味はないが、今回の会合は有意義であった事は認める」
何時までも立ちっぱなしというのも体裁が悪い、椅子に座るように勧められて着席すると……彼女が僕の膝の上へと着席した事に、動揺を隠せず立ち上がろうとして目が合う。
「動揺。ノマル、何かあった?」
「何かって、何もかも……」
「この出会いは、天命である。個はノマルの事をもっと認識するべきであると判断する」
まるで決定事項だと言うように、我を貫き通そうとするのは良くも悪くもS級らしいと言える。
アージェンスさんが特異なだけで、S級とは本来こういうものなのだろう。
気を取り直して、部屋の様子を確認する。席には簡単に摘める食事の類が用意されているものの、給仕の人間や協会の関係者すら見当たらない。本当に外部の人間を交えない四人のみの親交を深める会なのか。
ここに集められたのは僕と、『神槍』『聖浄』『狂戦士』の四人である。
つまり、消去法で彼が……
「貴方が、ボルドーさんですよね。ノマル・フトゥーと申します」
「如何にも、卿がボルドー・カーネイジである」
落ち着いた様子の人だ、噂で聞いていたよりも理知的で紳士的。
「人は卿を、戦闘狂と言うが……それは正しい認識では無いのである」
彼が何時でも戦っているという訳でも無いし、斧は真っ赤であるもののそれは元の色だ。
人の噂は尾びれ背びれが付いて宛にはならない、その事は自分がよく知っているはずだろう。
「卿こそが、戦争の化身。その本質そのもの───故に、「戦争卿」である故」
「いっ……あはは、そうですか……」
「英雄殿は勇者を狩ったと聞き及んでいるのである、機会があれば1戦交えてみたいものであるが……今は友軍ゆえ、手を出すような無粋はせぬよ」
そう瞳をぎらつかせて、獰猛な笑みを作る彼に思わず1歩後退る。
噂に更に尾びれのついたような人物だとは、思ってもいなかった。
それからある程度の会話で、人となりを理解する事は出来た。
『聖浄』だけはその基準がよく分からないけど、悪印象では無いのならそれでいいだろう。
この顔合わせの会も頃合いと言う所で、アージェンスさんが口を開く。
「それで、今回集まって貰ってもらったのは、勿論顔合わせの意味もあるんだけど、何が出来るかどうかと言うのも含めていてね。前衛が適しているのか、後衛が適しているのか……あるいはそれ以外なのか」
それによって、他の冒険者の動かし方を決めるらしい。
S級にもなると、軍略にも秀でているのだろうか……彼だけなのか。
「特に「英雄」君と、「代弁者」ちゃんは随分と特殊なスキルみたいだからね。勿論手の内を明かせとは言わないから、何が得意かだけ教えて欲しいな」
こちら側への配慮も欠かさず、その上で確かに必要な情報を集めている。
他の人から見れば、確かに僕が何をしているのか分からないだろう。
使っている僕ですら、その本質に気付いたのは最近なのだから。
そんな思考を回していると、膝上の彼女がゆっくりと人差し指を天へと立てる。
「個が行うのは、神の摂理を代弁する事、それのみである。不浄なるものを世から祓い、世界を清浄する。故に『聖浄』、分類としてはどちらかと言えば、後衛に位置するものである」
話を聞いても、何をするのかが一切分からなかった。
「僕のスキルは、前衛・後衛どちらも行けますけど……スキルの名前はその、えっと……」
恥ずかしい、そして意味が分からない。
何なんだ、『ハーメルンの上の方にあるやつ』なんて、言える訳無い。
まして世界を小説として捉えるなど、猶更言えるはずもない。
どう説明すればいいんだ、えっと……
「主にバフをメインとするスキルと、お伝えしておきます……」
「随分と近接もやれるようだけど、バフがメインなのか……流石はあの勇者を倒した英雄君だ」
「優秀なバッファーは、喉から手が出るほど欲しいのである。その上、自衛も可能とは……欲しいであるな」
過大な評価だ、もし100戦やれば99回は負けていた試合だろう。
不可解な二人のできる事の紹介が終われば、必然的に役割の知れた2人の紹介が始まる。
「僕は名前の通り、しがない槍使いだよ。勿論前衛の方が得意だ、速度には少し自信があるかな」
「卿はこの斧を血で染める事に意義を見出しているのである、その為の指揮はある程度齧っているのである」
嘘だ、しがないはずがない。
この間合い、彼がその気なら間違いなく反応も出来ず突き刺される。
純粋な近接職には、流石に追いつけないだろう。
『賢者』のような純粋な魔法職には、物量で叩き潰される。
そういう意味では、相手が『勇者』だったのは幸運だったと言える。
「短剣と魔法を使うと聞いているんだけど、本来は中衛くらいの立ち位置なのかな」
「普段はシエナ……『剣聖』が前衛を担ってくれているので」
「ソノヘンの村の出身と聞いたんだけど、剣聖にS級か……彼の村には何か特別な事があるのか、それとも……訪れてみたい所だね」
「偶々です、本当に偶然だと思います……」
ソノヘンは辺境にある、別段特筆する事も無い村だ。
いや、村だった……今は少しだけ、発展しているけども。
「質問、大いなるものとはその村で?」
「あぁ、はい。実はそうで……」
「推奨、敬語は不要である。個自身は偉い訳でも、敬われるべきでも無く。ただ神の言葉を告げるものであるからして」
呼べるわけがない、初対面のS級相手に気安くなんて。
だがそれがお望みであるなら、多少なりとも砕けた口調を意識するべきか。
「あぁ、えっと───これで、良いかな」
「感謝。それで良い、ノマル・フトゥー」
パンと手を叩いて、会議を締めるための空気作りを行う彼は……本当にできる人だ。
非の打ちどころが見当たらない、『勇者』なんかとは比べるのも烏滸がましいくらいに。
「基本的には、僕とノマル君はパーティメンバーと。ボルドーさんと代弁者ちゃんは、連合軍と一緒に戦う事になるかな。それで構わないかな?」
「構わないのである、それが一番合理的である故」
「僕も構いません、スキルが少々特殊でして。何時ものパーティとが、一番連携がとりやすいと思います」
こうして部隊分けの方向性は大まかに決まり、会議も終了になる。
有意義な会だったと言えるだろう、一緒に前線を供にするS級がどんな相手か知れたことだし。
そうやって、何事も無くは無いが終わる筈だった。
なる、はずだった……のだが。
「決定。個は之より、ノマル・フトゥーと行動を共にする事とする」
その突拍子もないその宣言に、暫く頭を悩ませることになるとは思っても居なかった。