スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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113.神の代弁者

「で、連れて来ちゃったんですか!?」

「いや、だって……僕に拒否できる訳無くて……」

「いや、それはそうなんですが……」

 

 宿にて。

 帰りを待っていた皆も、まさか人が増えているとは思いもよらなかっただろう。かく言う僕も思っていなかった。

 

 とは言え、出来るだけS級とこれ以上揉め事を起こしたくない、次戦ってまた生き残れる確証はないのだから。とは言え、パーティメンバーを守るためなら幾らでも戦うつもりではあるが。

 

 ただ今回の場合、ついてくるだけで、こちらに友好的に接してくれると言うのだから、そこまで悪い条件でもない気がする。心理的負担は、まあ置いておくとして。

 

「教会的には問題ないの?」

「答、問題ない。個が行う執務は不浄なるものの清浄化のみである故」

「……内情としては問題しかないですね、教会の象徴とも言える存在なので」

 

 まあ当然だ、教会の最高戦力がこんな所に居て問題がない訳が無い。

 

 この世界において、「教会」とだけ言われる場合は一つの組織を指す。

 それ以外は邪教とされる、どころか相手にすらされない事が多い。

 

 何せこの世界の神は、スキル授与の儀で『スキル』と言う形で今も人々に恩恵を与えているのだ。

 スキルの存在しない人間以外は、何か大きなものの存在を感じずにはいられないだろう。

 

「神の代弁者たる彼女は、教会の象徴でもあり、虎の子でもあり、一つの信仰対象ですらあるんですよ。他の国や組織が教会に手を出せないのは、彼女の存在が大きく影響していています」

「じゃあ、教会関係者に怒られるんじゃ……」

「いいや、それは無いと思うよ?」

 

「少し考えれば、当然のことなんだよ」と、グレイが続ける。もしも、教会側がそういう対応を取ったとして……あぁ、確かに少し考えればわかる事だった。

 

「S級を相手取るなんて、それこそS級が居ないと無理ですから。『聖浄』不在で、ノルさんに異議を申し立てるなんて無茶が過ぎるというものです」

「パワーバランス……本当に無いようなものなんだね……」

 

 国や組織が、個人相手に顔色を窺わなくてはならない。

 有り得ないような話だが、事実としてS級の不興を買って滅ぼされた国だって存在するのだ。

 

 

 まあ彼女の扱いに関しては、聞くのに相応しい適任がいるだろう。

 

 

『スキル:よみあげ』

 

『老ノマル』

『賢者アメティスタ』

 ▶『オシエル』

『グレイエル・スノウリリィ』

『シエナ・ティソーナ(異)』

 

 

『戻る』

 

 

 それで、どうすればいいんでしょうか。

【私に聞きます? それ……】

 

 恐らくはオシエルさんの存在を感じ取って、ここまで来たのだから……対応についても彼女から聞くのが一番問題ないだろうと思ったのだが。それを感じ取ってか、シエナへと視線を向けていた『聖浄』はこちらへと勢いよく首を曲げる。

 

「ノマルは、大いなるものから啓示を受け取れる?」

「啓示と言うか、雑談と言うか……そうだけど、代弁者さんは?」

「個は、あの時から聞こえぬ。それ故、羨ましく思う」

 

 代弁者たる彼女が、神の言葉を聞こえない?

【過干渉になり過ぎないよう、滅多な事が無ければ啓示など行えませんから】

 

 その割には、頻繁に貢物を要求してきたり、しれっと雑談を試みてきている気がするのだが。

 なんて、どうでもいい思考は隅に追いやって話を続ける。

 

「個には、今は神の声は聞こえぬ故。個にできるのは、彼らの示した正しさを示すことのみである」

「それじゃあ、どうして……」

「個は、神の代弁者故。この命は、神がお救いになった。それ故に個の使命は、大いなるものの為にその意志を遍く全てに伝えることだけ」

 

 狂信的とも言える彼女のスタンスは、何かしらの理由があるのだろうが……それを聞き出す程、僕たちの仲は深くないし、デリカシーが無いわけでも無い。だからそれは後回しにして、会話を続けることにする。

 

 

「ノマルは、大いなるものとの距離が近い。普段はどのような祭事を行う?」

「祭事というか、特には……いや、貢物を奉納したり?」

 

 教会関係者どころか、トップの前で何もしていないというのはあまりにも不味い気がしたので、普段のプレゼントを奉納などと称してみたものの、失礼だったかもしれない。だが意外と反応自体は悪く無い、むしろ良すぎる位でかなり興味を持っている様子だった。

 

「大いなるものへと、直接貢物を差し上げる機会が存在すると言うのだろうか……? 喜んで拝命しよう、是非にとも。何を用意すればよいだろうか」

「甘いものなら何でも喜ぶと思います、えぇ……」

【失礼ではありませんか? もう少し敬ってくれても良いのですよ?】

 

 そう思うなら、普段の対応に気を付けて欲しいものだ。

 感謝は勿論忘れた事は無いが、急に話しかけた時のティーカップを慌てて置いた音が……信仰心の育みを妨げている。

 

「甘い物……ホワイトランドでは、あまり質の良いものは手に入らない故。取り寄せる事とする」

「手作りっていうのはどう? オシエル君なら、喜んでくれると思うよ?」

「君……? 承知した、個は之より奉納物の作成に取り掛かる事とする」

 

 そう言って宿のキッチンへと消えていく2人、シエナへもかなり興味を持っていたが……オシエルさんがソノヘンに住んでいたことが関係あるのだろうか、だったとしたら凄い嗅覚である。

 

 

 

 

 後日、遂にホワイトランドから魔大陸への侵攻作戦の開始日が告知された。ウチには『聖女』が居るので問題はないが、その作戦に先駆けて陣地作成の為の作戦が発令される事となった。

 

 魔大陸における、人類側初の陣地を作成するこの作戦は……失敗する事になれば、これからの計画を全て練り直す事になるだろう。少数精鋭にて、魔大陸の踏み入った所まで攻め込み、土地ごと一時的な浄化を行うことで休憩地を作る。

 

 その為の先行隊が、S級4人と、そのパーティメンバーだけで構成された部隊である。

 

 

「さぁ───魔王退治と行こうか、みん……」

「ちょっと、なんであんたが仕切ってるのよ、他の人たちに失礼でしょうが!」

「勘弁してくれよルナ、彼らの前では僕は出来るリーダーとして……!」

「痴話喧嘩は食傷気味っすよ、後にして欲しいっす……」

 

『神槍』率いる冒険者パーティ「デッドリー・ストライク」の4名。

 気が強そうな弓使いの彼女は、アージェンスさんと同郷らしい。

 そんな所まで主人公感満載なのか、流石は最優と呼ばれるだけあるのだろう。

 

 

「個は大規模な「聖浄」のため活動を制限する。個らの尽力を期待する」

「はっ、この身に変えても偉大なる代弁者様をお守りします!」

 

『聖浄』と神殿兵士の5名で構成された、教会の最高戦力。

 もしも彼女に万が一があれば、彼らは文字通りその身に変えても、『聖浄』を守るだろう。

 そんな強い信仰心と忠義心を感じる。

 

 

「戦場が、卿を呼んでいるのである。死を、殺戮を奏でよう……!」

 

『狂戦士』は単独での参加である。彼自身があまり仲間を求めていないのか、それともついてこれる人間がいないのかは分からないが……彼一人で十分だという、自信の表れでもある。

 

 

「随分個性的ですね……」

「僕達も人の事を言える立場では無いとは思うけどね」

 

 そして僕たち、「氷竜の一閃」の4名。

 仮にも王女様がそんな事を言うのだから、少し面白い。

 

 

 

 以上の14名の少数にて、敵陣へと攻め入るなどという……普通の戦場であれば、自殺志願以外の何物でもない作戦。だがそれを為すのは国を単騎で滅ぼせる、S級と言う一つの国そのもの。そんな彼らによる、この部隊の戦力は……四つの国の連合部隊に等しいどころか、凌駕する。

 

 ここで負け、4人の内誰かが欠けるような事態があれば……作戦を白紙に戻し、見直す必要があるだろう。何があるか分からないこの作戦、油断はできない、できないが。

 

「大丈夫、ノル君? 緊張してる?」

「緊張もしてるけど……多分、武者震いだと思う」

 

 一騎当千の英雄たちと肩を並べて戦えることに、期待を隠せない僕が居た。

 

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